「……やめて」
 総司は首をふり、必死に懇願した。
「お願い……やめて、土方さん」
「総司、おまえは云ったな」
 土方は低い声で云った。
「自分はものではないと。だが、おまえは俺のものだ。それを……この躰にしっかり教え込んでやる」
 そう囁くと、土方は乱暴に総司の着物の袷を押し広げた。むき出しになった白い肌に口づけてゆく。己の肌に感じる彼の唇の感触に戸惑いながらも、総司は懸命に抗った。
 男の肩を掴んで引き離そうとするが、もともと体格の差がありすぎるのだ。完成された大人の男の体躯をもつ土方に、華奢な少女のような総司が抵抗できるはずもなかった。たちまち着物を脱がされ、激しい愛撫に晒されてしまう。
 下肢を開かれ、前回のように蕾の奥をほぐされた。以前より性急な行為だったが、それでも怪我をさせないためだろう、しっかりと油をつかってほぐしてくる。
 総司は何度も「いや」と叫んだが、土方はまったく聞く耳をもたなかった。優しく、だが、強引に事を進めてくる男に、泣き出しそうになる。


 どうして、こんな事になってしまうのか。
 再び彼と躰を重ねるなど、あってはならないのに。このままでは、ずるずると二人して深みに嵌っていきそうな予感がする。泥沼に堕ちてしまうに違いなかった。
 狂気じみた愛憎にとらわれたら、もはや逃げ出せなくなる。土方がどんな気持ちで自分を抱いてくるのかわからないが、一時の感情に流されていけない事だけは確かだった。
 そんな事をしてよい立場にある男ではないのだ。


「だめ……! お願い、土方さん」
 両膝を掴まれ、総司は悲鳴のような声をあげた。
 土方が己のものを蕾にあてがってきたのだ。ふれる彼の熱に躰中が震える。
「やめて、いやだ……こんなの嫌ぁっ」
 ぽろぽろ涙をこぼしながら哀願する総司に、土方もさすがに躊躇いを覚えたようだった。だが、今更やめられるはずがない。男の欲望はそう簡単に止められないのだ。
 きつく唇を噛みしめると、総司の膝裏に手をかけて押し広げた。そのまま、ゆっくりと突き入れてくる。
「ひ……っ」
 総司は息を呑み、必死に上へずり上がろうとした。だが、それを男は許さない。両腕でしっかりと華奢な躰を抱きすくめると、己の猛りで一気に蕾を貫いた。
「ぃ、やぁあーッ……っ!」
 目を見開き、総司は悲鳴をあげた。痛みに躰がすくみあがる。
 心が拒絶しているためか、最初の時以上の苦痛だった。泣きじゃくりながら、激しく首をふった。
「ぃ、痛いっ…や、やぁ…痛……っ」
「総司……躰の力を抜けよ」
「できな…ぃっ、ひぃ…ぅ……ッ」
 土方は総司の細い躰を抱きしめ、首筋や胸もとに口づけを落とした。苦痛のために萎えてしまった総司のものを掴み、柔らかくもみあげる。
 だが、そんな行為さえも、総司は拒絶した。
「いや……いや! さわらな……っ」
「総司……っ」
 激しい怒りに、頭の奥がカッと熱くなった。
 いっそ乱暴に犯してやろうかと思う。だが、そんな事が出来るはずもなかった。こうして無理強いしているだけでも、罪悪感が彼を責めたてているのだ。せめて痛みを少なくして、快楽へと導いてやりたかった。
 土方はともすれば湧き起ころうとする獰猛な衝動を抑え、できるだけ優しく総司のものを愛撫した。指さきで何度も撫であげ、技巧の限りをつくして快楽を引き出してゆく。
