タ ク ラ マ カ ン


■著書名:【タクラマカン】
■ジャンル:SF
■著者名:ブルース・スターリング
■出版社:ハヤカワ文庫SF
   発行年:1979年   定価:800円
■ISBN4-15-011341-6
■おすすめ度:★

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 著者の序文には「この本はぼくにとってベストである」と書いてある。訳者
の解説にも「いまやSF界の代表は長老クラークではなく,スターリングなの
である」とベタ誉めの言葉が並べられている。ヒューゴー賞・クラーク賞・キ
ャンベル記念賞など,SF界の各賞を受賞しているという。 そうかそうなら
ば是非にと思い,この短編集を買ってみた。題名の「タクラマカン」というの
にも惹かれた。

 残念ながら読んでみての感想は,「何じゃこれ! あ〜疲れた。しょうもな
あ」というのが正直な気持ちである。だから個人的にはあまりお勧めではない
のであるが,解説ではやたらと誉めているし,自分以外には結構評判もいいの
ではないかと思い,ここに取り上げてみた。

                                 *

 著者のスターリングは大の日本贔屓で作品の中には日本人も多く登場する。
何といっても興味深かったのは,例のカルト教団がそのままに登場してくる場
面である。それは一種の金づるで,電子スカルキャップを被り,富士に要塞が
あり,導師にはあまたの子ども達がいて,毒ガス散布用のヘリコプターを買い
求めている。ほんの数ページではあるが,そのままに描かれているので随分興
味を惹かれてしまった。
     ( 作品名は,小さな小さなジャッカル:The Littlest Jackal )

 この短編集には全部で7つの作品が収められている。その中から少し紹介み
よう。しかし何でこれらの7作品がSFとして出版されているのかがよく判ら
ない・・・。

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<クラゲが飛んだ日:big Jelly>

 7つの短編の中で一番面白く読むことができた。なにせアイデアが馬鹿馬鹿
しくて面白い。ルーディー・ラッカーとの共作という一編であって,そのせい
もあって面白い作品に仕上がっているのかもしれない。

                                 *

 一人のクラゲおたくがいる(クラゲおたくがいるというのも変な設定である
と思うが・・・)。クラゲに魅せられた彼は人工のプラスチッククラゲを発明
し,何種類ものクラゲを次々と創り出しては自宅の大水槽で育てている。

 もう一人,石油億万長者二世の遊び人がいる。今では枯れたしまった彼の油
田から原油ではなくて何やら訳の判らないネバネバした液体が浸みだしてきた
と言い,しかもその物質は何故かフワフワと浮かび上がっていくという。彼は
何とかこの物質を使って一儲けしようと企んでいる。

 クラゲおたくと金持ち二世は,謎の物質と人工クラゲを掛け合わせて空飛ぶ
「浮遊クラゲ」を創り出し,今はもう使われなくなった古い石油パイプライン
を使って「浮遊クラゲ」の配送を始めるのだが,どんどん創り出されるクラゲ
はやがて自分自身の膨張のために,クラゲ工場のタンクを破壊し,巨大な「空
飛ぶクラゲ」となって,フワフワとさまよい出ていってしまう。

 今にもタンクから離れ,飛び立っていこうとするクラゲを見つけた二人は,
さてどうするのか・・・。

 この話は何となく気の抜けた終わり方をして,読んでいる方も拍子抜けがし
てしまう。もっと話を拡げて,空飛ぶクラゲと人間二人の大冒険物語にでもす
れば,面白いストーリーになったのではないかと思うが,折角の面白いアイデ
アなのに,少々残念である。


<タクラマカン:Taklamakan>

 この短編集の表題ともなっていて唯一SF的な作品である。 (何でこんな
に賞を得られたのか,不思議ではあるが・・・)

 中国の奥地,タクラマカン砂漠に何やら極秘の秘密施設があるとされ,巨大
星間宇宙船基地ではないかと噂されている。さてその実体は何なのかと,正体
調査のために二人のスパイが極寒の砂漠に出向いていく。

 行く手には巨大なドームが聳え侵入を阻んでいるが,二人は最新装備を駆使
してドームへの侵入を試み始める。やがて二人の眼前には噂通りの巨大な星間
宇宙船がその姿をあらわす。

 なぜ人里離れた砂漠の奥地に宇宙船基地が作られているのか,果たしてこの
宇宙船は空に飛び立っていくのであろうか,そして建造された目的は・・・。

 ワクワクして読み進んでいったが,はてさて期待通りの展開とはならなかっ
た。ではどんな展開なのであろうか? それは読んでもらってのお楽しみとい
うところか。

(2001.4.15)

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