神様がくれた赤ん坊


■著書名:【神様がくれた赤ん坊】
■ジャンル:障害
■著者名:宇都宮直子
■出版社:講談社文庫
   発行年:1995年   定価:447円
■ISBN4-06-185920-X
■おすすめ度:★★★

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 不妊治療の末に生まれた赤ん坊はダウン症だった。この本は赤ちゃんが欲し
くてたまらない母親が苦痛の不妊治療の末に赤ん坊を産み,育て始めて5歳に
なるくらいまでを綴ったものである。

 子どもが欲しい,でもできない,でもやっぱり子どもを産みたい。不妊治療
を始めるのだが,またこれが痛いらしい。いろいろな検査も痛いらしいが,H
CGというホルモンの注射がこれまたすごく痛いらしい。

 男の方は精子の検査で問題がなければそれだけで済むのだが,女性の方は大
変である。痛い痛い思いをして治療を続け,ようやく子宝に恵まれて,さて産
むときはまたまた激痛である。いやはや今更ながら女性というのは大したもの
だと思う。 (ほんと男は楽でよかった・・・)

                                 *

 新生児室に寝かされている娘を見て衝撃を受ける。どこか思っていた赤ちゃ
んとは違っている。離れて吊り上がった目,低い鼻,ヘの字の口,しかし母親
にはまだ知らされない。母親が退院しても赤ちゃんは退院できない。ようやく
母親が知らされたのは,産まれて1ヶ月が経った頃,赤ちゃんが退院する前日
のことだった。それは気丈な母親が人生で一番泣いた日。

 比較的立ち直りの早い母親であったらしく,ショックから数日を経て前向き
に育てていこうという気持ちが芽生える。ダウン症児には親の働きかけが最も
重要であるということで,うるさいほどの働きかけを始めている。

 ダウン症児には心臓に穴の開いていることが多く見られる。この娘もやはり
そうであった。生まれて2ヶ月位で心臓検査を受ける。心室中隔欠損,小さく
ない穴が開いていて手術をしても短命と宣言される。しかしやがて穴は塞がり
8ヶ月も過ぎて離乳食を始める頃になると,母親も変わり,落ち着き,この子
を産んでよかった,という思いに変わっている。そう,子どもが大きくなって
いくのは本当に嬉しいものだ。

                                 *

 もともと「神様がくれた赤ん坊」は産まれて8ヶ月になるまでを綴ったもの
で,生まれるまでの葛藤と生まれてからの苦しみと悲しみ,そして喜びを描い
たものである。文庫版では,その後の子どもの成長を綴ったものが付け加えら
れており,「それからの茉莉子」と題されている。

 ダウン症児を産み,そして育てていこうとしている家庭にとっては,この続
編の方が参考になりそうである。母親はやはり色々と苦労をしているが,子ど
もは元気一杯に育っていき,そして幸せ一杯を感じている。

 ダウン症児を育てていくのに悩んでいる親たちにとって,力を与えてくれる
一冊である。

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 本の中にこんな一文があった。『街で出会った子どもから娘の障害について
あげつらわれたことがある。ほとんど気にもしなかったけれど,悪いことをす
ると障害者になると教えたらしいその子の母親の神経だけは疑った。』

 何十年も前には確かにこんなことをいう大人もいたと思うが,最近になって
もまだいるんだ,と再認識した。おそらくこの親も小さい頃にそいうふうに育
てられてきたのだろう。「三つ子の魂百まで」というが,子どもを育てていく
ときの言葉や態度は本当に大切にしなければ,とあらためて感じた。

(2001.5.17)

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