私の実践ファイル「これからの性教育を考える〜校内研修会での講師体験を通じて〜」
 
1.一本の電話
 今回は、ひょんな講演依頼をきっかけに私が学んだことについて紹介させていただく。どうぞ、お許しいただきたい。
 6月頃「夏期休業中の校内研修会で性教育の話をして欲しい」との電話を市内の公立小学校からいただいた。正直なところ、迷った。私は昨年度まで京都教育大学附属京都小学校に勤務しており、そこで小中一貫校として研究発表会の際に性教育の公開授業をしたことがある。しかし、それは市の教育委員会とは無縁の実践にすぎない。今年度から市内校に復帰したのだが、「ふれあい学習」として位置づけられた本校の性教育の詳細を着任早々では説明することもできない。また、性教育を取り巻く状況は混沌としている(こんな状況だから、私に依頼が来たのか?)。そこで、一緒に勉強する機会を与えられたと考え、『性教育を一緒に考えましょう』との演題で依頼を受けることにした。
2.プレゼンテーションを使って講演開始
 児童数670名ほど、20代の教員が30%を占めていたであろうか。学校長の温かい人柄が感じられるような活気のある素敵な教職員集団だった。ところで、私は性教育に堪能でもないし、特色のある実践してきたわけでもない。養護教諭歴25年の経験をふまえながら、自分の私見を中心に話していくことにした。
 まず、「性教育」をキーワードにしてインターネット検索をした結果から話し始めた。(P1)時期によって出てくるHPは異なるだろうが、是非各自で試みていただきたい。保護者だと思われる方のブログへの書き込みもあり,保護者の思いを知ることができた。内容の是非は別にして、少なくとも性教育を行う教員はいろいろな視点から現状を知っておく必要があると痛感した。
 次に性教育の特性を私なりに説明し(P2)、京都市、東京都等の「性教育指導資料」を紹介した。(ちなみに、東京都の資料は東京都教育委員会HPからダウンロードできる。)今回の研修会では、最後に『学校における性教育の基本的な考え方〜文部科学省主催:平成17年度健康教育行政担当者連絡協議会』の伝達研修内容をまとめに代えて紹介したが、この原稿では先に紹介する。(P3)見比べながら読み進めていただきたい。
 続いて、京都大学大学院の木原先生の資料(P4,5)をもとに青少年の性行動の現状の概略を話した。(過去に実践されてきた性教育が何らかの成果を挙げていたら、これほど深刻な状況を招くことはなかったかも知れない。保護者への働きかけは有効に行われていたか、授業実践は児童の実態に合ったものだったか、全ての教員が均一に取り組んでいたか等、思いを巡らしてしまう。文部科学省が提示した4点に対して、若干の反発を感じながらも妙に納得してしまう自分自身を感じている。)
3.グループワークで考えましょう
 話を聞くだけの研修は疲れるわりに心に残らないものである。そこで、教職経験年数別グループでブレインストーミングを行った。(P6)「20歳代グループ…Aチーム・Bチーム」「30歳代…Cチーム」「40歳代…Dチーム」「50歳代…Eチーム」の5つにグループ分けをし、ブレストの説明を行った。『Aチーム・Bチーム』は若年教員で性教育を受けてきたでもある。そこで、ブレストのテーマは「A;どんな性教育を受けましたか」とし赤マジックで記入してもらった。『CDEチーム』は「どんな性教育を行ってきましたか?」をテーマにし黒マジックで記入してもらった。ブレストの後、文殊カードの数を数えてもらうと、Bチームが16枚で最も多かった。
 次に、『学校における性教育の進め方〜文部省』による5つの内容に文殊カードを分類し貼ってもらった。(P7)全部で70枚以上のカードが貼られたであろうか。それらを見ながら、交換された代表的な意見を紹介する。
4.性教育に対するジェネレーションギャップ?
(1)何も思い出せなくて、生命誕生?
 Aチームの男性が挙手して「性教育と言われても何も思い浮かばなかった。一生懸命考えて絞り出したのが生命誕生でした。」と口火を切ってくれた。続いて、同じチームの女性が「私も全く書けませんでした。」と言った。彼らに対して、Eチームのベテラン女性教員が「それはないよ。教えてもらっているよ、絶対!」と反論した。「当時は私より少し年上の先生方が時間のやり繰りをしながら熱心に取り組んでおられましたね。子ども達も指導後の感想文をたくさん書いてくれて、分厚い実践集が完成したものです。」と一昔前を思い出しながら私の言葉で補足した。(P8,9)
 しかし、性教育を教える側の熱意と教えられる児童の実態のずれとは、こういったことを指すのだろうか。近年、教員採用が増加傾向にあるように聞く。性教育を受けたはずの若手教員は保護者に「性教育」をどう説明し、どう授業を組み立てていくのだろう。文部科学省が挙げたBに関連するが、教員の年代の間に横たわる感覚のずれを埋め、学校全体で共通理解を図って実施することの重要性を再確認した。
(2)同じテーマでどこまで教えたのか
 性教育には指導要領がない。まして従来は、学校体制で指導内容を討議することは少なく、教師個々に任せられることが少なくなかった。そこで、「気になるカードについて実施状況を知りたい」いう意見がEチームの男性からでた。そこで、CDEチームの方々に挙手をしてもらった。生命誕生は100%実施、性交は3割程度。エイズは100%実施、性感染症としてのエイズはほとんど実施していない。コンドームの使い方は指導者としてではなく、ABチームの数人が大学や私立中高校に在学中に学習していた。
 70枚ものカードが集まったが、実際に指導したか否かは教員個々に委ねられてきたという実態が明らかになったように思う。文部科学省が挙げた@Bに関連するが、学校全体で共通理解を図り、指導内容を整理しておく必要があると感じる。
(3)誕生ビデオ(出産シーンが出てくるビデオ)
 このカードはABCチームから出された。カードを書いた方に意見をお願いした。Aチームの女性は「自分が小学生の時に見たら怖かった」と言った。Cチームの30代の男性は「自分が教材を選ぶ際に見たら、ぎょっとしたので使わなかった。前年度にこのビデオを見て、ショックを受け不登校になった児童もあった。」と話された。私も保護者から「血だらけの出産シーン(羊水から生まれてくるのだから血だらけのはずもないのだが)を見て、子どもが一生赤ちゃんを生まないと言って困っている」と言われた失敗談を話した。その教材が児童の実態に本当に合っているかどうかを十分に吟味すべきだと常に考えさせられる。文部科学省が挙げた@Aに関連するが、学習する内容を保護者に知らせ、理解と協力を得ておく必要性を感じている。
5.まとめに代えて
 ブレストから始まった意見交流は1時間に及んだ。その中で、私自身が多くの課題を知ることになった。
 私は新採当時と現在を比べて、性教育の内容はそれほど変わっていないように思っている。(P8,9)同じことを繰り返し繰り返し、自分の成長発達と重ねながら学習していくものだと考えている。変わったのは、児童の実態の方かも知れない。心身の発達や理解の深さ(個々の違いの幅?)が大きくなったような気がする。特別支援の必要な児童や家庭的に配慮の必要な児童が増加し、その実態を把握しなければ指導の成果には繋がりにくいかも知れない。文部科学省の「C集団指導と個別指導とによって相互に補完する」を、児童の多様な実態をとらえて指導内容を考え、その際には集団指導と個別指導の場を念頭に置くことと私は理解した。養護教諭の果たす役割は大きくなったといえるだろう。
 さて、これから、私は何をすべきなのか。本校の人権教育に則った性教育について、10年来の取組を尊重しながら、内容を考えようとし始めたばかりである。

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