まず、やってみよう!からだの学習  
ps:この原稿は反響が大きく、これがきっかけで3冊の本が出版されることになりました。

◇はじめに
 本校は、京都市の東北部に位置し、児童数は370名です。養護教諭は複数配置されています。教職員は「一人一人の子どもにていねいに関わる」ことを共通理解しており、児童は素直で子どもらしいです。また、継続的に国語の研究に取り組んだ成果として、よく話を聞くことができます。平成8年度は、高学年の児童がよい手本となって下学年をひっぱっており非常に落ち着いた雰囲気でした。
 私は平成5年度に本校に異動し、平成9年度で5年目を迎えます。何から書き始めたものかと考えましたが、まず、赴任1年目のようすから 身体計測前の保健指導(以下、「ミニ指導」と呼ぶ)を中心に書いていきます。

赴任1年目
全校をあげて学力保障に取り組んでいたため、ミニ指導は十分に行われていないように思いました。しかし、児童の実態をみれば、からだの学習の必要な時期にきているのを感じました。それで、できるところから少しずつ保健指導を充実していこくことにしました。
<4月の身体計測で、自己紹介を>
児童の実態がつかめない状態で何を話したものかと考えた結果、短時間で意外性のある「体重計の針は止まるか」というネタを使いました。最後に、「みんなのからだには、素晴らしいしくみがたくさんあります。これから一緒に勉強していきましょう。」とまとめました。
<6月の身体計測は空回り・・>
 姿勢検査だったので、脊柱について話しました。どうにかこうにか、話し終わって計測に移ろうとした時、5年生の男子に痛い一言を言われました。「先生、ようやるわ。全部のクラスに同じ話してんのか。」
 彼は、どうして保健室で話を聴かねばならないのか理解できなかったのでしょう。児童の実態をつかみきれぬままで行ったミニ指導ですから、彼の心に響かなかったのは当然ですね。とにかく、継続しよう、そして身体計測時に保健室で話を聴くことに慣れさせようと思いました。
<6月の歯みがき指導で、予想外の反応が・・>
 4月の保健部会で「前任校でもしていたので・・・」と言ったのがきっかけでした。「6月の歯みがき指導は養護教諭が学級に入って行う」と、年間保健計画に位置づいてしまいました。事前に指導案を配布しなければならないわ、管理職は参観にくるわ、もっと教材研究をしなければ・・・と反省することばかりでした。でも、学級担任から嬉しい言葉が返ってきました。「昨日の日記のほとんどは、歯みがき指導のことだったよ。」「歯ブラシを学校に持ってきていいかときく子がいたよ。」という声が届きました。
<9月は、脳貧血を・・・>
始業式で10人の児童が脳貧血を起こしました。
翌日からの身体計測では、すぐに脳貧血をとりあげ、成長期のからだの特徴と基本的生活習慣について考えました。
<二学期から校内一斉ビデオ放送を・・>
9月の保健の日に、手作りビデオ“けがのクイズ”を全校で楽しみました。初めての試みだったので感想を書いてもらいました。
『どの子も興味深く見ていました。このビデオをきっかけに、いろんなことをシリーズ化できたらいいなと思いました。今後、協力できることには労を惜しみませんので、是非第二弾を。(1年担任)』『6年生でもけっこう楽しんでいたのでビックリしました。クイズでは「○だ。×だ。」などと言葉を発していました。ビデオの内容も6年生の子どもたちのレベルにピッタリ合っていたようです。(6年担任)』これらの反応をふまえて、 定期的に、保健の日にビデオ放送を行っていくことにしました。
<1年たって、「次、何すんの?」・・>
3月に耳の話をしました。体を動かして実験させ、ビニールチューブで作った三半規管の教具を使いました。そして、4月。机上に置いてあったビニールチューブを見て、6月に痛い一言をくれた児童が「これ耳やなあ。次、何すんの?」と言うのです。驚いたことに、彼の心にミニ指導は足跡を残していたようです。 学級担任からは、「こういうふうに保健指導を積み上げていったら、からだに対する関心が高まりますねえ。」という声を聞くようになりました。

