気ままに読書・のんびり読書
　　　　　―好きな本から話題の本までアプローチ

この本読んだ！ ８月の楽しみ

8/28『月下廃園３』前田珠子作、江ノ本瞳絵、集英社、2000.01.10、222P、（コバルト文庫）
　『月下廃園３』は<月下廃園>シリーズものの完結編である。「美しく切ない叙情ファンタジー」とのコピーがついている。月華の国の王宮の廃園の現れる、セジュンと彼を巡る風の愛し児（めぐしご）トゥミャーン、光の愛し児アヴィエンス、闇の愛し児カゼルヴァ、美しい従姉妹たち、学苑の友だち……そして、それらを狙う破滅の蛇という邪心。
　ネーミングといい、場面設定といい一度引き込まれたら癖になる。『月下廃園』『月下廃園２』と読んで、たまたま３を見つけたわけだが、読み出すと、するっと最後まで読み通せる。そんなシリーズである。
　イラストレーションもファンタスチックで、ＲＰＧの画面を見ているようだ。　

8/26『精霊の守り人』上橋菜穂子作、二木真希子絵、偕成社、1996.07、326P『闇の守り人』上橋菜穂子作、二木真希子絵、偕成社、1999.02、358P
　『虚空の旅人』を読んだ後、また読みたくなって二冊を続けて読んだ。『精霊の守り人』を読み返すと、チャグムの幼さと素直さが前にも増して浮かび上がってくる。このチャグムが『虚空の旅人』で、あんなにも成長したのかと時間の流れを感じる。
　バルサの人間性も再認識した。傷をおったものほど強く優しくなれるということが二作通すと、まるで一冊のように展開してくる。『闇の守り人』の表紙に描かれたバルサの魅力はシリーズを通して読むことでさらに増すようだ。

8/23『DIVEⅡ　スワンダイブ』森絵都、講談社、2000.12.10、196P
　『DIVEⅠ』は中学生の知季の悩みと、「前宙返り３回半抱え型」までのコーチとの葛藤が中心に描かれていた。その中で、津軽から単身やってきた高校生、飛沫が軸となって話が展開していく。荒海でしか跳んだことのない飛沫が始めてプールでの試合に臨み、そこで、自分の飛び込みが何であるかを悩みながらも自分自身で気づいていく。飛沫の目指すものは「スワンダイブ」となる。
　何といっても、知季、飛沫、そして要一の３人がそれぞれの個性を光らせながら描かれているのが魅力だ。麻木夏陽子コーチのテンポのいい気迫も心地よい。
　カバーが今回は夕やけの色。１作目は澄んだ青だった。第３作は完璧主義者の要一にスポットが当たるという。どんなカバーになるのかも楽しみの一つだ。

8/22『ハリー・ポッター』の秘密の教科書、林雪絵、データハウス、2001.08、255p
　「ハリーポッターを愛するマグルの会」代表という林雪絵が、『賢者の石』『秘密の部屋』の作品世界を、事柄や人物ごとに解説している。ホグワーツ魔法魔術学校の研究というものから、作品の背景になるケルト民話まで、幅広く説明してあるのが興味深かった。172頁からは、「作者Ｊ・Ｋ・ローリング物語」となっていて、伝記風読みものにまとめてある。
　３作目『アズカバンの囚人』が出る直前に出版されたっため、世間の注目を浴びた感じもする。前半の分析と解説がおもしろかった。　

