「……抱いて」
 桜色の唇が、小さく囁いた。
 それは吐息のように、だが、花のように柔らかだった。
 土方は目を見開き、腕の中の総司を見下ろした。総司は瞳を潤ませ、男を見上げている。
「いいのか……?」
 念押しすると、総司は長い睫毛を瞬かせた。ぎゅっとしがみついてくる。
「いいのです……私は、あなたに抱かれたい」
「総司……っ」
 堰きは切って落とされた。
 土方は若者の細い躰を組み敷くと、荒々しく貪りはじめた。その男らしい乱暴な愛撫にも、総司は甘い声をあげる。
 総司のものをしゃぶり、何度も何度も蜜を吐きださせた。そのたびに、総司が泣き声をあげ、躰を震わせる。恥ずかしがるのを抑え込み、蕾を丁寧にほぐした。ふのりなどというものはないため、仕方なく、家にあった丁字油を使った。
 ぬるりとした油を絡めた指を挿しこんでゆくと、総司は細い眉を寄せた。
「っ…ぃ、や……ぁ」
「息を吐くんだ、総司」
「ぅ…ん、っ……ぁ……っ」
 総司の細い指が縋るように、男の腕を掴んでいた。それが痛々しくも、可愛い。
 土方は総司の様子を見ながら、丁寧に蕾をほぐしていった。むろん、わかっている。この体格差だ、痛みなしに交わることが出来るはずもなかった。だが、少しでも痛みを和らげてやりたい。
 指が三本も入るようになると、総司も甘く掠れた声をあげるようになった。蕾はぬるぬると濡れ、ほぐれてきている。
 頃合いだと見た土方は指を抜き、その膝を掴んだ。左右に押し広げると、総司の頬にぱっと朱がのぼる。
「い、いやっ」
「少しだけ我慢してくれ」
「だ、だって……こんな恰好、恥ずかし……っ」
 恥ずかしがる総司がたまらなく可愛い。
 そのなめらかな頬に口づけてから、土方は濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがった。びくりと総司が震えたのを見てとり、躰を強張らせる隙もあたえず、一気に貫く。
「ぃ…あッ…ーッ!」
 悲鳴は半ば声にならなかった。
 まるで狩られる小動物のような痛々しい声を、総司はあげた。苦痛のあまり、反射的に上へずりあがって逃げようとする。その細い肩を掴んで引き戻し、土方は己の猛りで最奥を乱暴に穿った。
「ヒィッ!」
 鋭い悲鳴をあげ、総司がのけ反った。大粒の涙がぽろぽろと零れる。
 両手が畳を這い、きつく爪をたてた。
「や…ぁッ、ぁ…ぃ、たいッ…痛いッ…っ」
「総司……息を吐くんだ。勝手に動くな」
「だ、って……やッ、土方さ……抜いてぇ……っ」
 泣きながら首をふる総司に、土方は眉を顰めた。怪我をさせてしまったかと蕾を指で探るが、傷はなく血も出ていないことに安堵する。
 総司のものを手のひらに包み込み、柔らかく愛撫した。
「ほら、息を吐いて……気持ちいい事だけを感じるんだ」
「っ……だ、めぇ…っ、ぁ……ぁ……」
 拒絶の言葉を吐きながら、それでも、次第に総司の躰は男に馴らされつつあった。なめらかな頬に赤みが戻り、痛いほど男の猛りを締めつけていた蕾も少し柔らかさを取り戻しはじめる。
 それを見てとり、土方はゆっくりと躰を起こした。総司の膝裏を掴んで持ち上げ、慎重に抽挿を始める。
 総司の目が見開かれ、悲鳴があがった。
「い、いやぁっ、動かな……ッ」
「総司、よくしてやるから」
「ゆ、許して……怖いっ、ぁッ、ひぃぁあッ」
 怖がり泣きじゃくる総司が可愛くて、いとけなくてたまらない。可憐で愛らしいのに、一方で、男の欲を煽りたてるのだ。大事に愛してやりたいという気持ちと、めちゃくちゃにしてやりたいという欲望がせめぎ合う。
 土方はともすれば暴走しそうになる己を懸命に抑え、総司の細い躰を抱いた。何度も何度も、総司の感じる処だけを根気よく穿ってやる。
 次第に、総司の声が甘く掠れはじめた。僅かでも快感を覚えているのか、とけそうな吐息さえもらす。
「ん…っぁ……は、ぁ…っ」
「総司……いいか? 少しは感じるか」
「やっ、ぁ、わからな…っ、土方さん……っ」
 泣きながら総司が土方の肩に縋りついてきた。それを思わず抱きよせる。
 頬に、首筋に、唇に、口づけを落とした。互いの瞳を覗き込めば、想いがつたわるような気がする。
 土方は総司の膝を抱え込み、激しく腰を打ちつけ始めた。とたん、総司が泣き叫んだ。
「ぁ、ぁあーッ……」
 乱暴なまでの動きだったが、抗いはなかった。男に貪られるまま、甘い声をあげつづける。
 それが尚の事、土方を煽った。総司の躰を二つ折にしてのしかかり、最奥を己の猛りで思うさま穿つ。
「っ、ぁっ、ぁあっ…ぃ、やぁっ」
 総司は泣きじゃくった。
 濡れそぼった蕾の奥を太い猛りが擦りあげるたび、強烈な快感が背筋を突き抜ける。甘い疼きがじわっと広がり、自分ではどうしようもなくなるのだ。
「ひっ…ぃあっ、ぁあ…ッ、ぁアッ」
「おまえの中……すげぇ熱……」
「いっちゃ…ぃやぁっ、ぁ、ぁんっ、んッ」
 もはや快楽にとろけてしまった総司は、男に縋りつき、泣くより他なかった。細い腕でしがみつき、何度も何度も与えられる快感に泣いている。
 土方は堪らず喉を鳴らし、その細い躰をきつく抱きすくめた。そのまま激しく腰を打ちつける。
「ぃっ、ぁあっ…ぅ、ぁっ…ぁあ」
「……総司……っ」
「ぁっ、ひぃっぁアッ、あっ、ぁあーッ」
 一際甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司の蕾の奥に男の熱が叩きつけられていた。それと同時に、総司のものも蜜を迸らせる。
 土方は射精をしながらも、激しく穿ちつづけた。断続的にもたらされる快感を怖がり、総司が泣きじゃくる。
「ぃ、やぁっ、ぁ…ぁ、ぁ…」
 必死に上へ逃れようとしたが、男が逃がすはずもなかった。囚われの恋人を抱きすくめ、その躰の奥深くに己の熱を注ぎこむ。そのたびに、総司の躰が震え、桜色の唇から啜り泣く声がもれた。
 やがて、土方は満足し、はぁっと吐息をもらした。汗ばんだ髪をかきあげ、総司の瞳を覗き込む。
「……土方、さ…ん……」
 見つめ返し、小さな声で呼んでくれる総司が、誰よりも愛おしい。気も狂いそうなほど、愛しくて愛しくてたまらなかった。
 土方は瞼を閉じると、夢にまでみた恋人をそっと抱きしめた……。
















