さっちゃんのまほうのて


■著書名:【さっちゃんのまほうのて】
■ジャンル:絵本
■著者名:田畑精一/野辺明子/志沢小夜子
■出版社:偕成社
   発行年:1985年   定価:1,165円
■ISBN4-03-330410-X
■おすすめ度:★★★

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 生まれながらに手の指がない先天性四肢障害をもった「さっちゃん」という
女の子の物語。片方の手だけに指のないさっちゃんは幼稚園のままごと遊びで
お母さん役をやりたいと思っていた。でもいつもお母さんの役をやるのは他の
女の子。さっちゃんはたいていチビの妹役か赤ちゃんの役。

 ある日の幼稚園で,さっちゃんは「あたしおかあさんになる!」と言い出し
た。でもいつもお母さん役をやっている子が「あたしよ,おかあさんは!」と
言う。「さっちゃんはおかあさんにはなれないよ! だって,てのないおかあ
さんなんてへんだもん。」お父さん役をやろうとしていた男の子も「おれ,お
とうさんやーめた!」と行ってしまう。

 幼稚園を飛び出したさっちゃん。「みんなみんな,だいきらい!だいっきら
い!」と心の中で叫びながら走っていく。

 「おかあさん,さちこのては どうして みんなとちがうの? どうしてみ
んなみたいに ゆびが ないの? どうしてなの?」
 「しょうがくせいになったら さっちゃんのゆび,みんなみたいに はえて
くる?」「いやだ,いやだ,こんなて いやだ。」

 やがてお腹の大きかったお母さんに赤ちゃんが産まれた。「さっちゃんもこ
れでお姉さん」嬉しいことは続くもので,次の日には幼稚園の暴れん坊の男の
子が,さっちゃんの家に来て,小さなプレゼントを渡してくれる。

 赤ちゃんが産まれて嬉しい「さっちゃん」,急なプレゼントをもらってまた
また嬉しくなる「さっちゃん」。翌日からまた幼稚園に通い始め,元気一杯に
遊び始める。

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<長男(かずのぶ)に読み聞かせをしていた頃の感想 (母親の言葉)>

『かずのぶ』のまわりには,今までこのような障害のある子がいなかったせい
か,とてもびっくりしたようで,読んでいる途中から質問ばかり。「どうして
指がないの?」 「かずはあるよ」 「どうしておなかの中でけがをするの?」
そのたびに私は同じ答えを言い,『かずのぶ』も聞いているのだけれど,しば
らくするとまた同じことを質問するという繰り返しでした。

 はじめは手のことばかりが気になったようでしたが,そのあとはひとりで何
回も絵本を開いて読んでいて,さっちゃんの友だちとのやりとり,おかあさん
とのやりとり,おとうさんとのやりとりに気持ちが移っていったようです。

 私もあえて 『かずのぶ』 にたずねたりはしませんでしたが,心の中にしみ
こんだ絵本だったと思います。

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 障害って一口に言うが,さて何をもって障害と言うのだろう? ダウン症療
育の集まりの席上,こんな素朴な疑問を呈した人がいた。普通の子が1歳頃か
ら歩き始めるのにダウン症の子は大抵の場合,2歳を過ぎてから歩き始める。
言葉が出始める時期も普通の子の倍くらい遅くなる。何事につけても遅れはす
るが,遅れながらも成長していく。だのに障害というのだろうか,と。

 療育に携わる一人の医師がこのようなコメントをされた。

 「障害というのは生きていく上での不便と捉えてはどうか。例えば2歳・3
歳頃の子どもが走りまわって遊んでいる時,そのスピードについていけない。
このことは一緒に活動する上での不便を持っているといえる。それぞれの年齢
に応じて生きていく上での不便を持っている。」

 お年寄りが足腰が弱くなって歩くのに不自由をきたすようになった時,これ
も生きていく上での不便であり,同じように障害と捉えてもいいのではないか
とも話されていた。

                                 *

 生きていく上での不便と捉えると私たちの周りには,いろいろ多くの不便を
もった人達がいる。あがり症のために人前ですぐに真っ赤になる人。お酒が飲
めなくて宴席で困っている人。すごい汗かきのために疎まれる人。でしゃばり
な性格のために嫌われやすい人。アトピー性皮膚炎がひどくてあまり外に出ら
れない人・・・。挙げていけばキリがない。

 人から理解されにくい自閉症やADHDの子ども達。とくに学校でのイジメ
につながりやすいADHDやLDについては,このところTVでの特集もある
し,巷の書店で結構多くの本が置かれている。その中の1冊でも読んでいれば
少しでもその心に触れることができる。世の中の大人達も一度はそんな本を手
にとってみていいのではないだろうかと思っている。

 人は誰しも何らかの不便を持っているて,みんながみんな,人間というのは
そうなんだよ,という気持ちを持って共感しあって生きていく,そんな世の中
でありたいなあ,と思うこの頃である。


(2001.9.26)

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