かちかちやま


■著書名:【かちかちやま】
■ジャンル:絵本
■著者名:小澤俊夫/赤羽末吉
■出版社:福音館書店
   発行年:1988年   定価:1,150円
■ISBN4-8340-0769-3
■おすすめ度:★★★

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 我が家には3人の息子がいる。上から8歳・3歳・1歳。毎日3人を風呂に
入れるのが私(父親)の役目である。ある日のこと,いつものように3人を風
呂からあげて自分も暖まり終わって風呂から出てきたのだが,なぜか子ども達
の「ぎゃあぎゃあ」言う話し声が聞こえてこない。

 普段なら,「早く学校の準備をしなさ−い!」とか,「もう寝る時間なんだ
から,おもちゃは出して来ないの!」とかいった母親の叫び声も聞こえるのだ
が,この日はボソボソという声が聞こえるばかりで,子ども達の声は全然聞こ
えてこない。

 どうしたんだろう? と思いながらバスタオルで身体を拭きながら居間の方
を覗いてみると,こんな声が聞こえてきた。

 「うさぎどん,うさぎどん。かちかちいうのはなんのおとかな」「このあた
りはかちかちやま。かちかちどりのなきごえさ」

 久しぶりに『かちかちやま』を読んでやっているんだ,と思いつつ眺めてみ
ると,母親の横で8歳が1歳を抱っこして,3歳がその横にいて,じっと母親
の読む絵本を見つめている。真剣な顔して横目もふらずに・・・。

                                 *

 私の記憶している『かちかちやま』は,たぬきがマキを背負って火をつけら
れること,火傷した背中に芥子を塗られてヒイヒイ喚くこと,最後には泥船に
乗って沈んでしまうこと,そんな内容が思い起こされるが,さてどうして背中
に火をつけられたのかということになると,どうもよく思い出せない。前段の
話はどういうものだったのだろうか。

 何年か前,長男に対してこの『かちかちやま』を読んでやっていた時,それ
が初めて判った。改めて思い出したというのではなくて初めて判ったと感じた
ということは,私が小さい頃から記憶していた『かちかちやま』は屹度こうで
はなかったんだろうということでもある。

                                 *

 「むかしむかし,あるところにじいさまとばあさまがすんでいました。」こ
れは昔話の典型的なパターン。安心して読み始めることができる。

 じいさまは山に行ってたぬきを生け捕りにして帰り,たぬき汁でも作ってお
いてくれとばあさまに預ける。ばあさまは言われたとおり,たぬき汁の準備を
始めるが,途中で意識を取り戻したたぬきに騙されて殺されてしまい,逆にば
あ汁にされてしまう。

 外から帰ったじいさまは,それとは知らずにばあさまを煮た汁を食ってしま
う。やがて姿を現したたぬきにそれを知らされ悲嘆にくれてしまうのだが,泣
きひしがれるじいさまのもとにうさぎがやってきて,「よしわたしがかたきを
とってやる」と言って,敵討ちを始める。そうしてここからが私の記憶にもあ
る『かちかちやま』の物語となる。

                                 *

 知らぬこととはいえ,ばあさまを食ってしまうという悲劇。子ども達はどん
なふうに感じてこの絵本を見て(読んで)いるのだろうと思うが,とくに泣き
出すこともなく,途中で遊び出すということもなかった。

 8歳の子どもにとっては,途中で他の遊びをやりだすということもないので
あろうが,3歳(この本を読み聞かせていた場面を見たときは,3歳になる少
し前)の方も読み終わるまで,じっと見ていたのが印象的である。

 長男もやはりその頃(2歳頃)から読んでもらっていたこと,そして何年も
経った今でもじっと真剣に見ていることを思うと,やはり子どもの心に訴える
ものがあるのかなと思ってしまう。

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<長男(かずのぶ)に読み聞かせをしていた頃の感想 (母親の言葉)>

 2歳の頃読んだ時,「どうして,たぬきさんしずんじゃったの?」と,最後
のページ(たぬきがブクブク沈んでいく絵)にこだわって何度もたずねていま
した。「たぬきさん,おばあさんにうそをついて悪いことしたでしょ」などと
説明しても,また何度も読んではたずねていました。

 5歳になると,一人で最後のページを開いてじっと見て,「おばあさん食べ
るなんて悪いよね。それで背中が燃えてどろのふねで沈んじゃうんだよね」と
納得している様子。また「かずは水の中にもぐるのはいやだ!」とも言ってま
した。

 物語の筋というものが理解できるようになって判るのだなあと思いました。
でも意味が充分判らない時でも,「うさぎどん,うさぎどん,かやをかってな
ににするんだ」 「うさぎどん,うさぎどん,かちかちいうのはなんのおとか
な」 「うさぎどん,うさぎどん,ぼうぼういうのはなんのおとかな」 などと
いうことばのやりとりや繰り返しの面白さ,絵の雰囲気を感じて楽しんでいる
ので,何度も 「読んで!」 と言うのではないでしょうか。 

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 昔話というのは時として残酷である。この再話された『かちかちやま』も確
かに残酷な物語である。でもとにかくこういう昔話,決して話をはしょらない
で,そのままに読み聞かせてやるのが一番いいような気がする。大人の偏見で
この場面はだめだと考えて,はしょってしまうのはよくないのではないか。ど
んな物語であれ小説であれ,決して省略はしないで読んでやっていきたい。


(2001.10.30)

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