8/20『虚空の旅人』上橋菜穂子　作、佐竹美保　絵、偕成社、2001.08、358P
　<守り人>三部作の外伝、と帯に書かれている。<守り人>三部作は女用心棒バルサが活躍するシリーズである。その一作目『精霊の守り人』で、精霊の卵を宿したために孤立無援になり得体の知れない幻獣からも命を米良割れる第二皇子チャグム。そのチャグムはバルサによってその命を救われた。それから三年後の話が本作である。
　四作目が出るらしいという噂を聞いたときから馴染みの書店に予約しておいた。どうも、バルサのその後が気になって仕方がなかったからである。ところが、四作目は外伝であった。バルサは登場しない。ちょっとがっかりだが、チャグムがどう成長したかも気になるところだったので、今日手に入れてさっそく読み始めた。今までの二冊の基盤があるので、新ヨゴ皇国に関する知識もあるし、<ナユグ>というもう一つの世界のことも知っている。そのせいもあるが、作者の言葉通り「果てしない大海原と星空の世界を舞台にいったん読み始めたら大波にのっかったようにぐうぅんと最後までもっていかれてしまうような物語」に引き寄せられた。次々と巻き起こる事件、そこに描かれる心情が次のページ次のページへと中断することがなかった。
　<守り人>三部作のイラストレーションは二木真希子であった。今回は佐竹美保である。イラストレーターが変わっても装幀は同じで、不思議な魅力に溢れた表紙となっている。二木真希子も佐竹美保も魅力的なイラストレーターで外伝だからこれでいいのだろうと、得をした気分になった。　

8/19『風の誘い』茂市久美子　文、こみねゆら　絵、講談社、1996.09.20.190p
　せっかくつとめていた旅行会社に辞表を出したその帰り、「わたし」は骨董通りのショーウインドーでふと一枚の絨毯に目を留めます。そして、絨毯の買い付け人を求める広告が目の前に……。こうして、「わたし」はインドへの旅に出かける。
　インドの地で聞いたお話に引き寄せられていく「わたし」と重なって、ひなげしの絨毯にまつわる謎を一緒に探し求めていった気がする。最後の謎解きと、「わたし」とインドとの関係が証され、安心感を持った。
　装幀もイラストレーションもロマンチックな風合いである。以前にこみねつらについて調べたときに一度読んだが、今読み返しても、浮かんでくる風景にあらためて引き寄せられた。

8/18『地下室からのふしぎな旅』柏葉幸子　文、タケカワこう　絵、講談社、1995.08.12.218p
　柏葉幸子の作品は不思議な世界と原質とがユーモアを含んで交わっているのがおもしろい。確かに、深刻な問題を抱えた主人公が登場するのだが、前向きの発想で逆境にもくじけず立ち向かっていく。かといって、悲惨な暗さはなく、ごく普通の女の子（男の子）がその場に来てはじめて自分の考えで物事を進めていく。そこに、ユーモアというか自然か感覚というか親しみのもてる言動があるのが魅力である。　
　この作品も、「カスミ」とあ付けられたアカネが一生懸命な姿で迫ってくる。それを取り巻くおばさんと錬金術師、小人も味わい深い。ケンカの様子も読んでいて楽しくなる。『霧のむこうの不思議な町』『りんご畑の特別列車』『かくれ家は空の上』とまとめてもう一度読み直してみるつもりだ。そのきっかけは、「千と千尋の神隠し」が一役買っている。

8/16『キツネ山の夏休み』富安陽子作、富安陽子絵、あかね書房、1994.07.30,269p
　夏休みといえば、何か他の休みとは違う冒険が巻き起こりそうな気がする。弥が出会ったのもそんな冒険だ。タイトルからしてキツネと不思議な出会いをしそうだし、表紙のイラストレーションもキツネの首にしがみついて空を飛ぶ絵で期待感を煽る。
　夏休みの間、父母と離れて祖母の町で過ごす少年、弥。キツネのオキ丸との冒険や、猫股の大五郎との出会いのなかで、おばあちゃんをオショロギツネだと思い、自分もまたキツネではないかと思いだす。猫股の大五郎も好き、キツネのオキ丸も好き、おばあちゃんも好き……好きならばそれでいいじゃないかという弥の心の落ち着きどころが読んでいてうれしかった。「忘れなければ出会える」とオキ丸はいうが、そのセリフと「忘れていくからこそ、人間は新しい場所で、新しく暮らしていける」というおばあちゃんの言葉とがオーバーラップしてくる。
　異世界との出会いと別れについて考えさせられた。

