「こいつは、俺のものだ」
きっぱりと言い切った男に、総司は息を呑んだ。
あんな酷い事ばかりして拒絶してきたのに。今もこうして、彼の前で他の男の腕に抱かれる様を見せつけたのに。
なのに、あなたはそんなふうに私のことを言ってくれるの……?
総司はぼうっとした表情で、彼を見上げた。それを土方は切れの長い目で見下ろす。一瞬、きつく眉根を寄せたが、すぐに斎藤の方へ視線をむけた。
鋭い声音で言葉をつづける。
「総司は誰にも渡さん」
「……」
「俺はこいつしか欲しくねぇんだよ。一度は諦めようと思ったが、無理だ。奪われるぐらいなら……いっそ殺してやる」
「土方さん」
斎藤は重苦しい表情になった。きつく唇を噛みしめてから、言った。
「あなたは、この新選組の副長でしょう。あなたのような立場にある人が、総司を念弟にすれば、どうなるかわかっているはずです」
「……」
「下手すれば、破滅しますよ。総司が元で醜聞沙汰になって、足元を掬われても構わないのですか。オレはね、確かに総司を好いていますよ。けど、それ以上に、あなたにも惚れているんです。あなたの力量に惚れ込んでいる。色恋沙汰なんかで危うくなってもらいたくないのです」
「なら、危うくならなきゃいいだろうが」
土方は冷ややかな声音で言い捨てた。見下すような傲慢な表情で、斎藤を眺めやる。
黒い瞳が底光りした。
「人を莫迦にするなよ。この俺が、色恋沙汰ぐらいで身を危うくする程度の男か」
「……土方さん」
呆気にとられる斎藤に、唇の片端をあげてみせた。薄く嗤う。
「俺は、おまえが惚れ込んだ男なのだろう。醜聞沙汰? そんなものどうだって構やしねぇ。俺は誰に何を言われても知らんし、誰の指図も受けん。自分の好きなようにするさ」
「……」
「おまえも俺を認めているなら、これ以上、口出しするな。今度、総司に何かしやがったら、容赦しねぇからな」
そう言い切ると、土方は総司の手をとった。指と指をからめ、きつく握りしめる。総司は一瞬頬を熱くしたが、逆らわなかった。
総司を連れて歩き出した土方を、斎藤は呆れ返った表情で見送った。だが、すぐに微かに笑い、満足したような表情になる。
(そうだよなぁ)
しみじみと思った。
土方が、色恋沙汰で身を危うくする程度の男なら、初めから惚れ込むはずがないのだ。
どんな醜聞沙汰になっても、土方はおそらく気にもとめないだろう。平然と今までどおり総司を愛し慈しみ、隊内では傲然と副長として振る舞っていくに違いない。
なら、今回、少し強引な手にでたのは、良いことだったのかと思った。
もしかすると、土方自身も踏ん切りがついたかもしれないのだ。斎藤は、一つの恋を失った訳だが。
(まぁ、初めから、総司が手に入るなんて思っていなかったし……)
斎藤は苦笑すると、かるく伸びをした。見上げれば、ひらひらと雪が振り舞い始めている。
初雪だった。鈍色の空から落ちてくる雪に、冬の訪れを感じる。
季節とは逆に、あの二人に今度こそ春が訪れればいいなと、心の底からそう願った。
土方は総司を連れて屯所を横切った。
幹部のみしか知らない裏口から外へ出たが、手は繋いだままだった。それに気づいた総司が慌てて離そうとするが、土方は手の力をより強くして離さない。
平然と手を繋いだまま、土方は町中を歩いた。二人とも屯所からそのまま出てきたので、平服のままだ。
土方は黒い着物を着流し、斜めに刀を差した武家姿が粋だった。すれ違う女たちが皆、見とれるようにふり返っていく。その後、必ず、彼が連れている総司を見るのだが、それに思わず俯いてしまった。
(こんなにも綺麗で格好いい土方さんが、私なんか連れているんだもの……それも手をつないで。おかしいと笑われている……)
本当は彼の手を振り払い、逃げ帰ってしまいたいのだが、愛する男の傍から離れたくないという想いも強い。
久しぶりに彼にふれられたのだ。近くに寄ることが出来たのだ。
土方は総司を連れて街を歩き、やがて、一軒の料亭に入った。それ程格式は高くないが、小奇麗に整っている。
幾度か訪れた事があるのか馴れた様子で女将を話した土方は、奥の部屋へと向かった。案内も断り、さっさと歩いてゆく。
