気がつくと、総司は自分のベッドに寝かされていた。
額には濡れたタオルがのせられ、尼僧服のままだったが、その躯には毛布が掛けられてある。
視線を動かすと、声がした。
「……気がついたか」
ゆっくりと部屋を横切ってくる足音。
やがて、土方がベッド際に立ち、総司を見下ろした。手をのばし、額の濡れタオルをとると氷水で固く絞ってくれる。
「あなたが……助けてくれたの?」
そう訊ねた総司に、土方はかるく肩をすくめた。
「俺の他に誰がいるんだ。おまえ、えらい熱出してぶっ倒れていたんだぜ」
「……」
「まぁ、疲れが出たんだろう。少し、ゆっくりと休むことだな」
「……あの」
総司は掠れた声で、おずおずと訊ねた。
「今日……外出してたのですか?」
「……」
「ご、ごめんなさい……でも、てっきり出ていったのだと思ったから……」
「出ていって欲しいのか」
僅かに眉を顰めながら訊ねた土方に、総司は慌てて首をふった。
「そ、そうじゃなくて……っ」
「……」
「お願いですから、いて下さい。出ていったりしないで……!」
半ば身を起こしながら上ずった声で叫ぶ総司に、土方は苦笑した。そっとその躯をベッドに戻してやりながら、静かな声で云った。
「おまえは一人になるのが、よっぽど嫌なんだな」
「……」
「どこへも行きゃしねぇよ。いくら俺でも、病人を見捨てて出ていけるか」
「……ぁ」
総司は悲しげに睫毛を瞬かせた。
彼の言葉は、総司が回復したら出ていく──と云っているかのようだった。いや、実際そのつもりなのだろう。
何度も引き留めてきたけれど、もう限界なのだろうか……?
きゅっと桜色の唇を噛みしめた総司を、土方は深く澄んだ黒い瞳で見つめた。
一瞬、黙ってから、ふっと息を吐くと身をおこした。そのまま踵を返すと、部屋を出ていこうとする。
総司は慌てて声をかけた。
「あの……っ」
「?」
ふり返った土方に、総司は口ごもった。だが、思いきって云った。
「……ありがとう。私を助けてくれて」
「──」
まだ熱に潤んだ瞳で彼を見つめ、そう云った総司に、土方はかるく息を呑んだ。
華奢な躯をベッドにうもれさせ、じっとこちらを不安げに見つめている総司の姿は、いじらしいほど可憐で儚げだった。
もしも彼に翼があったなら、総司をすっぽりと抱きしめ守ってやり、いつまでも傍にいてやりたいと願ってしまう程に───
「……」
だが、土方は奥歯をきつく噛みしめることでその衝動をやり過ごした。爪が食いこむほど両手を握りしめると、視線をそらす。
そのまま無言で、部屋を出ていった。
背中に、総司の縋るような切ない視線を感じながら……。
やがて、総司は回復したが、土方は出ていかなかった。
一線を引いた冷ややかな態度も、優しさの欠片もない物言いも、何一つ変っていない。
だが、総司は、彼が本当は心のあたたかな人なのだと思い始めていた。でなければ、自分の看病をしたりするはずがない。
結局、総司は三日もの間寝込んでしまったのだが、土方はずっと傍にあり、丁寧な看護をしてくれたのだ。
総司は、土方に惹かれてゆく自分を痛いほど感じた。
それがどういう感情から発したものなのか、わからぬまま。
ずっと神への信仰だけに生きてきた総司にとって、これほど一人の男に惹かれる感情自体が、まったく理解できなかったのだ。
ましてや、その気持ちが何であるかなど、わかるはずもない。
世間知らずで、年齢のわりにその手の方面に関して幼い総司は、ただ息をつめ、胸をどきどきさせながら、遠くから彼を見つめていることしかできなかった。
