翌日から、いつもの日々が始まった。
 土方は身構えていたが、それきり総司からは何も云ってこなかった。
 副長に対しての礼儀は変わらず、廊下などですれ違う時も丁寧に会釈してくる。だが、そのたびに、土方は奥歯を噛みしめた。
 あきらかに、総司は彼を挑発していた。翻弄していた。
 つつましやかに伏せられた長い睫毛。だが、その陰で、瞳は嘲りをふくんでいた。
 桜色の唇は弧を描き、あきらかな冷笑をうかべている。
 それを目にするたび、土方は強い憤りを覚えた。いっそ怒鳴りつけてやりたいと思った。
 だが、そんな事をすれば、騒ぎになってしまうのは目に見えている。今や、総司は伊東の一番の腹心であり、一番隊組長としても確かな地位を築いていた。昔の弟同然だった頃とは違うのだ。
「……」
 今も、すれ違ってゆく総司を、引きとめる事さえできなかった。
 遠ざかる気配を背中で追っている。
 あんな酷い仕打ちをされても尚、求めてしまう、愛しいと思ってしまう己が情けなかった。たまらなく惨めだった。


(この俺が……なんて様だ)


 不意に、土方は笑いだしたくなった。
 己の無様さを、思うさま嘲笑してやりたくなったのだ。
 矜持も立場も何もかも捨て去り、一人の男として感情を晒け出したい。突き上げる衝動のまま、総司を追いかけてふり向かせ、細い躯をこの腕の中におさめたい。
 そして、叫びたかった。想いのままに。


 総司は俺のものだ。
 俺だけのものだ──と。


 だが、できるはずもなかった。
 彼は彼であり、その責任と影響力は今や計り知れぬほどだった。彼の一挙一足を、多くの目が見ている。
 一切、隙も弱みも見せる訳にはいかないのだ。
「……」
 土方は口許を引き締めると、まっすぐ前だけを見据えた。
 今ほど、己に絡みつく様々なしがらみを、煩わしいと思った事はなかった……。












「休みを?」
 伊東は驚いたように、総司を見やった。
 だが、その小さな顔を見ると、納得がいったように頷いた。
「そうですね。確かに……きみは休んだ方がいいようだ」
「……伊東先生」
「躯も心も疲れたのでしょう。少し休んできなさい」
 優しい言葉に、総司はこくりと頷いた。


 季節は、もう夏だった。江戸へ下っていた土方や伊東たちが新入り隊士たちと共に戻り、総司もその鍛錬に追われていた。
 江戸への旅を伊東に聞くと、土方とは一切会話がなかったらしい。しかし、それも無理ない事だった。
 相変わらず、総司は伊東の傍らにあり、土方とは他人行儀そのものの関係なのだ。二人に親密な会話などありえるはずもなかった。


「三日ほど、近藤先生にも了承して頂きました」
「そうですか。本当は十日ほど……と思いますが」
「それはさすがに。三日で十分ですから」
 総司は長い睫毛を伏せた。
「少し、隊を離れて休みたいのです」
「気持ちはわかりますよ。もっとも、きみが離れたいのは隊ではなく、彼からでしょうけれど」
「──」
 きゅっと、総司の唇が固く引き結ばれた。上目遣いに伊東を見るその表情は、勝ち気な子どものようだ。
 それを慈しむような目で眺めながら、伊東は小さく笑った。
「とにかく、きみがゆっくり休めることを願っていますよ」
「ありがとうございます」
「念のため、聞いておきましょう。どこへ行くつもりですか」
「嵐山あたりに……」
「それはいい。あの辺りは静かで、夏も涼しいですから」
「えぇ」
 こくりと頷き、総司はまた目を伏せた。


(この三日間は、あの人から逃れられる……)


 離れるなどという、生易しいものではなかった。
 ここしばらくの土方とのやり取りに、総司は、身も心も疲れきってしまっていたのだ。
 確かに、土方に復讐するため様々な言葉を投げかけ、翻弄しようとした。彼の気持ちを傷つけ、揺さぶろうとしたのだ。
 だが、それが叶ったのかどうか、確かめる術はない。恐らく、何の影響もあたえていないだろうと思った。総司の子どもっぽいあがきなど、土方にとって、失笑の種にしかならないのだ。
 あの角屋での夜も、土方はひどく冷めた目をしていた。侮蔑にみちた表情で顔をそむけ、去っていったのだ。
 自分に興味も関心もない彼が、侮蔑するのは当然のことだと思った。美しい女にいつも囲まれている彼にとって、総司のような若者など、その範疇にもないのだ。
 土方は、総司を、ただの駒としてのみ眺めていた。相変わらず、彼にとって隊が唯一のものであり、自分以外の者など駒に過ぎないのだ。


(こんな事をしても……何もならないのに)