今年度の取組から
*平成8年度の保健指導一覧表について
この一覧表が完成するのは、例年12月頃です。「保健目標」「学級活動1/2」 は年度当初から計画されていますが、「身体計測時ミニ指導」はあくまでも児童の実態にあったものをテーマにしたいので空欄にしています。以下、この一覧表の概略を説明します。
1.昨年度の年間反省から;課題は、生活習慣
 年度末に保健全般について反省をとりました。 その中で『休業土曜日、日曜日の次の月曜日な ど、児童の遅刻や不調が大変気になる。基本的生活習慣に関する学級指導が大切だと思う。』 『家庭での生活アンケートで、生活習慣がきちんとできていない子どもが多いことがわかった。』 など、生活習慣に関する意見がたくさん出ました。そこで、学級活動(保健の日)やミニ指導、また児童健康委員会活動の中で生活習慣に関わることがらを取り上げていくことにしました。
「6月:歯みがき」「9月:睡眠」「11月: 運動」「1月:朝食」で継続的に保健指導を積 み重ねていくことにしました。
  毎年、できるだけポイントを絞り、保健指導 の機会をつなぎ合わせていくようにしています。視点を変え、繰り返し指導していくことによって、掘り下げた内容まで指導することが可能になります。昨年度は、「トイレの話」→「排便」 →「消化吸収」→「食物繊維」まで指導することができました。
2.学校教育目標にそって;テーマはたくましさ 平成8年度、本校の学校教育目標は「自ら学ぶ意欲と個性豊かな人間性を持ち、人権を大切にする心身共に逞しい子供の育成を図る」です。 前年度に新しく加わったのは、”逞しさ”です。年間反省の中でも、「保健室があたたかく受け入れてもらえる場でとてもよいと思うが、小 さなことで利用しすぎる傾向があるように思う。」
という意見もあり、養護教諭としても一部児童の来室の多さは気になっていました。
 そこで、4月に「保健室の使い方」について学級指導することになりました。(教職員用ほけんだより、ほけんしつつうしん:NO.56参照) また、保健室でも”逞しさ”について考え、ほけんしつつうしん:NO.60に載せました。不定期に発行する、ほけんしつつうしんは、保健室の思いを教職員に伝えるために書いています。しかし、内容によっては、ひとつの話題として学級担任が児童に話をすることもあるようです。 このほけんしつつうしんも6年生の学級で読まれたそうです。
さらに、ミニ指導の中では、「4月:血はけがを治す力を持っている。」「9月:睡眠は抵抗力を強くする」「1月:かぜに関して(体を守るしくみ)」を計画しました。自分のからだには、病気やけがに負けない素晴らしいしくみ(自然治癒力)が備わっていること。そして、けがや病気をした時には、どのようなことに気をつけるとその力を強くすることができるのか を考えさせたいと思いました。
3.特に「ミニ指導」について
・1学期
年度初めの忙しい時期なので、4月は簡単な けがの手当てなど、以前の復習をします。1年生にはトイレの使い方を指導することもあります。6月は姿勢検査を行いますので、脊柱に関する学習をすることになります。姿勢検査に伴う指導は、できるだけ6学年が重複しないような内容を考えています。
・2学期
夏休みが終わった9月。4、5、6年生が野外学習に行きます。その事前指導も含めて、生活習慣に関するミニ指導をします。平成8年度は「睡眠」で、前年度は、「排便」でした。
また、保健の日のビデオ放送に関連づけて、ミニ指導を行うこともあります。校内一斉のビデオ放送ですから、1年生から6年生まで同じものを見ます。手作りとはいえ、低学年では理解しにくい部分がどうしても出てきます。そこで、あらかじめ、ミニ指導でポイントをおさえておくと大変理解しやすくなるようです。
・3学期
  1月と3月はテーマを「かぜ」「耳」とし、学年別のミニ指導内容を決めています。発達段階を考え、6通りのミニ指導をします。 学年毎にポイントを変え、前年度学んだことを復習しながら積み上げていきます。

