行列のできる保健室

 誰が名付けたか,ここ3年間の私の様子を言い表している。休み時間のチャイムが鳴ると同時に子どもたちが集まり始める。私は「順番に並んで待って」と声を出しながら,けがの状況を尋ねていく。
 『足』「足がどうしたの?」『サッカーでころんでこけた。』「洗ってきた?」『そう,上手に洗えているね。』と言いながらスプレーに入れた水道水で再度傷口をきれいに洗う。「上手に転んだんだね。ほとんど血も出てないよ,ほら。」と傷口を見せる。「消毒だけでいいね。」『うん。』手当がすむと「じゃ,けがを記録を書いてね。」と促す。「はい,次の人」…という具合に,まるで流れ作業のように手当と言葉がけと記録が繰り返されていく。長い間待っている子には「お待たせ」とねぎらいの言葉をかけながら。そうして手当をしている間にも,『しんどい』『頭が痛い』『お腹が痛い』…と不調を訴える子どもたちが次々とやって来る。子どもたちは理由があるから保健室に来ていると思う。だから,一人一人丁寧に対応したいがそうはいかない。悲しいかな,これが現状である。
 保健室の掃除に来ていた6年生のAさんに『先生,大変だね。何か手伝おうか。』と言われた。そう言われるだけで,私自身の気持ちが和らぐのがわかる。子どもも同じなんだ。
だから,保健室に来た子には「わあ大変」「痛かったねえ」といった言葉をかけることが多い。手をかける時間がない分,言葉だけでもかけようと思うから。
 来室記録は必ずパソコンに入力している。着任した年の最高は1日81人だった。「わあ,今日81人も手当をしたんだ」と溜息をついたら,そばにいたBちゃんに『いいなあ』と言われた。なぜか?彼女は開業歯科医のお嬢様なのだ。確かに一人ずつ手数料を取れば儲かるかも知れない。Bちゃんに笑わせてもらって,疲れがどこかに飛んでいってしまった。

 

目次に戻る