土方は、寺の近くを中心に探した。
宿屋や茶屋などに連れこまれていればまだいいが、人の家ならばどうしようもなくなる。それだけが不安だった。
だが、幸い、目撃した者がいた。気を失った愛らしい娘を抱えた酔漢が茶屋に入っていく姿を見たと、教えてくれたのだ。
それを聞いた土方は、すぐさま、その茶屋に踏み込んだ。
出会い茶屋にしては大きな構えの建物だった。そのため、離れもあるらしく、総司はそこに連れ込まれたようだ。
娘をめぐっての痴話騒動だと思ったのだろう。金を掴ませると、店の者はすぐさま部屋を教えた。
土方は呼ぶまで来るなと云いつけ、足早にその離れへ向かった。周囲の部屋に人気はなく、もう夜なので庭も闇に沈んでいる。
だが、奥の部屋だけはぴったりと障子が閉め切られていた。
突然、悲鳴が響く。
「は、離せ……! いやだっ」
(……総司……!)
土方は障子を荒々しく押し開いた。
男は酒臭い息を吐きながら、総司の躰におおいかぶさった。
必死に逃れようと身をよじるが、逃れようがない。男の手が躰のあちこちを撫でまわすのを感じ、ぞっと鳥肌がたった。
思わず悲鳴をあげた。
「は、離せ……! いやだっ」
その時だった。不意に足音が迫ったかと思うと、障子が開く音がした。
思わず絶望する。
仲間がいたのだ。逃げることなど到底できないと思った。
だが、不意に躰の上に圧迫がなくなった。男が引きはがされ、叩きつけられる音がする。しばらくは、男たちの争う物音と、息づかいだけが響いた。
「……っ」
その間、総司は身を竦ませている他なかった。逃げようと思うが、後ろ手に縛られた状態では立ち上がることも出来ないのだ。
やがて、一つの足音が逃げ去っていくのを聞いた。
障子が閉められ、男が歩みよってくるのを感じた。
総司は訳がわからなかった。
仲間割れなのか、それとも、別の男なのか。
だが、敵であることは確かだった。自分を娘と誤解して、手込めにしようとしているに違いないのだ。
「寄るな……っ」
思わず叫んだ。
「男になど……さわらせるものか! 汚らわしい!」
「……」
とたん、男の雰囲気が変わったのを感じた。
視覚を塞がれているためか、ひどく敏感だった。だからこそ、感じたのだろう。
男の怒りと殺気を。
ぐいっと腕を掴まれた。そのまま腰と膝裏に腕をまわされ、抱きあげられる。
総司は驚き、暴れた。必死に身を捩り逃れようとするが、男の腕は鋼のようでびくともしない。
やがて、布団の上に総司は降ろされた。すぐさま男がのしかかってくる。
「い、いやあ……っ!」
悲鳴をあげた。
男は酔ってはいないようだった。
だが、先ほどの男とは段違いの、体格の良さ、力の強さだった。到底、逃れられそうにもない。
総司は躰が震えだすのを感じた。怖いとしか思わなかった。
男との契りを、総司は嫌悪したことはなかった。
何しろ、昔から土方に恋してきたのだ。
愛されたいと願ってきたのだ。
だが、それも、愛する男だからこそだった。
愛する男だからこそ、躰を開き、受け入れたいと願ったのだ。
なのに。
「……っ、いや…いやだ……っ」
男の手が素早く帯を開いた。
着物が脱がされてゆく。
腕を縛っているため、前を開いただけの恰好だったが、尚更しどけなかった。白く細い両腕に着物を纏わりつかせたその姿は、男の嗜虐心を煽る。
むろん、男は土方だった。総司を助けるために、この茶屋へ踏み込んだのだ。
愛しい若者を救いだし、抱きしめてやるつもりだった。
だが、総司の言葉に、頭の奥がかっと熱くなった。
男になど……さわらせるものか! 汚らわしい!
