何度も口づけをかわした。
指さきをからめあい、見つめあって、また唇を重ねる。
まるで、心から愛しあう恋人たちのように、二人は互いだけを求めあった。
土方の腕の中、総司はとても従順だった。抗う事なく、彼の求めに応じている。
「総司……愛しているよ」
そう囁きかけると、総司は大きな瞳で彼を見上げ、こくりと頷いた。
相変わらず言葉は返らなかったが、もう後戻りはできなかった。
少しでも心がこちらに開かれているのであれば、何もかも己のものにしてしまいたいのだ。
他の男に奪われる事を考えただけで、腹の底から怒りがこみあげる。
一歩間違えば、狂気じみた執着と愛は、かわいい総司を壊してしまうだろう。
その前に、己だけのものにしてしまいたかった。
男の身勝手さだとわかっていながら、それでも、総司が欲しくてたまらなかった。
土方は頬に首筋に唇をすべらせながら、半ば肌けた着物の帯を解いていった。
もともと総司は小袖を着流しにしていただけだったので、帯を解いてしまえば、すぐさまほっそりとした裸身が横たわる。
まっ白な雪のような肌はきめ細かく、掌にすいつくようだった。そこに唇を押しあてると、花びらのような痕が散る。
「ぁ…っ……」
微かな声をあげ、総司が身を捩った。
それだけで気持ちが浮立つのを感じながら、土方は総司のすべらかな肌の感触を味わった。あちこちに唇を押しあて、掌で撫でてゆく。
総司は素直に応じていたが、下肢を開かれたとたん、びくりと躯を強ばらせた。幾ら初めてでも、これから何をされるのか知っているのだろう。
それに、土方は優しい声で囁きかけた。
「大丈夫だ……おまえを傷つける事はしない」
「土方さん……」
「約束する。俺に任せてくれ」
そっと掌に包み込んだ総司のものは、小さくて綺麗な桃色をしていた。まるで少年のまま時をとめているようだ。
やわやわと揉みこまれ、総司は「いやぁ……」と声をあげた。恥ずかしそうに首をふり、腰を引こうとしている。
自分で触った事もなかったそれを、男に愛撫されるのだから堪らない。たちまち勃ちあがってしまったそれに、土方は小さく笑った。
「すげぇ可愛いな」
「や、いや……恥ずかし……っ」
「恥ずかしがる事はないさ。けど、今はまだ我慢しろよ」
「え……?」
「いっちまうと締まって苦しいからな。全部、後だ」
「……?」
男の云っている意味は、まるでわからなかった。不思議そうに見上げるが、土方は懐から何かを取り出している。
「それは?」
「おまえを傷つけない為のものだ」
そう云われても、何だかわからない。
少し不安げな総司に構わず、土方はその粘ついたものを指さきに掬い取った。どうするの? と見ているうちに、濡れた指さきを総司の下肢の奥へすべらせてくる。
「ひっ」
思わず声をあげた総司に、土方はすぐさま宥めるように囁いた。
「冷たかったか? すまない」
「や、だ……怖……っ」
後ろの蕾を男の濡れた指さきが何度も撫でた。そのたびに走るむず痒いような感覚に、総司は首をふる。
「そんな処、触らないで」
「だが、ほぐさないとおまえを傷つける」
土方はきっぱり云いきると、ゆっくりと指を蕾の中へ沈めた。きゅうっとそこが窄まる。
「……狭いな」
「ぁ、や…ぃ、や」
「息を吐いて……大丈夫だ、総司」
「ん、ん……っ」
潤滑剤のおかげか、指はすんなりと蕾の奥へ入った。くちゅくちゅと音をたてて中で動かされ、総司は思わず喘ぐ。
羞恥に頬が上気した。男と交わるということ自体が初めての総司には、何が何だかわからない。
混乱しているうちに、前を刺激されながら、じっくりと蕾をほぐされた。気がつけば、蕾に挿入されている指は三本に増えている。
