ゴールド −黄金−


■著書名:【ゴールド −黄金−】
■ジャンル:SF
■著者名:アイザック・アシモフ
■出版社:ハヤカワ文庫SF
   発行年:2001年   定価:920円
■ISBN4-15-011343-2
■おすすめ度:★★

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 ホンダの開発した二足歩行ロボット『アシモ:asimo 』はSFの大家アシモ
フ(asimov)からとったネーミングらしい。ということをこの本の解説を見て
初めて気がついた。これまでいかに漠然と聞き流していたかがよく判り,自分
の記憶力・思考力の減退を痛感してしまった。(歳はとりたくない・・・)

 本書はアシモフの短編とエッセイを集めたものである。短編についてはアシ
モフが70歳になってから書いたもので,なかでもロボットものについては,
アシモフの初期作品と雰囲気がよく似ている。人間幾つになっても同じような
ものが書けるというのは,やはり大した作者なのだう。(もちろん異論もある
だろうが・・・)

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 本書のタイトルともなっている作品『ゴールド:黄金』は,コンピュータお
たくの少年が自前のコンピュータを使って,それをどんどん強大化することに
よって世界経済を牛耳ろうという物語である。世界経済を手中に納めることで
世界征服を狙い,現代のマケドニア大王を目指して活動を始める。果たして彼
の望みどおりに世界征服の野望は達成することができるのだろうか。

 ここ最近「株で5万円から5億円を稼ぐ本」,といったようなものが広告に
出ているが,この『ゴールド』はもっともっと大きなスケールで,ほんの小遣
い程度の資金から世界を牛耳られるまで儲けていこうという物語である。

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 投資に興味を持っている人間,あるいは投資を続けている人間にとっては,
このようなコンピュータによる大儲けは一度は夢見るものかもしれない。ある
いは近未来を覗くことができて,そこで新聞の株価欄をいつもチェックできる
ようになれればなあとも思ったこともあるだろう。楽して金儲けをしたいもの
であるが,この物語の主人公は決して楽して儲けていくわけではない。自分の
全精力を傾けてやっていくのである。はてさて最後はどうなるのであろうか,
楽しみである。

 短編は全部で15編。その中でもう一つ印象を受けた作品に『キャル』があ
る。機能の低いロボットが何故か物書きに芽生え,小説家を目指そうという物
語である。ロボットの所有者はそんなキャルのことが面白く,次々と機能アッ
プをしてやり,そのおかげでキャルは日々小説家としてのスキルをアップさせ
ていく。やがていっぱしの物語を書けるまでに成長したキャルを待ち受けるも
のは・・・。

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 エッセイの方は,第二部が『サイエンス・フィクションについて』。第三部
が『SF小説作法』である。特に第三部においてSF作家になるためにはどう
したらよいかという質問に答えて,こんなことを書いている。

1.SF作家になるためには,それなりの準備が必要である。
 ・語彙を増やし,綴りや文法といった散文的な能力に磨きをかける。
 ・科学を知らなくてはならない。
 ・SF作品もよく読んで約束ごとや手練手管を学んでおくこと。
2.訓練は実作業の中で行なう。
 ・とにかくまず書き始めて,さらに書き続けることである。
3.忍耐強くあること。
 ・最初に書き上げた作品が売れるなどとは思わないこと。
4.理性的であること。
 ・作家になろうとするのであれば,他に収入の道を確保しておくこと。

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 書評というものについても言及している。書評家としていい仕事をしたかっ
たら何をしなくてはならないか。

1.書評家は対象の本を丁寧に読まなくてはんらない。
2.付箋を貼ったりノートを取ったりして注意深く読まなくてはならない。
3.作家に対する評価が作品に対する評価に影響したりしないよう,公平な読
  み方をしなくてはならない。
4.文学的な価値を判断するだけでなく,その分野についての幅広い知識を持
  っていなくてはならない。
5.自身がすぐれた文章の書き手でなくてはならない。
6.自分自身を見せびらかせてはならない。

 現在,日替わり書評士として拙い書評を書いているのだが,とても上に書い
たようなことをできるわけもない。まあ今は適当でいいやと自分勝手に考えて
おこう。
 いつの日にか上に書いたようなことが実現できるならばそれで結構だし,も
しそんなことができたら,自身が作家になれるんではないだろうかとも思って
しまう。まあそんなことはありえないだろうが・・・。

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 第二部,第三部のエッセイは,アシモフという人間を知るには便利なもので
ある。だから好きな人には読んでもらうのはいいかもしれない。ただそれなら
他にももっといいエッセイも出ているのではないかとも思う。

 個人的には長編であれ短編であれ小説だけの方がありがたい。やっぱりエン
ターテインメントとして小説世界を存分に堪能したいと思うから・・・。

(2001.9.18)

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