目を見開く総司の前で、土方は云った。
「なかった事になど……そんな卑怯な事は出来ない」
 膝上においた拳を、ぐっと固めた。一瞬きつく唇を噛んでから、言葉をつづける。
「俺はおまえに最低の行為をしたし、おまえを傷つけた事は確かだ」
「私は……」
「ただ……一つだけ聞きたい事がある」
「?」
 小首をかしげた総司を、土方は見つめた。
 しばらく押し黙ったままでいる。彼も躊躇っているようだった。
 だが、やがて、ゆっくりと問いかけた。
「おまえと斉藤は」
「え?」
「噂どおりの関係なのか……?」
「……」
 微かに、総司は息を呑んだ。
 総司も噂は耳にしていた。もともとあった噂だが、ここ最近の二人の関係もあって、より信憑性があるものとして囁かれていたのだ。
 だが、それはむろん偽りだった。
「……違います」
 総司は静かに否定した。
「私と斉藤さんは、そんな関係ではありません」
「……本当なのか」
 訊ねる男に、総司は唇を噛んだ。顔を背けると、突き放したような口調で云い放つ。
「むろん、信じる信じないは、土方さんの勝手ですけど」
「……」
 その言葉に、何故か、土方は安堵したようだった。ほっとしたように息をついた。
 総司は細い眉を顰めた。
「どうして、そんな事を聞くのですか」
「……」
「私が斉藤さんと契りを結んでいようが何だろうが、土方さんには関係ない事でしょう?」
「そうじゃない。俺は……」
「私の事など、どうでもいいくせに」
 冷ややかな口調で、総司は嘲った。
 瞳がきらきらと怒りに燃え、なめらかな頬が紅潮した。その表情は、息を呑むほど美しい。
「弟代りだと大事にして心許したふりをして、なのに、あんな事をするなんて」
「……」
 土方は息を呑んだ。その端正な顔に、悔恨の色が走る。
 だが、総司は言葉をとめなかった。
「あんな酷い事をして……それでも、気にしていると?」
「総司、俺は……」
「あの夜、あなたは私を……っ」
 激情のあまり、総司は言葉を途切らせた。だが、不意に立ち上がると、叫んだ。
「小紫さんの身代わりにしたんだ……!」
「!」
 打たれたように、土方の目が見開かれた。愕然とした表情で、総司を見上げている。
 そんな土方を見下ろし、総司はやり場のない怒りを彼にぶつけた。あの時感じた怒りや悲しみ、屈辱が込みあげてくる。
「あなたは私を否定した!」
 両手で彼に打ちかかった。声がうわずっている。
 いつも落ち着いた総司からは、考えられぬ程の取り乱しようだった。それが総司の屈辱と怒りを表わしているようで、酷く痛々しい。
「小紫さんの身代わりにするなんて……っ」
「総司……っ」
「酷い! どうして、あんな酷い事ができるの!?」


 こんな事を云ってはいけない、とわかっていた。
 ずっと弟代りとして大切にしてくれた事は本当であり、それを一番心許されている、特別なのだと思いこんでいたのは、自分の勝手だ。
 なのに、どうして彼を責める事ができる?
 こんな酷い事を云いたい訳じゃないのに、こんな傷つけたい訳じゃないのに。
 どうして……?


