9月の保健室経営
1 はじめに
原稿依頼の電話をいただいて、受諾の返事をするのに時間がかかりました。それは、公立小学校から附属小学校に異動して1年余りしかたっておらず、何を紹介したものかと考え込んだからです。しかし、これも何かのご縁です。どうぞ、しばらくおつきあいください。
2 行列のできる保健室
来室児童のあまりの多さに驚き、行事の多さに忙殺され、とまどい続けた1年目。2年目になって、少しは先が見えるようになったけれど、限りなく続く健康診断とひっきりなしに訪れる児童の対応に、Gパンを履いて汗を流し、肉体労働ばかりをしております。誰が名付けたか「行列のできる保健室」という名前がぴったりくるような毎日を過ごしています。
本校は、児童数は約680人、20学級(障害児学級を含む)あります。昨年度のデータでは、外科的な理由での来室は4040人。内科的な理由では1300人。1日の最高来室数は81人、その他に衣服の着替え等々。保健室を頼りにしている児童が多いことを日々実感しますが、こうなると、座る間がありません。余談になりますが、6年生児童と保健室の来室児童数を話題にしたことがあります。毎日60人くらいが来室することを伝えると、「先生、いいなあ。そんなにたくさん保健室に来てくれて。」と言われました。そう言った彼女は開業歯科医院のお嬢様でした。彼女の言葉に納得し、笑わせてもらったひとこまでした。
子どもたちの様子ですが、本当によく勉強すると思います。就寝時刻が遅くて、睡眠不足で来室する児童の理由の大半は塾の宿題等の学習のためです。「よく頑張るなあ」と正直思います。しかし、その分、いろいろな理由で保健室に来ることが多くなるのでしょう。
3 パソコンをフル活動
さて、昨年度、着任した私を待っていたのは、真新しいパソコンでした。健康教育は実態を把握するところから始まると考えていますので、どれほど多くの来室があっても児童のデータを全部パソコンに入力しました。入力は確かに大変ですが、データが多ければ多いほど、その威力を発揮するものだと確信したのも昨年度でした。児童の名前が覚えられていない状態でも、学級ごとの来室の偏りは、着任して1ヶ月後には把握することができました。特に回数の多い児童に対しては、客観的なデータをもとにして、担任や管理職と話し合うことができ、生徒指導に生かすこともできたように思います。子どもが保健室に頻回に来室することは、保護者にとっても気になることなのでしょう。保護者が立ち寄られたときには、来室記録をもとに話をすすめることができました。データを蓄えず、感覚的に仕事をしていたら、そのような対応をとることはできなかっただろうと思います。
4 健康観を育てたい
さて、附属学校の使命の一つは、研究にあります。本校の保健教育の研究テーマは「グループワークを生かし,共感・体験を通して自分や周りの人の健康を考える保健学習」で、育てたい力は「人との関わりの中で,自分の健康は自分で守り育てていこうとする力」にしました。ヘルスプロモーションの理念をふまえて、健康が個人の問題にとどまらず、みんなで作り上げていくものであるということを大事にしようと考えたからです。その前提として、健康が大事なもので、自分の力によって獲得できるものなのだということ(私は、健康観ととらえています)を育てておきたいと思います。そのため、保健学習を中心とした授業実践だけでなく、保健室を中心とした取組(ほけんだより・掲示板・行事に関わってのショートの保健指導、等)を継続的に行い、健康観を高められるような働きかけをするようにしています。
5 ほけんだより
毎月定期的なほけんだよりを出して、学級で月目標にそって指導してもらうというのは、よくあるパターンです。しかし、月ごとにテーマが変わると内容を深めることができないし、一々指導の時間をとってもらうのも気を遣うものです。時間確保が大変な割には、児童にとってはマンネリで、指導の効果を期待しにくいような気がします。それで、ほけんだよりをシリーズ・連載物にし、不定期に発行することにしました。また、児童が自ら読みたくなるような内容で、家庭でも話題にできるような紙面作りをすることにしました。着任早々から職員朝礼で新しいパターンのほけんだよりを提案し、そのまま2年目を迎えています。このほけんだよりについては、山梨大学人間環境科学部附属中学校 岩間千恵先生の実践をまねています。この場を借りて、お礼を申し上げます。
不定期に届くほけんだよりは、保健室での子どもの様子や保健室を預かる養護教諭の思いを伝えるものとして、保護者の方々が受け止めてくださったようでした。1年目を終える頃、二つの機会を与えられました。
6 開かれた保健室を
一つは、育友会役員のお母様から依頼され、「保健室の子どもの様子を語る会」を行ったこと。そして、もう一つは、年度末の育友会総会の前に、講演「保健室の一日」を行ったことです。
講演依頼をされたときに、着任して1年に満たない私が適任なのだろうかと悩みました。しかし、私にしか話せないことを話せばよいのではないかと考え、保健室の日々の様子をありのままに伝えることにしました。
演題を「保健室の一日〜子どもたちのつぶやきからとっておきのお話を〜」とし、子どもたちの様子をデジタルカメラで撮っておいて、プレゼンテーションを作成しました。「始業前」「1・2時間目」「中間休み」「3・4時間目」「給食時間」「昼休み」「掃除時間」「5・6時間目」「放課後」という時間の流れにそって、保健室で見せる子どもたちの様子を知らせていきました。それとともに、1年間蓄えたデータをもとに、外科的な来室児童数・内科的な来室児童数・来室回数による児童分布等をグラフ化して提示していきました。
蓄えたデータは、うまく生かして、情報発信しなければならないと常々心に置いています。さらに、子どもたちのつぶやきの中から、私の心に留まったことをお話し、保護者も一緒に考えていただけるようにしました。子どもたちは、親から愛情いっぱいに育てられ、一所懸命に毎日を過ごしていると思います。それだけに、「保健室に来るとほっとする」「学校で一番好きな場所は保健室」とよく言います。そんな子どもたちの何気ないつぶやきを中心に話の内容を組み立て、40分ほどお話をしました。子どもたちが保健室でつぶやく数々の言葉は、保護者の方々にとっては初めて耳にすることが多かったでしょう。
また、保健室が単に応急処置をするだけでなく、多様な役割を持つことも紹介しました。簡単なパズルやブロックを用意してあり、抱っこできるキューピーちゃんがあり、いろいろなものを用意していますが、私の保健室経営の意図もわかってくださったのではないかと思います。
100名ほどの保護者が参加されたでしょうか。その後、お母様方が気軽に保健室に立ち寄られたり、キューピー人形を抱っこしに来られたり、手紙をくださったりするようになりました。日々、保護者の皆様から、私もたくさんのことを学ばせていただいています。
6 おわりに
さて、この原稿依頼で頼まれたのは「9月の保健室経営」でありました。関係のない話で終始してしまったことをお許しください。
今年度から、2学期制になり、運動会が春に終わってしまいました。例年なら、身体計測時に、けがの手当の指導をするところですが、今年度はどうしたものでしょうか?まだまだ残暑が厳しいので、低学年は「鼻血の手当」、高学年は「脳貧血って何?」の指導をしようかなと考えています。よく勉強をする子どもたちですが、忙しさのあまり、自分の体に関しては無頓着なことが多いものです。特に高学年に対しては、ハードな毎日の生活をねぎらいながら、成長の真っ只中にいる自分の体と生活習慣の関係に目を向けさせたいと思っています。
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