その間も総司と手を繋いだままだったので、総司は顔をあげることも出来なかった。耳朶まで桜色に染めて俯いている。その様が花のように愛らしく可憐であることに気づいていないのは、本人だけだ。
部屋は離れになっていて、落ち着いた雰囲気だった。
土方は中へ入ると襖を閉め、手を繋いだまま部屋の真ん中まで歩いた。そこで総司の方をふり返り、見下ろす。
「……」
総司はおずおずと彼を見上げた。とたん、濡れたような黒い瞳に見つめられ、どきりと心の臓が跳ね上がる。
土方は静かな声で言った。
「さっきも言ったが、俺は一度はおまえを諦めようとした。だが、無理だった。おまえが斎藤に抱かれると思っただけで、頭がおかしくなりそうだ。狂っちまいそうなんだよ」
「土方さん……」
総司は驚き、目を見開いた。それに、土方はほろ苦い笑みをうかべた。
「俺は、おまえしか欲しくねぇ。ずっと、おまえに惚れてきたんだ、愛しているんだ」
「でも……土方さん」
「わかっている、おまえの気持ちは。けど、総司、俺はもうおまえの気持ちも何も頓着できねぇぐらい、おまえを愛したくてたまらねぇのさ。おまえが俺を拒んでも嫌っても憎んでも、どうでも構やしねぇ。俺を殺したいと思うなら、いっそ殺せ。だが、俺はもう絶対におまえを諦めない、おまえを愛することをやめない」
そう言い切った土方は引き締まった表情で、総司を見つめた。手のひらが総司の頬を包みこむ。
「愛してる」
不意に、そう囁かれ、目を見開いた。
呆然としている総司に、土方はそっと口づけた。そして、もう一度告げた。
「総司、おまえだけを愛している。俺はおまえしか愛せない……」
「土方さん……」
そう彼の名を呼んだ総司の身体が、次の瞬間、ふわりと宙に浮いた。え? と思った時には男の腕に抱き上げられている。
土方が向かう先が隣室だと知った時、身体が竦んだ。それを彼も感じたのだろう、一瞬、切れの長い目が総司を見下ろした。
微かに眉を顰めた。
「怖いか?」
「……いいえ」
「なら、嫌か。やはり、俺を拒むか」
「拒んでも、どうでも構わないのでしょう?」
嫌味ではなく、どこか甘えるような声で訊ねる総司に、土方は苦笑した。腕の中の小柄な身体をぎゅっと抱きしめる。
「そうだな。今更もう……手離すことなんざ出来ねぇ。おまえが欲しくて欲しくて、気が狂っちまいそうだ」
「じゃあ、もっと欲しがって」
そう言った総司に、土方は目を見開いた。驚いた顔で、覗き込んでくる。
「いいのか? おまえを抱いちまって構わねぇのか」
それに、総司は答えなかった。黙ったまま、男の腕の中でこくりと頷いただけだった。
土方はもう躊躇わなかった。隣室への襖を開くと、中は少し薄暗いが、艶めかしい雰囲気だった。最近は料亭と出会い茶屋の境目がなくなりつつあるのだ。
敷かれてある紅色の褥の上に、総司の身体をそっと抱き降ろした。ゆっくりとのしかかったが、総司は抵抗一つしなかった。男の身体の下、小さく唇を噛んで目を閉じている。
「総司」
呼びかけると、長い睫毛が震えた。そっと彼を見上げてくる。
どきりとした。いつの間に、こんなにも甘くて色っぽい顔をするようになったのか。大きな瞳が潤み、ふっくらとした桜色の唇が微かに開かれていた。
土方はたまらず、その唇に口づけた。何度も角度をかえて唇を重ね、深く激しく求めていく。
「っ…ぅ、ん……っぁ……」
口づけの合間に、総司が甘い声をあげた。それにも煽られる。
着物を脱がせると、白い肌が露わになった。細い肩に、きめ細やかな白い肌、のびやかな手足。華奢で幼い印象さえ与えるのに、不思議なほど艶めかしく色っぽい。蠱惑的なまでに男を誘い、魅了してしまうのだ。
当然、この若者を狂いそうなほど愛している男には、危険なほどだった。一気に身体が熱くなるのを感じる。
それでも、土方は懸命に己を抑えた。本当はまどろっこしい愛撫など抜きにして、このまま獣のように貪りつくしてしまいたい。
だが、相手は総司だった。ずっと愛してきた、大切に慈しんできた存在なのだ。ましてや、総司は男に襲われ恐怖感をその胸の奥深くに抱いている。
出来るだけ優しく抱いてやりたいと、心の底から願った。
そのため、土方は総司が恥ずかしくなるぐらい、丁寧に愛撫した。白い肌を愛でるように撫で、口づけ、その若く瑞々しい身体に快楽を教えこんでいく。
