ドラえもんの「育て力」


■著書名:【ドラえもんの「育て力」】
■ジャンル:社会科学
■著者名:横山泰行
■出版社:イースト・プレス
     発行年:2005年   定価:1200円
■ISBN4-87257-599-7
■おすすめ度:★★★★★

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 図書館をぶらついていていたら,「ドラえもんの育て力」という本が目にと
まった。コーチングの本である。のび太に対するドラえもんの接し方というの
が,まさにコーチングになっているという内容である。ドラえもんの漫画シー
ンを思い浮かべながら読んでいると,なるほどこういうところがコーチングに
なっているんだと納得する。コーチング理論の難しい本を読むよりもこの方が
余程判りやすいと感じた。

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 本書の「はじめに」で,著者は以下のように述べている。

 ドラえもんは卓越した「育て力」(ほめる力,叱る力,気づかせる力,経験
させる力,学ばせる力などの集合体)によって,「負け犬」の先頭を走ってい
たのび太を,わずか十数年で「勝ち組」にまで大変身させることに成功した。

 ドラえもんの「育て力」は,現代のティーチング理論やトレーニング理論よ
りも,コーチング理論によってその本質を活写することが可能である。

 ドラえもんは,存在自体,生来的にコーチング精神の持ち主である。ドラえ
もんののび太に対する数々の営為は,日常生活のコミュニケーションや相互信
頼の醸成,さらには縦横に駆使された「ひみつ道具」の手助けによって,より
広く,より深く,気づいたり,体験したり,学んだりする契機へと連動した。

 まさにドラえもんは,のび太が自らの夢や目標に向かって着実に前進できる
ように,定期的に進捗状況をチェックしたり,叱咤激励したりする存在であっ
たのだ。

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 本書はドラえもんの15の作品を取り上げ,それぞれの作品に対して,(1)
作品のあらすじを述べる。(2)その作品の中で,のび太が何を学んだかを取
り上げる。(3)コーチングへの応用を解説する。といった構成をとる。

 15の中の一つ「シャーロック・ホームズセット」という章をを取り上げて
みよう。この作品は,しずかちゃんが大事なものがなくなったといって困って
いるのを見たのび太が,ドラえもんの秘密道具「シャーロック・ホームズセッ
ト」を使って探し出すというストーリーである。

 のび太が学んだこととして,以下のように述べられている。

 のび太が「気づく」きっかけは,シャーロック・ホームズの作品だった。「
ぼくも,ホームズみたいになれるかもね」というのは,この作品において,の
び太の興味となり,目標となっている。

 のび太はひみつ道具に触発されて,さらなる好奇心をかき立てられ,疑問や
質問もどんどんエスカレートさせていく。自らの答えを模索しながら,どんど
ん内側に入っていく。のび太は,自らの内なる世界を探求することによって,
何が自分を動かし,何が自分にブレーキをかけているかを探り出していくので
ある。

 この作品で,のび太はシャーロック・ホームズになることはできなかったけ
れども,物事を追求して解決するためのプロセスをじっくり体験することには
成功したと結論づけることができるだろう。

 またコーチングへの応用としては,以下のように述べている。

 現代のコーチングの人間観は,コーチされる人を“秘められた可能性を有し
た野力の持ち主”と捉え,必要とする答えを“本人自身が有している”という
前提に立つ。よりよい仕事を選択し,自然習得ともいうべき能力を潜在的に持
っている存在とみなしている。コーチする人は,コーチされる人の目標を積極
的にサポートして,実現を促すのである。

 コーチングの大部分は,コーチされる人のこことに関する仕事である。コー
チングの世界では,人に何かをしたいと思わせ,行動に駆り立てることができ
れば,仕事の九割は終わったも同然であると言われている。

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 最初にも書いたように,コーチング理論の難しい本を読むよりも判りやすい。
専門的なものに取り組む前に読んでおくといいのではなかろうか。


(2006.4.15)

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