時 間 衝 突


■著書名 :時間衝突
■ジャンル:SF
■著者名 :バリントン・J・ベイリー
■出版社 :東京創元社(創元SF文庫 SFへ−2−1)
        (発行年:1989年  定価:515円)
■ISBN4-488-69701-1

■おすすめ度:★★★★

======================================================================

 時間という概念を自分のものにするのは難しい。今我々が住んでいる世界は
4次元時空であるというが,縦・横・高さ(X・Y・Zの軸)の概念は判りや
すいが,はてさてそこに時間の軸を持ってくると途端に判りにくくなる。縦で
も横でも,そういった長さの軸にはプラス・マイナスを考え易いのであるが,
そこに4次元のうちの一つである「時間」をもってきて,それにプラスとマイ
ナスを考えるのは,ちょっと頭を悩ましてしまう。この本は,そんな時間軸に
対して何も気にせずに,時間というものに対してアイデアをぶつけてくる。

                  *

 この本を読んだ感想としては,「一気に読んだ。面白かった。」 それに尽
きる。理論的な裏付けは明確ではないがアイデアが面白い。それほど長編でな
いところもいい。ちょっと間延びしているところもあるが,そこはアイデアの
非凡さと物語自体が比較的短くまとめられたところに助けられている。
 
 時間衝突,原題は「Collision with chronos」,題名だけを見て,さて時間
が衝突するというのは一体何だろか,と中味を想像するのはちょっと難しい。
時間が関係している,もしかしてタイムトラベルものなのかいなとも思うが,
はてさてよくは判らない。 

                                    *

 舞台は遠未来,大規模核戦争の後,地球は「真人」と呼ばれる白人の軍事社
会が成立しており,その他の有色人種は亜種として滅ばされるか,またはそれ
ぞれの居留区に押し込められている。(インディアンやアイヌのように)この
地球では,過去に異星人の破壊的な攻撃により一時期侵略されたという伝説が
あり,考古学者達がその異星人の残した遺跡を調べている。さてこの遺跡が曲
者で,普通は時を経るほどに荒廃していくはずであるのが,意に反して,どん
どん新しくなっている。 これは何を意味しているのか?

 結論は,異星人の世界と我等の世界とは時間が互いに逆行しているというの
である。我等の世界は我等の時間波とともに進んでおり,異星人の世界は彼等
の時間波とともに進んでいる。そしてその互いの時間波は正面衝突コースを進
んでおり,あと4世紀ほどで大衝突を起こすらしい。地球人と異星人(という
か時間の向こうからやってくる地球人)は,互いにその可能性を知ったため,
それぞれ相手の世界を壊滅させることにより自分達を生かそうと試みる。地球
人は全面的核攻撃により,そして異星人は生物壊滅ウィルスにより,お互いを
滅ぼそうとしている。 

 異星人は地球人より早くタイムトラベルを方法を発見していた。その方法は
自分達の時間波の一部を切り取り,非時間平面を通って未来 or 過去の時間線
に乗るという方法である。非時間という概念は面白いが,理論的な裏付けっぽ
いものがあるわけではない。この辺はいわゆるハードSFとはちょっと違うと
ころでもある。ただアイデアがとにかく面白い。 

                                    *

 いわゆる戦いの物語ではあるが,一つの時間軸のプラスとマイナスの両側か
ら互いの種族が進んでくるという設定が面白く,また時間というものが唯一不
変ではないというのが,概念的にも理解はできずとも頭の中にインプットされ
てくるところが,非常に興味深い小説である。

 とにかく,こ難しいSFではないところが,お勧めの書である。

(2000.1.8)

書評のトップページへ ホームページへ