 感情を吐き出した反動は、大きかった。
 不意に、総司は力が抜けたようになると、ふらりと後ずさった。そのまま、きつく唇を噛みしめ、俯いてしまう。
 そんな総司に、しばらくの間、土方も、どうすればいいか分からぬようだった。だが、やがて、立ち上がり、歩み寄った。
 少し躊躇ったが、手をのばした。びくりと震える総司の細い躯に両腕をまわし、胸もとにそっと抱きこんでしまう。
「総司、聞いてくれ」
 だが、そう云ったとたん、総司が激しく首をふった。両手で男の胸を押し返そうとする。
「いやです、何も聞きたくない」
「頼むから」
 土方は、腕の中で暴れる総司を柔らかく抱きすくめた。必死の思いで、言葉をつづけた。
「俺はおまえを小紫の代りになどしていない」
「うそ……!」
「逆なんだ。俺は、おまえの身代わりに小紫を抱いていたんだ」
「──」
 彼の腕の中で、総司が息を呑んだ。
 大きく目を瞠り、土方を見上げる。それを見つめ、土方は低い声で言葉をつづけた。
「俺は島原で小紫を見つけて、夢中になった。だが、それは、小紫がおまえに瓜二つだったからだ。小紫をおまえだと思って、抱いていた」
「……う…そ」
 総司は震える声で呟いた。のろのろと両手をあげ、口許をおおう。
 その瞳に嫌悪の色を見た気がして、土方はほろ苦く笑った。
「軽蔑するか。薄気味が悪いと……侮蔑するだろう?」
「……」
「物わかりのいい兄代りなど、全部偽りの姿だ。本当の俺は、いつもおまえを求めていた。欲しくて欲しくて、たまらなかった……」
 土方は、総司の頬を両掌でそっとつつみこんだ。瞳を覗き込み、掠れた声で囁きかける。
「この瞳も、唇も、指さきも……髪一筋まで、おまえが誰よりも愛おしい」
「……土方…さん……」
「愛してる。総司、おまえだけを愛してる」
「……ぁ」
 桜色の唇から、微かな声がもれた。
 ふわりと柔らかく抱きしめられ、総司は目を見開く。


 信じられないぐらい、躯中が熱くなった。
 狂おしいほどの歓喜がこみあげ、泣き出したくなった。今すぐ彼の背に手をまわし、抱きしめたい。
 好きです、愛しています。
 私もずっとあなたの事を愛してきたのです──と、告げてしまいたい。


(あぁ、でも……)


 ……信じてもいいの……?


 それは突然だった。
 歓喜の傍から、心の奥にある闇が、とろりとあふれ出したのだ。
 裏切られたと思っていた。身代わりにされたのだと、苦しんでいた。それを違うと否定されたからと云って、どうしてすぐ信じられるだろう。
 彼に、愛されているなんて。
 そんな事……信じられるはずがないのに。


 総司は、土方の腕の中、俯いた。


 江戸の頃から、ずっと女遊びの激しかった彼。
 美しい女たちと恋仲になり、いずれはその中から妻を娶るのだろうと思っていた。
 男である以上、それが当然のことなのだ。
 その彼が、男である私を愛している? こんな可愛いげの欠片もない、無愛想な私を?
 自信がなかった……。
 私など、醜聞沙汰になるし色々と面倒なばかりだ。たとえ今は愛されていても、そのうち嫌気がさし、飽きられてしまうだろう。
 信じられない、いや、信じたくない。
 愛されるなんて……怖い。


 ぞくりと身震いするような予感に、きつく唇を噛みしめた。
 しばらく俯いていたが、やがて、自分を抱きしめる男を見上げた。
 土方は、真剣な表情で、総司をまっすぐ見つめていた。深く澄んだ黒い瞳が、気持ちを見透かすようで、思わず視線をそらした。


 ……いっそ、始まらなければいい。
 そんな事を思った。
 臆病だとわかっていたが、それでも、片恋の方が幸せだった。
 始まらない恋なら、終る事もないのだ。
 もしも、彼を信じて受け入れれば、今よりもっともっと愛してしまう。
 その挙げ句、厭きられ捨てられたら、私はどうすればいいの?
 そんなのもう……生きてゆけない。


