手作りビデオ、こんな使い方もあります

1 この6年間
 私が学級保健指導に手作りビデオを使うようになって、6年がすぎました。
ふり返ってみると、この6年間に大きな出来事が二つありました。それは、新学習指導要領の実施と学校五日制の試行です。子どもたちへの様々な面でのしわ寄せはもちろん、保健室へも波紋を投げかけていることはご存じのことでしょう。
 京都市の小学校では、従来から学級指導として、1週間の内、2分の1時間(20分間)が設けられています。その2分の1時間の学級指導を、第1週目は保健指導、1週目は安全指導、3週目は給食指導というふうに、学校の実態に合わせてわりあてていくのです。つまり、ほとんどの学校で月1回2分の1時間の保健指導の時間が確保されていたというわけです。
 ところが、新学習指導要領の実施に伴い学級指導が学級活動にかわりました。それとともに保健指導の割り当てが削減されたという学校もあります。
また、学校五日制により授業時数を確保するため、他の曜日に設定されていた保健指導の時間を土曜日に移動せざるを得なかった、という学校もあります。学校五日制が完全に実施されたときには、保健指導の時間が自然消滅していた、なんてことになりかねません。こんな危機感を感じているのは、私だけでしょうか。

2 いっそビデオでやったら・・・
 私が前任校に着任した当時は、2分の1時間の保健指導の時間に、「教師用指導資料・指導略案」「児童用プリント」を配っていました。プリントは、低・中・高学年に分けて、書き込みをしながら自分自身の生活を振り返れるような作業プリントを作成していました。自分なりに工夫をこらしていたつもりですが、年度末に保健の反省をとってみると次のような反応が返ってきました。
・低学年−指導案・プリントがあり指導しやすかった。
・高学年−指導の時間がとれなかった。プリントは家に持って帰らせた。
と、保健指導の時間が設定してあっても、教科指導や生徒指導に追われて保健指導が行われにくいという実態が浮かび上がってきました。
 一方、子どもたちのようすはというと、けんかが多発し、早急にからだの大切さを教える必要に迫られていました。
 考えてみれば、教科指導や生徒指導に追われて保健指導をする余裕が教師にないという状況は、子どもたちがたくさんの課題を抱えているからではないでしょうか。そんな子どもたちだからこそ、保健指導を通して、からだの学習をする必要があるのかも知れません。それも、どんなに教科の学習が苦手な子どもでも楽しく学べる方法でないといけません。 こんなことを考えているとき、「いっそ、ビデオでやったら」という学級担任の一言で全くビデオのことを知らない私がビデオ作りを始めたのでした。
 平成元年度に「からだの話」シリーズで始めた全校一斉ビデオ放送は、年度末反省では「よくわかった」「子どもたちが保健のビデオを楽しみにしていた」等の声を聞くことができました。そして、気がついたときには、けんかを原因とするけがもほとんどなくなっていました。
 平成2年度は、各月のテーマに合わせた内容でビデオを作りました。ビデオ放送は映像を見る楽しさはありますが一方的に情報を与えられるという点で受け身にならざるを得ません。
−子どもたちなりに思案した上で「なるほど、そうか」とわかる楽しさを経験させるにはどうしたらよいのだろうか−
 不十分だとは思いながらクイズ形式を取り入れたこともあります。保健指導のたびに、子どもたちが書いてくれる感想や疑問とにらめっこしながら試行錯誤を繰り返していました。
 このころから、ビデオ制作を保健委員会活動の一部に位置づけました。子どもたちの自由な発想に驚いたり、彼らのやる気に励まされながら、にぎやかに撮影していたことを思い出します。

3 もっと、わかるために−平成3、4年度−
 子どもたちがもっと深くわかり、自分の生活や生きる力に結びつけることができるような保健指導であるために、次のことがらに留意することにしました。
@体重測定前のミニ保健指導は、子どもたちが自分のからだで体験したり、実験や教具を 見て驚き、納得できるものでありたい。
A学級活動2分の1時間の保健指導は、ビデオ放送を使う。ただし、映像でなければ表現 できないような画像(既成のテレビ番組等の活用)を選ぼう。そして、制作する過程を 保健委員会の子どもたちや気になる子どもたちが学習する場と考えたい。
B保健指導後の子どもたちの反応をつかみ、次の保健指導へと生かしていこう。
保健室から子どもたちへ、子どもたちから保健室へと。保健室からの一方的な教え込み ではなく、子どもたちの声をフィードバックさせていこう。
C養護教諭が使える時間はわずかである。2分の1時間の保健指導、ミニ保健指導、ほけんだより等。これらの機会を効果的につなぎ合わせて、子どもたちが「なるほど、そうか」と納得してくれるまで働きかけてみよう。
−授業という方法をとらずに、養護教諭としてどれだけのことができるのか−これは、自分自身への挑戦でもありました。