「あ、は…ぁ、ぁ…っ」
蕾の奥の方で動く男の指に喘いでいるうちに、そっと両脚が押しひろげられた。間に男の躯が入ってくる。
ゆるやかに指を抜かれ、代わりに熱いものが蕾にあてがわれた。とたん、びくりと総司が息を呑む。
怯えた顔で見上げると、上から見下ろす土方が優しく頬に口づけた。
「大丈夫だ……俺に任せろ」
「土方さん、でも……」
「約束しただろ? 傷つけないと……俺を信じてくれ」
「はい……」
情をつくした男の言葉に、総司は素直にこくりと頷いた。それに、土方は思わず微笑んだ。
「……いい子だ」
額に口づけてやってから、土方は総司の白い足首を掴んで持ち上げた。右腕で腰を抱えるようにし、ゆっくりと猛りを蕾に突き入れてゆく。
「ッ! ぃ、ぁ…ッ」
総司の目が見開かれた。
先程とは比べものにならない、圧迫感、苦痛なのだ。反射的に躯が逃げをうったが、すぐさま男の力強い手で引き戻された。より深く挿入され、総司が悲鳴をあげる。
「っ…ぃ、痛ッ、痛いッ…っ」
すっかり顔も青ざめ、総司のものも竦みあがってしまっていた。
だが、今更やめられるはずもない。
土方は総司のそこを探って傷ついてない事を確かめると、再び腰を進めた。狭い蕾を割り広げるように、貫いてゆく。
「ひ、あッ…ゃッ…も、やめ…てぇ…ッ」
総司が涙をぽろぽろこぼしながら、首をふった。それを唇でぬぐいとってやりながら、何度も囁きかける。
「力を抜くんだ、総司……息を吐いて」
「ッ、ぁ…あっ…は、あッ」
「いい子だ、もう少しで全部はいるから」
「やッ、や…全部、なんて無理…ぃ、やあ…ッ」
とうとう声をあげて泣きだした総司に、土方はきつく唇を噛みしめた。
初花を散らすのと変わりはないのだろうと、総司が今受けている苦痛に堪らなくなる。
それでも尚、欲しいと思ってしまう己の執着に呆れつつ、土方は総司の細い躯を抱きしめた。一気に奥まで貫く。
「ッぁああッ!」
痛々しい悲鳴をあげ、男の腕の中で華奢な躯が仰け反った。彼の肩口にしがみつき、泣きじゃくっている。
それを抱きしめ、土方は深く息をついた。
正直な話、総司の中はきつく痛いほどだ。だが、一方でその奥は熱くとろけるようだった。少しずつ馴らしてゆけば、すぐ快楽を覚えることができるだろう。
それを教えるのが自分だという事に、強い歓びを覚えつつ、土方はゆっくりと腰を引いた。緩やかだが、確実な抽挿をはじめる。
たちまち、総司の躯が竦みあがり、泣きながら懇願してきた。
「い、や…ぃやぁ、動かない…で……っ」
「総司……少しだけ我慢してくれ。よくしてやるから」
「やだ、いやぁ……っ」
子どものように泣きながら首をふる総司に、激しい愛しさと罪悪感を覚えながら、土方は抽挿をくり返した。
総司の白い肌のあちこちに優しく口づけながら、揺さぶりをかけてゆく。先程指で探った時に見つけた箇所を狙い、押しつけた。柔らかく腰を回すようにして擦りあげてやると、総司の唇から微かな喘ぎがもれる。
白い頬にのぼる血の気を確かめ、土方は執拗なほどそこだけを責めたてた。押しつけ、何度も擦りあげると、蕾が柔らかくほぐれてくる。
試しにいったん腰を引いて突き上げると、総司が小さく声をあげた。
「ぁ、ぁ…ぁあ……」
少しだけ甘さをふくんだ声だ。細い腕をのばし、ぎゅっとしがみついてくる。
土方はその躯を抱きすくめ、揺さぶった。少しずつ動きが激しくなってゆく。それにつれ、総司の声も切なく高いものになった。
「ひぃ、あッ、ぅぁあッ…ぁッ」
なめらかな頬を火照らせ、男の下で艶めかしく身を捩る。もう苦痛はほとんど感じていないようだった。否、それをまさる快楽に溺れ込みかけている。
