相対性理論を楽しむ本


■著書名:【相対性理論を楽しむ本】
■ジャンル:物理
■著者名:佐藤勝彦 監修
■出版社:PHP文庫
   発行年:2000年   定価:476円
■ISBN4-569-57216-2
■おすすめ度:★★★★(多少,物理の好きな人に)

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 本書の出だしには,こんなことが書かれていて,相対性理論の世界を実際に
体験できた場合のイメージをつかむことができる。

 あるテーマパークに「アインシュタインワールド」というアトラクションが
ある。ここでは光の速度を1千万分の1にまで遅くしてあって,光が自動車並
みのスピードで走っているという。さてこのような世界ではどんなことが体験
できるのであろうか?

 施設の中に入ると,そこには極く普通の建物や道路が並んでおり,とりたて
て変わったところも見られない。しばらく待っていると若い案内係が自転車に
乗ってやって来る。しかし奇妙にほっそりしていて,しかも乗っている自転車
も縦長でタイヤまでが縦長の楕円をしている。そばまで来て止まると,若者も
自転車も元の見慣れた形に戻った。・・・「動いているものは長さが縮んで見
える」・・・という相対性理論の一つの実体験である。

 自転車に乗って施設の中を一周する。所要時間は約15分。しかし戻ってき
て時計台を見ると1時間も経っている。・・・「動くものは止まっているもの
より時間の進み方が遅くなる」・・・という相対性理論もう一つの実体験で,
いわゆる「浦島効果」である。

                                  *

 『相対性理論』は非常に難しいと言われている。そもそも相対性理論が発表
された頃(1905年と1916年),この理論が判るのは世界に三人しかい
ないと言われたほどである。なぜ難しいか。一つには我等の常識とはかけ離れ
たものが多いこと,そして難しい数式を使っているためである。

 本書は難しいと言われる『相対性理論』を定性的に解説している。相対性理
論の概念を掴む入門書としては読みやすい部類であろう。(ただし物理は絶対
にダメという人にとっては,やっぱり嫌だろうが・・・)

 『相対性理論』を数式を使わずに理解しようとするのは非常に難しい。しか
し一般の人たちは(とくに私などを含めて),数式の出てくるとまず拒否反応
を示してしまう。

 本書はそんな一般の人たち向けに,極力数式を使わずに『相対性理論』を解
説している。たまに出てくる数式も『相対性理論』のシンプルさを表す例とし
て挙げられているようなものである。相対性理論が美しいと言われるのは,こ
のシンプルさに依っている。

 最後の2章では宇宙論を概説している。ビッグバン理論,インフレーション
理論,ワームホール,虚数の時間などについて簡単に触れているが,宇宙の始
まりについての最近の考えを漠然と理解するには充分な解説である。宇宙開闢
の神秘についても『相対性理論』が一役買っているのがよく判る。

                                  *

 『相対性理論』から導かれる結果を概説すると
  ・動くものは止まっているものより時間の進み方が遅くなる。
  ・動くものは進行方向の長さが縮んで見える。
  ・動くものは質量が増える。
  ・重力の強い場所では周囲の時空が歪む。
  ・重力が強いと時間の進み方が遅くなる。
といったところであろう。強い重力場で時間の進みが遅くなるというのは,ブ
ラックホールの周囲に捉えられた人間が年をとらずにずっと若いままでいると
いうような設定でSFにも使われている。

 『相対性理論』は“光速度一定”という絶対基準を基にして組み立てられて
いる。この基準から始めると時間も空間も相対的なものとなり,動いているも
のの時間が遅れることが導かれてくる。この現象は実際に地球上でも確かめら
れているらしい。

 我々は時間は絶対的なもの,そして過去から未来に向けて一方向にのみ進ん
でいくものとして捉えている。しかし時間が相対的なものであるということに
なると,我々の思考そのもの,形而上学的な思考をも問い直していかないとい
けないのかもしれない。

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 20世紀の天才を挙げよ,と言われたら,アインシュタインを挙げる人がき
っと多いであろう。アインシュタインは1879年にドイツに生まれた。ギム
ナジウムに在籍していた頃は「ビーダーマイヤー(のろま)」と馬鹿にされて
いたという。

 スイスの州立学校に編入した後,チューリッヒ工科大学に入学する。卒業後
は高校の臨時講師を経て,つてをたどって1902年に特許局に就職。そして
その3年後の1905年に三大論文で科学界にデビューを果たした。
 3月に「光量子論」,4月に「ブラウン運動」,6月に「特殊相対性理論」
と立て続けに発表している。これほど続けて大論文を発表できるところが,や
はり20世紀の大天才たる所以なのであろう。(もっとも就職した特許局が鷹
揚だったおかげで論文をまとめる時間がとれたという説もある)

 『一般相対性理論』は10年後の1916年に発表されている。特殊から一
般までに10年の歳月を要したのは,『一般相対性理論』を構築するために高
等数学を極めていたためとも言われている。

 20世紀科学界の二大理論として,この『「相対性理論』と『量子論』」と
を挙げることができるのだが,アインシュタインは不確定性に基づいた確率的
な表現をとる『量子論』に納得することができず,有名なセリフ『神はサイコ
ロを振りたまわず』として,対立を続けたという。大天才といえども頑固なと
ころがあるのはいたしかたのないところなのであろうか。

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 とにかく難しい『相対性理論』を数式も使わずに説明しているところが嬉し
く,素人にとっても「読んでみようかな」という気にさせてくれる。そして一
読すると何となく「相対性理論」が判ったような気がしてくる。

 早く相対性理論を実体験できるような宇宙時代が訪れてほしいものである。


(2001.1.15)

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