約束を交わして数刻。
総司は自分のために仕事を早く終わらせてくれる土方の
邪魔にならないようにと自室に帰ってきていた。
部屋の中は静まり返って、南側の日当たりのいい部屋だというのに暗い感じがした。
「ふぅ・・」
総司はため息をついた。
これはどういうため息?
一人になって淋しいの?心が苦しいの?
この思いを自分自身の中に溜め込んで、決して外に出さないことが
伝えられないことが、伝わらないことが
自分を苛めてる。
こんなにも愛しいのに・・怖い。
だって、彼が私のことをなんとも思ってなくて
試衛館の弟のような存在にしか思ってなかったら・・
この気持ちを伝えたら今の関係は一気に崩れてしまう。
「はぁ・・」
恋愛って難しい。
もどかしい。
伝わらないことが・・淋しい・・。
「ん・・」
あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。
いつの間にか眠っていた私は部屋の暗さを見て驚き、飛び起きた。
――っ!!今、何刻!?
立ち上がろうとした総司の腕を誰かに引っ張られた。
「っ!!?」
「総司」
「・・あ。土方さんですか?もう驚きましたよ」
腕を引っ張ったのが土方だと知り総司は安堵な表情に戻った。
「お前なぁ。寝るときはちゃんと布団敷いて寝ろよ。風邪引くだろ?」
よく見ると足元には布団がきちんと敷かれ、
先程まで寝ていた総司のぬくもりが残っている。
「土方さんが・・してくれたの?」
覗き込むように土方の顔を見ると照れているのか頬を紅く染めている。
「仕事中、長引くそうだったからな。お前に一言言っておこうと思って
部屋に行けば、お前は畳の上で熟睡しているんだものな」
「ごめんなさい・・」
「まぁ、待たせた俺が悪ぃんだがな」
立ち上がった土方が掃除の目の前に手を差し出す。
「ほら。祭り行くぞ」
ただ、それだけの事なのに、優しくて大事にしてくれる彼に
総司の心は幸せでいっぱいで顔をほんのりと紅く染めたのだった。
そして二人は少し遅れて祭りへと出掛けた。
人込みが多くて息が詰まりそうだったが、二人は祭神輿を見ようと奥まで足を運んだ。
土方は総司の歩幅に合わせてゆっくり歩くが、人が多く何度も総司を見失いそうになる。
「ほら。逸れちまうだろ?」
そう言って手を繋いでくれる彼の優しさ。
嬉しい・・
自分に触れてもらう嬉しさが込み上げて、総司は無意識に紅くなる。
その表情の変化に土方は気づいていた。
・・可愛いな。
だがこんなことを言うときっと総司は怒るだろう。
「私は男の子です。可愛いより格好良いって言われてみたい」
昔そんなことを言われたことがあり、余り口に出さないようにしていたのだ。
「あ。土方さん。あのお店見に行っていいですか?」
総司が指差すところを見るとそこは小物屋であった。
・・可愛いとか言われたくないくせにこういう女々しい店が好きな奴だな。
そう思った土方だったが、優しく微笑んで店に向かった。
「わぁ・・。綺麗」
簪や巾着といった女子に好まれそうな品々がたくさん並べられている。
その中の一つを総司は手に取った。
「・・気に入ったのか?」
「え。えぇ。でも私には必要ないですよね・・」
手に取っていたのは、硝子で装飾された簪。
使う機会がないと言って、残念そうにする総司に土方は買い与えてやった。
「え・・。いいの?土方さん」
「あぁ。欲しかったんだろ?」
何度も頷く嬉しそうな総司の顔を見て、土方も笑みが零れた。
――本当、俺はこいつに節操にされてるな・・。
そう思った頃、神社の敷地では神輿を担ぎ盛り上がっていた。
「土方さん、お神輿ですよvv」
もっと近くで神輿が見たかったのか総司がばっと手を離してしまった瞬間、
お互いがどこにいるのか姿が分からなくなった。
「総司!!」
だが、人の多さに自分の声が届くはずの相手に伝わらない。
「・・ちっ」
土方は祭りの巡察に来ていた隊士を探し、総司の捜索を行わせることにした。
そして土方自身も人ごみの中に入り必死に探す。
――総司。何処だ。何処にいるんだっ。