男の腕に爪をたて、総司は愛らしい声で泣いた。
それを見下ろし、土方は激しく揺さぶった。力強く蕾の奥を己の猛りで穿ち、抉ってやる。そのたびに、総司は腰を跳ね上げ、泣き叫んだ。
「ぃッ、ぃあッ…ぁああっ」
「総司……すげぇいい」
「ぁ、ぁあッ、わ、私も…っ、ぁあっ」
いいという言葉さえ告げられず、総司は艶やかに乱れた。柔らかな髪がほつれかかり、潤んだ瞳が快楽に酔う。
ふっくらした桜色の唇が甘い啜り泣きをもらすたび、土方は躯中が熱くなるのを覚えた。
まるで初めての艶事のごとく、無我夢中で抱いてしまう。
「ひ、いッ、いッ…ぁあッ」
激しく腰を打ちつけてくる男に、総司は泣きじゃくった。
信じられない事をされているとわかっていた。今、自分は男に抱かれているのだ。
だが、それを自覚しようとする傍から、痺れるような甘い快楽が理性を霞ませてゆく。
それは、躯だけでなく、総司の心故でもあったのだが、その事に気づいてはいなかった。ただ、男の逞しい背にしがみつき、泣きじゃくっている。
やがて、土方の動きがより激しくなった。涙でかすんだ視界の中、彼の黒い瞳が熱っぽく濡れている。
吐息が耳もとにふれ、汗ばんだ肌がふれあった。
総司はより深く土方のものを受けいれ、手足をその逞しい体にからませた。土方もその両腕で、総司の躯を抱きしめてくれる。
二人は抱きあい、口づけ、どこまでも求めあった。
まるで、一つにとけあうかのように。
「……っ、ぁあっ、あッ」
「総…司……っ」
「ひぁッ、土方…さっ、ぁあー…ッ!」
二人して頂きにかけのぼった瞬間、総司は甲高い悲鳴をあげた。腰奥に男の熱が叩きつけられる。
それにさえ感じて、総司は男にしがみついた。細い腕でしがみつけば、土方もきつく激しく抱きしめてくれる。
やがて、二人の呼吸がおさまった後、しばらくの間、総司は土方の腕の中で、ひそやかに泣いていた。
辛かったからでも、哀しかったからでもない。
ただ、幸せで。
信じられないほどの幸せに、涙が零れたのだ。
(……土方さん……)
泣きつづける総司を、土方は優しく抱きしめてくれた……。
その夜、二人は料亭に泊まった。
帰営するつもりだったのだが、土方が総司の躯を気づかったのだ。
綺麗に始末も済ませた後、褥に二人して横たわった。
彼の腕の中で眠る夜は、幼い頃以来だ。
総司が少し恥ずかしげに見上げると、土方はそっと額に口づけてくれた。
「……土方さん……」
「躯、辛くないか」
問いかけに、総司は小さく微笑んだ。
「辛くないと云えば嘘になりますけど……」
「おまえはこんな細い躯なのに……無理させちまったな」
自分の方が辛そうに眉を顰める土方に、総司は首をふった。
「大丈夫です。それに、いずれはと思っていたから」
そう云ってから、しばらくの間、総司は黙っていた。何かを躊躇うように、長い睫毛を伏せている。
だが、やがて、そっと彼の胸もとに身を寄せると、呼びかけた。
「あのね、土方さん」
「何だ」
「どうして……私を抱いたの?」
突然の問いかけに、土方がかるく目を見開いた。
それを見つめながら、総司は言葉をつづけた。
「今まで躊躇っていたのに、何度も機会があったのに……なのに、どうして今日、抱いたのですか? 急に求める気になったの……?」
問いかけながら、その実、答えはわかっていると思っていた。
土方は自分を愛しているからこそ、抱いたのだ。
それが外見だけであっても、この躯だけであっても、自分を欲しいと求めたからこそ、彼は抱いた。その事に、総司は奇妙な安堵を覚えていた。
もともと、復讐のために躯を与えると、そう決意してきた総司だった。彼を破滅させるための、手段にすぎないはずだった。
