日本人はなぜ日本を愛せないのか


■著書名:【日本人はなぜ日本を愛せないのか 】
■ジャンル:評論
■著者名:鈴木孝夫
■出版社:新潮社(新潮選書)
     発行年:2006年   定価:1200円
■ISBN4-10-603559-6
■おすすめ度:★★★

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 『日本人はなぜ日本を愛せないのか』というタイトルである。しかし内容と
しては,日本人と外国人との考え方や感じ方の違い,文化・歴史の違いについ
て主に書かれている。

 ストーリー展開は編集部の質問に著者が答えるというスタイルをとって進め
られている。たとえば,日本人はなぜか外国のほうが素晴らしいと思いがちだ
が,どうしてこういう心理的な傾向を持つのだろうか,という問いに対して,
地理的・地政学的な特殊性や,同じ島国であるイギリスとの違いを通して説明
していく。

 また日本とユーラシア文明との根本的な違いは何か,という問いに対しては,
日本の魚介文化とユーラシアの家畜文化の違いであるということをベースに,
両者の世界観・人間観の違いを説明している。

                 *

 我々日本人と西欧人との違いを具体的に再認識させてくれる例も多く挙げら
れている。たとえば近年になって流行りだしたキャッチ&リリース式のブラッ
クバス釣りについては,動物を殺すことや痛めつける行為そのものを楽しみと
か娯楽とみなす感覚は,本来の日本文化の中にはなかったこと。日本が非難さ
れている捕鯨についても,鯨から欲しい油だけを採ってあとはすべて平気で海
に捨てていた西欧の伝統的な捕鯨と違い,日本では肉はもちろん鯨のすべてを
余すことなく役立てていたということなどがある。また

  やれ打つな 蝿がてを擦る 足を擦る
  朝顔に つるべとれらて もらい水

の俳句にあるように,日本人は欧米人と比べて,動植物に対する共感がとても
強かったとも語っている。

                 *

 世界史年表を見たことがありますか,という書き出しで始まる章があり,以下
のような意見を述べている。

 年表を見ると,ユーラシア大陸の西の方では太古から現代にいたいるまで,ほ
とんど異なる民族間の戦争と侵略の歴史であり,東の方では中国大陸を中心とし
た民族同士の争いに終始している。特に近世の南アメリカにおいては,わずか数
百人のスペイン・ポルトガル人が,あっという間にアステカ王国やインカ帝国を
滅ぼして,キリスト経を受け入れない住民を大量虐殺したのであるから,日本人
も憤慨してもいいはずなのに,ほとんどの日本人はそうは受け取っていない。

 なぜそうなのかというと,実は世界で日本人だけが西欧による世界規模の侵略
征服の局外に長く置かれていたために,日本人は傍観者の立場からこれらの状況
を他人事として眺めることができたのである。

 今なぜ,このことを自覚することが重要かというと,このことに気づきさえす
れば現在の日本人が世界を視る視点,それだけでなく自分たち自身の歴史,とり
わけ明治以後の国のあり方や,日本が辿った道を見る視点までも,知らず知らず
のうちに,欧米人の立場からの見方を自分たちのものにしてしまっている見当違
いの恐ろしい事実に気づくようになるからである。

                 *

 本書を読んで日本についてたくさんのことを始めて知った。(これまで如何に
自分が不勉強であったかを知った)

 第一次世界大戦後の国際連盟設立準備総会の席上にて,連盟規約の中に「一切
の人種差別に反対する」という条項を入れるように主張したが,イギリス・アメ
リカ等の反対によりなしえなかったこと。

 1900年頃の世界の中では,西欧諸国の植民地や保護領,租借地でない独立
主権国家(純然たる独立国家)が日本,朝鮮,シャム(現在のタイ),アフガニ
スタン,オスマントルコ,エチオピアの6つしかなかったこと。(現在アフリカ
には,53の国があるのだから,これはなんとも随分な違いである)

 広島のある高校では,修学旅行で韓国に行ったときに,日本人のために犠牲に
なった人々の墓や記念碑の前で生徒たちに土下座させたこと。(こんなことをし
て社会問題にならなかったのだろうか)

 日本が朝鮮を植民地化したときに,それまでの時代にはなかった小学校を作っ
て,庶民の教育に力をいれたこと。そしてそれがハングルの普及に役立ったとい
うこと。(創氏改名をさせるとか日本語教育を進めていたのだから,ハングルも
なくなっていったものと思っていた)

 アメリカの学者ハンチントン(1927年ニューヨーク生まれ,専門は政治学)
が世界において独自性をもった文明として,西欧,ロシア,南アメリカ,インド,
イスラム,中華,日本,アフリカの8つを挙げていること。(インターネットで
調べてみると,『文明の衝突』という書物で述べられているらしい)

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 いわゆる嫌中・嫌韓本がストレートに中国・韓国を非難しているのに比べると,
同じのようなことを述べていても,もう少し論理的でに判りやすくかつソフトに
書かれている。だから他の本よりも嫌味が少なく感じられて共感しやすいのかも
しれない。また中国や韓国ばかりでなく,西欧,中東などとの比較も出てくるこ
とで,より中立的な印象を与えているのだろう。

 どちらにしても日本を(日本の歴史と日本人の世界観を)再認識するにはなか
なかいい本である。


(2006.5.4)

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