新しい歴史教科書「つくる会」の主張


■著書名:【新しい歴史教科書「つくる会」の主張】
■ジャンル:教育
■著者名:西尾幹二・編
■出版社:徳間書店
   発行年:2001年   定価:1,000円
■ISBN4-19-861380-X
■おすすめ度:★★★

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 いくつかの地域の教育委員会が採択を決めたことで,大きな問題となってい
る扶桑社発行の「新しい歴史教科書」。中学用の歴史教科書である。これまで
の歴史教育を否定するもの,戦前の皇国史感をあおるものとして批判を浴びて
いる。

 今ちょうど話題になっている折,「新しい歴史教科書「つくる会」の主張」
と題された本を書店で見つけたので,話のタネにと思い買ってみた。一読して
みた限り,「うん,なかなか面白いな,(というか興味深いな)」という感想
である。

 本書に書かれている主張を以下に要約してみる。

・中国,韓国からいろいろと多くの修正要求があるが,我々は日本の過去の非
 は非として認めており,歴史に対する視点が異なるのはお互いさまである。
 我が国からは中国,韓国の教科書が如何に史実を歪めていようと文句をつけ
 たことはない。それなのに中国,韓国からの修正要求は内政干渉である。そ
 ういうことは止めてほしい。

・各都道府県の教育委員会はいわゆる文部省の検定以外に「ウラ検定」と言わ
 れるものに縛られており,そこでは差別問題に対して多くのページをさくよ
 うに指導されている。つまりいつの時代においても民衆は国家権力から虐げ
 られてきたのだということを述べないと検定に通らないようにされている。
 この「ウラ検定」では文部省の学習指導要領は徹底的に無視されている。し
 かし我々は基本に忠実に,文部省の学習指導要領の「目標」を基準にすべき
 と考えている。

 「つくる会」の主張が正しい,正しくないは,本書だけを読んでいても判ら
ない。当然もう一方の,批判している側の見解も併せて見てみないと何ら判断
できるものではない。また他社の教科書を読んでみないことには判らない。

 しかし実際の教科書を見ないでも,大手メディアの取り上げ方によって,あ
る程度の推測はつきそうで,朝日新聞と産経新聞とでは評価が全くの正反対で
ある。朝日はそのニュースの取り上げ方から見る限りにおいては大反対派。一
方の産経はこの教科書を高く持ち上げている。とくに産経は教科書問題に力を
入れているようで,産経のWebでは教科書問題特集というのをやっていて,
8社の歴史教科書を比較評価している。

【神話・伝承】【古代国家】【明治維新】【大日本帝国憲法】【日露戦争】
【第2次世界大戦】【歴史上の人物】【歴史への愛情】

という8つの項目にわけ,「学習指導要領準拠度評価」として比較しているの
だが,どの項目においても扶桑者の「新しい歴史教科書」を一番としている。
学習指導要領の捉え方にもよるのだろうが,確かに産経の特集を見る限りにお
いては,この教科書が一番指導要領の目標に沿っているような気もする。

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 本書本文の主張も興味を惹かれる部分があって,それなりに勉強にもなるの
だが,それよりも巻末にかなりのページを割いて,検定意見とそれに対応した
修正文とが載せてあって,それが本文よりもはるかに興味深い。また検定の目
のつけ所などが判って大変面白い。

 どんなところに検定意見が付けられているか,というのを知るうえでも面白
いし,ああ,文部省というのはこんなところに検定意見をつけるんだなという
のがよく判って興味深い。(本書の半分は「教科書検定意見とその修正文」お
よび「韓国・中国からの修正要求」に割かれている。)

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 扶桑社の「新しい歴史教科書」は市販本として出版されているので,今度は
この教科書を実際に読んでみようかなと思っている。そして朝日や産経が取り
上げているような感覚を自分自身がもつだろうかどうだろうかというのを,実
際に確認してみたいと思っている。

 できれば他社の教科書も市販されていれば比較のためにも読んでみたいのだ
が,如何せん売っていないのが残念である。学校に配るだけでなく,一般書店
にも並べればいいと思うのだが・・・・・。


(2001.11.29)

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