だが、彼に抱かれてしまった今、総司の心は揺れていた。
本当に愛されているのなら。
躯だけでなく、いつか、心も愛してくれるのなら。
私は、あなたを……
じっと見つめる総司の前で、土方は何か考えているようだった。腕枕をし、片方の手で少年の髪を撫でながら、押し黙っている。
やがて、低い声が答えた。
「……あの事があったからだな」
「え?」
「松原の事だ。あれだけに収まるはずもない。抑えるつもりだが、それでも隊は荒れるだろう」
「……」
思ってもみなかった言葉に、総司は目を瞬いた。意味がわからず、呆然と彼を見上げてしまう。
だが、そんな総司に、土方は気づいてないようだった。端正な顔を引き締め、鋭い瞳で言葉をつづけてゆく。
「伊東がそれを傍観しているはずもない。いずれ隊を割るだろう。隊は真っ二つに割れて、争う事になる。そうなれば、伊東はおまえを絶対に手放さない。俺から奪いとり、身も心も完全に手中に収めようとするだろう。それだけは我慢できん……許せなかった」
「……だか…ら、抱いたの?」
震える声で、総司は訊ねた。指さきが冷たくなるのを感じながら、聞いた。
「私を抱くことで、繋ぎとめるために……?」
「あぁ」
土方は静かに頷いた。
「契りをかわし、おまえを俺のものにしたかった。おまえを奪われる訳にはいかなかったんだ」
「──」
総司の目が大きく見開かれた。
一気に、躯が冷えた。
愛しているからではない、愛故ではない。
ただ所有するために、この人は私を抱いたのだ。この人にとって、何よりも大事な隊のために抱いた。
私は、手放す事のできない駒だから。
伊東先生との争いの中、隊を維持するためにはどうしても必要な駒だからこそ、私を繋ぎとめるために抱いたのだ。
のろのろと、総司は土方を見上げた。それに気づいた土方が、静かな瞳で見返してくる。
冷たく澄んだ瞳だった。
まるで底知れぬ湖のように、深く静かだ。
だが、そのきれいな瞳が、たまらなく恐ろしかった……。
彼は、あくまで彼、なのだ。
目的のためなら、手段を選ばない。どんな事でもできる男なのだ。
だからこそ、愛してもいない相手に愛を告げ、こんな子どもを抱くことさえできる。
人を人と思わぬから、どんな残酷な事でもできるのだ。
なのに、愛されていると思っていたなんて。騙されている事にも気づかず、愛される幸せに溺れていたなんて。
復讐するどころか、より自分の方が傷つけられている。泣かされている。
どうして、どうして、どうして。
私は、この人の枷から逃れられないの……?
身も心も、守る術さえわからなくて。
総司は躯を丸め、きつく目を閉じた。もう何も見たくない、聞きたくないと、顔をふせる。
だが、そんな総司に、土方は優しい声で呼びかけた。
「総司……?」
そっと、髪を頬を撫でてくれる。まるで、幼い子どもの頃のように。
「どうした。躯が辛いのか?」
心配そうに訊ねてくる彼に、ゆるく首をふった。言葉を発するのさえ辛い。
口を開けば、今にも泣き出してしまいそうだった。涙をこらえるが、そのためか、胸の鼓動が早くなり、頭がきんと痛みだす。
「もう休んだ方がいい。傍にいてやるから」
土方は両腕で優しく総司の躯を抱きすくめると、その背を撫でてくれた。ゆっくり、ゆっくりと撫でさすってくれる。
その中身のない優しさが、見せかけだけの愛が、今の総司には辛くて堪らなかった。
愛などなく、ただ奪うためだけに、隊のためだけに抱いたのだと平気で告げながら、こうして優しく抱きしめてくる土方が理解できない。
否、理解したくもなかった。
やがて。
泥沼に落ちるような眠りの中で、総司は、彼を殺める夢を見た……。