指導の実際から・・・「かぜ」の指導を通して
*6学年の指導のようす
「かぜ」は、毎年必ず指導したいテーマです。
以前は、全学年同じ教具を使い、同じような内容でミニ指導をしていました。ところが、こんな困ったことが起きてきました。・・・一生懸命教材研究して指導したことほど、子どもたちはよく覚えている。とても、嬉しいことなんだけれど、次年度も同じ指導はできない。せっかく作った教具を使うわけにはいかない。また、最初から教材研究しなければならない。・・・
そこで、本校に来てから学年別の指導内容を考えることにしています。学年毎にポイントを変え、前年度学んだことを復習しながら指導を積み上げています。平成8年度の指導のようすを紹介します。
1年生:−かぜウイルスを知ろう−
かぜをひいた時の”症状”とかぜをひかないための”予防”について尋ねると、子ども達は元気に手をあげ、発表してくれます。1年生でもたくさんのことを知っているのでいつも驚かされます。意見が出つくしたところで、「かぜは、かぜウイルスが体の中に入って暴れるから起こったんだよ。」とまとめ、”かぜウイルス”という名前を覚えさせます。1年生で”かぜウイルス”の存在を理解させておくと、その後の指導がとても進めやすくなります。また、児童健康委員会活動として、かぜ予防キャンペーンなどを行う場合、1年生でも十分参加できるようになります。
2年生:−かぜウイルスを知ろう−
 指導内容は、1年生とほぼ同じですが、「かぜは、何かがからだの中に入って暴れるからひくんだよね。何だったかな?」と尋ねると、「かぜウイルス!」という大きな声が返ってくるのが2年生です。
3年生:−からだを守るしくみ:へんとうせん−
3年生はどんなことを指導しても楽しんでくれ学年だと思います。そこで、自分の扁桃腺を鏡で見つけさせています。高学年だと恥ずかしがってなかなか探しませんが、3年生は「あった!あった!」ととてもうれしそうです。
4年生:−からだを守るしくみ:せん毛−
 国語で「からだを守るしくみ」という単元があり、その中で”せん毛”についてふれています。教科との関連という意味からも、4年生でふれたいテーマです。詳細は、後で記します。
5年生:−みんなで、かぜパズルをとこう−
かぜの学習のまとめとして、クラス全体でクロスワードパズルに挑戦します。例年、高学年の身体計測は三学期の始業式の翌日に計画され、子どもたちは正月気分から抜け出せずボーっとした表情です。お話中心のミニ指導では、子どもの心はつかめません。クロスワードパズルで正月気分をふきとばそう、というわけです。
6年生:−タバコについて知ろう−
6年生は別枠でタバコの指導をしています。

*特に、4年生の指導について
指導の流れは、指導略案の通りです。

*****指導略案は、「からだの学習・ミニ保健指導(上巻)をご覧下さい*****

指導後、保健係さんがこんな問題を作って学級のみんなに配り「かぜの予防」を呼びかけたそうです。(ほけんしつつうしんNO.78参照) 問題の表現には少し不十分なところがありますが、ミニ指導の中味をしっかりと理解していないと作ることのできない問題です。学級担任に尋ねてみると、全て子どもたちが自主的に作ったとの返事でした。本当に驚きました。保健室で行うミニ指導が、いろいろなところでからだの学習としてひろがっていくといいなあと思います。
◇指導のようすと気をつけていること
 指導時のようすですが、身体計測前に学級ごとに男女一緒に保健室で行います。ビデオを使う場合は、保健室の向かいにある視聴覚室で行います。
 ミニ指導で気をつけていることを、簡単に書いておきます。
@指導内容をできるだけタイムリーなものにする。
(保健指導は児童の実態把握から始まります。)
Aねらいは一つに絞る。(欲張っても、こちらが期待するほど子どもは覚えていません。5分間 で何か一つ心に残れば、OK!です。)
B指導時間は5分間を目標にする。(でも、なかなか5分間では指導できなくて・・・。短い方が、児童や学級担任、そして養護教諭にとってもベターです。)
C教具を工夫する。(指導の時間が短いほど、教具の持つ力は大きいです。楽しんで作っています。)
D指導の内容によっては、からだを使って実体験させると楽しいです。(子どもたちのからだも 教具の一つと思っています。)
E教材研究はしっかりと。(学級担任にも指導しているつもりで・・・。科学的に指導したいと思います。)
F評価と反省を忘れずに。(指導時、指導後の反応を記録しておくと、次回の指導に生かせます。)
 前年度のことですが、ミニ指導のたびに原稿用紙1枚の感想文を児童に書かせてくれた学級担任がいました。児童がどれだけ話を聞いているのかを知りたくて書かせていたそうですが、それらを見ると児童の反応がたいへんよくわかりました。その感想文によって、流れをつくりかえたミニ指導もあります。ミニ指導後の反応は、貴重な資料として大事にしています。