 総司は、土方の腕の中で、細いため息をもらした。
 臆病だと、思った。
 弟として大切にされていると信じ、その果てに、手酷い裏切りを受けた。そのため、土方に対して酷く臆病になっていたのだ。
 いくら誤解だったと云われても、その上に、彼の愛情を告げられても、信じることが出来ない。失う事ばかり考えてしまう。
 信じた果てに、裏切られる。
 同じ苦しみは、もう繰り返したくなかった……。
「──」
 総司は、そっと土方の胸もとに手をあてた。その鼓動、ぬくもりを感じながら、きゅっと唇を噛みしめる。
 やがて、小さな声で云った。
「……ごめんなさい」
「総司」
 いきなり謝る総司に、土方は顔を強ばらせた。
 それに、のろのろと言葉をつづけた。
「私は……受けいれる事が出来ません」
「……」
「兄代りだったあなたに、好きだと突然云われても……受け入れる事ができないのです」
 はっきりと断られた土方は、口許を引き締めた。
 むろん、覚悟していた事だった。潔癖で清廉な総司が、今まで兄代りとしてきた自分を受け入れるはずもないのだ。
「……」
 土方は黙ったまま、腕の力をゆるめた。とたん、するりと身を捩って抜け出してしまう総司に、苦痛を覚える。
 一刻も早く離れたいと云われているようで、それ程嫌われているのかと思った。
 目を伏せてしまった土方を、総司はじっと見つめた。
 傷ついた表情の男に堪らなくなる。
「ごめんなさい……」
 躊躇いがちにだったが、傍に寄り、そっと土方の腕にふれた。彼の端正な顔を見上げる。
 見つめ返してくる土方に、泣き出したくなった。涙がこみあげ、その広く逞しい胸もとに縋りつきたくなる。
 躯中が彼だけを求めていた。先程まで抱きしめてくれていた土方のぬくもりが、気も狂いそうなほど恋しい。
「私は……あなたを尊敬しています」
 総司は自分の声が震えている気がした。だが、必死に平静を装った。
「あなたの想いを受けることは、出来ません。でも」
「……」
「これからも傍にいる事を……許して頂けますか。今までどおり、弟として、あなたの傍にいても構いませんか」
 そう訊ねた総司に、土方は苦しげに顔を歪めた。だが、すぐに微かに笑ってみせると、応えた。
 低く掠れていたが、彼も己を抑えたのだろう、落ち着いた声音だった。
「むろんだ」
「……」
「その方が俺も嬉しい」
「土方さん……」
 微かに安堵の息をもらした総司に、土方が周囲を見回しながら云った。
「陽も翳ってきた。そろそろ帰った方がいいな」
「はい」
 二人は屯所へ向けて、ゆっくりと歩き出した。
 しばらくの間、二人は無言だった。ただ己の足音だけを聞きながら、屯所へむかってゆく。
 やがて、道の半ばまで行った時、不意に、土方が云った。
「……驚かせて、すまなかったな」
「え」
 顔をあげると、土方は穏やかな瞳で総司を見つめていた。低い声で言葉をつづけられる。
「あんな事、突然俺に云われて驚いたと思う。むろん……おまえに拒まれた事は辛いが、それでも、俺は無理強いするつもりはなかった。ただ……正面から向き合おうと思っただけなんだ」
「……」
「誤魔化して逃げた挙げ句、おまえを傷つけてしまった。その事は深く悔いている。だが、だからこそ、おまえに真っ直ぐ向かい合いたかった。きちんとけじめをつけたかったんだ」
 真摯な声音で語ってくれる土方に、総司は息を呑んだ。
 その言葉に、土方の誠実さを知らされた気がしたのだ。男らしく真摯に向き合おうとする、彼の強さも。


(なのに、私は……)


