くんぼのSF紹介

=くんぼのSF紹介=

 ここでは「ジュール・ヴェルヌ」の作品を紹介しています。 ヴェルヌは百年以上も前の作家で,有名な作品を多く残しています。子供の頃に親しんだ人も多いかと思います。 映画にも結構なっていますので記憶に残っている人も多いでしょう。
 最近,ちょっと彼の作品を読み返してみようかなと思い, 文庫を少しずつ読み始めました。やっぱり,面白いですね。科学的な事柄について陳腐化しているのは 仕方がないですが,本当に読んでいて楽しくなってきます。


  ・地底旅行 (VOYAGE AU CENTRE DE LA TERRE) 1865
  ・月世界へ行く (AUTOUR DE LA LUNE) 1869
  ・海底二万里 (VINGT MILLE LIEUES SOUS LES MERS) 1869
  ・八十日間世界一周 (LE TOUR DU MONDE
              EN QUATRE_VINGTS JOURS) 1873
  ・十五少年漂流記 (DEUX ANS DE VACANCES) 1888


SFのトップページへ戻る ホームページの最初へ戻る


ここからは下は,何冊かの簡単な紹介(感想)です。

 

地底旅行(ジュール・ヴェルヌ)

 地底旅行,これは面白い。
 アイスランドのとある死火山の噴火口から,地球の中心を目指して地中深く潜っていく探検(大冒険)物語である。 この本を読んでいると,若い頃に映画(TVでだったが)で見たシーンが,そのまま目の前に現れてくる。

 配役も面白い。頑固でパワフルなドイツ人の鉱物学教授(彼はその分野では世界的権威である), その甥でどちらかといえば恐がりで軟弱者の男,そしてポーターとしての寡黙でたくましいアイスランド人の男。 この三者が奇想天外な大冒険を見せてくれる。とんでもない危機が何度も訪れる物語であるが, いぶし銀的なアイスランド人がいるおかげで,安心して読み進んでいける。

 物語は1863年(今から1.3世紀も前である)のドイツで始まる。主人公である鉱物学教授( 名前をリデンブロックという)が古本屋から12世紀のノルウエー王(アイスランドを支配していた)の年代記を求めてきた。 この本を喜んでいじっているうちに一枚の古びた紙が落ちてきたが,何とこれが16世紀の不遇の錬金術者の暗号文で, 地球の中心へ行く道を見つけて,実際に行って来たというのである。

 この暗号文をとくやいなや,教授は早速遠征の準備を始め,嫌がる甥(名前をアクセルという)を引き連れ, 地球中心への入り口のあるアイスランドへと一路赴くのである。地底に入った後はもう大冒険の連続。 飲み水がなくなり,あわやというところで地底温泉を見つけるとか,甥のアクセルが一人迷ってしまい, 真っ暗闇のトンネルの中で,傷だらけになって死にかけるとか,大地底海を横断中に巨大な恐竜の闘いに巻き込まれるとか, もう次から次へとありとあらゆる事が襲ってくるのである。

 さて,当然こういった物語はハッピーエンドで終わるものだが,何とこの三人は噴火の溶岩の上に乗って, 地上に噴き上げられて戻ってくるのである。(この場面では,昔々に映画で見た場面が明確に蘇ってきたものである)

 といった物語で,近年の地球学からはかけ離れているが(SFとは云えないかな),極めて面白い(楽しい)物語である。 百年以上を経てなお面白いというのは,ヴェルヌは矢張り希有な作家なのだろう。   


 
月世界へ行く(ジュール・ヴェルヌ)

 一世紀以上前のSF(というか大冒険小説)であるため,当然,科学的・技術的には色々とおかしいところがあるが, やはりこの作者の物語は面白い。
 それに過去にいくつかの物語が映画化されているためか,読んでいる最中になんとなく目の前に場面が浮かび上がってくる。

 186X年,月着陸を目指して,3人の乗員を乗せたロケットが打ち上げられた。 打ち上げたのは「大砲クラブ」のメンバー達。この名前から判るように,打ち上げられたのは大砲の弾丸である。
 人間3人を乗せたアルミニウム製の弾丸を,ばかでかい大砲に詰め,脱出速度以上の初速をもって打ち出したのである。

