自閉症だったわたしへ


■著書名:【自閉症だったわたしへ】
■ジャンル:障害
■著者名:ドナ・ウィリアムズ
■出版社:新潮文庫
   発行年:2000年   定価:781円
■ISBN4-10-215611-9
■おすすめ度:★★★★

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 これはすごい。すごい本だ。自閉症の女性が自らの体験と心情と思考を語っ
ている。20数年の歴史を振り返って,自分とは一体何だったんだろう,どう
して他の人達とは違ったんだろう,なぜ人のしゃべることの意味が解らなかっ
たんだろう。ようやく自閉症という言葉に巡り合い,そしてこれまでの自分を
振り返り見つめ直すために書いたものである。

  著者の育った家庭はかなり荒れた環境で,そんな中で世の中と触れ合うこと
が苦手でまた人の言うことを理解できなかった著者は,「きちがい」と罵られ
ながら生きていく。虐待シーンが多く出てくるので,ちょっと見には児童虐待
ストーリー的に捉えてしまうかもしれないが,著者にとって虐待はとくに苦と
なるものではなかったようだ。ただ自分の生きてきた歴史の中の一つに過ぎな
い。本書では,2・3歳頃からの出来事や自分の心情が,たんたんとそしてリ
アルに語られていく。

                                 *

  自分と外の世界(世の中)との間には壁がある。決して通ることのできない
壁がある。言葉の意味を理解できず,人に触れられることに耐えられなく,光
をまぶしく感じ,コミュニケーションができない。人から話しかけられると,
まるで機関銃で攻撃されているように感じる。人からの働きかけが過ぎると頭
の中がパニック状態になり,自傷行為に陥ってしまう。

  自閉症者と普通の人とは精神システムが違っている。普通の人はその違いに
気づかない。だから普通に話せば当然理解してくれるものと思うのだが,自閉
症者にはそれが理解できない。したがって普通の人は一体何て人間なんだろう
と感じ,自閉症者はもう止めてくれとパニックを起こす。

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  感情というものが判らない。だから他人がどう感じるかということも想像で
きない。知らぬうちに他人の感情を傷付けていることもあり,逆に自分には理
解できない言葉の洪水や罵りの言葉で本人も傷ついている。

  幼児の頃からのとんでもない行動。本人にとってはそうするしかなかったよ
うで,本来の自分の世界をひたすら守ろうと,本来の自分とはかけ離れた仮面
のキャラクターを創り出し,世の中との付き合いを続けていく。

                                 *

  精神医学書(専門的な難しいものを読んだわけではないが)は,当然ながら
自閉症者を外側から見て書かれたものであるが,それに反して本書は自閉症者
が自らの内面を描いたものである。これまで臨床体験と推定と想像で記されて
きた性質が,ものすごいインパクトをもって生々しく描かれている。

  我々とは全く違った感じ方や世界観を持つ人達が世の中にはいるんだという
ことを知り,それを単なる障害といって片づけるのではなく,我々自身の世界
観・考え方・捉え方・関わりあい方をさらに広げていく上でも,是非とも手に
とっていただきたい本である。

(2001.6.26)

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