土方の方も相変わらず一線を引いた態度なので、二人の距離が狭まるとは到底思えなかった。
だが、そんなある日の事だった。
総司は用事を思い出し、教会へむかった。重い木戸をあけて、中へ入る。
そのとたん、鋭く息を呑んだ。
教会の礼拝台の前。
そこで、土方が一人の女と抱きあい、唇を重ねていたのだ。二人とも濃厚なキスに夢中になり、総司には全く気づいていない。
「……っ」
総司はさぁっと血の気がひくのを感じた。躯中が細かく瘧のように震えはじめる。
その手から、かたんっと音をたてて賛美歌集が滑り降りた。
「!」
さすがに、その音で二人は気がついた。女の方は信者の一人であり、しかも夫ある身だった。総司を見ると顔色をかえ、慌てて教会から走りでてゆく。
それを呆然と見送っている総司の耳に、土方のため息が聞こえた。
「ったく……」
ふり返ると、土方は苦笑しながら、僅かに乱れた黒髪を片手でかきあげている処だった。女に乱されたのか、シャツの釦が一つ二つ外され、そこからのぞく逞しい胸もとがセクシャルだ。
「おまえのせいで、お楽しみが逃げちまったじゃねぇか」
「楽しみって……あんな!」
総司はかっとなり、思わず叫んだ。
「あの人は夫ある身ですよ、人妻だ! なのに、あなたは……っ」
「お互い、遊びだと割り切っているさ。それにな、迫ってきたのはあっちの方なんだぜ?」
「何しろ不倫です! それを、よくも教会で……」
総司は怒りのあまり絶句した。それ以上そこにいる事がたえられず、不意に身をひるがえすと、教会を飛び出した。
裾の長い尼僧服に足をとられつつも、家への小さな道をたどる。ようやく家の中へ走りこんだ総司は、ソファに坐り込み、激しく肩で息をした。
疲れたからではない。
あまりの激情に、頭がおかしくなってしまいそうだったのだ。
きつく両手を握りしめ、俯いていると、家の扉が開く音がした。おそらく土方が戻ってきたのだろう。
ゆっくりと足音が近づき、やがて、総司の傍で立ちどまった。
謝りの言葉でもあるのかと待っていれば、くすっと笑う声が響いた。
「!」
驚きと怒りにみちた表情で、総司は顔をあげた。
すると、土方は腕を組んで傲然と立ち、嘲るような笑みをうかべていた。
「本当に、お堅いシスターさまなんだな」
「何を……っ」
「俺は置いてくれと云って、ここにいる訳じゃねぇ。おまえが出てゆくなと云うから、いるんだろうが。だったら、おまえの指図を受ける筋合いはねぇな」
「指図なんか、私は……」
「してないと云うのか? なら、俺が誰と関係をもとうが何をしようが、勝手だろ? いちいち口出しするんじゃねぇよ」
「だって、あんな……不倫なんて! 不潔です、最低です!」
そう叫んだ総司に、土方はすうっと切れの長い目を細めた。形のよい唇に冷笑をうかべたまま、嘲るような口調で云い放つ。
「不潔、最低、ね」
「……」
「清らかなシスターさまには、理解できねぇ事って訳だよな。だが、あぁいう関係に、綺麗ごとなんざねぇんだよ。皆、どろどろした欲望と己の自己満足だけだ」
「そんなのおかしいです! 愛があるのなら、理解できます。でも、あなたは遊びだと云った。そんな遊びで、関係をもつなんて……」
「だから、云ってるだろ? 清らかなシスターさまには理解できねぇって」
そう云いざま、土方は手をのばした。総司の細い手首を掴んでくる。
それに、総司は抗った。
「いや、離して!」
「離さねぇよ」
「いやだ……だいっ嫌い! 不潔! 汚い……最低ッ!」
