たとえばこんな誕生日
忍足の家が経営する病院は家のすぐ側にあるので、そこで働く看護婦さんや患者さんにもよく出会う。
「侑士くん、お誕生日おめでとう!」
寝不足も手伝い、朝からテンションがイマイチ上がらない状態の中、テンションの高い声が忍足の背後から響いた。
「なんや?」
振り向くと病院に勤務している看護婦さん2人。勤めて何年か経つのですっかり顔見知りになっていた。
「はい、誕生日のプレゼント。」
「あ、私も持ってきたんだ」
「そうなんや、ありがとうな」
差し出された二つのラッピングされたプレゼントをありがたく受け取ると二人とも呆気に取られた顔をしている。
その表情に忍足のほうが呆気に取られてしまった。
「あれれ?」
「なんや?意外そうやな」
「バレンタインみたいに全部断るのかと思ったのに意外」
「ま、祝ってくれるっていうもんはありがたくもらうわ」
「現金ね」
「祝ってくれる気持ちと愛情の押し売りは違うやろ」
「そういわれると、違うかな?」
「微妙な表現で難しくてわかんないわ。折角の善意をありがたく受け取って欲しいと思うけどな」
「ま、それは人それぞれってことで」
「きっと私たち以外からもたくさんもらうんだろうね」
「バレンタインみたいな騒ぎになりそうね」
「どうやろな。みんな知ってるとは限らんやろ?」
「侑士くんこそ、女の子の情報網を甘く見たら酷い目にあうわよ」
ふふと意味ありげに笑って、もう片方も納得と言って笑いをかみ殺していた。
中学生と社会人の差こそあれ、女のことは女が詳しいってコトかと思った。
しかし、余計なことは言わない方がいいと判断して家を後にした。
学校に着くとその言葉の意味が身に染みて理解できた。
下駄箱にはぎゅうぎゅうに詰め込まれたラッピング。
バレンタインの時と同様に上履きは外に転がっていた。
名前を無理矢理書かされたお陰で自分の上履きだとはわかったけれど。
(これはあまりにも…)
思わずため息がこぼれ、そのラッピングを取り出していると聞き覚えのある声がした。
「おはよ、侑士」
「おはよーさん」
岳人がぴょんぴょんと朝からテンション高く跳ねていた。
「侑士の下駄箱なんかすごいことになってるな。なんか行事が今日はあったっけ?」
「…マジか?」
男と女の温度差を肌で感じると思わず言わずにはいられなかった。
そんな忍足を岳人は不思議そうに見ていた。
「侑士?」
「岳人、俺今日な誕生日やねん」
「あ、そうなんだ。おめでとう。じゃあ、ここは一つ飛んで…」
「なんでやねん」
「いいじゃん」
「その気持ちだけで十分やわ」
「そ?なら何が欲しいか言ってみそ。出来る範囲なら叶えてやるぜ」
「なんや、えらいサービスやな。」
「ま、跡部みたいには行かないけどな」
「そんなんいらんわ」
「俺の時にケンタのファミリーパック買ってもらったからさ」
「そうか。でも、今は思いつかんわ」
「じゃあ、放課後までに何か用意しておく」
「気持ちだけでええって」
「まあそう言うなよ。喜ばせてやるからなー」
そういうと誕生日プレゼントを渡したいという気持ちよりも、
誕生日にかこつけて『どっきり大作戦』を実行したいんじゃないのかと、
尋ねたくなる岳人の後姿を忍足は見送った。
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