 朝の光が柔らかく射しこんでいた。
 それをぼんやり眺めていた総司は、ふと自分の手が弄ばれているのに気づいた。指さきをふれあわせ、手首を柔らかくなぞってゆく。
 彼の悪戯だったが、不思議なことに躰の奥がじんと疼いた。手首を撫でられるたび、甘い声がもれそうになる。
「……だ、め」
 慌てて手をもぎはなし、くるりと躰を反転させた。だが、とたん、感じた腰の重さに顔をしかめる。
 土方がすぐさま腰に手をあて、引き寄せた。
「大丈夫か、痛むのか」
「少し……なんか、おかしな感じです」
「それはそうだろう。何もなかったら、俺の方が困るさ」
「え? どうして?」
「それは、おまえ……」
 土方は思わず視線をそらした。
「おまえの躰が男に馴れているって事になっちまうからな」
「……」
 総司は目を瞬いた。土方の言葉の意味はわかる。だが、それでどうして、彼が困ってしまうのだろう。
 むろん、それをここで聞くのは、まずい気がした。また彼の気持ちを逆なでしてしまいそうな予感がしたのだ。
 代わりに、あどけなく笑うと、男の胸もとに顔をうずめた。抱きしめてくれる彼の腕が逞しく、心地よい。
「馴れてなんか……いませんよ」
「そうだな」
 頷いた土方の前で、不意に、総司が「あ」と声をあげた。慌てて顔をあげると、彼の胸もとに縋りつく。
「土方さん、無断外泊しちゃいました?」
「無断外泊?」
 聞き返し、土方は苦笑した。
「大丈夫だ、おまえが眠っている間に使いを出しておいた」
「知らなかった……」
「泊まってまずかったか?」
 少し心配そうに訊ねる土方に、総司は大きく首をふった。両手を彼の背にまわし、ぎゅっとしがみつく。


