ベンフォード作品紹介

=くんぼのSF紹介=

 ここでは「グレゴリイ・ベンフォード」の作品を紹介しています。 ベンフォードは何といっても,有機生命とメカニカル生命との永遠の闘いを描いたシリーズが, 彼を物語っていますね。最後の方は,非常に哲学的になってきて,なかなか判りにくいのですが, それもまた面白いと思います。
 SFも書き進めてどんどん未来に下っていくと,どうも哲学的になっていく傾向があるみたいです。 SFを通して形而上的なことを語るというのは,読む方も変に構えなくてすむので,結構いい手段じゃないかと思います。


  ・夜の大海の中で (IN THE OCEAN OF NIGHT) 1977
  ・星々の海をこえて (ACROSS THE SEA OF SUNS) 1984
  ・大いなる天上の河 (GREAT SKY RIVER) 1987
  ・光の潮流 (TIDES OF LIGHT) 1989
  ・荒れ狂う深淵 (FURIOUS GULF) 1994
  ・輝く永遠への航海 (SAILING BRIGHT EYERNITY) 1995
  ・木星プロジェクト (JUPITER PROJECT) 1980
  ・タイムスケープ (TIMESCAPE> 1980

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ここからは下は,何冊かの簡単な紹介(感想)です。

 

光の潮流(グレゴリイ・ベンフォード)

 この「光の潮流」はシリーズの第4作で,前作「大いなる天上の河」の続編にあたる。  当時(といっても,遙かな遠未来) 惑星“スノーグレイド”に入植していた地球人類は, 銀河の有機生命体を滅ぼそうとしている「メカ」(機械生命)に追い立てられ, 惑星に埋もれていた遙か古代の宇宙船「アルゴ」に乗り込んで,“スノーグレイド”を脱出した。 しかし「アルゴ」での長い航海の後に,目的としていた新天地の惑星に到着するのだが, この惑星はすでに機械生命「メカ」と有機サイボーグ種族「ポディア」の戦場とかしていた。

 有機生命体「ポディア」は遙かな過去において,地球人類と遺伝子交換をした種族であった。 人類および「ポディア」は,お互いに「メカ」に敵対する有機生命とは知らずに戦闘を開始するが, 新惑星に先住していた人類のリーダーが「メカ」に操られていたことを知り,「ポディア」の一人と共に新惑星から脱出する。 この「ポディア」の一人は,次の作品「荒れ狂う深淵」において,人類と共に銀河系の中心を目指して 宇宙船「アルゴ」を飛ばして行くことになる。

 さて,この物語はちょっと間延びした話という印象を受ける。 私個人としては,SFはサイエンス(科学)的な内容を持ち,展開の早いものが好みである。 ところが何故か,こういう上巻・下巻と分かれているSFは,上巻は非常に間延びしたものが多い。 まあこの物語の場合,下巻は話の展開も早くなって,個人的には読んでいて面白くなって良かったのであるが・・・。
 ところで前作「大いなる天上の河」は評判が良かったみたいである。もう随分以前に読んだのであるが, また近々読み返してみようと考えている。   


 
荒れ狂う深淵 (グレゴリイ・ベンフォード)

 この物語は,前作「光の潮流」の直接の続編で,有機生命と機械生命の闘いを描いたシリーズの5作目である。 時は遠未来,栄華を誇った地球人類も機械生命体「メカ」との闘いに,その文明は退行し, 「メカ」から隠れながら過去の科学的遺産を僅かに利用している時代である。
 前作において,人類は逃亡の末にようやく辿り着いた新惑星から脱出し, 「磁性精神」に導かれるまま,またまた長い航海の末に銀河系の中心部へと到達する。 そこには予想されていたとおり,巨大なブラックホールが存在しており, 人類は「メカ」に追われるようにそのブラックホール内部へと突入していく。

 ブラックホール内部へ突入していくところの描写はなかなかに興味深い。 中世の帆船が暴風雨にまみれてようやく小さな島に辿り着くといったイメージがある。 ブラックホールの中の小世界には,あらゆる時代の人類が集まっている。ここは「退廃の世界」。 隠れた退廃の世界の中にも「メカ」の攻撃の手がのびてきている。主人公はこの世界の中をさまよい, 数多くの人類に出会っていく。流浪の物語か・・・?
 それで,最後には大昔の歴史的人物(といっても宇宙航行が始まってからの人物であるが)にも出会ってしまう。 このあたりは,ちょっとやりすぎかな?