8/13・14『虎の牙上・下』モーリス・ルブラン作、矢野浩三郎訳、田中槇子画、偕成社、1983.01.01,362/304p
　アルセーヌルパン全集の12・13巻である。ルパンとの最初の出会いは、小学４年生の時。そのときは偕成社ではなくポプラ社であったと思う。片眼鏡をかけたルパンの挿絵と、風貌に心躍らせ、図書室で読みふけったのを思い出す。記憶というものは、ふと沸いて生きて居ても立ってもいられなくなり、図書館で『虎の牙』『金三角』『三十棺桶島』『ルパン対ホームズ』とまとめて借りた。　何十年たった今でも、ページをめくるごとのワクワク感は衰えていない。次にどう展開するのか、記憶がどんどんと蘇ってくる。
　ルパンの魅力は何といってもその行動力である。抜き差しならない場面に出会っても、ユーモアを忘れず自らを拠り所にして毅然と向き合う姿がいいのである。
　また、場面の設定や登場人物も、時代の波に色あせることなく輝いている。まさしくロングセラーであると思う。

8/10『魔術はささやく』宮部みゆき、新潮社、1989.01.25（新潮文庫）
　連日の宮部みゆきである。最後まで、目が離せない展開がおもしろかった。読んでいくうちに、主人公の高校生に肩入れして、最後に悲劇が起こらないように願った。
　『龍はねむる』『魔術はささやく』の２冊しかまだ読んでいないが、共通した魅力はそに描き出された高校生（青少年）の描き方の細かさだと思う。まるで目の前に動画を観るかのようにナチュラルな像を結べる筆致である。

8/9『龍は眠る』宮部みゆき、新潮社、1991.02.01、（新潮文庫）
　出張で電車に乗った。本でも読む時間があるだろうと、書店で買い求めた。こういうときはミステリーものをよく読む。というわけで、はじめて宮部みゆきの作品を読んだ。世間の評判に違わず、のめり込むようにして、最後が知りたくて必死に読んだ。
　サイキックを扱った作品だが、人間の心の温かさを感じさせるものが最後に残った。ちょっと、宮部みゆきの作品にこれから手が伸びそうである。

8/8『千尋と不思議の町　千と千尋の神隠し徹底攻略ガイド』藤津亮太企画構成・執筆、角川書店、2001.07.20
　おもしろかった。宮崎駿のインタビュー「この映画が作れてぼくは幸せでした」や「不思議の町の千尋―この映画のねらい―」を読んで、今までの『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』のようなスタンツではなく、思春期前の少女のためにつくったというのが興味深かった。
　映画が出来るまでの過程の中で、柏葉幸子の『霧のなかの不思議な町』を映画化しようと考えたという。ファンタジーは子どもが成長していく過程で必要なものだという考え方にも賛成。文学作品とアニメの両方が混じり合ったり、独自性を追求しあったりして、子どもを取り巻く文化がより豊になると再認識した。
　10月には、三鷹に「三鷹の森ジブリ美術館」がオープンするという。是非行ってみたいものだ。

8/7 『ローワンと黄金の谷』エミリー・ロッダ作、さくまゆみこ訳、佐竹美保絵、あすなろ書房、2001.07.20,227p
　帯に「待望の第２巻！」とうたってある。前作の『ローワンと魔法の地図』を読んだきっかけは、絵画者が佐竹美保だったからである。何故か彼女の絵にいつも引き寄せられる。そんなわけで読んでみたら、これが結構おもしろかった。が、もう少しローワンのことを知りたい、リンの村のことを知りたい、バクシャーになぞを感じたりと、第２巻を心待ちにしていた。
　伝説の黄金の谷とリンの村を襲った突然の眠り病。この二つが絡み合って、ローワンをアンリンの魔界へと駆り立てる。目に見えない敵の正体をローワンが突き止めるまで、一気に物語の世界を読み通した。
　人物や風景の描写の仕方と、イラストレーションも呼応しあって、一つの世界を読み手の中に創りあげた気がする。だから、次の第３巻はどうなるのだろうと、楽しみである。

