>はじめの第一歩




(あんな顔もするんじゃな)

その顔は普段の取り澄ました顔とはあまりに違う

破顔一笑、まさにその言葉がぴったりという笑顔

(意外やの)

意外性、それは仁王が柳生に興味を持つのに十分だった

(そんなにウマイもんかの?)

柳生はバスに乗っていて、誰かと座席に座っていた。

柳生とイメージの異なるものを渡されていた。

だけど、柳生は躊躇うこともなく、それを口にして柳生はとても幸せそうに笑っている。

人の好みは千差万別というから、ソレが柳生にはとてもおいしいものかもしれない。

ただあまりに幸せな笑顔で飲むので、どんな味なのかと思わずにはいられなかった。

普段と違うそのギャップに驚きながら、仁王はその姿を見送った。

 


「やるわ、それ」

仁王は昨日の柳生の飲んでいたものとメーカーは違うが同じ種類を買ってみたが、大しておいしいものじゃなかった。

甘いものが好きなブン太にそれをあげると上機嫌に喜んでいた。

「おー、なんだ?イチゴ牛乳じゃん。いいのか?」

「その甘さがキツイわ。もう十分じゃ」

「この甘さがいいじゃん。でも、甘いの苦手なくせに珍しいな」

「あー、たまには気分転換にと思ったんじゃ」

「ふぅん。ま、くれるっつーから俺としてはラッキーだけど。サンキュー」

「あー、飲んでくれ。んで、参謀に肥満について注意されとけ」

「ひでー、それ。冗談に聞こえねーし。」

傷つくとか言いつつもブン太は、甘ったるくてどうしようもないそれを飲んでいた。

ブン太は甘いものに目がないからおいしいのだろう。

好物が「ところてん」という紳士様は、このどろっと甘ったるいものを好むようには見えない。

(俺も思ったより見る目がなかったんかの)

どろっとした乳白色にほんのりと色づくピンク色

女の子を強調したような色とその見かけを裏切らないどろどろとした尾を引く甘さ

甘いものが好きじゃないと飲める代物じゃない

(これのどこがうまいっちゅーのか)

紳士様に直接聞けば話は丸く収まる。

その甘さが好きだといわれればそういう嗜好なのかと話しは終わる。ただそれだけのこと。

それだけのことなのに仁王は柳生に言うことが躊躇われた。

(さて、どうやって話を切り出すかの)




「おや、仁王君。今日は早いですね」

「あー、HRが早終わったんじゃ」

「そうですか。でしたら、みなさんが集まるまでコートで少し打ち合いをしませんか。

先輩も引退されたことですし、誰も文句は言わないでしょう」

常勝を謳う立海大付属中学校テニス部は上下関係も厳しく、理不尽でも先輩は絶対の存在だった。

もちろん先輩より先にコートで打ち合いはできなかったので、3年生の引退は2年生にとってはありがたい。

早く来てもコートに立てずランニングや壁打ちをして時間を潰すことは仁王にはとても無駄な時間に思っていた。

「あー、せやの。うるさい連中はもうおらんの」

「そうと決まれば、着替えてコートへ行きましょう」

「まあ、たまにはやろうかの」

夏の大会のメンバー編成時期にダブルスを組むように幸村に命令されて、数ヶ月が経っていた

ある程度親しくなってもおかしくないのに、柳生の態度は初対面のときから一向に変わらない。

それは仁王も同じで、お互いに距離を測り損ねていた

柳生も仁王も合わない人種に深入りするタイプじゃないのも原因だった

特に親しくなくてもダブルスで試合をするのは、お互いに割り切ればある程度のレベルまではできた。

それは二人にとっては幸か不幸かは難しいところだ

ダブルスを組んでからの二人は順調に成長を見せていたため、問題視をされなかった。

そんな関係を築き上げはじめていたので、踏み込んだ話はなんとなくできる雰囲気にならない。

(さて、どう切り出せばいいんかの)

仁王はここまで執着を覚えたのは久しぶりだったので、妙な高揚感に覆われていた。

「残念ですね。今日は練習に身が入ってないようですね」

「そんなことはなかよ?」





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