それが本心なのかと思った。
自分に好きだと告白しながら、その実、男にふれられることを嫌悪し、汚らわしいとさえ思っている。
その事実を知ったとたん、血が逆流するような怒りを覚えた。憎いとさえ思った。
目隠しをされ、手を縛られた総司は、ただでさえ煽情的だった。ひどく異常な艶めかしさで、男を刺激していた。
そこに、この言葉だ。
到底、堪えられるはずがなかった。今まで堪えに堪えてきた男の箍が一気に外れてしまった。
後はもう激流に身をまかせるのみだった。情欲のまま突き進む他ないのだ。
土方は抗う総司の躰を抑え込み、愛撫をほどこしていった。
夢にまで見た白い肌だった。手にすいつくような白い肌は、まるで絹のような手ざわりだ。
しかも、敏感だった。
総司はあんな生意気な事を口走り、抗いながら、躰はとても敏感で男の愛撫に愛らしい反応を返してくるのだ。
むろん、本人の意思に反して。
「ふ…ぁっ、ぁ、ぁあ…や、ぃやぁ……っ」
胸の尖りを丹念に舐めあげながら、わき腹を手のひらで撫でおろした。それに、総司が啜り泣くような声をあげ、身を捩る。
何度も舐めてやると、胸の尖りはぷっくりと勃ちあがった。それが愛らしい。
片方の尖りもくすぶってやると、総司は頬を真っ赤に火照らせて泣き出した。ここが酷く弱いらしい。
土方は執拗なほどそこを責めてから、下肢へと手をのばした。総司のものを手のひらに包み込んだとたん、びくりと腰が跳ね上がる。
「ぃ、ぃやあっ」
男の手の中で、総司のものは愛らしく震えていた。
だが、感じている証に、くぬりと指で撫でてやれば、たちまち先端が濡れてくる。
「……」
思わず喉奥で笑った。
それに、総司が肩を跳ね上げた。
何とか後ろ手に縛られた紐を解こうとしているようだが、無駄な抵抗だった。まったく身動き一つ出来ないのだ。
土方は総司のものを撫でながら、首筋に、頬に、口づけを落とした。たまらなくなり、唇を重ねる。
腕の中で、総司の躰がびくりと震えた。
舌を入れれば噛まれるかと思ったが、噛まれても構わなかった。
欲しくてたまらないのだ。
何もかも貪るように喰らいつくしてやりたい。
(……総司……っ)
この世の誰よりも愛しい恋人を抱きすくめ、土方は深く唇を重ねた。
総司は目を見開いた。
ほんの少しだけ、男がもらした声だった。喉奥の低い声。
だが、それに聞き覚えがあった。覚えどころか、確信と云ってもよかった。
どうしても確かめたくて、相手の顔が見たくて、必死に紐を外そうともがいた。
だが、酔漢が縛った紐は固く結ばれている。びくともしない。
諦めかけた時、男が総司の首筋や頬に口づけをおとした。やがて、唇を重ねられる。
甘く激しい口づけに、総司は躰が震えた。思わず叫びそうになった。
(……土方さん!)
どうして助けに来てくれたのであろう土方が、自分の躰を手込めにしようとしているのか、自らの正体を現さないのか、まるでわからなかった。
だが、何度も抱きあい、口づけあった恋人なのだ。ずっと恋こがれてきた男なのだ。わからないはずがなかった。
身を擦りよせてみれば、抱きしめる逞しい腕も、唇の感触、口づけの仕方、ぬくもり、匂い、すべてが土方であることを指し示していた。抱きあげられた時にわからなかった事自体が不思議な程だった。
(……よかった……この人は土方さんだ、私を抱いているのは土方さんだったんだ)
先日、契りを結ぶ気はないと断言した彼だった。
だが、何がどうであれ、今、彼は自分を抱いてくれている。
躰を重ねてくれているのだ。それが、たまらなく嬉しかった。
土方の名を呼ぼうとは思わなかった。彼自身、無言のままであるという事は、知られたくないのだろう。名も知らさぬまま契りを交わしたいと願っているのか。
もしかすると、躰を重ねたことで起こるいざこざや、後くされを疎んじているのかもしれなかった。
今まで沢山の女たちとつきあってきた土方だ。躰の関係を結んだとたん、縋りつかれ面倒に巻き込まれた事もあるのだろう。
だからこそ、今、総司を自分だと告げぬまま抱こうとしているのかもしれない。
むろん、そこまで抱こうとする価値が自分にあるのか、謎だったが。
(気まぐれ? 興味本位? ……何でもいい。この人が私を求めてくれるなら……)
総司は躰の力を抜き、土方の腕に身をゆだねた。口づけにも甘く応えていく。
だが、逆に、土方が戸惑っているのが伝わってきた。いったん躰を離し、まじまじと探るように総司を見つめているようだ。
それに、総司は躊躇いがちにだったが、小さな声で云った。
「……もう抵抗、しません」
「……」
「痛い思いはしたくないし、どうせ逃げられないのでしょう? なら……お願い、紐を解いて下さい。逃げないし、抵抗しないから」
「……」