8/5.6小さな山神スズナ姫シリーズ全４巻、富安陽子、飯野和好、偕成社、平均140P
『小さな山神スズナ姫』1996.03
山神の一人娘であるスズナ姫も、今度で三百歳になります。スズナ姫は三百歳になったら父の元を離れ、山神として独立しようと思っていました。
『スズナ沼の大ナマズ』1996.03
めでたくスズナ山を治めることになったスズナ姫は手始めに、山の枯れ沼に水を呼び戻そうとしますが、沼のそこには大ナマズが頑張っていました。
『大雲払いの夜』1996.10
山神の大切な仕事の一つに大みそかの大雲払いがあります。その準備で忙しい最中に山の名物である千年桜が盗まれます。犯人は誰なのでしょうか？
『くらやみ谷の魔物』1996.12
父の山神から「西の谷には注意するように」といわれていたのにそれを忘れたスズナ姫。西のくらやみ谷に住む魔物の悪巧みにひっかかってしまいます。
　スズナ姫は魅力的である。それは、活動的であり、機知に富んでいて、最後まで諦めずにいるからである。姫の見方になってくれる、知恵者の大フクロウが「少々行き当たりばったりで、突拍子もないところがあるがね。でも、生き生きと活気があるからね。これからきっとこの山はかわるじゃろう。」と評している。事件が起こったときに、父親の権威をまねてかいけつしようとするのではなく、自分の個性を生かした解決方法で乗り越えるのがおもしろい。山のルールを破った人間への罰、父神なら木に変えるところを、山の木が好きならと家の周りを茨や蔦で隙間無くおおってしまうというくだりである。
　また、山の魔物に対するのに、父神が真っ向勝負で互角だったのに、なぞ掛けで見事正体を見破ってしまう。その魔物を「魔物のいない山なんてつまらない。いろんな生き物がいて、いろんな命がいっぱいつまっているから、山はすてきなんだ」と逃がしてしまう。　そこに居るもの或るものを全部包み込んでしまうのは勇気だと思う。包み込むだけでなく、自分もまたその中で個性的に生きているところが、現代的な山神（言い換えれば少女）であり、それば共感を呼ぶ。
　この現代的な山神の印象は、飯野和好のイラストレーションによっても増幅される。和服ではなく、髪型もユニークで、靴もオシャレ。かといって線の細い少女ではなく大胆な容貌に明るさと生きている楽しさを感じる。

8/4『DAVE!!　１』森絵都、講談社、2000.04.20、223P
　本屋で平積みにされていた『DAVE!!　１』の表紙を見たとき、あさのあつこの『バッテリー』を思い描いた。そして、作者名に森絵都を見つけたときには、以外という感じだった。森絵都の『カラフル』も『宇宙のみなしご』も読んだ。その後、『つきのふね』を読む頃には、森絵都の描き出す世界が結構気に入っていた。そんなときに目にした『DAVE!!　１』だったが、読んでみようと思うより、スポコンものならとやめにした。
　今回、やはり気になっていたので読むことにしたというのがきっかけである。
　確かにスポコンものでも、飛び込み自体の技に関する奮闘の記述はあまり無い。そこに描かれている少年は、何と「普通」であること！この普通な少年がコンクリートのかいじゅうを倒すウルトラマンに見立ててダイバーになった。普通だからこそ持つ「選ばなかったもの」への執着がまた読み手を引きつける。まして、告白された彼女でさえ「選ばなかったもの」であるというのが悲しい。選ばなかったものを超越しようと決心し、「普通」から化けはじめたところで、ページは最終となる。
　少年が跳ぶのか、それともかなわぬのか、それは『DAVE!!　２』でのお楽しみとなった。きっと跳ぶんだと分かっているのだが、果たして本当に跳ぶのか、どう跳ぶのかに興味をそそられる。反面、これで終わりにしても先を想像する楽しみがあっていいのにともおもう。でも、きっと、図書館で見つけたら２を読むのだろうなぁと……