 総司が顔をあげると、伊東が穏やかな目で見つめていた
 彼だけは、何もかもわかってくれていると思う。だからこそ、伊東の前では、みっともない部分も情けない部分も、全部晒しだすことができるのだ。
「伊東先生」
 そう云ってさしのばした手を、伊東は静かに握りしめてくれた……。
















 嵐山は初夏の緑がとても美しかった。
 きらきらと陽光が山々に眩く、竹林の音が涼やかだ。
 京の街中と違う、緑濃い清々しさにみちた空気はとても心地よい。
 総司は、嵐山のある小さな寺の宿坊に泊まった。他に泊まり客がいなかった為、のんびりと過す事ができる。
 朝のおつとめなどは、厳しい隊の中で暮らす総司にすればたいした事ではなく、むしろ新鮮だった。
 ゆっくりと流れる時の中に身を置いていると、心が洗われるようだ。
 どうしようもなく追いつめられ、ぎゅっと躯を小さく縮めるようだった心地が、少しずつ呼吸できるようになる。
 本当に来て良かったと、総司は思った。
 ──そう。
 その瞬間までは、確かにそう思っていたのだ。






 人気のない竹林の小道だった。
 緑に包みこまれるような、不思議な空間だ。
 その日、総司は朝から散策に出ていた。その先にある寺を訪れようと、ゆっくり歩いていたのだ。
 静かな竹林の小道に、人の姿は全くない。
 竹の音を聞きながら歩いていた総司は、ふと、何気なく前方に顔を向けた。そして、次の瞬間、鋭く息を呑んだ。
「──」
 色濃い緑に、黒い着流しの小袖が鮮やかに映えた。風に吹き乱されてゆく黒髪一筋まで、まるで絵のようだ。
 切れの長い目が、どこか訝しげにこちらを見つめていた。まるで、見たこともない生き物を眺めるかのように。
 不意に、その目が見開かれた。
「総司」
 と、形のよい唇が名を紡ぐ。
 そのとたん、総司は思わず身をひるがえしていた。小道の中を駆け戻り、宿坊へと走ってゆく。
 だが、そう願っただけだった。数歩も行かぬうちに、その細い躯は男の腕に捉えられ、抱きしめられた。
「……っ!」
 必死に彼の逞しい胸に両手を突っぱね、逃れようとする。だが、その腕はまるで鋼のように強靱だった。軽々と総司の躯を抱きあげ、竹林の中へと歩み入ってゆく。
「は、離して……いやっ!」
 竹林の奥、苔むした地面に下ろされたとたん、総司は悲鳴をあげた。いきなり、男がのしかかってきたのだ。
 細い肩を掴まれ、地面に押しつけられた。それがひどく痛い。
「……っ」
 見上げれば、彼の肩越しに青空と背の高い竹が見えた。
 だが、その二つしか存在しない世界に、総司は混乱した。こんな場所では、助けを呼んでも無駄だった。人気がない事は、よくわかっている。
 それに、自分は京でも指折りの剣士だった。なのに、助けを呼ぶなど滑稽だろう。
 そう思いながら、総司は片手を刀の柄にやろうとした。だが、力が入らない。彼の黒い瞳に見据えられると、躯中が竦むばかりなのだ。
「やめて……何をするの……?」
 本当に子どもじみている。
 そう自覚しつつ、総司は震える声で訊ねた。
「……」
 土方はきつく唇を噛みしめた。


 嵐山を訪れたのは、むろん、総司に逢うためだった。
 隊以外の場所でなら、真っ正面から向きあえる気がしたのだ。穏やかに話し合いたいと願っていた。
 だが、それは無理なのだと、総司と出逢った瞬間に思い知らされた。
 自分を見たとたん、青ざめ逃げようとした総司に、かっと頭が熱くなった。それ程までに嫌悪されているのかと、怒りと屈辱に息さえつまった。
 我慢できなかった。そのまま逃がす事など、到底できなかった。
 だが、つかまえるだけでよかった。こんな処に連れこみ、何をしようという考えもなかった。
 己自身でもわからぬ衝動だったのだ。


