グレッグ・ベア作品紹介

=くんぼのSF紹介=

 ここでは「グレッグ・ベア」の作品を紹介しています。
 初めて読んだ作品は「永劫」でした。若い女性科学者が地球の恋人と離れ,不可思議な小惑星の探索に招かれる。 そこは全く違った時空で作られた世界で,考えられもしない体験をしていく。その閉ざされた (あるいは無限に開かれた)時空での当面の問題を片づけた後,主人公の女性科学者は, 何とか元の世界に戻ろうと,時空の穴からジャンプしていくのであるが,そこは残念ながら僅かにずれていた。 やるせないため息とともにラストを読んでいる自分がいた。
 その後も少しづつ「ベア」の作品を読んでいるが,やはり最初に読んだ作品が一番印象に残る。


  ・ブラッド・ミュージック  (BLOOD MUSIC) 1985
  ・永劫  (EON) 1985
  ・久遠  (ETERNITY) 1988
  ・天空の劫火  (THE FORGE OF GOD) 1987
  ・天界の殺戮 (ANVIL OF STARS)1992
  ・女王天使 (QUEEN OF ANGELS)1990
  ・凍月  (HEADS) 1990
  ・火星転移 (MOOVING MARS)1993

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ここからは下は,何冊かの簡単な紹介(感想)です。

 

永 劫 (グレッグ・ベア)

 20世紀最後の年,突如として謎の小惑星が発見された。 外形も組成も極くありふれたものであるが内部に空洞が存在する。 その小惑星(ストーンと名付けられた)は,偏心した地球周回軌道をとっている。
 直径100km,長さ300km のじゃがいものような小惑星は, 内部が7つの空洞に区分された人工的な宇宙船で,しかも未来の人類が作ったものであった。

 一つ一つの空洞は単純に割れば長さは50km程度のはずであるが, 第7空洞だけは極めて不可思議で,長さ方向には全く果てのないことが確かめられた。
 300kmと限られた空洞の中に無限に続く空間が存在する。 これは未来の人類(平行宇宙から,こちらの宇宙にはじき飛ばされてきた)が造ったものであり, 道(ウェイ)と名付けられていた。

 ストーン(小惑星)の第7空洞から道(ウェイ)をはるかに進んだ所に, 未来の人類は巨大な都市を形成していた。人類の殆どは「シティメモリ」と呼ばれるメモリ空間に, 電子的に保存され,その空間内において精神的に生きている。 また限られた一部の人間は実在の身体を造り(自分のすきなように)実体化して,シティを運営している。

 この実体化した人間達は,好き勝手な形態をとることを許されており,魚のようであったり, ただの風船形態であったり,そして喋る言葉は, 自分の周辺にアイコン(今のPCにも色々なアイコンがある)をピクトするといった具合である。 現在の我々からは想像もつかない世界である。

 道(ウェイ)は,そのなかにゲート(入り口)を開くことにより, いろんな世界に(平行宇宙)に通じることができる。このため,道(ウェイ)には人類だけでなく 種々の知的生物が生活していた。人類と交易を結ぶ種族もあり,また敵対する種族もあった。 そのなかで,完全に敵対し理解しあうことのない種族「ジャルト」がおり,人類はこのジャルトと 長い闘いを続けていた。ジャルトとは何者か?それは永遠に理解しあえることのない種族であった。  (ただし,この永劫の続編「久遠」では,ある程度判ってくる)

 小さな小惑星から無限に延びた「道(ウェイ)」。しかもあちこちで平行宇宙に通じている。 これを実感するのは難しい。「道(ウェイ)」のイメージは,我等の腹の中に寄生するサナダムシ を思い描くのがいいかもしれない。宇宙をつらぬくサナダムシ(しかも好きな場所で平行宇宙に 接することができる),なかなか異様なイメージではある。

 物語は,まず小惑星を持ってきたファーストコンタクトもの。人類の未来を描いた未来もの。 異星人との戦闘もの。平行宇宙のイメージを描いた科学もの。 といった色々な側面があり,なかなかに読み応えがある。そしてラストシーンがちょっと 余韻を残し,涙ものにもなっており,とにかく興味深い物語である。

 この続編として「久遠」があり,これにてこの物語は締めくくられるのであるが, 「久遠」では終局精神を持ち出してきたりして,舞台を拡大しすぎて収拾がつかなくなったような気がする。

 まあとにかく,この「永劫」は読んで非常に面白い物語である。

  


 
天界の殺戮 (グレッグ・ベア)

 前作「天空の劫火」の続編として書かれたものである。前作において,地球は宇宙の侵略ロボットにより壊滅させられた。 本書は単純にいえば,生き残った地球人類の子ども達による「仇討ち」物語である。 仇討ちと単純に言ってしまうと作者に悪いのかもしれないが,あの「宇宙戦艦ヤマト」(私は大ファンなのだが) で「ヤマト」がデスラー率いる「ガミラス」を滅ぼしてしまうのと同じである。