4 運動から筋肉、骨、栄養へと発展していった保健指導(平成4年度の取組)
(1)”運動”から始めた理由
@生活点検から高学年になるにつれて外遊びをしなくなる傾向がみられた。
 A校内マラソン大会に積極的に参加させたい。(例年、高学年がぶらぶらと歩いている姿が目に付く。)
 B体育館改修工事のため、運動場が半分になっていたが、休み時間は外で遊ばせたい。
(2)取組の経過
 @10月「宇宙の話」VTR
  <内容>毛利さんの宇宙での様子、教頭先生の話(入院時のこと)、アメリカと旧ソビエトの寝たきり実験のクイズ、まとめ。
  <反応>低学年は宇宙のことに関心がいってしまい、自分の生活につながりにくかった。子どもたちの疑問をまとめて、次号へ。
 A11月「宇宙の話、その2」VTR
  <内容>子どもたちからの質問特集
  <反応>「もっと長い間寝たきりだったらどうなりますか」という問いに対して、4ヶ月間の寝たきり実験に挑戦した大腿の断面写真(NHK、スペースエイジより)を使った。筋肉の変化の様子に驚いていた。
 B11月「胸ドキドキの運動って?どんな運動がよいのかな?」ミニ保健指導
  <内容>東京大学、宮下充正先生の発達曲線の説明。かけ足、縄跳びをさせ、脈拍や呼吸の変化を実感させる。
  <反応>脈拍の変化を実感させたのでよくわかったようだ。体育の後で自分の脈拍を測り「すごく速い」と保健室に言いに来る子がいた。
 C1月「骨の話−姿勢検査」体重測定前ミニ保健指導
  <内容>背骨の模型を使い、自分の背骨をさわりながらその仕組みについて理解させる。
  <反応>「骨を支えているのは何かな?」と尋ねたところ、1年生でも「筋肉に決まっている。だって、宇宙の話で勉強したもん。」と答えた。
 D2月「骨の話」VTR
  <内容>骨の中のようす、骨はどこから伸びるのか(骨端線)、クイズを交えて考えさせる。最後にクラス全員で考える問題。
<反応>子どもたちの骨には成長線があることを知って驚いていた。子どもたちの疑問・感想を読んでいく内に自分の教材研究が不十分であったこと
に気づいた。ほけんだよりで補足する。

クラスで考える問題の解答を保健室前の掲示板に掲示すると、子どもたちが集まり歓声をあげていた。
 Eほけんだより12・13
  <内容>「骨の話」質問特集
      子どもたちの素朴な質問について考えることが自分自身の勉強になった。些細なことでも調べてみると、科学的な裏付けがあることに驚いた。栄養についてもふれる。
  <反応>学級担任が熱心に読んでいた。
      児童は質問に答えてもらい喜んでいた。
      「このほけんだよりは一生役に立つことが書いてあるのでファイルにとじています」と、保護者。
(3)取組後の反応
 @児童
  ・昨年度までは「クイズが楽しかった」というような反応が多かったが、今回は「特によかったのは宇宙の話です」「骨のことがよくわかった」「運動してからだを強くしたい」というような感想が増えた。
・校内マラソン大会では前年までと比べて大変よく走った。
  ・六年生のボールがすり切れて補充ができなくなった。
 A保護者
  ・「保健指導のある日はとても楽しみな様子で学校に行きます。」
  ・「からだの勉強は好きなようで、家でもよく話してくれます。家では教えられないようなことを教えてもらって喜んでいます。」
 B学級担任  
・身体計測の時や保健指導の時に工夫して健康教育をしてもらって、子どもたちが自分の体について関心をもつようになった。特にビデオは子どもたちが楽しみにしています。
・ビデオ放送の保健指導がたいへん子どもたちに人気があって、また効果もあっていいなあと感心しています。身体計測の時の話も大変いいので続けて欲しいです。
(以上、年間反省保健より)
  ・保健指導を重ねていく内に、3年生の担任が理科(からだの単元)の教材研究を熱心に行うようになった。たびたび協力を求められた。

5 おわりに
  私は平成5年度に新しい学校に転勤しました。現在校では、他の取組との兼ね合いで、 2分の1時間全部を保健指導に使うわけにはいきません。全養サに参加すると、他府県の方々から「どうして月1回も保健指導の時間がとれるのですか」と言われたことを今年は何度も思い出しました。
それでも、学校の様子を配慮しながら、主に教師の力を借りてビデオ作りをしています。「姿勢を正しく」「けがのクイズ」「衣服の調節」「かぜウイルス」の4本のビデオができました。その都度、時間をもらいながら、保健主事がビデオに合わせて作成した指導案をもとに学級担任が保健指導しています。身体計測前のミニ保健指導・保健研修会・教職員向けほけんだより等を通じて、いつも保健室から風を送っていたいと思います。
前任校の子どもたちが離任の際、こんな手紙をくれました。
 −勉強になった保健のビデオをいろいろと作ってくれてとてもうれしかったです。算数のようにむずかしくなくて勉強のような気がしませんでした。−
  子どもたちの心の中に保健室からのメッセージを届け続けていきたいと思っています。保健の文化の仕掛け人としての養護教諭でありたいと思っています。  

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