男を受け入れるための準備も、執拗なぐらい施した。幸いにして、その部屋にはふのりが用意されてあったので、それを土方は使った。何度も指に絡めて硬い蕾の奥へ塗りこんでいく。
それに、総司は顔を真っ赤にして、泣いた。
「いや……やっ、も、やめて……」
「痛いのか?」
「そうじゃない、けど……恥ずかしいの…やなの……」
可愛らしい様子で泣く総司に、土方は腹の底がかっと熱くなるのを感じた。だが、それを懸命に堪える。
「しっかり準備しねぇと、おまえが辛くなる。少しでも楽にしてやりたいんだ」
「で、でも……恥ずかし……」
「あと少しだけ堪えてくれ」
「も、やぁ……っ」
泣きながら首をふる総司がいとけなく、艶めかしい。頬を上気させ、固く目を閉じていた。そのまま脱がされた着物を細い指さきで握りしめ、羞恥に堪えているさまは例えようもないほど扇情的だ。男をこれでもかと言うほど刺激する。
だが、華奢な身体つきの総司なのだ。男を受け入れさせれば、苦痛に泣くことはわかりきっていた。なら、少しでもその苦痛を和らげたいのだ。
土方は丁寧に準備を整えてから、ようやく総司の細い両足を抱え上げた。濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがう。
びくりと総司が目を見開いた。怯えた顔で彼を見上げてくる。
それに身をかがめ、そっと頬に口づけた。耳もとに優しく囁きかける。
「いいか? 力を抜いていろよ」
「こ、怖い……」
「大丈夫だ。俺が全部よくしてやるから……息を吐くんだ、総司」
「……っ」
「そう、そうだ……いい子だな」
子供をあやすように土方は言い聞かせ、総司に呼吸を何度もさせた。総司の身体から力が抜けたのを見計らい、ゆっくりと腰を沈めていく。
男の猛りが蕾に突き入れられた。
「ッ! ぅ、あ…っ」
総司が引きつった声をあげた。反射的に上へ逃れようとする。だが、土方は総司の両膝をしっかりと抱え込んでいた。下肢をがっしりと男に抱えられた状態では、逃れようがない。
土方は慎重に、総司の蕾を己の猛りで貫いていった。総司の蕾の中で土方の猛りの位置が深くなるにつれ、悲鳴が甲高くなる。
「ぃ、やぁッ、痛いっぃ、いたぁ…いっ」
「総司、勝手に動くな。俺にまかせろ」
「だ、だって……いやぁッ、も…やめてぇっ」
大きな瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。その愛らしい顔は青ざめてしまっている。それを可哀想にと思ったが、今更やめられるはずがなかった。
土方は唇を噛みしめると、総司の膝をより強く抱え込んだ。そのまま一気に奥まで貫く。
「ッ! ああーッ……っ!」
総司が仰け反り、泣き叫んだ。凄まじい程の圧迫感と重量感だった。まるで熱い杭を打ち込まれたようだ。
正直な話、痛みしかなかった。男との交わりがこれ程辛いものだとは、思っていなかったのだ。
総司は啜り泣き、ゆるゆると首をふった。両手をのばし、土方にしがみつく。
「も…やめて、お願い……許して……っ」
そう言えばやめてくれると思った。心のどこかで、優しい彼だからやめてくれる気がしたのだ。
だが、土方は掠れた声で答えた。苦しげに眉を顰めたが、それでも、きっぱりと首をふったのだ。
「すまん……今更、やめられん」
そう言った土方は総司の両膝を抱え直した。ゆっくりと抽挿を始める。
総司は目を見開いた。
「いやっ、動かな……ひっ、ァアッ」
「総司……少しだけ我慢してくれ」
「ぁッ、やぁッ、ぁあッ」
泣きじゃくり、男の身体にしがみついた。慎重にだが、土方は腰の動きをとめない。
男の猛りが何度も総司の蕾に抜き差しされた。そのたびに走る痛みと衝撃に、気を失いそうになる。
だが、少しずつ何かを感じ始めた。ある箇所を擦り上げられるたび、甘く弾けるような感覚を覚えたのだ。
「……ぃ、ぃやっ、ぁ」
総司は戸惑いながら、首をふった。だが、その声は甘く掠れている。
土方が見下ろすと、なめらかな頬は上気し、瞳も熱っぽく潤んでいた。力を失っていた総司のものも芯をもちはじめている。
その頬に首筋に口づけ、柔らかく腰を抱え込んだまま揺すりあげた。総司が甘い声をあげる処だけを執拗に捏ねまわしてやる。
たちまち、仔猫のような声で泣き始めた。