 もしも、朝目覚めた時、一人ぼっちだったら。
 どんなに辛かっただろう。
 躰を重ねた翌朝、取り残されるなんて、絶対に嫌だ。


「泊まってくれて、嬉しかったです」
 小さな声で答えた総司に、土方は微笑んだ。うっとり見惚れてしまいそうなほど、優しく綺麗な笑顔だ。
 なめらかな頬が両手ですくいあげられ、唇を重ねられた。ついばむように、何度も口づけをあたえてくる土方に、目を閉じる。


 この口づけも抱擁も、そして、契りを交わしたことも皆、意味なんてわからなかった。
 彼が自分をどうして抱いたのかさえ、わからない。
 だが、それでも、総司は構わなかった。
 流されるままであっても、気まぐれであっても、ずっと憧れ恋し、愛してきた彼に抱いてもらったのだ。
 一夜の夢であっても、この想いでさえあれば生きてゆける……。


 褥の中でさんざん睦みあってから、二人は朝の仕度をした。
 手早く着物をつけてゆく総司を、土方が傍らから手伝ってくれる。
 それに、総司も驚いた。確かに子どもの頃は色々と手助けしてくれたものだが、さすがに大人になってからは、自分で何もかも行っていた。なのに、今の土方は、総司を子どものように甘やかしてくる。
「自分で出来ますよ」
 慌てて断った総司に、土方は悪戯っぽく笑った。
「俺がやりてぇんだよ」
 江戸の頃のような口調と笑顔に、たちまち降参してしまう。結局、総司はほとんど土方に手伝ってもらう恰好で、身づくろいを整えた。
 土方は顔を洗ってから、手早く着物を纏う。こちらは総司が手伝おうとしても、一切手伝わせなかった。おまえは無理をせず坐っていろと云うばかりなのだ。
「朝餉の仕度を……」
 そう云って腰をあげかけたのだが、そんな総司を、土方はとどめた。
「いや、時がない。このまま行かせてもらうよ」
「ごめんなさい」
 総司は慌てて謝った。
 彼は忙しい身の上なのだ。なのに、引き留めてしまった自分が面倒ばかりかけている気がした。
 俯いてしまうと、土方の手がこんっと総司の頭を軽くたたいた。驚いて見上げれば、土方が苦笑している。
「そこで謝るな。全部、俺が望んだことだ。おまえが謝ることじゃねぇよ」
「土方さん……」
 こくりと頷いた総司に微笑みかけ、頬に口づけを落としてくれた。
 框を降りる土方に、総司は抱えていた彼の両刀を手渡した。それに、土方が微かに笑った。
「まるで、妻みたいだな」
「え……?」
「いや、埒もない事を云った。では、行ってくる」
「はい」
 土方は総司から受け取った両刀を腰にさすと、踵を返した。あとはふり返ることなく、家を出てゆく。
 総司は、土方の広い背が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。彼の姿が視界から消えると、小さな吐息をもらした。


(まだ夢を見ているみたい……)


 昨日は、怒涛のような一日だった。
 街中で突然、土方と再会して追いかけられて、捕まえられて。でも、色々と誤解がとけて仲直りが出来て、挙句、家にまであがってもらって……そして……。
 そこまで思い出した総司は、かぁっと頬が熱くなるのを感じた。恥ずかしくてたまらなくなったのだ。
 信じられないぐらいだった。


 あれは、本当にあったことなのだろうか?
 自分が勝手に見た都合のいい夢ではないのだろうか?


