銅 鐸 と 邪 馬 台 国


■著書名 :銅鐸と邪馬台国
■ジャンル:学術書
■著者名 :銅鐸博物館 編
■出版社 :サンライズ出版 (発行年:1999年  定価:1,680円)
■ISBN4-88325-064-4

■おすすめ度:★★★

======================================================================

 滋賀県の野洲町に銅鐸博物館と呼ばれる町営の博物館がある。正式名称は
「野洲町立歴史民族資料館」,こう言っても多分馴染みにくいであろうし,常
設の展示品は当地で発掘された銅鐸がメインとなっているから,銅鐸博物館の
ほうが名前のとおりもいいのだろう。(野洲町は銅鐸の出土地として有名であ
る。ここでは世界最大の銅鐸が出土している。)

 滋賀県といっても近畿の人以外では,何処にあるのか判らない人もいる。そ
ういう人には「一番大きな湖,琵琶湖のあるところや!」と言うことにしてい
る。琵琶湖と言うと大概の人は判ってくれる。やはり何といっても有名なもの
のあるのは大きな強みである。

 野洲(ヤス)という語は川の下流,河口付近を意味する。だからこの野洲と
いう所は土地も肥えていて近江の米どころとして存在している。さて古事記に
「天の安の河」という川が出てくる。高天原にあったと言われる川であるが,
これが当地の野洲川であるかどうかは判らない。九州の方にも安川というのが
あって,どちらかといえばこちらのほうが,古事記にいう「安の河」という説
のほうが多そうである。ただそうはいっても野洲町はそれなりに古事記・日本
書紀の時代からの古い歴史を持っている。

                  *

 平成10年10月に銅鐸博物館開館10周年記念として「銅鐸サミット&シ
ンポジウム」が開催された。ここに紹介する本は,そのシンポジウムでの講演
とディスカッションをまとめたものである。私の家から銅鐸博物館までは車で
5分程度,是非私もこのシンポジウムに行きたかったのだが,何かしら用事が
あっていくことは叶わなかった。非常に残念だったなあと思っていたところ,
この本が発行されて「ああよかった」と感じている。地元であることと,私自
身が弥生時代の頃に興味があることが大きな理由でもある。

 さて銅鐸や銅鐸関連物を出土した市町村は全国で160もあるらしく,とく
に平成8年に島根県の加茂岩倉で一気に39個もの銅鐸が発見されたことで,
銅鐸見直しブームといわれるようなものが起こったらしい。

 シンポジウムでの講演は,以下の4つに分かれている。
 @ 近年の銅鐸研究の動向(難波洋三:京都国立博物館考古室長)
    銅鐸の形式・紋様・鋳造方法などについての講演。
 A 大岩山銅鐸の発見,その後(水野正好:奈良大学学長)
     銅鐸発見時の状況・倭国の構造,銅鐸配布説等についての講演。
 B 銅鐸から銅鏡へ(福永伸哉:大阪大学助教授)
     銅鐸の埋納時期・銅鏡の分布等のついての講演。
 C 三世紀の西日本(山尾幸久:立命館大学名誉教授)
     魏志倭人伝の読み方と3世紀倭国のブロック圏についての講演。

 この中でAの講演は,野洲町での銅鐸発見時の状況とともに,魏志倭人伝に
記載されている邪馬台国や女王国をどのように捉えるかということが述べられ
ており,なかなかに興味深い。特に当時の倭国(および女王国)を九州から東
北南部の方まで拡大したものとして捉えているところがスケールも大きく,か
つ理論としても納得させられる。特に近年の考古的発掘や年代測定結果から,
弥生時代の近畿地方もかなり進んでいたらしいことが主張され始めており,最
近では邪馬台国近畿説がかなり強気になってきていることを考え合わせると,
この講演者の主張に現実感が伴ってくる。

                 *

 この本のタイトルは「銅鐸と邪馬台国」というように,邪馬台国が入ってい
るが,いわゆる邪馬台国本ではなくて,どちらかというと銅鐸そのものに主眼
が置かれている。もともとが銅鐸サミットとして開催されたシンポジウムであ
るから,それが当然なのだろうが,邪馬台国が前面に出てこないのが新鮮でも
あり,またあの不可思議な銅鐸の政治的な関わりなどが議論されていて,身近
に銅鐸を感じている私としてはとても興味深く読めた本である。

 学校で習う日本史においても,弥生時代のところでは銅鏡・銅矛・銅剣・銅
鐸などが出てくる。矛や剣と違って銅鐸は眺めていると味があるしほんとに不
思議な思いがしてくる。これまで銅鐸を見たことがない人も,一度はどこかの
博物館にでも行って見ていただいてはいかがなものかと思う。なにか本の紹介
というよりも,銅鐸の宣伝みたいになってしまったが,そこは銅鐸の町に住ん
でいる地元人の身びいきと思い,許していただきたい。

(2000.1.18)

書評のトップページへ ホームページへ