「忍足、すごいな」

「ああ、宍戸か」

「忍足先輩は今日が誕生日でしたか?」

「そうや」                   

「へー、おめでとう。今そこで長太郎がくれたんで悪いけどこれやるよ」

「…宍戸さん!」

宍戸が差し出したのはシャーペンの芯だった。

それを見た鳳は慌てて止めに入った。

こういうときは価値観の違いがよくわかるものだなと納得してしまう。

「え?忍足が俺の時にくれたのはミントガムのボトルだったし。こんなんでいいんじゃね?」

宍戸はまだ意図が掴めずにいるので不思議そうに鳳を見ている。

鳳は何と言えばいいのかと困り果てていた。

この壁はすぐに乗り越えるには分厚そうだと思い、忍足は助け舟を出すことにした。

「…折角買ってやったんを回すんはいいんか?鳳」

「むしろ、それをプレゼントでいいんですか?」

「それくらいのが気持ちとしては楽な気がするわ」

「なら、こっちもセットであげます」

鳳は忍足の下駄箱にあるプレゼントの山をみて、

その言葉に納得したらしくカバンの中からシャーペンの芯と一緒に購入したらしいノートを
2冊渡した。

「おおきにな」

(段々、何かの昔話のような展開になってきたな)

なんて思って廊下をいつものように歩いていると、これがまだまだ序の口だと知ることになった。

まさか、教室に入って女子の複数グループやら個人でやらでプレゼントを持ってこられるとは思いもよらない。

(バレンタインデーと同じやん)

バレンタインデーを彷彿とさせるものを感じずにはいられない。

むしろ対象が忍足一人なのだから、バレンタインデーよりも酷いかもしれない。

誕生日を祝ってくれるという気持ちはありがたくいただくと決めていたけど、

(気持ちをただ押し付ければいいと勘違いしてるんとちゃうか)

と思わず口に出しそうになるのをやめた。忍足の心はこれ以上と無理な位に引いていた。




適当な逃げ場所を求めてたどり着いた先は部室だった。

さすがにずかずかと誰も入ることの出来ないこの場所で今日はやり過ごそう、

と扉を開けると目の前には跡部がいた。

「なんだ、忍足。ここは避難所じゃねーぞ」

「ええやん、固いこと言わんといて」

「受け取ってやればいいじゃねえか。お前の誕生日を祝いたいっていうだけなんだろうが」

「自分とちゃうって」

アイドルの握手会さながらだった少し前の跡部の誕生日を思い出した。

あの時は跡部の派手さも手伝って学校行事の一つのようで見ていられた。

何より跡部はすべてを受け取ったのだから、そんなことは忍足には出来なかった。

跡部の器の広さと言うか、バカさというか紙一重なものを見せ付けられた気分になった。

「それにしても今年は酷いな」

「そりゃあ、3年は今年で卒業だからだろ」

「来年も高等部におるやん」

「プレゼントを贈る連中の言い分によれば違うらしいぜ」

「そうなんか」

「お前は本命からもらえないから、それどころじゃねぇだろ?」

「そんなんわかってるわ。悲しい事実を知らさんでええやん」

「自分で主張はしたくねえってことか」

「そうや」

「なりふり構ってられないんじゃなかったのか?」

「それとこれは別や」

「お前、意外と…」

「わかってるから言わんといて」

「はっ、仕方ねえな。なら俺からのプレゼントをやろう」

「ええわ」

「内容も聞かずに断るのか?」

「跡部がくれる物は後が大変やからや」

去年の何かの行事の時にプレゼント交換で跡部のものが当たった時にそのセンスには脱力した。

「ふん、後悔するぜ」

「せえへんわ。」

「ふん、そうか」

「そうや。跡部サマからお言葉をもらうだけで十分や」

冗談混じりな忍足の返答に跡部は本気か分からない満足そうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、おまけをつけてやろう」

「なんや?」

「部室の用事は終わったから、今日は放課後まで貸切にしてやるよ」

「素敵な贈り物をありがとうな、跡部」

「部室をちゃんと見ろ」

「え?」

「ばーか、感謝しろ」

跡部の嫌味な声に思わず反応して振り向くと、同時に扉はばたんと閉まった。

跡部の座っていた椅子の後ろに横たわる人影。

「これはモノとちゃうで」

「……」

何も知らないであろうジローが眠っていた。

これだから跡部には敵わない

「こんなんどうしろって言うねん」

思わず呟きつつ、忍足はジローの側に腰を下ろした。

「ま、ええか。」

ジローのくせのある髪に触れるとふわふわと柔らかくて心地よかった。

朝から色んなことがあったのでふわふわした髪に触れると気持ちも柔らいでいく。





もう1回だけ続きます



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