「何を、か」
 低い声で呟き、土方は総司を見下ろした。
 それを、総司はひどく怯えた表情で見上げている。瞳が潤み、桜色の唇がわななく様は、いたいけで扇情的だった。妙に、男のどす黒い欲望を刺激するのだ。
 清楚で凜とした美しさをもつ総司は、それ故なのか、汚したいという気持ちを男に抱かせた。めちゃくちゃにして、泣かせてやりたい。痛々しく泣きながら懇願するまで、抱きつくし屈服させてやりたい。
 そんな衝動を、男に抱かせるのだ。
 その上、土方にとって、総司は誰よりも愛しいのに、決して手の届かぬ存在だった。身勝手で我侭で、男の気持ちをさんざん翻弄しながら、他の男の腕の中で艶やかに嘲笑っている。
 その若者が今、彼の腕の中にいた。彼に組み伏せられ、怯えきった顔で瞳を潤ませているのだ。
 欲望が突き上げてくるのは、むしろ当然だった。
「!」
 男の気配を感じたのか、総司がより怯えた表情になった。まるで捉えられた小動物のように小さく身を震わせている。
 その様が愛らしく、また嗜虐的だった。
 土方は、初な若者のように気が昂ぶってゆくのを覚えた。
 男の視線が、僅かに肌けた襟元からのぞく白い肌に落ちた。それを感じたのか、総司がびくりと躯を震わせる。
 息づまるような緊張感の中で、少しずつ二人の息づかいが激しくなった。何を求めているのか、求められているのか、お互いもうわかっているのだ。
「……ぁ」
 小さく声をあげたとたん、細い背に手がまわされた。不意に、荒々しく抱きおこされる。
 胡座をかいた男の膝上に抱きあげられ、総司は目を見開いた。
「なっ……いや」
 まるで子ども相手のような姿勢に羞じらい、抗いかけた。だが、男の腕の中に閉じこめられた状態では、まるで籠の中の鳥だ。
「……!」
 頬に、額に、首筋に、唇を押しあてられた。思ってもいない行為に身を竦めた処を、男の大きな掌で背中や腰を撫でまわされる。
 とたん、躯中が甘やかに痺れ、総司は半ば呆然となった。思わず男の胸もとに縋ってしまう。
 項を掴まれ、仰向かされた。躊躇いがちに見上げれば、濡れたような黒い瞳が見つめている。
 ゆっくりと、静かに唇を重ねられた。
「……っ」
 頭の芯まで霞むような、濃厚な接吻だった。
 酩酊させるような口づけに、躯中が甘やかに痺れた。熱っぽい吐息がもれ、自然と躯が彼だけを求めてしまう。
「……ぁ、…ッ、ぁ」
 たまらず腰をすり寄せた。だが、とたん、ふれた男の熱に恐ろしくなる。
 思わず見上げると、土方も熱っぽい瞳でじっと見つめていた。求められているのがわかる。
 彼は今、自分が欲しくて欲しくてたまらないのだ。
 あの彼がと、戸惑いのまま思った。
 いつも冷徹で、感情を露にすることなど滅多にない彼。
 矜持が高く、どれ程美しい女に秋波を送られても、その形のよい眉一つ動かさない。
 その彼が今、自分に欲情しているのだ。
 熱にうかされたような瞳で、自分だけを見つめている……。
 ただ呆然としていた総司だったが、抱きしめる土方の腕に、息づかいに、体が熱くなるのを覚えた。
 どうすればいいかわからぬまま、土方にむかって両手をのばす。
 だが、その瞬間だった。


「……好きだ」


 不意に、土方がそう囁いた。
 細い躯を抱きすくめ、低く掠れた声で訴えるように告げてくる。
「総司、おまえが好きだ。俺は……おまえを愛している」
「……」
「愛しているんだ……総司」
「──」
 その瞬間。
 総司の目が大きく見開かれた。のばされかけていた手も、とまってしまう。
 信じられないことだった。
 屈辱と怒りが、胸の内から込みあげた。


(今更……!)


 土方が愛を告げてくるなど、思ってもみなかった。
 愛されているなど、考えてもみなかった。だが、それも当然なのだ。
 総司が全身で彼を愛し、恋していた頃、土方は総司に見向きもしなかった。
 興味も関心もなく、ただの駒としてしか扱わなかった。だからこそ、あんなにも残酷に容赦なく切り捨てたのだ。
 なのに、今更だった。
 今更、愛している──などと。
「……」
 ゆっくりと、総司の目が細められた。
 唇を引き結び、自分を抱きしめる男を、酷く冷めた目で眺めた。


 結局は、この人も同じなのだ。
 人を外見でしか判断せぬ、愚かな男なのだ。
 伊東のもとで磨かれ、美しくなったとたん、幾人もの男が掌を返したような態度をとった。それに、総司は彼らを思うさま侮蔑し、嘲ったのだ。最低だと思った。
 だが、まさか、土方までも同じだとは思わなかった。
 あんな酷い仕打ちをしておいて、今更、平然とこんな事を告げるとは思いもしなかったのだ。
 屈辱と怒りに、躯が震えた。


(どこまでも、この人は私を莫迦にしている。人としてさえ、思っていないんだ)


