学校の実態に合わせた内容と発行方法で〜ほけんだよりは健康教育の有効手段〜
私が講演や学校訪問の依頼を受けたときに、自己紹介を兼ねて必ず資料として用意するものがあります。それは、歴任校のほけんだよりです。ほけんだよりは、何処の学校でも行える健康教育です。学校の実態に合った内容と発行の方法を選択することができたら、非常に有効な健康教育の手段になります。そのため、勤務する学校が変われば、作るほけんだよりも変わります。実際に作成してきたほけんだよりをもとに、お話ししましょう。
1.健康教育連動型ほけんだより
(1)学校の概略
児童数400人、教職員集団が一丸となっていたA校。保健の日が設定され、学級活動の時間に指導案にそった保健指導が丁寧に行われていました。
(2)学級活動の際の資料として
生活習慣が学力向上の土台と考えられていたA校では保健指導にも力が注がれていました。保健の日(20分間)のメニューは次の通り…ほけんだより+学級活動案(保健)+手作りビデオ放送(隔月くらい放送)…今思えば、非常に豪華な内容です。保健指導を計画的に実施していくと、児童の中に積み上がっていくことがよくわかりました。
(3)掲示板と連動させる
保健指導は生活習慣化を図るという目的があります。そのため、ともすれば「・・・しましょう」というステレオタイプの終わり方(クローズエンド)をしがちです。しかし、特に生活習慣の関する指導では、ワンパターンで面白くありません。そこで、児童が主体的に考えられるように仕組んでみました。保健指導のVTRの最後を「・・・するための秘訣を考えましょう」と投げかけて終わり(オープンエンド)、自分自身の生活を振り返って書くという活動を取り入れたのです。その結果、予想以上にたくさんの意見が集まり、児童も楽しく学ぶことが出来ました。せっかくなので、ほけんだより増刊号・掲示板へと繋げ、何回も学習する機会を持つように計画しました。
2.HP連動型ほけんだより
(1)学校の概略
児童数450人。家庭と地域の教育力が高く、当時では珍しくPTAのHPが運営されていたB校。もちろん、学校のHPの運営にも力を入れていて、保護者のアクセス数も多かったです。
(2)保健室HP
着任早々、教頭から「久保さん、保健室のHPを作ってね」と頼まれました。そこで、作ったのが資4です。着任早々で、何の取組も出来なかったのですが、保健室の様子をHPで知らせることが出来たら面白いかも知れないと思って、毎月、楽しみながら作成していきました。<このHP内にリンク有ります>
HPはほけんだよりと同じような発信方法ですが、次のような特徴があります。
@カラー写真で紹介できる。 A文字が少なくて非常に見やすい。 Bほけんだよりより気楽に作成できて、瞬時(タイムリー)に更新できる。
もし学校のHPが開設されていたら、保健室にデジタルカメラを常備して保健室HPを作成されることをお薦めします。
(3)HPとリンク
9月の児童保健委員会活動で「けがのクイズ」のビデオ作りをしました。児童が非常に熱心に取り組んでくれたので、ほけんだよりで紹介したいと考えました。しかし、紙面は限られています。そこで、ほけんだよりに「HPで紹介します」と予告を載せました。すると、保護者から「ビデオのように見られるのですか?どのように載せるのですか?」とすぐに尋ねられました。児童の顔をHPに掲載することは出来ませんので、雰囲気とビデオの概略だけを知らせましたが、頑張ってくれた児童にも保護者にも好評でした。
3.シリーズ型ほけんだより
(1)学校の概略
児童数700人。健康教育は保健学習の授業に入るか、年3回の身体計測時に保健指導を行う程度。しかも来室が多くて保健室を留守に出来ない状態のC校。研究に忙しく、学級活動での保健指導はできにくい状況でした。しかし、保護者の意識は高く、ほけんだよりをよく読んでおられることがわかりました。
(2)ほけんだよりを健康教育の柱に
保護者からはたくさんのことを学びました。家庭で、親子で読んで下さるようなほけんだよりを作成していきました。ポイントは次の通りです。