8/2『夜の神話』たつみや章作、かなり泰三絵、講談社、1993.07.24（2001.01.26.10刷）、334p
　突然決まった引っ越しで、母方のおばあちゃんが住むド田舎で暮らすことになった６年生のマサミチ。同級生ともなじめず、ふてくされているとき、ふと寄り道した古いお宮で、白い着物に白いはかま姿の青年に呼び止められる。そして、成り行きで食べてしまったサトリまんじゅうの効き目で猫や木や虫と話が出来るようになる。と、ここまでは普通のファンタジーの展開のようであるが、そこに原子力発電所を登場させたところに興味を惹かれる。発電所の事故と異界の神々との絡み合いに、マサミチがどう関わっていくのか、最後はどうなるのか気になって一気に読める。
　数年前に一度読んで、その時から心に残る作品である。それは、年を経て尚かつこの恐怖と背中合わせに暮らしているからであろうか。『ぼくの・稲荷山戦記』も今読めばまた今に通じる問題を投げかけてくれる。
現実と異界との両方の世界で冒険を重ねるマサミチがちょっとうらやましい気もする……。

7/31『悪者は夜やってくる』マーガレット・マーヒー　作、幾島幸子　訳、岩波書店、2000.05.24、188p　
　読み始めてしばらくすると、話がこんがらがってくる。主人公フォーンビーが物語を書くことになり、その物語の主人公になったスクウィジー・ムートという悪者が現実の世界に現れ、果ては自分で物語をコンピューターで打ち込みはじめる。そこに、フォーンビーの元気な妹と、ムートの過激な妹が現れ話はどんどんエスカレートして兄弟合戦の様相を呈してくる。　読み続けるうちに心配になるのは、物語の終わり方。それはフォーンビーも皆も同じだったようだ。目出度く話が終わったときはほっとするのを感じた。
　ここで注目するのは登場する大人の描き方。自分勝手で、何でも自分に都合のいいように解釈する。大人読者としては苦笑いである。でも、こんなにひどくはないと反論もあったりする。

7/29『かくれ山の冒険』富安陽子　作、PHP研究所、2000.10.25、194P
　富安陽子の描く異世界は、どこにでもありそうで話に引き込まれていく。今回の『かくれ山の冒険』は尚（なお）という男の子が主人公である。猫婦人によって、條ﾔの止まっている異世界へと入りこまされる。條ﾔの流れのない世界は、かくれ山といい、いろんな時代のいろんな時間とつながっているという。條ﾔが止まっている世界はファンタジー作品で目にすることがある。しかし、ここでは「食べないから年を取らない」というルールに支配されている。猫婦人はねずみを食べた食感のとりこになってしまい、このルールから逸脱してしまう。それでも、ねずみを食べる欲求には勝てず、かくれ山に誘い込んだ子どもを猫に変えて、ねずみを捕らせるのである。
　尚は、ねずみにされてしまう前に女の子に助けられて、ねずみの穴へと逃げ込む。それから、一匹のねずみと共に、猫婦人の呪いを解くため天狗や鬼の宝を手に入れようと奔走する。剣を手にしてもふるえている。男の子が剣と関わるときはファンタジーの世界では英雄になることが多い。ところが、尚自身は引っ込み思案でこわくて仕方がない。そんな尚が最後に心の中で叫んだ言葉は「おかあさんたすけて」である。助けに飛び込んできたのはお母さんではなく、少女であったが、この少女ﾀは、尚の母親であることが最後に解き明かされる。
　異世界の中で、母親や父親と交流し、その中から自分という存在を確かに見つめていくという設定は、最近出た『雨ふり花さいた』（末吉暁子）にも見られた。また、男の子が「お母さん！」と叫ぶ場面も女の子に比べると多いような気がする。成長の過程で、母親との関わりは格別なものがあるというのであろう。
　テーマは重いが、さらっと一息に読める展開は「あらこれでおわり？」とも受け止められるが、それが負担にならず読み進める読者もいるにちがいない。