「ぁッ、ぁあっ、んっ…ぁん…っ」
「総司……気持ちいいか」
「わか、らない……ぁ、ひっぁあっ」
「なら、俺がしっかり分からせてやるよ」
土方は唇の端をあげて笑い、総司の膝を抱え直した。容赦ない動きで、腰を激しく打ち付けはじめる。
悲鳴をあげてのけぞる総司を抱きすくめ、貪るように攻めたてた。犯すような乱暴さだったが、それでも総司は抗わなかった。泣きながら男の背にしがみつき、快感のためか爪をたててくる。
土方は一瞬だけ痛みに眉を顰めたが、それも甘い疼きにとけ消えた。
「ぁあっ…ひぃっ、ぁあっ」
総司の声が切羽詰まったものになりはじめた。二人の身体の間で擦れる総司のものは、真っ赤になってふるふると震えている。まるで熟れた果実のようだ。それを握りしめ、土方は耳元で囁いた。
「一緒にいこう……」
「……一緒、に?」
潤んだ瞳が、男をぼうっと見上げた。濡れた桜色の唇が微かに開かれ、ぞくぞくするほど色っぽい表情だ。
「そうだ」
頷いた土方に、総司は黙ったまま縋りついてきた。男を求めるような仕草に、より煽られる。
深く密着したまま、土方は力強い律動を始めた。何度も蕾の奥へ男の楔を打ち込む。そのたびに、総司は甘い悲鳴をあげた。強烈な快感美がこみあげ、堪らなくなる。
脱ぎ捨てられた着物や乱れきった真っ赤な褥の上で、華奢な若者が逞しい男に抱かれている様は、見事な艶絵のようだった。むろん、とうの恋人たちはそんな事思いもせず、互いを夢中で求めあった。
濃厚な空気に満たされた部屋の中で、二人の息遣いが次第に高まっていく。
「ぁあッ、も、いく…いっちゃ……ッ」
「……くっ、総…司……っ」
「や、ぁあッ…ぁああーッ!」
一際甲高い悲鳴を総司があげた瞬間、総司のものは勢い良くはじけていた。同時に、その蕾の奥に男の熱が吐き出される。それに、総司は目を大きく見開いた。初めて感じる妖しく異様な感触に、身体が震える。
「ぁ、ぁつい…っ、やぁ…怖い……っ」
思わず逃れようとしたが、土方が逃がすはずもなかった。しっかりと総司の身体を抱え込み、その肩を掴んで抑えつける。
その状態で射精している間も、腰を打ちつけ続けた。最後の一滴まで注ぎ込んでから、満足気に、はぁっと吐息をもらす。
総司が涙で潤んだ瞳で見上げると、土方は煩わしげに黒髪をかきあげながら、こちらを見下ろしてきた。熱っぽい瞳で、己が犯している獲物を愛でるように眺める。
「……っ」
獣ように舌なめずりし、笑ってみせる土方に、総司は怯えたように目を見開いた。二人の身体はまだ深く繋がったままであることに、今更ながら気付かされたのだ。
「ひ、土方さん……」
「総司……おまえの身体、最高だよ」
唇の片端をつりあげ、土方は身をかがめた。その白い首筋に口づけを落とし、桜色の痕をつくる。
耳もとに唇を寄せた。
「なぁ、もう一回味わってもかまわねぇだろう……?」
「ぃ、いやっ」
思わず叫んでいた。もう一度あの凄まじい快楽の中へ投げ込まれるなど、気がおかしくなってしまうと思った。
必死に身体を離そうとしたが、土方は全く頓着する様子がなかった。悠々と総司の腰と背中に腕をまわし、膝上に抱き上げる。
そのまま腰を降ろさせてくる男に、総司は悲鳴をあげた。
「いやっ、やだッ! お、おかしくなる……っ」
「おかしくなっちまおうぜ?」
くっくっと喉奥で笑いながら、土方は総司の両膝を抱え込んだ。とたん、支えを失った総司の身体は、男の剛直の上に降ろされる。真下から深々と彼の猛りに貫かれ、総司は目を見開いた。
「ぁああーッ……!」
ずぶずぶと己の身重で咥え込んでしまい、泣き叫んだ。物凄い重量感だ。奥の奥まで貫かれていた。
「ぃ、ぃや…も、許し……ッ」
「総司……すげぇ可愛い……最高だ」
うっとりとした声音で囁き、土方はその身体を味わい始めた。両膝を抱え込んだまま何度も総司の腰を上下させ、己の猛りの上に降ろさせる。
そのたびに突き抜ける快感美に、総司は泣き叫んだ。
「ぁあッ、ぁ…ひぃっひ……っ」
声が甘く掠れてゆく。次第に男の動きにあわせ、乱れていく総司に、土方は満足げに目を細めた。彼もまた、獣のような営みに無我夢中になっていく。
ようやくとけあう事が出来た恋人たちの閨事は、いつ果てることなく続いていくのだった……。
次で最終話です。