 ロケット(弾丸)の中には人間だけでなく,2匹の犬や何羽かの鶏も乗せられいる。そして, この乗組員達は月世界に荒っぽい着陸をした後,月の一部にあるだろうと想像される空気のもとで, 暮らしていくことを夢みているのである。今思うと何とも荒唐無稽であるが,それがまた楽しい。

 ただ彼らは実際には月に到着することはできなかった。地球脱出直後に出会った流星のため, 当初予定のコースを変えられてしまい,月を僅かにかすめる楕円軌道を描いて地球に帰ってくることになる。

 月へ行くまでの間に交わされる乗組員達の会話,そして月の表面をかすめて飛んでいる際の月世界の描写が, なかなかに面白くて,おかしいと思いながらも,ついついと話に引き込まれてしまうのである。   


 
海底二万里(ジュール・ヴェルヌ)

 「海底二万里」,これも面白い物語ではあるが,若干勉強本のような感じがする。  子供向けには確か,もっと楽しかったもののような記憶があるのだが,今,文庫を読み返してみると, 冒険物語というよりも科学と生物の教科書といった感がある。

 主人公は驚異の潜水艦「ノーチラス号」を操るネモ船長。 (潜水艦といえばノーチラス号。子供の頃によく聞いた名前である) このネモ船長は高い知性,強靱な意志, 優れた行動力を持ち,まず普通にはいないような理想の人物である。
 このノーチラス号を鯨と間違えて闘いを挑み,座礁したところを救われてノーチラス号の客員となるのが, パリ博物館教授のアロナックス,その召使いコンセイユ,銛打ち名人ネッド・ランドの三人である。
 アロナックスは博物館教授らしく冷静な人物で,船長ネモと結構うまがあい,一緒に海底の探検にも でかけていく。銛打ちネッド・ランドは海の男らしく,気性の激しい人物で,なんとかノーチラス号からの 脱出を試みようとしている。コンセイユは忠実な召使いで,とにかく主人であるアロナックスに 従うという役まわりである。

 ノーチラス号は本当に驚異の潜水艦で,何事にも負けない。南極海の氷に閉じこめられてもなんとか 脱出していく。太平洋・大西洋の海底を探検していくのも非常に面白い。
 ただ,魚や海草や貝などをいろいろ紹介してくれるが,それが生物分類学みたいで,読んでいくのに ちょっと疲れるのである。 まあ,そのへんの分類学的な部分を読み飛ばしていけば,冒険物語として興味深いものである

  


 
八十日間世界一周(ジュール・ヴェルヌ)

 「八十日間世界一周」,これは大傑作。二重丸。本当に面白い。
極めて有名なだけあって,やはり名のあるものは,名のあるだけの価値がある。 (といっても,その価値のないものも結構あるが・・・・・)

 物語の時代は,1872年,今から一世紀以上も前である。 イギリスの貴族で「フィリアス・フォッグ卿」なる男が(何をしているか判らないが金持ちである), その金持ちの集まりである「革新クラブ」において,何を間違ったか, 八十日間で世界を一周できるかどうかという賭けをしてしまうのである。
 この男は,何事にも動じない,常に沈着冷静な人間であって(まあ,悪くいえば堅物である),そんな男が とんでもない賭けをするところからも,この話が面白そうだなあという気がしてくる。

 さて,物語というのは主人公だけではつまらないものだから,当然のように, それなりの狂言回しが出てくるのである。その一人は,下男の「パスパルトゥー」という男で, 忠実ではあるが,ちょっと抜けているフランス人(水戸黄門の八兵衛みたいなところか)。 そして, 主人公を銀行強盗と間違えて世界一周の間中付け回すイギリス人の警官。この二人が狂言回しといったところで, その他には,これも当然ながらヒロインが出てくる。
 このヒロイン,非常に美しくて芯の強いインドの若き未亡人である。(小説を読んでいて,思わず憧れてしまいますね)