さんざん罵ったが、土方は薄く笑いながらもがく総司を眺めているだけだ。
その嘲りにみちた態度に、総司はますます怒りを燃え上がらせた。もともと、総司は優しげな容姿でありながら、本質的にはとても激しく勝ち気な気性なのだ。
「!」
次の瞬間、総司は土方の頬を思いっきり引っぱたいていた。ぱんっと鋭い音が鳴り、男の頬が薄赤くなる。
とたん、男の黒い瞳がかっと怒りに燃えあがった。
総司の両手首を掴むと、痛いほど指を食いこませてくる。
「……いい度胸してるじゃねぇか」
「離して! この手を離してと云ってるでしょう!?」
「聞けねぇな」
そう呟くと、土方はそのまま総司の躯をソファに押し倒した。え?と思った次の瞬間には、男がのしかかってくる。
総司は大きく目を見開いた。
「な、何……?」
「教えてやるよ」
土方は嘲るように笑いながら、云った。
「おまえに、こんな関係なんざ、愛がなくても出来るんだって事を。ただ欲望と自己満足さえあればいいんだからな」
「な……いやあッ!」
いったい男が何をしようとしているのか知り、総司は切り裂くような悲鳴をあげた。気が狂ったように暴れ始める。
必死になって小さな拳で男の胸や肩をたたき、もがいた。
「ちっ」
短く舌打ちした土方は己のシャツを手早く脱ぎ捨てると、それで総司の両手首をきつく縛りあげた。そのまま、すぐ傍の柱にくくりつけ繋いでしまう。
総司は息を呑み、足をばたつかせた。が、それさえも男に膝でおさえこまれてしまった。
「いや! いや! やめて……っ」
必死に抗う総司を気にもとめず、土方は総司の尼僧服を脱がせていった。しみ一つないまっ白な雪肌に、思わずため息をもらす。そっと手のひらでふれてみると、絹のような感触だった。
「綺麗な肌してるな……」
「やっ、さわらないで……っ」
土方は尼僧服の合わせ目に手をいれると、かるく総司の背を浮かせるようにして、するりと脱がせた。とたん、まっ白な胸もとが露になる。
何のふくらみもない、ただ小さな可愛い飾りだけがある胸が。
「!」
総司は鋭く息を呑んだ。
罵られると思った。嘲笑われると。
総司は──少女ではなかった。
少年であるのに、尼僧として暮らしてきたのだ。皆を、信者たちを子供たちを、そして、土方を欺いてきたのだ。
(……あぁ、神様……!)
総司は、土方の綺麗な瞳にうかべられるだろう嫌悪の色に堪えきれず、瞼を閉ざした。彼からの侮蔑の言葉から守るように、ぐっと身を固くする。
「……」
だが、土方は一瞬、手をとめただけだった。何も云わぬまま顔を寄せると、白い肌に唇を押しあててゆく。
総司は大きく目を見開いた。
「……どう…して……?」
思わず、声がもれた。
「どうして……驚かないの? 私は男なのに……」
それに、土方はくすっと笑った。
白い肌のあちこちに唇を押しあてながら、答えた。
「そんなの初めから知っていたさ」
「え」
「俺の目が女と男の見分けもつかねぇぐらい、節穴だと思っているのか。おまえが男でありながら尼僧の姿をしてる事なんざ、初めから知っていたのさ」
「……っ」
総司はきつく両手を握りしめた。
男の言葉に、今まで「どうして?」と思っていたことへの答えが導き出されてくる。
拒絶しつづけた態度。
総司にだけ向けられた、冷ややかな視線。嘲るような笑み。
そのすべては、彼が知っていたからだったのだ。
男でありながら尼僧の姿をしている自分を侮蔑し、嘲り、だからこそ、あんなにも冷たく拒絶してきたのだ。
(……私は、こんなにも嫌われていた……?)