◇教職員の理解を得るために
<昨年度の年間反省(保健指導の項)から>
・身体計測の時などに、毎回、何かしらの話をしてもらって、子どもたちも楽しみにしている。教具も工夫されていて、ビデオも指導の中味が子どもたちの心によく残っていて良かった。
・ねらいがはっきりしていて、内容がわかりやすく、子どもにとっても大人にとっても良かった。・「続ける(それにかかる準備、等)」ことは難しいですが、子どもも楽しみにしているし、成果もあがっていると思う。
・・・同様の意見を全学年からもらえました。
赴任してから3年目、初めてとった保健の年間反省でした。どんな声が返ってくるのか自信がなくて内心ドキドキでしたが、やはり年間反省はとった方がよいと思います。教職員の意見をもとに
評価と反省を行うと、自ずと次年度の課題が見えてきます。
<たかが5分間、されど5分間>
 「ミニ指導の時間をください」と職員会議に提案するのは正攻法なのかも知れません。しかし、私は次のような方法をとりました。身体計測に児童が来室した時、すかさず学級担任に「5分間指導していいですか」と断って、さっさと児童に指導してしまう・・・のです。時間の確保をしてから何を指導するのかを考えるのではなく、実際にミニ指導を行ってみせるわけです。
それが児童の実態をとらえた内容で、指導のねらいを理解されのたならば、その後もスムーズに時間確保ができることでしょう。
大事なことは、時間の確保ではなく、子どもの実態をどれだけつかんでいるかだと思います。保健室から子どもたちを見ていて、ミニ指導の必要性を感じるのであれば指導するべきだし、何としてでも時間確保をしなければならないと思います。
 今まで勤務した学校のようすを振り返ってみて、「教科指導や生徒指導に追われて、保健指導をする時間的・精神的余裕を教員が持ちにくいような学校。そんな学校こそ、ミニ指導をはじめとするからだの学習が必要なのだ。」と強く感じています。からだの学習が子どもを変えることもあります。
“たかが5分間、されど5分間”たった5分間でも、タイムリーな保健指導があるということは、児童にとっても学級担任にとっても、とてもプラスになるようです。でも、みんなにそう思ってもらうためには、教材研究をして中味で勝負するしか方法はないようです。

おわりに
 京都のサークルひとみでは、1年ごとにミニレポートを制作しています。私もささやかな実践をレポートに残しています。久しぶりに、赴任1年目の年のレポートを見ると、最後をこうしめくくっていました。「何年か先に、子どもたちがからだの学習に対して目を輝かせてくれたらいいのだが・・・と思っています。」と。4年を経て、少しはそれに近づけたでしょうか。私が楽しみながら「からだの学習」を考え続けていけるのは、本校の子どもたちと教職員の皆さんのおかげだと感謝しています。
学校週五日制で授業時数の確保が言われて以来、どこの学校の学級担任も、年々忙しく余裕がなくなっているようです。一方、養護教諭からは、学校週五日制で保健指導の時間がとりにくくなったということも聞きます。でも、苦労しているのは、お互い様です。保健指導には教科書がありません。手がかりになるのは、養護教諭がとらえた子どもの実態です。短時間で指導でき、子どもたちが納得できる教材を残していくことが、ミニ指導を定着させるための近道かも知れません。

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