![]() ■著書名:【診断名サイコパス】 ■ジャンル:精神医学 ■著者名:ロバート・D・ヘア ■出版社:早川書房(早川文庫NF) 発行年:2000年 初版 定価:700円 ■ISBN4-15-050241-2 ■おすすめ度:★★★ ====================================================================== 世の中にはいろんな人達がいる。力強い人,優しい人,愛嬌のある人,誠実 な人,暴力的な人,身体的・知的に障害を持った人・・・。いろんな人達がい るから生きていて楽しいし,苦しみや辛いこともあるのだろうが,画一的な中 でいるよりも矢張生きていく楽しさ嬉しさがあるのだと思う。 人は人に対して愛情を持ち憎しみを持ち,いたわりいたわられ,だましだま され,悪いことをすればそれなりの罪悪感に悩まされながら生きていく。 ところが一部には罪悪感を感じることもなく,いわゆる悪をとことん繰り返 していく,怖い怖い人間がいるという。 何人もの人間を次々と殺害してその肉を食べている人間。逮捕と仮釈放を繰 り返し,その間に次々と殺人を犯す人間。自らの胎を痛めて生んだ子ども達を 射殺して,それでも平気にしている人間。次々と人をだましては金を巻き上げ ていく人間。彼等は罪悪感というものを感じることもなく,悪を続けていく。 ここ最近,いろんな殺害事件がニュースになっている。人を殺してみたいか ら殺してみたとか,何人かで一人をなぶり殺しにしたとか,一般的な心情では とても理解できないようなことが実際に起こっている。 なぜこのようなことが起こるのであろうか。われらには理解できないという か,理解からかけ離れたところに彼らがいるのかもしれない。 * 本書の最初に謝辞がある。(始めに謝辞があるのも変な具合だが) そこに は次のように記されている。 サイコパスは社会の捕食者であり,生涯を通じて他人を魅惑し,操り,情け 容赦なくわが道だけをいき,心を引き裂かれた人や期待を打ち砕かれた人や, からになった財布を後に残していく。良心とか他人に対する思いやりにまった く欠けている彼等は,罪悪感も後悔の念もなく社会の規範を犯し,人の期待を 裏切り,自分勝手にほしいものを取り,好きなようにふるまう。彼等から被害 を受けた人達は,驚きとまどい絶望的な思いで自問する。「あの人達はいった い何者なのだ?」 「どうしてあんなことができるのだろうか?」 「私達は いったいどうやって自分を守ればいいのか?」 そう,サイコパス(精神病質者)は社会の捕食者なのである。 * サイコパスは罪悪感がなく,利己的で,刹那的で,自分の行動をコントロー ルできないという。このような人間はどうして生まれるのであろうか。またア メリカや日本に多くヨーロッパには比較的少ないという。それは何故なんだろ うか。 サイコパスを生む原因としては,大きく分けて,社会環境説と遺伝説の2通 りがあるらしいが,本書を読み進んでいくに連れ,根本的な性格に特徴がある ところを見ると,どうも素人的には遺伝(遺伝というよりも,突然変異による 遺伝子の変化)的な要素が強そうに思われる。 ともかく,こういった人間達が存在すること自体が怖ろしく,とくにこれか ら子ども達を育てていくような若い世代には,おそらく何ともいえない恐怖を 与えるのではないかと思う。逆に我が子がこういった資質を持っていたらどう しようかと,大きな不安にもなるだろう。 * 以下,気になったところを本書より抜粋する。 <成功したサイコパス> 多くのサイコパスは刑務所か何らかの矯正施設に繰り返し入る。典型的なパ ターンは,次から次へと職を変え,刑務所に入り,また通りへ戻り,また刑務 所を出たり入ったりする。しかし,一度も刑務所に入らないし,他の施設にも 入らないサイコパスも多いという。 彼らは法を犯すこともなく,かなりうまくやっている。弁護士として,医者 として,精神科医として,学者として,傭兵として,警察官として,カルト教 団のリーダーとして,軍人として,実業家として,作家として,芸術家として やっている。けれどこういう人たちにしても,とても自己中心的で,冷淡で, 人を操作することがうまいのだ。学歴が高かったり,家系がよかったり,専門 的な職種についていたり,環境がよかったりするおかげで,一見正常に見え, 比較的無難に欲しいものを手に入れている。 この種の人たちは“成功したサイコパス”と呼ばれる。 * 本書では,サイコパスの特徴を以下のように書いている。 <サイコパスは口達者である> ウィットに富み,明快な発言をする。愉快で,人を楽しませる会話もでき 機転のきいた賢い受け答えを用意していて,さらには説得力のある話で自分 をすばらしい人間に見せることができる。 <サイコパスは自己中心的で傲慢である> ナルシスティックで,自分の価値や重要性に関してひどく慢心したものの 見方をする。まったく驚くべき自己中心性と権利感覚の持ち主だ。彼らは自 分が宇宙の中心にいると思っていて,己のルールに従って生きることが許さ れている優秀な人間だと思っている。 <サイコパスは良心の呵責や罪悪感が欠如している> 自分の行動が他人にたいへんな迷惑をかけているという認識を驚くほど欠 いている。自分には罪悪感などなく,苦痛や破壊を引き起こしたことをすま ないという気持ちをもてず,そういう気持ちをもつ理由もなにひとつないと 冷静に言う。 <サイコパスは共感能力が欠如している> とくに彼らの自己中心性,良心の呵責の欠如,浅い感情,ごまかすことの うまさは,根深い共感能力の欠如(他人の考えていることや感じていること をなぞれないこと)と密接な関係がある。彼らには,皮相的な言葉の次元を 越えて“人の身になって考える”ことができないように思える。他人の感情 などまったく関心の外なのだ。 <サイコパスはずるく,ごまかしがうまい> 嘘つきで,ずるく,ごまかしのうまいのは,サイコパスの生まれもった才 能だと言える。嘘を見破られたり,真実みを疑われたりしても,めったにま ごついたり気おくれしたりしない。あっさり話題を変えたり,真実をつくり かえて嘘のうわ塗りをする。 <サイコパスは浅い感情である> ときに冷たくて無感情のように見えるいっぽう,芝居がかっていて,浅薄 で,感情はほんのたまにしか表さないようにも見える。注意深い観察者は, 彼らが演技をしていて,実際にはほとんどなにも感じていないような印象を 受けるにちがいない。 (2000.11.15) |
書評のトップページへ | ホームページへ |