それなのに、自分は彼に「出て行かないで」と縋りついて。どれほど情けなく惨め奴だと思われていたことか。いつもいつも、冷ややかな侮蔑の目で見られていた理由が、今───……
「いやああッ!」
総司は喉も張り裂けんばかりの悲鳴をあげると、全身で抗った。
恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて。
これ以上、彼の前にいたくなかった。
この上、体を犯されるなど、惨め極まりない話だ。そんな事なら、いっそ舌を噛んで死んだ方がましだった。だが、自殺は神の教えに背くことになる。総司にできるはずがなかった。
「いや! 離して! これ以上……やめて!」
「お楽しみは、これからだろうが」
土方は薄く笑い、総司のしなやかな体のラインを両手でなぞった。ほっそりとした腰を柔らかく撫であげる。
「たっぷり教えてやるよ。世の中、綺麗ごとばかりじゃねぇって事をな」
そう云いざま、土方は総司の尼僧服をすべて脱がせてしまった。抗うが下着も抜き取られ、あっという間に総司は、尼僧服を両腕に絡ませただけのしどけない格好にされてしまう。
瑞々しくも美しい、しなやかな細い裸身が、男の目に晒された。
「……綺麗だな。それに、これ……可愛いよ」
くっくっと喉を鳴らして笑いながら、土方は総司のものを指さきでくるんと撫でてみせた。とたん、ぴくっと震えるそれに、満足げに微笑む。
「すげぇ快感を教えてやる」
そう云いざま、土方はゆっくりと総司の下肢に顔をうずめた。慌てて閉じようとする白い太腿に指を食い込ませて押し広げ、果実のような総司のものを唇に咥えこんでゆく。
「や……!」
総司は信じられぬ程の快感に、身を竦ませた。
何もかも初めてなのだ。自分でふれた事さえ、ほとんどない。なのに、いきなり熱くねっとりした舌で舐めまわされる刺激と快楽に、総司の躯は鋭く反応した。
「ッぁ、あ、あ、ぁああ…ッ!」
男の舌が鈴口に捩じこまれたとたん、一気に吐精してしまう。あっという間の出来事だった。男はそれをすべて嚥下した。
ごくりと鳴った音が生々しく、総司は快感の余韻にぶるっと身を震わせた。
「……や……」
啜り泣く総司に、土方は口許を手の甲で拭いながら、顔をあげた。唇の端をつりあげてみせる。
「よかったろ?」
「も…や、いや……っ」
「初めてだったのか? そうだよな、清らかなシスターさまだものな。男にこれを吸われた事なんざねぇか……なら」
云いざま、土方は総司の細い両足をぐいっと抱え上げ、右手を下肢の奥へすべらせた。白い腿のつけねから、割れ目の奥へと指さきを這わせてくる。
突然、小さな蕾を指さきで突っつかれ、総司は「ひっ」と喉を鳴らした。
くすっと笑う。
「なら、ここも……男を受け入れるのは初めてか」
「な…に? 何のこと……っ」
「男を受け入れた事だよ。ここに男のものを咥えこんだ事ねぇんだろ?って、聞いてるんだ」
あからさまな問いかけに、総司は大きく目を見開いた。
いったい、何を云ってるのか。
だが、男の言葉の意味する事に気づいた総司は、さぁっと頬を青ざめさせた。桜色の唇がわななく。
「ま…さか、まさか……そんな……」
「何だよ? 男同士のセックス、知らねぇのか?」
「や! いやだ……いやあッ!」
悲鳴をあげる総司に、土方は綺麗な顔で微笑んだ。指さきをほんの少しだけ蕾に挿し入れながら、甘やかな声で囁く。
「心配するな。云ったろ? すげぇ快楽を教えてやるって」
「やめて、やめて……お願い……」
「本当に、おまえは可愛いな」
小さく呟きながら、土方は身を起こした。そうして、ソファに総司を残したまま、キッチンへと部屋を横切ってゆく。