 総司は長い睫毛をふせた。傍から男がじっと自分を見つめているのはわかっていたが、視線を返す勇気はない。
 ただ、目を伏せたまま、頷いた。














 何が変わった訳でもなかった。
 以前と同じように日々が流れ始めただけだった。
 むろん、総司は土方と言葉をかわすようになり、斉藤とも友人としての立場を崩さなかった。
 だが、少しずつ何かは変化していたのだ。
 例えば、副長室で巡察の報告をしている最中、ふと、熱っぽい瞳で見つめられている事に気づいた時、斉藤とじゃれあっている処に、土方の視線を感じた時。
 ふとした瞬間に、土方と手がふれあって、慌てて物を落としてしまった時。
 おかしいほど頬が火照ったり、胸の鼓動が跳ね上がったり、怖くなったり不安になったりした。
 次第に、総司は混乱し始めていた。
 自分の気持ちにけじめをつけたつもりだったし、土方を受け入れる勇気もなかった。
 だが、それでも、愛する男から見つめられれば、頬が上気してしまう。遠く離れている時も、彼だけを全身で求めてしまう。
 躯の方が余程正直だと、総司は思った。
 このままでは早晩のうちに、彼に気づかれてしまうだろう。
 そうなれば、土方はもう躊躇わないに違いなかった。立場も外聞も気にせず、自分を抱きしめてくる。
 そんな彼に、抗えるはずもなかった。抗うどころか、身も心も彼の愛に包みこまれてしまうに違いない。


(……どうすればいいの?)


 気がつけば、己の思考に沈み込んでいた。
 そのため、土方に何度も呼ばれていたことに、気づいていなかったのだ。
「総司」
 少し強めの調子で呼ばれ、はっと我に返った。
 そこは副長室だった。
 巡察の報告の後、よもやま話をしているうちに、己の物思いにふけってしまったのだろう。
 顔をあげた総司は、とたん、どきりとした。
 土方が気遣わしげな表情で、総司をじっと見つめていた。男にしては長い睫毛が瞬き、濡れたような黒い瞳がこちらを見つめてくる。
 かぁっと頬が上気するのを感じた。必死に己を堪えようとするが、自然と彼を求めてしまう。
 総司は長居しなければ良かったと思った。彼の傍にいるからいけないのだ。
 だが、恋しい男から引き離されるのは、身が切られるように辛い。
 いつだって傍にいたい、見つめていたい。
 できる事なら、あの優しい笑顔をむけられたい。
 自分の弱さから彼の想いを拒みながら、なんて身勝手なのか。
「……」
 総司は土方を見つめた。己の思考だけに再び沈みこんでゆく。
 その様子に気づいた土方は、思わず舌打ちしたくなった。


(なんて顔で、俺を見やがる)


 可憐な花菫そのものだった。
 潤んだ瞳で彼を見つめ、ふっくらした桜色の唇を僅かに開いている様は、愛らしく艶めかしい。今すぐ、この場で抱いてしまいたい程だった。
 噂どおり凍えた花菫のようでありながら、時折、危ういほどの色香を漂わせる。
 それが無意識であるからこそ、尚のこと虜にされた。
 伏せられた目元、襟元からのぞく白い肌に、土方はぞくりとするような欲情を覚えた。雄の本能のまま、その細い手を掴んで引き倒したくなる。