 この当時,汽船や汽車を休みなく乗り継いでいけば,八十日で世界を一周することは可能なのである。 (ただし全てがスケジュール通りいけばの話で,現在と違って,スケジュール通りにいくということは稀である)
 しかし,単にスケジュール通りに行ってしまえば物語にはならないのであって,主人公達は何度も何度も危機に直面する。

 例えば,インドの密林で美しい人妻が生け贄にされるところを間一髪で救出するくだり(最後には この女性がフォッグ卿の妻となる),予定の船に乗り遅れて,小さな高速船を雇い,猛嵐の中を突っ走るところ, さらにアメリカ大陸横断中にインディアンの襲撃に逢い,あわやというところで助かるが, 下男をを人質に取られたため,時間をかえりみずに救出に向かうところ。 何とか,イギリスに帰り着いたところ,かねてから付け回していたイギリス人刑事に逮捕されて, その後,嫌疑が晴れたにも関わらず,間一発で間にあわなかったところ。
 しかしながら,最後にはハッピーエンドで,実は,彼らは東回りに旅をしたので,日付けが一日分 短くなり,結局は賭けの日付けに奇跡的に間に合ったなど。

 世界一周をするための,汽船や汽車の一寸刻みの時刻リレーも面白いが,旅の先々で思いもかけぬトラブルが 出現してくるのが,何ともいえずに面白い。
 この小説は,連載ものだったらしいので,その連載毎に,屹度人々は一喜一憂したのであろう。

 ところで,ヒロインである美女は(「アウーダ」というのであるが),非常に魅力的である。肉感的には どうだか知らないが,とにかく精神的には大いに魅力的で,こんな女性がいれば本当にいいんだろうなあ と思ってしまう。

 ということで,この物語は読み出したら止まらない。多少徹夜しても一気に読んでしまう類の小説である。

  


 
十五少年漂流記(ジュール・ヴェルヌ)

 「十五少年漂流記」,これは楽しい本である。子供向けには短くして出されていると思うが,もとは結構長い物語である。

 時代は,1860年,今から140年ほども前の話で,ニュージーランドに住んでいる, イギリス・フランス・アメリカのそれぞれの国の子供達が,学校の休暇旅行として豪華ヨットでクルージングに出かける準備をしている。 が,前日の夜中,眠っている間に係留綱がほどけ,港から漂流を初めてしまう。折しも外は大嵐,港から漂流を始めたヨットは, とても引き返すこともできず,ただ嵐のなすがままに流されていく。 漂流は何日も何日も続き,たどりついたのは見知らぬ無人島。季節はこれから冬になろうとしている。
 少年達は最初はヨットを家としていたが,雨風に洗われるうちにヨットはだんだんと傷んでいく。 やがて彼等は島の洞窟に住居を構える。

 この少年達は,生きていくということに対して非常にバイタリティがある。 今の我等にはとても考えられないところが多くある。(当然か・・・)
 海鳥を撃つ。川の魚を捕る。食用の動物を捕まえる。家畜としての動物も捕まえる。 灯りをとる油をとるためにアザラシを捕まえる。落とし穴も作る。石とロープで武器も作る。 こんなことを上は14歳,下は8歳の子供がやってのけるのである。とても今の子供達,いや大人達でも とてもできないのではないだろうか?

 読んでいてワクワクしてくる。

 15人の少年のうち,メインとなるのは3人である。正義の味方でフランス人の「ブリアン」, 悪役でイギリス人の「デニファン」,よくできた調停人でアメリカ人の「ゴードン」。 ヴェルヌは物語を進めるに当たって,大体3人の人物を配置するのが常である。「八十日間世界一周」でも「海底二万里」でも 大概がそうである。三人というのは,おそらくやりやすいのだろう。現実の世界でも, 三人というのは結構上手くいくものである。

 で,物語のハードな展開ばかりでなく,この三人の心の葛藤もなかなかに興味深い。 ラストは当然ながらハッピーエンドになるので,読後感も清々しい。是非とも一度は読んで欲しい 物語である。
 子供達にも是非進めてもらいたい一冊である。   


SF紹介のトップページに戻る    ホームページの最初に戻る