7/26『メールの中のあいつ』赤羽じゅんこ　作、長谷川集平絵、文研出版、2000.12.15、168P　
　メール友だちに自分を紹介したとき、「バスケ部のエースでクラスの人気者」と書き込んでしまった翔太。現実は不登校になりかけの、うじうじした「仙人」。「メールの中だけでいいんだ。ぼくは、ちがうぼくでいたいんだ。」という気持は誰でも持つだろう。特に本当の自分を表に出さなくてすむメールでのやりとりは、一つ間違えば、バーチャルな世界を創りあげてしまう。仮面を付けてやりとりをしていたはずなのに、相手が会いたいと送ってきたときから翔太に変化が起こりはじめる。
　「ぼく」はメールの中の「ぼく」を「あいつ」と感じている。「あいつ」なんだけど、それを相閧ﾉ正直に言えない。メールのやりとりの翌し穴がここにある。しかし、この翌し穴は別の意味では、本当の自分をさらけ出さなくてもいいという心の安らぎともいえる。気安さと偽りの両面があることをこれからのIT時代には認識しておくことも大切だろう。
　しかし、この物語の興味は、メールを素材にしたというだけではなく、自分を表現する手段として、メールと学級新聞という二つの媒体を用意したことにあるといえる。正直な気持の吐露として学級新聞を登場させているのだ。メールでうそをついていることを気にしていた翔太が新聞委員の仕事を通して本当の自分をさらけ出すことへの抵抗感をなくしていくのである。「そのままの自分」をメールや学級新聞でどう表現していくか。そして、生の人間関係の中でこそ、そのままの自分でいいんだというメッセージが聞こえてくる。

7/25『えんの松原』伊藤遊　作、太田大八　絵、福音館書店、2001年、405P
久々に伊藤遊の作品が出版されるとの情報を得て、いさんで手に入れ読み始めた。
　前作の『鬼の橋』は鬼、小野篁という歴史好きにはたまらない配役だったが、今回も怨霊、東宮皇子、夜烏と魅力たっぷりである。今回活躍する子どもは男の子なのに事情があって女の子の恰好をして、内裏で働いている「音羽」である。
　怨霊が皇子にとりついて命を奪おうとする、その時怨霊は「死んだものの魂を呼び寄せるのは、生きているものの思いの強さではないか。」と言い放つ。怨霊と生きているものは、お互いに思いを掛け合っているというとらえ方の中に、現在の世の中の冷たさ、きっと、怨霊がいいていけない無関心さにたいする疑問符が見える。音羽と皇子は怨霊のいない世の中について考えを巡らす。その世の中を「今よりもずっと恐ろしい世の中だ」と音羽は見通す。怨霊を抱きしめることで、皇子は自由になる。
　これを読んで、陰陽師の阿部晴明の話を思い出した。怨霊や鬼と対峙するとき、晴明は悲しみを身のうちに抱きしめていたように思えた。怨霊が現れ、陰陽師が活躍する彼の時代、えんの松原をそのままの姿で踏み込まなかった「おもしろい」時代であったのだろう。今、その時に何故かしら惹かれるのは、恐ろしいもの悲しいものにひかれる人の本能なのかもしれない。読み終わって、『鬼の橋』をもう一度読みたくなった。

7/24 『だんだら山のバク博士』富安陽子作、高谷まち子絵、理論ﾐ、1997、238p
　夢とうつつの境目に研究所がある夢研究家のバク博士。晃はこのバク博士の助手におさまり、ふとした弾みで鏡の中から逃げ出した「眠り鬼」を捕まえることになりました。食べればぶたになるというホットケーキの秘密に気づき、眠り鬼が化けたお母さんのとすり替えたというとっさの機転が良かった。眠り鬼がぶたにされてしまうのがおもしろい。
　晃がヒーローっぽくないというか、危険に出会うとお尻の引けてしまう男の子であるのに共感がもてる。自分の得意なことで、不思議の世界での難問を見事かいけつするラストも温かさを感じる。