紅葉の季節
私は小学校の保健室に勤務して6校目になる。以前の学校のことだが,秋になると必ず美しく紅葉した葉を保健室に届けてくれるB君がいた。保健室は運動場を一望できる位置にあり,運動場側にも入り口が設けてあった。その入り口から「先生,プレゼント」と言って大事そうに小さな手の平に葉っぱを持ってきてくれたのはB君が2年生の頃だったろうか。学校の事情で,保健室には2人の養護教諭がいたので「きれいやなあ、ありがとう。」と口を揃えてB君に言ったものだった。翌年も,彼は秋になると保健室に紅葉した葉を届けてくれた。多忙さに追われる毎日だったが,B君のおかげで季節の移ろいを感じさせてもらっていたような気がする。
同じクラスにC君もいた。彼は保健室で上手に鼻をつまんで鼻血を止めていた。もう止血したかなと思い「(手を)離してごらん」と声をかけたところ,C君は鼻をつまんだまま「あ・い・う・え・お」と話したのである。つまり,私の声かけを「離してごらん」ではなく「話してごらん」と解釈したのだ。C君には失礼だったが,その仕草に思わず吹き出してしまったことを思い出す。
愛情一杯に育てられおっとりしたB君,頭脳明晰だが家庭の事情で生活面に配慮が必要なC君。事情は異なるが,パワフルな学級集団から取り残されそうになりながらも二人は学校に来るのが楽しかったのだと思う。
一方,教員たちは彼らの子どもらしい言動を話題にする心の余裕があった。どんなことが起こっても,いつも子どもたちを見る目は温かかったと思う。
「子どもたち一人一人を大切に」この学校で私が学んだことだ。養護教諭の専門性をよく問われるが,子どもたち一人一人の成長に寄り添いながら,教育的に働きかけていくことではないかと考えている。
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