発達障害の豊かな世界


■著書名:【発達障害の豊かな世界】
■ジャンル:障害
■著者名:杉山登志郎
■出版社:日本評論社
   発行年:2000年   定価:1,900円
■ISBN4-535-56155-9
■おすすめ度:★★★

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 我が町の小さな書店にも障害関連の本を並べている棚があって,そんな中で
この本を見つけた。難しい医学的な本ならばとても読み続けるだけの気力は続
かず,折角買った分厚い本も数十ページを読んだだけで,あとはそのまま本棚
に眠ってしまうが,これはそういう専門書ではなくて,一般向けに多くの事例
を盛り込みながら平易に書かれているので結構読みやすい。

 本書は発達障害の臨床に長年関わってきた医師の経験を一般向けに著したも
のである。この中に出てくる障害としては自閉症が主であるが,その他には,
アスペルガー症候群,ダウン症,多動(ADHD,トットちゃん症候群),ト
ゥーレット症候群,XYY症候群,・・・。と多くの障害が取り上げられ,そ
れぞれの事例について判りやすく説明してくれている。また随所に著者の考え
(見解)が散りばめられている。

 あとがきを引用してみよう。「この本はいわゆる専門書ではないが,私の発
達障害に関するこれまでの臨床研究のほとんどに触れている。」「発達障害の
臨床が想像以上に豊かな世界であることを多くの方にまずは知っていただきた
いと思う。さらに本書を通して一人でも多くの方にこの領域について関心をも
っていただくことができれば,著者としてこれにまさる喜びはない。」

                                 *

 いわゆる健常者の人達にはたとえ一冊でもこういった類の障害に関わる本を
読んでほしい。(どんな本でもいい) 何気なく「また精神障害者が事件を起
こしたらしいわねぇ。」といった会話が出なくてすむように・・・。

 もっとも言った本人に対して「そんなこと言っちゃいけませんよ。」なんて
言うと,「私はそんなつもりで言ったんじゃないのに,そんなちょっとしたこ
とに目くじらたてるあなたの方がおかしいんじゃないの!」なんて言われそう
だが,少しの知識と優しい心があれば,そんな言い争いもなくなるんじゃない
かと思う。

 そう,人々がみんな,「世の中には,この地球上にはいろんな性格をもった
人達がいるんだ」ということを認識して,みんなが優しい心をもって生きてい
けたらいいなあと,そんな読後感想をもったのである。

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 十数年来の知り合いのところに自閉症の子どもがいる。「この子は自閉症な
の」と知らせてもらったのは,その子が幼稚園の頃。その頃たまたま「おはよ
う」と声をかけたら元気な声で「おはよう」と返事が返ってきた。「おや私と
はしっかりコミュニケーションができるんだ。自分にはそういう才能があるん
だろうか。」とそのときはいい気になっていたものである。

 その後はあまり出会うことはなかったが,5・6年振りで出会った時には,
部屋の隅っこで固まっていた。それでも少しでも声をかければコミュニケーシ
ョンができるのではないかと思ったのだが,はてさて決してそんなことはでき
なかった。過去の経験は単に自分の思い上がりだったということである。

                                 *

 自閉症というものが実際にどういう症状なのか,本人はどんな意識をもって
いるのかというのをあらためて認識させてもらったのは,それからさらに5〜
6年後のごく最近,ドナ・ウィリアムズの『Nobody Nowhere;自閉症だった私
へ』という文庫本を読んでからである。

 自閉症の人間が出した本はこれが始めてではないけれども,自らの感覚と意
識がどういうものであるか,周囲からの話しかけ,喧噪が自分の心にどんなダ
メージを与えるのか,社会生活を送っていく上での苦しみ,そんなことが自ら
の言葉として綴られている。

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 言葉の遅れがあって対人関係が不器用だったというアインシュタインは,ア
スペルガー症候群であったという見解がある。また最近ではあのビル・ゲイツ
も軽症のアスペルガーでないかという意見もあるようである。

 こういう人達を生み出してきた国があることを思うと,平均的な人間を作る
ことに汲々としている我が国の教育とは一体何なんだろう。学校でトラブルメ
ーカーとなっているアスペの子ども達を大切にすることは,我が国の経済にと
っても大き利益をもたらす可能性もあるのに・・・,とそんなことも考えてし
まう。


(2001.10.15)

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