しばらくの間、土方は無言だった。押し黙ったまま、総司の様子を見ている。
だが、やがて、願いどおり、総司の手を縛っていた紐を解いてくれた。その上、痛さが残る手首を優しく撫でさすってくれる。
その行為に、総司はますます彼が土方であることを確信した。ただの暴漢がこんな事をするはずがないのだ。
柔らかく抱きしめられた。また口づけられる。
それに、総司は両手をのばし、男の背に縋りついた。唇を重ね、互いを求めあっていく。
「ん…ぅ…っ、ぁ…は、ぁ……っ」
唇を重ねながら、土方は総司の躰の熱を高めた。総司のものを優しく愛撫し、蜜をこぼれさせていく。
今や、総司のものは今にも蜜をこぼしそうな果実そのものだった。腰を浮き上がらせて悶えると、不意に、土方が躰を下へすらした。
え? と思った総司は、次の瞬間、悲鳴をあげていた。
「ぃ…やあっ」
男が総司のものをしゃぶり始めたのだ。
かぁっと頬が火照り、恥ずかしさに身悶えした。必死になって腰を動かそうとするが、がっしり掴まれた状態では逃れられない。
土方は舌を鳴らして総司のものを舐め、淫らにしゃぶった。
何もかも初めての総司は一たまりもなかった。あっという間に達してしまう。
「ぁ…は、ぁ……はぁ……っ」
肩で息をしながらぐったりと褥に身を沈める総司を、土方は満足げに眺めているようだった。蜜を指さきに絡め、そのまま下肢の奥へとすすめてくる。
「……ぁ…っ」
蕾に指を挿しこまれ、思わず声をあげた。痛みはないが、怖い。
だが、土方は慎重だった。ゆっくりと焦らず、総司の蕾を丁寧にほぐしてくる。
傷つけないようにという配慮だろうが、そんな処を丁寧にまさぐられ、総司は恥ずかしくてたまらなかった。あの綺麗でしなやかな指が、自分の蕾を愛撫しているのだ。そう考えるだけで、たまらなかった。
土方はいったん総司から離れると、褥脇に置いてあった小箱からふのりを取り出した。それを丁寧に指にからめ、また蕾に沈めてくる。
もっとも、目隠しをされている総司は、そのすべてがまったく見えなかった。何をされるかわからぬまま、ただ男の躰の下で喘いでいる。
やがて、土方は総司の細い両足を抱え上げた。膝裏に手をかけて押し広げ、蕾に己の猛りをあてがってくる。
そのまま一気に貫いた。
「ぃぁ…ぁ、ああーッ」
甲高い悲鳴をあげ、総司はのけ反った。無意識のうちに上へ上へと躰が逃れてしまう。
それを引き戻し、土方は総司の躰を無理やり二つ折りにした。上から、ぐっぐっと最奥まで突き入れてくる。
そのたびに、総司は「…ぃッ、ひィッ」と悲鳴をあげた。
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「ぃ…やあっ、ぃた…痛いッ…っ」
泣きじゃくりながら、激しく身を捩った。男の肩に腕を突っぱね、抗う。
だが、土方は総司を離そうとしなかった。逞しい両腕で抱きすくめ、頬に首筋に口づけを落としてくる。
それがたまらなく心地よく、優しかった。
今、自分を抱いているのが誰なのか、総司に教えてくれる口づけだった。
「ぁ……」
何度も啄むように口づけられ、躰から力が抜けた。思わず男の肩に縋りつく。
それが合図だったように、土方はゆっくりと動き始めた。慎重に抽挿をくり返してゆく。
「ん…ぁっ、ぁあっ、や…っ」
怖がり泣くと、すぐさま甘い口づけが与えられた。それに陶然となるうちに、躰を揺さぶられる。
むろん、まだ苦痛はあったが、それと同時に疼くような快感美を覚えた。蕾の奥を穿たれるたび、背筋を甘い快感が突き抜けてゆく。
「ぁあっ、はぁ…あっ、ぁあ……っ」
総司は男の躰の下で、啜り泣いた。指と指をからめあい、何度も口づけをかわす。
やがて、土方は総司の膝裏に手をかけると押し広げ、激しく腰を打ちつけ始めた。はぁっという息づかいが聞こえ、それが色っぽい。
彼が自分の躰で気持ちよくなってくれている、そう思うだけで心も躰も熱くなった。
嬉しくて、幸せで、彼の逞しい躰に手足をからめ、きつく激しく求めてしまう。
「っあっ、気持ち…ぃ、いぃっ、ぃ…ぁあッ」
「……く……っ」
「んぅっ、ぁあっ、ぁああッ!」
一際鋭い悲鳴をあげた瞬間、総司は再び達していた。蜜が迸っていく。
それと同時に、総司の腰奥で男の熱いものが叩きつけられるのを感じた。
初めての感覚に、目を見開いた。
思わず逃れようと身を捩るが、土方がそれを許さなかった。しっかりと抱きすくめ、射精しながら腰を打ちつけてくる。
そのたびに感じる熱に、泣き声をあげた。
「ぃ、やぁ…こ、怖い…っ…ぁ…っ」
泣きじゃくる総司を、土方はきつく抱きしめた。何度も口付けられる。
それが気持ちよくて、幸せで、男の逞しい躰に縋りつき、啜り泣いた。
土方は、そんな総司を、優しく包みこむように抱きすくめた……。