エンダーの子どもたち


■著書名:【エンダーの子どもたち】
■ジャンル:SF
■著者名:オースン・スコット・カード
■出版社:ハヤカワ文庫SF
   発行年:2001年   定価:660円
■ISBN4-15-011344-0
■おすすめ度:★★★
======================================================================

 小さな子どもがそれとは知らずに,ゲーム感覚で宇宙の異類種を皆殺しにし
てしまう戦争を描いた『エンダーのゲーム』から始まるシリーズの4作目にあ
たる。(これでエンダーのシリーズは最後のような感じもするが,まだ少し謎
が残されているので続くかもしれない。ただエンダーにまつわる人物を中心と
した物語は今も発表されている)

 本書『エンダーの子どもたち』では2つのテーマ(問題提起)を取り上げて
いる。一つはエンダー達の住む植民惑星「ルジタニア」を破壊せんと,最終兵
器(惑星破壊ミサイル)を積んだスターシップが人類代表評議会から送り出さ
れ,それが着々とルジタニアに接近しつつあること。このままではルジタニア
はなすすべもなく破壊され宇宙の塵と化してしまう。

 2つめは宇宙に張り巡らされた通信ネットワークに住む謎の知性(エンダー
達や他の異類生命達の味方をしている)が,これまた人類代表評議会によるネ
ットワーク遮断攻撃により,今まさに滅ぼされようとしていること。

 果たして子ども達と異類生命達はルジタニアの破壊を防げるのか。そしてネ
ットワーク知性は無事にその命を保つことができるのか。光年を隔てた人類宇
宙社会の中で戦いが始まっている。(ただし戦いといってもスペースオペラ的
なアクションではなくて,静的で知的な戦いである)

                                 *

 読み進んでいる中で,何か哲学問答のような気がしてくる場面が多々ある。
なぜ人類は生きているのか。人類の生命をつかさどっているのは何なのか。生
きるという意欲が人類の生命を繋ぎ止めているのか。・・・等等等。アクショ
ン好きの読者にはちょっと退屈であるかもしれない。

 SFという形態は哲学を語るにあたって,結構都合のよい舞台なのではない
だろうかと常々思っている。時代も場所も好きに設定できること,登場してく
る人物(というか何でもかんでも)も比較的好きに登場させられること。はる
かな過去やはるかな未来でも時代設定を自由に選べること。だから作者の意志
なり意見を自由奔放に出せるということにおいて。

 そもそも哲学というのは,宇宙の存在,人間の生命を追求しているように思
う。宇宙を舞台にした物語はSFでよく出てくる。そして宇宙を突き詰めてい
けばどうしても宇宙の存在そのものについて言及していかねばならなくなって
くる。宇宙は誰が作ったのか,宇宙創造には何か意志が働いているのか。宇宙
は誰が造ったのかについては,アーサー・C・クラークが『宇宙のランデブー
4』の中で語っている。一度読んでみられてもいいかもしれない。

                              * * * * *

 1作目,主人公「エンダー」は5歳くらいの少年である,ある時いきなりバ
トルスクールに連れ去られ,そこでバトルゲームの訓練を受けさせられるが,
エンダーはもともとそういう才能があったようで,めきめきと力を伸ばしてい
く。バトルスクールでの最後の課題は「惑星戦争ゲーム」。今にも打ち負かさ
れんとしている状況が課題として出された。

 エンダーはギリギリのところで,敵方惑星を木っ端微塵に破壊するという戦
法を使って切り抜ける。ところが実は,これはゲームではなくて実際の戦争で
あったことを後になって知ることとなる。エンダーは苦しみ悩むが,やがて死
んでいった者たちのことを代弁するという旅に出かける。これを描いたのが2
作目の『死者の代弁者』である。

 私はこの2作目の『死者の代弁者』から最初に読んだもので,実は退屈でし
ようがなかった。晴れがましい「ヒューゴー賞,ネビュラ賞」の受賞作である
というのに,何でこんなにつまらないんだろうと。でもその後に読んだ1作目
の『エンダーのゲーム』は面白かった。「そうか。この前読んだ『死者の代弁
者』にはこういった背景があったのか」と再認識したものだ。

 今回の『エンダーの子どもたち』,実はこれも前作の3作目『ゼノサイド』
を読まずに始めたもので,最初の舞台設定がとんと判らず,上巻の半分ほど読
んだところでようやく,以前に読んだ1作目2作目との関わりが少し判ってき
てそれなりに面白くなってきた。途中からは目が離せなくなって,普段は会社
の行き帰りの電車の中でだけの読書なのだが,家に帰ってからも夜遅くまで読
んでしまい,眠い目をこすりながら翌日出勤したものである。

                                 *

・エンダーのゲーム 1987年 720円 ISBN4-15-010746-7
・死者の代弁者(上巻)1990年 480円 ISBN4-15-010884-6
・死者の代弁者(下巻)1990年 480円 ISBN4-15-010885-4
・ゼノサイド(上巻)1994年 820円 ISMN4-15-011072-7
・ゼノサイド(下巻)1994年 820円 ISBN4-15-011073-5
・エンダーの子どもたち(上巻)2001年 660円 ISBN4-15-011344-0
・エンダーの子どもたち(下巻)2001年 660円 ISBN4-15-011345-9


(2001.11.11)

書評のトップページへ ホームページへ