 土方は視線をそらせると、己の衝動を秘かに押し殺した。気持ちを切り替えるため、書類を手にする。
 そうして、平静を装いつつ呼びかけた。
「総司」
「……はい」
 今度はすぐ返事があった。
 それに僅かに嘆息した。
「……躯の調子が悪いのか」
「え?」
 思ってもみない事を云われ、総司は目を瞬いた。
 それに、土方が視線をあげた。
「最近、おまえ、妙に気怠そうだろう。気になっていた」
「そう…ですか?」
「さっきからぼんやりしているし、熱でもあるんじゃねぇのか」
「咳は少しありますが……でも、大丈夫です」
 小さく、総司は微笑んでみせた。それを、土方がじっと見つめてくる。
 また頬が赤らみそうで、総司は話題を変えた。
「あの、一つ聞いてもいいですか」
「何だ?」
「最近……土方さん、島原へは行かないのですか」
「……」
「小紫さんの元へ、行っていないのかな……と思いまして」
 無言のままの土方に、総司は慌てたように付け加えたが、云った傍から後悔した。
 男の端正な顔が、酷く冷たくなったように感じたのだ。
「……何故」
 しばらく黙ってから、土方は低い声で問いかけた。冷たく澄んだ黒い瞳で総司を見据え、ゆっくりと言葉をつづける。
「どうして、そんな事を聞く」
「え」
「何故、そんな事が知りたいんだ」
「……」
 総司は膝上に置いた手を握りしめた。
 すぐには答えられない。
 多くの想いや気持ちがあり過ぎて、それを言葉にする事が難しかった。それに、嫉妬しているとは知られたくない。知られてはならない、気持ちだった。
 沈黙してしまった総司に、土方は鋭い視線をあてた。
「おまえは、俺に島原へ行けと云いたいのか」
「……え」
 不意の言葉に、総司は息を呑んだ。目を見開いている。
 それに肩をすくめ、言葉をつづけた。
「だから、島原へ行けと云いたいのかと聞いた。小紫の元へ通うべきだと思っているのか」
「それは……」
 総司はまた口ごもってしまった。
 そんな口出しをするつもりはない。だが、一方で、彼を縛る理由がないのも当然のことだった。
 自分たちは恋人同士でも何でもないのだ。ただ、土方に想いを告げられ、しかも拒んだ身だ。総司に彼を縛る資格はなかった。
「……わかりません」
「……」
「ただ……私はあなたに応える事ができないから」
 土方の手がとまった事に気づいたが、それでも、言葉をつづけた。


 はっきり云わなければ、彼が困らせるだけだと思ったのだ。
 むろんのこと、辛かった。こんな事、口にするのも嫌だった。
 本当は島原になど行って欲しくない。彼があの小紫を腕に抱く様を思うだけで、気がおかしくなってしまいそうだった。
 だが、それでも、自分が彼を受け入れないと決めた以上、この想いは殺さなければならないのだ。


 総司は自分の言葉を刃のようだと感じながら、ゆっくりと告げた。
「あなたが島原へ通うのは当然だと思うのです」
「……」
「小紫さんに気持ちを移しても、それはあなたの自由ですし……それに」
 思いきって、云った。
「むしろ私は気持ちが楽になります」
 突然、バンッと音が鳴った。
 土方が書類を乱暴に投げ出したのだ。
 息をつめたまま、おそるおそる見上げれば、土方は片手で顔をおおっていた。
 きつく唇を噛みしめているようだった。
 やがて、低い声がその唇からもれた。
「……やってられねぇ」
「え……?」
 思わず聞き返した総司の前で、土方は顔をあげた。それに、息を呑む。
 黒い瞳は、凄味のある光を湛えていた。眉も顰められ、あきらかに怒りを押し殺している表情だ。
 土方は総司を見据えたまま、低い声で問いかけた。
「おまえ、自分が何を云っているのか、わかっているのか」
「え……」
「さっきの言葉だ。この俺に、小紫の処へ行けと。自分は相手にしきれねぇから、島原へ行って、おまえと瓜二つの女を抱けと云ってるんだろう」
「そういうつもりでは……」
「なら、どういうつもりだッ」
 一瞬、声を荒げたが、土方はすぐ自分を取り戻したようだった。文机に寄りかかり、深く嘆息する。
 しばらく押し黙っていたが、やがて、目を伏せると、低く嗤った。
「残酷な奴だな」
「土方さん……」
「おまえは、本当に残酷だ」
 土方はそう云うなり、文机の方へ向き直った。完全に背を向け、筆を取り上げる。
 仕事を始めてしまった土方に、どうすればいいかわからず、しばらくの間、総司は男の広い背を見つめていた。だが、いつまでたってもふり返ってくれぬ彼に目を伏せると、立ち上がり、部屋を出てゆく。
「……」
 遠ざかる足音を聞きながら、土方は、やるせない想いに固く瞼を閉ざした。