 それに、総司の躰も次第に熱を帯び始めた。もともと総司は土方を愛している。その愛しい男に抱かれて、快感を覚えないはずがないのだ。
「っ……は、ぁ……っ」
 甘い吐息をもらした総司に、土方は満足げに口角をあげた。蕾も柔らかくほぐれ、彼のものを優しく締めつけてくる。
 土方は総司の細い両足を抱え込むと、慎重に腰を動かし始めた。それに、総司が啜り泣くような声をあげた。
「ぁっ…ぁあっ、やぁ……っ」
「総司……」
「んっ、ぁ…ァッ、ぁんっ」
 快感に溺れはじめたらしく、なめらかな頬は紅潮している。口づけると、長い睫毛が瞬き、しっとりと潤んだ瞳が男を見つめ返した。
 その艶めいた表情に、思わず喉を鳴らしてしまう。土方はたまらずその細い躰を組み敷くと、激しく腰を打ちつけ始めた。
「ぁあーっ」
 甲高い悲鳴をあげ、総司がのけ反った。だが、その声にも表情にも、拒絶の色はない。
 土方は激しい抽挿をくりかえした。男の猛りが蕾の奥を激しく穿つたび、総司は声をあげて泣きじゃくった。今や快楽に完全に溺れてしまい、啜り泣きながら男の背に縋りついている。
 背に爪をたてられる痛みを覚えたが、目も眩むような快感がそれを凌駕した。愛しいものと交わることは、こんなにも強烈な快楽をもたらすのだ。
「……総司、すげぇ……最高だ」
「ぁあっ、土方…さ、ぁあっ…は、ァッ」
 総司の息遣いが耳元にふれた。白い両腕で縋りつき、泣きじゃくっている。それが愛しくて愛しくてたまらなかった。
 こうして身も心もとけあわせ、己だけのものにしてしまいたいと、渇望する。
「……総司……っ」
 熱いほどの愛しさと情欲に、乱暴なまでの手つきで総司の躰を抱き起した。己の剛直の上に腰をおろさせる。
 真下から貫かれ、総司が悲鳴をあげてのけ反った。
「ぁっ、ぁあーっ…ッ」
 そのまま両膝を抱え込み、何度も腰を上下させた。力強い律動で突き上げてくる土方に、総司は甘い声で泣いた。男の肩をかき抱き、縋りついてくる。
「ひ…ぁっ、ぁあっ…ぁ……っ」
「総司……すげぇ熱いな」
「ん、ん…ぁっ、ぁ、だめ……いっちゃ…ッ」
 二人の間で擦れた総司のものが弾け、蜜を迸らせた。
 一瞬、総司は躰を硬直させ、震えたが、むろん、土方はまだまだ満足していなかった。貪りつくしたい程の情欲が収まるはずがないのだ。
 総司の躰を畳の上に這わせると、後ろから貫いた。逃げようとする肩を抑え込み、何度も最奥を穿つ。
「ぁっ、いやぁっ、も…許してぇ…っ」
「……総司、くっ…ぅ……っ」
「っ、は…ぁあっ、ぁ、ぁああッ!」
 一際甲高い悲鳴をあげてのけ反った瞬間、総司の腰奥に男の熱が叩きつけられていた。二度目に感じる熱だが、その妖しい感覚に馴れることができない総司はびくりと肩を跳ねあげる。
 逃れようとしたが、土方がそれを逃がすはずがなかった。しっかりと抱きすくめたまま、射精しながら腰を打ちつける。
 奥をたっぷりと濡らされる感覚に、総司は泣きじゃくった。
「ひっ、やぁっ…ぁ、つい…っ、ぁっ…ッ」
 土方は射精を終えると、躰を重ねたまま、総司を後ろから抱きすくめた。先ほどまでの激しさと違い、柔らかで優しい抱擁だ。
 それに、総司は抗わなかった。否、もはや抗う気などまったくなかったのだ。


