「目に関する実践」…うーんと考え込みました。正直なところ、すぐに返事ができない現状で、以前の学校での実践を掘り起こしながら書かせていただくことにしました。
1 はじめに
 
毎日の執務全般にそうなのですが、特に目に関する事柄については一人一人の子どもたちに十分な配慮をするように考えています。それは、視力検査を行う時に子どもたちが繰り返すさまざまなドラマ(少々大げさですが)を見ると、よくわかります。たとえば、明らかに視力異常であり眼科への受診が必要であるにもかかわらず、一度も受診せず、「お母さんに叱られるから」とよい結果が得られるまで執拗に検査を望む子。以前より結果が悪くて怒り出す子。視力検査の日には欠席する子。また、こんな学級もありました。「A」と言うたびに拍手が起こり、逆に「D」と言おうものなら嘲笑の対象にする1年生。プライバシーの保護に留意してはいますが、「ABC式判定」になってから「A」=「よい目、すぐれた目」というイメージが知らず知らずのうちに定着してしまったような気がします。「A」でないからといって、自分の目を肯定的に受けとめられない子に悲しさを感じます。そして、近年よく見かけるようになった心因性の視力障害。聴力検査の結果と視力検査の結果を見比べるのが習慣になりました。なぜなら、両方に異常が認められる場合が少なくないからです。視力検査結果をお知らせしたところ、「A子は心因性視力障害ですから受診しません」と保護者が連絡帳に書いてこられたことがありました。それほど、普通に使われる言葉になってしまったことに驚きつつも、保護者が決めつけてしまうのは少々乱暴な話です。学校医と相談した上で、保護者を説得して受診してもらうと、「近視」と診断されました。真新しい眼鏡を作ってもらって喜んでいるA子の笑顔を今でも思い出します。ここ5年以内に起こったことを並べてみました。みなさんも似たような状況でしょうか?
 さて、前書きが長くなりました。今までの実践では、次の3点にポイントを絞っていることがわかりました。「@目の働きのすばらしさ」「A大切な目を守る仕組み」「B生活に合わせて成長する目」について知ることです。では、順に紹介していきます。

2 実践例@目の働きのすばらしさを知る
 私が保健指導の実践を始めた頃(15年くらい前!?)、夏休みに教育テレビを見ていたら、BBC制作「スーパーセンス:動物驚異の超感覚」を放送していました。(数年前から京都市では夏休み中に自宅でテレビを見るなんて不可能なったようですが、昔は優雅に教材研究ができたものです。)番組は動物の視覚・聴覚・体内時計の秘密をテーマにシリーズで制作されていました。「視覚」には〜百聞は一見にしかず〜と副題がついていましたが、空を舞う鷹はどれだけ空高く飛んでいても獲物を見つければそこにピントを合わせてズームできるとか、その動物がそれぞれの生活に合わせて目の進化を遂げてきた様子がとても理解しやすい映像になっていました。私自身が感動し「子どもたちに見せてやりたい」と強く思ったことを思い出します。録画しておいたものを編集し、私が自らアナウンサーをして保健指導ビデオを作成し、全校放送しました。〜百聞は一見にしかず〜この言葉通りに、映像でなければ伝えられない内容はテレビ放送を使えば効果的な保健指導ができることがわかりました。今なら、みのもんたが出演している「動物奇想天外」という番組に相当するでしょうか。著作権に配慮しながら、テレビ番組をうまく活用するという視点も得ました。最後は、アフリカの草原で狩猟生活している人たちの目と日本で生活している自分たちの目を比較してまとめにしました。
3 実践例A:大切な目を守る仕組みを知る
 
8年ほど前に健康委員会の児童とともにビデオ作成し、数年おきに何度か指導したものです。大切な目がいろいろな仕組みによって守られていることを知らせたいと考えました。内容は絵コンテをご覧ください。
☆添付資料:絵コンテ・指導案・ほけんだより
 私は全校放送という方法で実践しましたが、これは児童健康(保健)員会活動でも使えるし、身体計測時の指導でも使えます。一番簡単なクイズといえるでしょう。全校的な取り組みの初めの一歩を踏み出すときにでも参考にしていただけたら幸いです。