何かを探している音を聞きながら、総司は懸命に手首を縛るシャツを解こうとした。だが、きつく縛られたそれは、ますます食いこむばかりだ。
戻ってきた土方は、潤んだ瞳で睨みつけた総司に、苦笑した。
「けっこう、じゃじゃ馬だな。けど、まぁそこがいいか」
「勝手なこと……!」
足をばたつかせる総司を再び押さえ込み、土方は持ってきたオリーブ油の栓をあけた。金色のそれを己の指にとろりと絡めてゆく。
「何…して……」
「これでも代用品にはなるだろうよ」
そう呟くと、土方は油で濡らせた指を下肢にすべりこませた。先ほど少しふれた蕾を指さきでくすぐり、そのままぐっと挿入してくる。
「っ……ひッ」
総司は思わず喉を鳴らした。指一本でもすごい違和感だ。少し痛いぐらいだった。
ふるふると首をふった。
「や、抜いて……指、抜いて……」
「馴らさないままで貫かれてぇのか? 下手すりゃ裂けちまうぜ」
そう云ってから、土方は顔を近づけた。薄く笑いながら、ぺろりと獣のように舌なめずりしてみせる。
「ま、おまえの血も見てみてぇ気もするけどな」
「な…やっ、んん、いや……っ」
「力を抜けよ、もう一本入れるぞ」
蕾の奥の圧迫感が強くなった。ぐちゅっと音が鳴り、男の指が奥を広げるようにうごめく。
それを感じながら、総司はきつく唇を噛みしめ、息をつめた。
こんな屈辱的なこと、恥ずかしいことを、どうしてされなければならないのか。
どうして……?
そんなにも、この人は私を痛めつけたいのだろうか。
蔑むだけでは飽きたらず、私を苦しめ辱めてやりたいと思ったのだろうか。
(……ひどい……!)
総司はまた熱い涙があふれるのを感じた。
確かに男でありながら尼僧の姿をし、はからずも彼を欺く事になってはいたが、それでも。
ただ、傍にいて欲しいと願っただけなのに。
生まれて初めて、誰かの存在が傍にあることを心から望んだのに。
なのに、どうして?
どうして、こんな酷い事をされなくちゃいけないの……?
「……総司」
声もなく泣いていると、不意に静かな声で名を呼ばれた。
そっと、まるで花びらを降らすように、指さきで唇にふれてくる。親指で、なぞるように優しく撫でられた。
「息を吐け……それじゃ、おまえが辛いぞ」
「……っ……」
「そうだ。いい子だな……そうして、呼吸をくり返しておけ」
土方は低い声で云い聞かせると、静かに指を引き抜いた。
ベルトを緩める音が鳴り、総司の両膝裏に手がかかったかと思うと、ぐっと上に押しあげられた。
ぼんやりと目を開いた総司の視界に、こちらを見下ろす土方の端正な顔が映った。僅かに眉を顰め、じっと見つめている。だが、すぐに視線をそらした。
そして、柔らかな蕾に己の猛りをあてがうと、躊躇いなく一気に貫いた。
「……ッッ!!」
悲鳴は声にもならなかった。
総司の目が大きく見開かれ、その細い躯が激しく仰け反った。
それを抱きしめながら、土方は腰を捩るようにして最後まで突き入れた。
初めて男を受け入れさせられたのだ。
もの凄い圧迫感と質量、そして、熱いほどの苦痛に、総司は「ひぃ…ぃ…ッ」とか細い悲鳴をあげた。縛られた腕が震え、大きな目からぽろぽろ涙がこぼれ落ちる。
それを、土方はどこか痛ましげな表情で見つめた。手首を縛っていたシャツを解くと、優しくその躯を撫でさすってやる。
「総司……いい子だ、息を吐け」
「や…でき、な…ひッ、ぁあ、痛ッ…っ」
「このままじゃ怪我しちまうぞ。頼むから、息を吐いてくれ」
優しい声で云い聞かせてくる土方に、総司は逆らった。