 地球は自己複製殺戮機械により壊滅させられたが,一部の人類は銀河系の「保護者」なるものに救助された。 この銀河系には諸文明の行動を規制する「銀河法典」なるものがあり,これによると,自己複製殺戮機械を製造する文明は, その罰として滅ばされると規定されている。救助された人類の子ども達は,この「銀河法典」の教義に従い, 自分達の世界を滅ぼした文明を逆に滅ぼすために高次文明である「保護者」の与えた「法律の船」に乗り込み, 仇を求めて宇宙空間に旅立って行くのである。

 物語は,「法律の船」の中での子ども達の葛藤と成長を叙述する。自分達は果たして「仇討ち」をするのが正義なのか, 抵抗しない文明をを叩くのは悪ではないのか,と悩み行動していく子ども達を描いている。

 読後感としては,最初にも書いたが,あの「宇宙戦艦ヤマト」が「ガミラス」を惑星ごと滅ぼしたラストシーンに, どうしても似ていると思ってしまう。物語は戦闘シーンありセックスシーンありで,まあ面白いが, それほどじっくりと読むようなものではないというのが感想である。

  


 
女王天使 (グレッグ・ベア)

 21世紀のなかば,その時代としては滅多にあることではないが,有名な詩人が8人の人間を殺害した。 被害者の中には,ある金持ちの娘が含まれていた。被害者の父親は何故娘が殺される状況に至ったのか, その解明に全血を注ぐ。殺人者が公安に見つけられる前に自身で探しだし隔離し,その精神内部を 探るべく一人の心理好学者を召還した。

 物語は4つのパートに分かれ,それぞれがもつれあいながら以下のような主人公によって展開されていく。

1:殺人者の行方を追い求める美貌の女性公安官
2:殺人者の友人で売れない作家
3:人工知能,「ジル」
4:殺人者の内宇宙へサイコダイビングしていく心理工学者

 物語の初期において,アルファ・ケンタウリに到達した「恒星間宇宙無人探査機 (AXIS:Automated Explorar of Interstarer Space)」が登場してくるので,これからSFが始まるのだ, と思って読み進んでいっても,いっこうにそうはならない。一部はスパイ小説,また一部はミステリー といった感じで,長々と話が進められていく。

 私としては,もっとscience色の濃いものが好きなので,この手のものはちょっと退屈してしまう。 最後まで読むのに疲れてしまったというのが感想である。 ただ,人工知能「ジル」は,この後のシリーズでも登場してくるし, 未来の人工思考体の基本となるものらしく,ベアのこの後の作品を読む上での参考として覚えておくと都合が良いようである。

  


 
火星転移 (グレッグ・ベア)

 時代は22世紀の後半,人類は地球・月・火星に居住し,「トリプル」と呼ばれる社会を形成している。
 物語の舞台は火星で,この時代の火星は大小90程度の結束集団によって運営されている。 しかしながら,統一政府といったものは存在せず,どちらかといえば無秩序状態であったが, このような火星に統一政府を築こうという動きが出てくる。一方,地球はまだ火星を植民地視しており, 火星の更なる独立の動きに対して干渉してくる。

 こういった背景のもとで,火星の物理研究者が「ベル連続体理論」という驚異的な理論を発見した。 物質を作り上げている素粒子は231ビット分の情報量を持つ「記述子」を持っていること, そしてこの記述子を操作することにより,素粒子をその反粒子にも変え得るというのである。さらに 物質や信号を距離に関わらず瞬時に送ることができるという。
 地球側はこの噂を知り,折しも火星の初代大統領候補演説会の最中に,火星入植当時より密かにコンピュータ (人間のように考えることができるので思考体と呼ばれている)に忍ばせておいた「進化子(今でいう ウィルス)」を活性化させ,火星の機能を麻痺状態に追い込むことにより,無条件降伏を迫ってくる。

 ここで,火星側は例の「ベル連続体理論」に基づいたテクノロジーにより,衛星「フォボス」を地球軌道に転移させ, その力を誇示し驚異を与えることにより,地球側の横暴をとりあえず押さえ込むことに成功する。

 しかし,この一件で両者の関係は完全に悪化した。地球側も遅ればせながら「ベル連続体理論」に取り組み, テクノロジーを完成させ,有無を云わせず火星への攻撃を開始する。このままではお互いの惑星の 破滅は目に見えており,火星側は火星そのものを1万光年彼方の恒星系へとジャンプさせてしまうのである。

 この物語は,上下2巻に分かれている。ストーリーはなかなかに面白い。
 しかし面白くなってくるのは下巻に入ってからで,上巻を読むのはかなりの努力を必要とした。 (上巻は主人公の学生運動とロマンス,および政治的な駆け引きの描写が続けられ,個人的には退屈した) 下巻は,連続体理論の説明や火星転移の際の惑星内部の変動シミュレーションなど,興味深い内容に溢れており, 一気に読み進むことができた。

 上巻は斜め読み,下巻は熟読というのが個人的なお勧めである。

  


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