からすのパンやさん


■著書名:【からすのパンやさん】
■ジャンル:絵本
■著者名:加古里子
■出版社:偕成社
   発行年:1973年   定価:1,000円
■ISBN4-03-206070-3
■おすすめ度:★★★★

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 2歳の終わり頃,次男がえらく気に入っていた。小さい子にはちょっと長い
かなという絵本なのだが,なぜかえらく気に入って,「毎日,よんでよんで」
と持ってきた。最近は少し下火になってはいるが,それでもたまに一人で本を
広げては,何やらじっと見ていることがある。

                                 *

 子育てに忙しい「からすパン屋」がいて,その忙しさのために失敗作ばかり
をこしらえている。その度に失敗パンが子ども達のおやつになる。ある時,友
達が何羽もやってきて,すっかりその失敗パンを気に入ってしまう。こんなパ
ンならいくらでもと,いっぱいこしらえたら,なんとこれが親達にも大評判。

 すっかり気を良くしたパン屋は,今度はいろんなパンを作り出す。

 とんかちパン,かえるパン,きょうりゅうパン,ヘリコプターぱん,かぶパ
ン,のこぎりパン,チューリップパン,おまめパン,かばパン,うさぎパン,
てんぐパン,ながぐつパン,やかんパン,ゆきだるまパン,たけのこパン,ぼ
うしパン,たこパン,かみなりパン,おそなえパン,でんわパン,かたつむり
パン,だるまパン,すいかパン,くじらパン,たいこパン,ぞうパン・・・。

 いやはやものすごい種類で,ここではとても挙げきれないが,見開きページ
に描かれているのを数えてみたら,なんと87種類ものパンがあった。(多少
の数え間違えもあるかもしれないけれど・・・)

 こうして作ったパンを売り出すと,評判を聞いて駆けつけたものたち,パン
の香りにつられてやってきたものたちで,いつも静かな山は大騒ぎ。そしてパ
ン屋は大忙し。ワイワイガヤガヤ大好評,というお話。

                                 *

 絵本の中の言葉使いが楽しい。例えばこんなフレーズがある。

 パンのこなを えっさかほっさか ねりました。
 ねったこなを ころころぽてぽて まるめました。
 まるめたこなをかまどに わっさかわっせ といれました。

 子どもに読んでやっていると,こちらも調子に乗ってくる。

                                 *

 ここにはいっぱいいっぱいのからすが出てくるのだが,それがみんなそれぞ
れいろんな表情をしている。真剣な顔,とぼけた顔,楽しそうな顔,いじわる
っぽい顔,すました顔,ひょうきんな顔,まじめな顔・・・・・。

 見開きのページの中に何十羽ものからすがいて,いろんな顔で,いろんな動
きで,いろんな方向を向いている。小さな子どもが一人でじっとこの絵本を見
ているときは,きっとそんなところも楽しんでいるのだろう。

 何年か経って字が読めるようになったら,今度は言葉の面白さも判ってくる
だろう。その頃にはまた思い出したように,一人でこの絵本を引っ張り出して
くるような気がする。


(2001.12.14)

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