 そんな想いさえ抱いてしまう。
 それぐらい、総司にとって、土方という男は近くて遠い存在だった。子どもの頃から憧れ、身も焦がれるほど恋し、愛してきた男なのだ。彼が傍にいてくれるなら、他の何を投げ捨てても構わないと本気で思っていた。
 なのに、あんな仲違いをしてしまい、土方の傍を離れて、身を切られるような日々を送ってきたのだ。
 まさに、地獄だった。
 だが、それが突然終わりを告げたと思ったとたん、前よりも近しい関係となったのだ。
 むろん、総司も自惚れるつもりはない。
 土方も断言したのだ。弟のように好きなのだと。
 だから、昨夜のあれは彼の気まぐれだったのか、その場の空気に流されてのことだったのか。
「そんなの……何でも構わないもの」
 総司は小さく呟いた。
 土方に口づけてもらい、あの逞しい腕に抱きしめられた瞬間、夢見ているようだと思った。花びらに包まれるような幸福感に、涙がこみあげた。
 嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
 神様がたった一度だけ見せてくれた、贅沢な夢。
 そう思った瞬間、少しだけ胸の奥が冷えた。土方にとって、総司は念弟でも何でもないのだ。ましてや、妻でも妾でもない。
 新選組屯所に総司が在していない以上、再び逢うことができる確証さえなかった。土方が気まぐれに訪ねてきてくれることを、待つ他ないのだ。
 一度だけの贅沢な夢と弁えなければと思っても、胸奥の痛みは消えることはなかった。
「……土方さん……」
 愛しい男の名を口にして、総司はそっと目を閉じた。














 屯所へ戻った土方は多忙だった。
 昨日やり残していた仕事を片付けなければ、ならなかったのだ。しばらくの間は、総司の事も忘れ、仕事にひたすら没頭した。
 ようやく息をついたのは、昼過ぎのことだった。昼飯どころか朝飯も食べてない事を思い出し、腰をあげかける。その時、襖が開いた。
 驚いてふり返ると、近藤が悪戯っぽく笑いながら佇んでいた。後ろに小姓を連れている。
「飯を持ってきてやったぞ。昨日の不行状がたたって、大変な状況になっていると聞いてな」
「何だ、それ」
 土方は苦笑しつつ、近藤の好意を受けることにした。小姓が、二人の前に膳を並べていってくれる。
 それに、小首をかしげた。
「あんたもまだ食っていなかったのか」
「色々と朝から忙しくてな」
「そうか」
「おまえと違って、おれは不行状ではないぞ」
「俺だって、不行状なんざしてねぇよ」
「嘘つけ」
 近藤が笑った。
「昨夜は、祇園泊りか、島原泊りか。どのみち、女と遊んできたのだろう」
「いや、違う」
 きっぱりと否定した土方に、近藤は不思議そうな顔になった。否定する程のことでもないのだ。彼らの時代、花街遊びは度を過ぎなければ、一つの嗜みだ。
「では、どこに泊まっていたと云うのだ。女の処ではないのか」
「そうじゃねぇよ。総司の処に泊まったんだ」
 さらりと云ってのけた土方に、近藤は、危うく「そうか」と頷きかけた。だが、言葉の意味に気づき、目を見開く。
「総司の処だと?」
「あぁ」
「おまえ、昨夜、総司の所に泊まったのか」
「だから、さっきからそう云っているだろう」
 苦笑しながら答える土方の端正な顔を、近藤はまじまじと眺めた。