@シリーズものにする。親子で楽しみにしてもらえるような内容を。 Aテーマは日頃の保健室の様子から決める。 B掲示板を連動する。 Cシリーズの最終号では必ず感想をとる。
つまらないことかも知れませんが、中規模校でシリーズものにするとなると、たくさんの「紙」が必要です。そこで、教頭先生に予算の確認をし、快諾してくださったことを覚えています。昨今の緊縮予算の中では渋い顔をされそうですね。また、このシリーズほけんだよりは、山梨の岩間千恵先生の実践を真似させていただいています。彼女に実践なしには、この実践はできなかったことと今更ながらに思います。
(3)N先生を主人公に
さて、千恵先生のおかげで、好評だったほけんだよりですが、最も好評だったのが「赤ちゃんシリーズ」でした。千恵先生はご自分の妊娠を機に書き始められたのですが、私は学級担任のN先生を主人公に書いていきました。N先生にとっては、ずっと待ち望んだ赤ちゃんです。ところが、この学校では、産休をとる方は数十年ぶりのことだったとか。教職員もN先生にどう配慮し、児童に対してどう指導したらよいかが分からなかったようです。N先生と話してみると、教室のある3階へ移動する時の苦労や、スキンシップのつもりで児童に急に抱きつかれた時の不安を話してくれました。そこで、「N先生を主人公にほけんだよりをつくっていいですか?」と教頭に相談したことを覚えています。各学級で、ほけんだよりを読んで指導する状況が一挙に上向いたのは言うまでもありません。最終号では、他のシリーズと同様に、保護者と児童に感想を求めてみました。非常に興味深い内容として受けとめてくださったことがよくわかりました。
4.個々の児童を生かすほけんだより
(1)学校の概略
児童数300人。小規模校で、一人一人の児童に細やかな配慮がされていたD校。学校の取組にも歴史が感じられました。
(2)いいところは伝えたい
よく保健室に来室し、不定愁訴を訴えていたAちゃん。どうやら友だち関係に少しトラブルがあるようです。夏休みが終わった9月早々、そのAちゃんが夏休みの宿題の話を楽しげに話してくれました。聞いている私も楽しくなりました。からだに関する話ですから、「ほけんだよりに載せてもいいかな?」とAちゃんに尋ねたところ「うん」とうなずいてくれました。いつもAちゃんのことを話題にしている学級担任の了解も得てから、記事にしました。Aちゃんがお母さんに話したのでしょうか。お母さんが保健室を訪ねてこられたのは、ほけんだよりを配布した翌日でした。Aちゃんの記事のように大きなスペースをとることは稀ですが、ほけんだよりの中に「保健室からみたちょっといい話」「ちょっとうれしい話」というコーナーを意識して設けていました。誰でもいいことは紹介して欲し、紹介してもらった嬉しいものですよね。保健室と児童・保護者・家庭を繋ぐために、保健室の養護教諭が子どもたちを温かいまなざしで関わっていることがわかるように…そんな思いを込めて書いていました。保健室からはいろんな子どもの姿が見えますからね。
5.まとめに代えて
保健指導をしっかり行える学校があるかと思えば、保健指導を行うのが不可能に近い学校もある。ほけんだよりを児童の指導用に使ってくれる教職員体制があるかと思えば、指導にはほとんど使ってくれそうにない学校もある。その分、保護者が助けて下さった学校もある。いろいろな学校があっていいと思うし、どこでも楽しかったことが思い出される。全てに共通するのは、どこの学校でも健康教育が必要で、作戦が的中すればそれなりの反応や成果が必ず返ってくる…これが、私の正直な気持ちです。
学校実態によって、児童の健康課題と健康教育を進める上での課題(職員体制・地域事情等)は異なります。どこを切り口にすれば、スムーズに健康教育を進めていくことが可能になるのか…それは学校によって異なります。しかし、どこの学校でも共通して使える方法は「ほけんだより」です。ほけんだよりをどう位置づけて、どのような内容で迫っていくか、それは養護教諭の力のみせどころと言えるでしょう。常に保健室で実態把握をし、あの手この手で情報発信していくことは苦労でもあり、楽しみでもあったように思います。