(土方さん……)


 愛しい男の名を呼び、そっと目を閉じた。











 目が覚めると、まだ外は暗かった。
 夜明け前なのだろう。障子の向こうが仄かに明るい。
 少しずつ白い花のような光が満たしつつある部屋の中で、総司は寝返りをうった。とたん、どきりとした。


(土方さん……!)


 すぐ傍に彼の寝顔があったのだ。
 褥に半ば顔をうずめるようにして、ぐっすり眠りこんでいる。これ程までに無防備に眠る彼を見るのは久しぶりだった。
 江戸にいた頃は何度か一緒に眠った事もあったが、京にのぼってからは別の部屋でしか休んだ事がなかったのだ。ましてや、仲違いしてからはあるはずもない。
 だからこそ、総司はこみあげるような幸せを感じた。いつも気持ちを張りつめさせている土方が、自分に心を許してくれている証のように思えたのだ。
 総司は彼を起こさないように、身を起こした。そっと褥から出ようとする。
 そのとたん、だった。
「……どこへ行く」
 突然、手首を掴まれた。
 驚いてふり返れば、土方がこちらを見ていた。寝起きのため少し気だるげだ。
 何と答えてよいかわからず黙っていると、短い沈黙の後、土方は微かに嗤った。喉奥からの低い笑い声。
「成程、逃げるつもりだったか」
「土方さん」
「だが、昨日云っただろう。絶対に逃がさねぇと」
「違う……違うのです」
 彼の誤解をとこうと身をのりだした。
 だが、それは抗いに見えたらしく、土方は不機嫌そうに舌打ちすると、総司を褥の中へ引きずり戻した。そのまま躰を反転させると、総司を軽々と組み敷いてしまう。
「や……っ」
 のしかかってくる男に、頬が火照った。手首を掴む大きな手のひらや、寝着からのぞく逞しい胸もとに、どきどきする。
 総司は顔を赤くしたまま、きつく瞼を閉じた。そうして、掠れた声で云った。
「私、逃げるつもりなんかありません。ただ……朝餉の仕度をしようと」
「嘘吐け」
 忌々しげに云いきった。
「昨日、おまえは俺に手込めにされたんだ。逃げ出して当然だろうが」
「手込めなんか……」
「されてないって云うのか」
 嘲るような声音だった。おそるおそる見上げると、土方は薄い笑みをうかべていた。
 顔を近づけ、囁きかける。
「嫌がるおまえを犯したのは、この俺だ」
「土方さん……」
「おまえは俺を拒んだ。俺のものにだけはなりたくないと、云ったはずだ」
「それは今も変わりません」
 総司は大きな瞳で彼を見上げ、きっぱりと断言した。土方が眉を顰めるのを見たが、云わなければならない事だった。
「私は、あなたのものになる訳にはいかないの。でも、今……ここで逃げるつもりがないのも、また事実です」
「……」
「お願いだから、手を離して下さい」
「……」
 しばらくの間、土方は鋭い視線を総司に向けていた。だが、やがて、微かに嘆息すると、力を緩め、総司が己の躰の下から抜け出るのを許す。
 総司は素早く彼の躰の下から出ると、その場で身支度を整えた。無言で眺めている土方に視線をむけ、小さな声で云う。
「朝餉の仕度をしますから……」
 無言のままの土方に目礼し、総司は部屋から出た。たすき掛けしながら、水をくもうと家の戸を開ける。
 家の外はまだ薄暗かった。朝早くのため、人の姿は全くない。
 共用の井戸へ向かいかけた、その時だった。井戸端の柱に凭れかかっている男の姿に気づき、息を呑む。
「……伊庭、さん」
 何故、こんな朝早くから訪れてきたのか。それはもう訊ねるまでもなかった。
 伊庭はきつい表情で総司を見ると、家の方へ顎をしゃくってみせた。
「土方さん、いるのかい?」
「……はい」
「総司はあの人を受け入れたって事かい? それとも、拒んだのに無理やり受け入れさせられたのかい」
「……」
 何も答えられなかった。
 そのどちらでもなかったためだ。総司の素直で迸るような情愛は、土方のすべてを受け入れていた。抱きしめ、抱きしめられたいと心から望んでいた。
 今も、あの彼の腕の中に戻り、抱きしめられたいと願ってしまうのだ。
 だが、その一方で、拒んだことも確かだった。土方のためを思うなら、また、いずれ彼の気まぐれが終わる日がくるのなら、一時の幸せよりも今の拒絶を選んだ方がいいと、わかっていたのだ。
 黙り込んでしまった総司に、伊庭は眉を顰めた。


 昨日、自分自身の失敗でけしかけてしまったのだ。思ったとおり土方は総司のもとへ向かい、無理やりにでも己のものにしたのだろう。
 そんな身勝手なこと、許せるはずがなかった。
 だが、一方で、お互い想いあっているのがわかっているだけに、切なかった。
 総司の本当の幸せを望むなら、己がやるべき事はわかっていたのだ。


 伊庭は一瞬だけ瞼を閉ざした。
 そして、口元を引き締めると、身をおこした。総司の家へとむかって、足早に歩き出す。
 それに気づいた総司は、慌てて追い縋った。
「い、伊庭さん、待って」
「待てねぇよ」
「だって、土方さんがいるのです。そんな処へ行くなんて」
「行ったら、まずい事でもあるのかい?」
 伊庭は薄い笑みをうかべ、総司を見下ろした。初めて見る伊庭の暗く荒んだ表情に、目を見開く。
 その驚いた表情から視線をそらし、伊庭は歩を進め、家の戸に手をかけた。
「……っ」
 からりと戸を開いた伊庭は、そこに佇んでいる土方を見た。身支度はもう整えている。切れの長い目がまっすぐ見返してくるのに、笑いかけた。
「よう、起こしちまったかい」
「……早朝から何の用だ」
「話があってね」
 伊庭は総司を家の中にいれると、ぴしゃりと戸を閉めきった。そうして、かるく肩をすくめてみせた。
「あんたに話があったんだが、総司はやめて欲しいようだ。きっと、あんたに聞かれちゃまずい事を、おれが云っちまわねぇか、心配でたまらないんだろうよ」
「俺に聞かれると、まずい事?」
 土方が訝しげに眉を顰めた。しばらく黙ってから、形のよい唇の端をあげた。
「これ以上、俺が総司の話を聞いて、腹をたてることなんかありえねぇよ。昨夜もさんざん拒まれた挙句、今朝も俺のものにならないと言われたからな」
「その拒絶がどうしてか、あんた、知っているのかい?」
 伊庭の言葉に、総司が「伊庭さん」と叫んだ。
















次で完結です。ラストまでおつきあい下さいませね。