4 実践例B:生活に合わせて成長する目  
現在校では、不定期に継続的に発行するほけんだより「げんきいっぱい」を保健指導に代えています。放送設備の関係で全校放送を行いにくいこと、児童健康(保健)委員会活動がないこと、非常に来室が多いため頻繁に授業に行くことができないこと、保健室を留守にしにくいこと等のマイナス理由とともに、保護者の意識が高く「ほけんだより」をよく読まれるというプラス理由から取り組みの中心にしました。1年生から6年生まで同じ内容なので低学年には難しいでしょうが、保護者と一緒に読んでもらうようにお願いしてあります。長期休業を区切りにして年間3回テーマを決めて発行します。1つのテーマが終わると、ほけんだよりの片隅に児童や保護者から感想アンケートを募集するコーナーを作っています。着任した年の2学期は、そんな保護者のリクエストに応えて、目をテーマに取り上げました。
 「体が成長するように目も成長すること」「見にくい原因はたくさんあるけれど、多くの場合は近視であり、中学年頃から急に増えること」「久保先生も近視で必要なときには眼鏡をかけていること」「20年前の小学生と比べると年々近視の子供が増えていること→生活の様子が変わったから」などについてとりあげていきました。見えにくいことを否定するのでなく、自分の目をよい状態に保つためにどうしたらよいかを提案していきました。その際に掲示板に「目の錯覚遊びコーナー」を作ったところ、子どもたちはとても楽しそうに繰り返して遊んでいたことを思い出します。
☆添付資料:ほけんだより裏表共・児童の写真
5そして、今
 
児童数が少ない学校では、「0.1」刻みの検査にこだわり視力カードを作成して、継続的に子どもたちの視力を把握していました。しかし、660名の児童を抱え、多数の来室児童に対応するだけで精一杯の毎日では、同じような取り組みはできません。しかし、受診結果は学級保健簿に転記し、検査項目に分けて用紙に貼り付け学年学級毎に整理しています。年度毎に1冊の膨大な冊子として保管しています。些細なことですが、そのおかげで、過去の結果を辿りながら保護者からの相談を受けることができて重宝しています。
 さて、今の学校で求められているのは「ABC」方式の電動式視力検査計で如何に能率よく視力検査をこなすかです。そこに指導の余地はほとんどなく、検査の際に前回の結果と比較して、一声かけるのが関の山です。それでも、子どもたちにとってはその一言が嬉しい様子なのですけれど。
 他の公立小学校に比べると、中学年から視力低下が顕著に多くなります。「眼鏡で見えていたら大丈夫」「(矯正視力が)よく合っているよ」新しく眼鏡を作った児童には「よく似合っているよ。よく見えて気持ちいいでしょ」と、日常的に声をかけるように心がけています。ボールが当たったり、けがで眼鏡が歪んだりすることが毎日のように発生しますが「眼鏡が大事な目を守ってくれたんだね」と言うことにしています。学校実態や児童数はどうであれ、目の前の子どもたちに対しては一人一人丁寧に見ていきたいというのが私の願いです。しかし、現状は思うようにはいかず、恥ずかしい限りです。

6 最後に宣伝を
 
そんな状況ですが、研究発表会を行うことになりました。研究発表会は11月19日(金)20日(土)ですが、保健学習の授業公開(5年生「エイズの学習」)・研究会(これまでの研究をふまえて)は20日午前のみ行います。学校保健は授業だけでのみ取り組まれるものでなく、学校の教育活動全般で行われるべきものだと考えています。公開授業に関してだけの事後研ではなく、ヘルスプロモーションの視点から今までの実践をふまえて提案をしていこうと考えています。秋の京都に来られるようなことがありましたら、観光のついでにお立ち寄りください。

目次に戻る