 さて,人類はこの閉ざされたブラックホールのなかの世界から何を始めようとしているのか? ということで,次作の最終版へと繋がっていくようである。

 面白いところはどこだろうか?宇宙船「アルゴ」が銀河中心の巨大ブラックホールに突入していくところ。 また,ヘビのような生命体が銀河中心を漂っており,それを捕獲しようと奮闘するくだり。 こういったところが興味深い。特にブラックホール周辺の描写などは,なかなかに「ウーン」とうならされる ところである。
 それ以外の宇宙船内部での生活描写,またブラックホール内部世界での文明的描写については 個人的にはもうひとつで,ちょっと読み飛ばしてしまったところがある。

 ともあれ,次作の最終版がおおきな楽しみである。   


 
輝く永遠への航海 (グレゴリイ・ベンフォード)

 この物語は,前作「荒れ狂う深淵」の直接の続編で,有機生命と機械生命の闘いを描いてきたシリーズ6作目(完結編)である。 舞台は,西暦37500年頃の銀河中心巨大ブラックホール内部に造られた世界で,ずっと未来の物語である。

 前作の最後において,主人公は大昔の歴史的人物(遙か昔,20世紀の地球出身の人物)に出会った。本作では, この3万5千年前の人物が有機生命の歴史,機械生命の歴史,そして銀河の知性体の歴史を語るところから始まる。
 銀河の知性体は,120億年以上も前から誕生していること,機械生命(メカ)は初期の有機生命体が造り出したが, やがてメカの発展とともにその有機生命体が滅亡してしまったこと。電磁生命や新たな有機生命体が誕生していったこと。 さらに,銀河中心にある巨大ブラックホール内部の閉ざされた世界,空間と時間が混ざり合った奇妙な世界 (エスティ:ST:space,time と呼ばれている)が,どのように産み出されたかが語られる。

 メカを産み出した初期の有機生命体は,有機生命と機械生命(メカ)との永遠の対立に根ざす危険を承知していた。 メカは自分自身でボディと精神を改善し急速に進化していくが,有機生命はそうはいかない。 有機生命はメカの進化ペースに着いていくことができず,自分達が衰退しつつあることを自覚した。 そこで,有機生命はメカの精神内部に切り札となるべきコマンドを埋め込んだ,このコマンドが作動させられると, メカ精神に途方もない快楽をもたらすとともに,恍惚による死をもたらすのである。

 メカに恍惚死を引き起こすコマンド,これを作動させるトリガーコードは実に巧妙に隠されていた。 それは有機生命体のDNA空き領域に隠されていたのである。 しかも,有機生命体の各人が3分の1づつを保管し,三世代がそろわないとコードが判らないようにと仕組まれていた。
 このような背景のもと,メカたちは,物語の主人公である人間達を追い回し,トリガーコードを発見するため, 壮絶な闘いを進めている訳である。結局,メカはトリガーコードを発見してしまうが, そのトリガーコードを引いてしまったばかりに,快楽の疫病があっという間にメカに蔓延し, ほぼ滅びさってしまうのである。

 しかし,これで大団円ではない。銀河内の高位の知性体たちは,より重要な問題を気にかけていた。 それは有機生命もメカもそれぞれのやりかたで。実はこの宇宙の量子状態は基底状態にあるのではなく, 準安定状態にあるのであって,場合によっては,最下位の基底状態に落ちる可能性がある。そして, その状態ではあらゆる基礎的な属性が変わってしまい,あらゆる情報が失われてしまう。いかにこの問題を避けるかが, より高位の課題なのであって,有機生命とメカとの壮大な闘争は,結局は単に下位形態の争いだったというのである。

 宇宙とはなにか,生命はなぜ進化していくのか,時間と空間は・・・・・。
 ときとして,哲学であり,理論物理である。ちょっと長くて間延びしているところがあるが,前作の 「荒れ狂う深淵」や前々作「光の潮流」よりは,かなり興味深い物語となっている。

 ところで,宇宙ものの連作を読んでいると,往々にして少々哲学っぽくなっていく傾向があるような気がするが, 宇宙の起源,生命の歴史,重力理論,時間・空間の歪みなどを扱っていくと,どうしても, そうなっていってしまうのだろうか。

  


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