激しく首をふり、涙に濡れた瞳で、どこか遠い処を見つめた。桜色の唇がわななく。
「助け…て……」
「総司」
「……助けて……神…様……っ」
「!」
とたん、土方は顔をしかめ、忌々しげに舌打ちした。総司の髪に指をからめると、かるく引き起こさせる。
涙でいっぱいの瞳を深々と覗き込み、怒りにみちた声で告げた。
「今、おまえを抱いているのは俺だ」
「いや……神様……っ」
「神なんざに助けを求めるな」
「ひ、やぁ…あ…お…助け下さい……神さ…ま……!」
あくまでも神に助けを求める総司に、土方の瞳が怒りに燃えあがった。
きつく唇を噛みしめながら身を起こしたかと思うと、総司の両膝を乱暴に抱え込む。そのまま、容赦ない抽挿を始めた。
たちまち、悲鳴が部屋にまき散らされた。
「っ…やぁああッ!」
総司は痛々しい泣き声をあげ、身もだえた。
「やぁ、あっ、いたぁ…痛、いッ、やめ……ッ!」
「今さらやめれるか」
くっくっと喉を鳴らし、土方は残酷に嗤った。獰猛な獣のように光る黒い瞳が、泣き叫ぶ総司を眺める。
「それになぁ、やめて欲しけりゃ神に助けを求めろよ。本当に、神が助けてくれると信じてるならな」
「ぅ…くっ…ぁあっ、ひっ、ぃああッ」
「ほら、さっきみたいに……助けてって泣いてみろ」
嘲りにみちた口調で云い放ちながら、土方は抽挿をより速めた。男の猛りが小さな蕾に、音をたてて抜き挿しされる。
蕾の奥を男の猛りで鋭く穿たれ、総司は細い悲鳴をあげた。苦痛と、熱に、視界が何度もまっ白にスパークする。
「やっ、いや…ぁあっ、あああッ」
総司は涙で濡れた瞳で、土方を見上げた。だが、すぐにまた最奥をぐっと鋭く抉られ、悲鳴をあげる。
激しく揺さぶられながら、首をふった。
(……どうして……?)
本当は、もっと優しくされたかったのに。
この人に、この冷たくて残酷な男に。
私は、ただ……愛されたかった、だけなのに───
(……え……?)
不意に、総司は大きく目を見開いた。
今、自分は何を思ったのか。何を考えたのか。
霞みかける意識の中、懸命に自分の思考をたどり直した総司は、とたん、かぁっと頬を火照らせた。
(あぁ……そうだったんだ……)
今までずっとわからなかった、何度考えても理解できなかった。
そんな自分の中の気持ちが想いが、たった一つのものへと形づくられてゆくのを、痛いほど感じた。
彼を見るたび、どきどきして。
ずっとずっと傍にいて欲しくて。
優しくされたくて。
それが何故なのか、わからなかった。どうしても理解できなかった。でも、だけど、今ようやく──こんな酷い事をされた今になって、理解できた。
自分は、この人を好きなのだ。いや、ただ好きなどという気持ちではない。もっと深い、もっと激しいこの想いは───
(私は…この人が好き……)
総司は胸が痛くなるほどの切なさで、その想いを心にくり返した。
(好き……だい好き、愛してる……)
「……ぁ……」
無意識のうちに、総司は両手をのばしていた。おずおずと躊躇いがちにだったが、男の腕に縋りつき、その広く逞しい胸に顔を寄せた。
ふり払われるかと思ったが、土方は縋りついてくる総司に気づくと、その細い躯に両腕をまわしてくれた。柔らかく、すっぽりと胸もとに抱きすくめてくれる。
貪るようだった残酷な動きもとめ、その瞳をそっと覗き込んだ。
それに一縷の望みを抱きながら、総司は濡れた瞳で男を見上げた。
「……お願…い、助け…て……っ」
掠れた声が哀願した。
「土方さん……優しく、して……お願い……」
「……」
土方の目が細められた。
満足そうに喉奥で笑うと、総司の白い首筋や頬に唇を押しあてた。
「……いい子だ」
甘く優しい声で囁いた土方は、総司の背に手をまわし、柔らかく抱き起こした。
ソファの背に凭れさせ、花びらを降らすように、胸もとや首筋へ優しいキスを落としてくれる。
そのまま指さきを胸から下肢へすべらせ、総司のものに手をのばした。萎えてしまったそれを、柔らかく愛撫しはじめる。
「ぁ…ん……っ」
微かな喘ぎがもれ、総司の頬にゆっくりと赤味が戻ってきた。それを確かめてから、今度は胸の尖りを舌でぺろりと舐めてやる。
「ん…ふっ、ぁあ……っ」
ふるふると首をふってみせる総司が可愛らしい。
土方は総司のものを優しく高めてやりながら、半ば抜いた己のものにオイルを滴るほど垂らした。
そして、総司の躯にのしかかると、再び奥へ突き入れてゆく。
「ぁ…ぁああッ!」
とたん、甲高い悲鳴が唇からもれたが、そのなめらかな頬は薔薇色に紅潮したままだった。総司のものも萎えていない。
それを確かめつつ、土は腰を進めた。
「は…ぁあッ、あっ、ぁあ…ん、土方…さん……っ」
「辛くねぇか……?」
「ん、んん……へい、き…ぁ、ぁあっ」
総司は土方の首を細い両腕でかき抱き、躯を密着させた。素肌がふれあって、その滑らかな感触がとても心地よい。
何よりも、愛しい男に抱かれているのだ。
その事が総司の身も心も甘くとろかし、至福へと誘った。
「……総司……」
最奥まで男の猛りを受け入れさせると、土方は小さく息を吐いた。そのまま、ゆっくりと優しい律動を始める。
ゆらゆらと宥めるように柔らかく揺らされ、総司は艶めかしく喘いだ。
「ぁ、あ、ぁあん、ぁ…あ、んんっ……」
「総司……少しは感じてるか? 気持ちいいか」
「い、いい…ん、ぁ、あ…そこ、いいぃ…ぁあッ」
「ここだな、総司……もっとよくしてやる」
土方は喉奥で笑うと、身をおこし、総司の両足を肩に担ぎ上げた。深く猛りを蕾に埋めこんだまま、最奥を淫らに掻き回し始める。
強烈な刺激に、総司の細い躯がしなやかに仰け反った。
「あぁーッ! い、いいぃっ…そこ、そこ…すごい…っ」
「……は、ぁ…すげぇ熱っ……」
「ぁ、ぁあっ、土方…さん、土方…さん……っ!」
総司は熱い快楽に泣きじゃくりながら、彼の名だけを甘えるように呼びつづけた。
土方も優しい声で、何度もその名を囁いてくれた。
手をのばせば抱きしめられ、その指さきに頬に、甘く優しく口づけられる。
まるで、恋人同士のようなセックスだった。
強引な──無理矢理であるはずだった行為が、いつのまにか、甘く優しいものに変化していた。
それは、二人の心深くに隠されていた気持ちゆえだったのか。
ずっと押し隠しつづけてきた真実が。
熱く激しいその想いが。
この世の誰よりも愛おしい互いにふれあった瞬間、堰を切るがごとく一気にあふれ出てしまったのか。
もう、彼ら自身にさえわからなかったけれど───
(……好き、好き……愛してる……)
ただ、それだけを想いながら。
愛しい男の腕の中、生まれて初めて知った恋と快楽と至福に、総司はうっとりと目を閉じた……。
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[あとがき]
ほとんどお褥シーンでした。警告させて頂きましたので、大人な皆様は自己判断の上でお読み下さった事かと。
とにかく、土方さん、酷い男!です。悪い男というべきか。それでも、いや、悪い男だからこそ尚のこと、総司は惹かれ虜にされちゃうんです。この後はお褥シーン皆無です。つづき、また読んでやって下さいね。>
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