 愛するのなら、もっと前に愛してほしかった。
 傷だらけの野良猫のようだった自分を、愛してほしかったのだ。内にある自分自身を見つめ、求めてほしかった。
 ただ外見が磨かれただけで、とたん、掌を返すように愛を告げてくるなんて、そんなもの真実ではない。偽りだ。
 まがい物の愛なのだ。
 あれだけ傷つけ、切り捨てるような行為をしておきながら、平気でこんな言葉を告げてくる彼が、たまらなく憎かった。
 この人は、私の気持ちをどこまで傷つければ、気がすむのか。


 しばらく黙り込んでいたが、やがて、ゆっくりと手をのばした。
 そっと男の背に手まわし、かき抱いた。それに、驚いたように顔をあげる彼が可笑しい。
 わざと切ない表情をつくり、訊ねかけた。
「……本当に……?」
「総司」
「本当に、私のことを好いてくれているのですか?」
「あぁ」
 土方は掠れた声で答えた。濡れたような黒い瞳が、総司を切なく見つめる。
「心底、惚れている。好きだ……おまえしか、俺は望まん」
「私が伊東先生のものであっても?」
 そう訊ねたとたん、土方の端正な顔に苦渋の色がうかんだ。きつく下唇を吸い込むようにしてから、低い声で答える。
「仕方がない。俺には何を云う資格もないだろう」
「それは、私を隊から出した事?」
「あの時の事は……」
「いいのです、別に。もう過ぎ去った事ですから」
 そう云ってから、総司は土方の逞しい胸もとに顔をうずめた。静かな声でつづけた。
「それに……私は伊東先生のものではありません」
「……どういう事だ」
「恋仲ではないという事です。伊東先生もそんな気がないでしょうし、前にも云ったでしょう? 尊敬しているけれど、そんな気持ちにはなれないと……」
 云いかけた総司の言葉が途切れた。不意に荒々しく肩を掴まれたかと思うと、ぐいっと顔をあげさせられたのだ。
 驚いて見上げた総司の目に映ったのは、苦渋の色をうかべた土方の表情だった。きつく眉根を引き絞り、奥歯を噛みしめている。
「なら、どうして」
 呻くような声がもれた。
「角屋で、あんな事をした」
 男に対し、総司は冷静だった。冷たく澄んだ瞳で彼を見つめ、ゆっくりと言葉をつむいでゆく。
「抱き合っていたことですか?」
「それだけじゃない。あの後、茶室で」
「契りは結んでいません。あれはただ、私が戯れで伊東先生にしただけの事です」
「……」
「信じられませんか……?」
 そう訊ねた総司に、土方はゆっくりと首をふった。総司の髪を頬を掌で撫でながら、話しかける。
「俺は、おまえの言葉を信じるよ。好いた者の言葉だからな」
「……」
「だが、一つだけ頼みがあるんだ」
「何です」
「おまえが伊東のものではないと云うのなら、これからは、時々……俺と逢ってくれないか」
「──」
 総司の目が見開かれた。
 まるで、恋を知りたての少年のような言葉だった。
 さんざん女で遊びつくした男の言葉とは、到底思えない。
 だが、実際、土方は総司に懇願していた。逢って欲しいと願い、頼んでいた。
「……それは」
 総司はゆっくりと問いかけた。
「あなたのものになれという事……?」
「……あぁ」
 喉に絡んだような声だった。
 だが、きっぱりと答えた土方に、総司は小さく微笑んだ。
 まるで花がこぼれるような、綺麗な笑み。
「いいですよ」
「──」
 今度は、土方が驚く番だった。思わず聞き返してしまう。
「いいのか? 意味が……わかっているのか」
「もちろんです」
 総司はこくりと頷き、土方の胸もとに頬を寄せた。そっと、両手で男の背をかき抱く。
「私は、土方さん……あなたのものになります」
「総司……っ」
 きつく抱きしめられた。息もとまるほど抱きしめられ、髪に、頬に、額に、口づけられる。
 想いの丈をこめた、抱擁と口づけだった。大切に、まるで世にも稀な宝もののように扱われる。
「……」
 そんな男の腕の中、総司はそっと長い睫毛を伏せた。おとなしく口づけをうけ、いじらしい表情で応える。
 だが、その睫毛の陰で、冷たく澄んだ瞳が宙を見つめていた。
 彼に抱きしめられながら、その心は冷たく残酷に凍りついてゆく。


(この人は、私の中身などいらない……)


 泣き叫びたい程の哀しみと怒りの中で、思った。
 彼が好きなのは、この器だけなのだ。
 私がどんなことを思っているのか、何に怒り喜び、泣くのか、そんなこと知ろうともせず、興味もない。
 この人が欲しいのは、空っぽの器だけ。
 なら、好きにすればいい……!
 こんな躯、くれてあげる。欲しいだけ、あたえてあげる。
 でも。


 総司は僅かに潤んだ瞳で、ゆっくりと土方を見上げた。静かに、白い指さきが男の襟元にはわされる。
 土方は柔らかな笑みをうかべると、その頬を両掌で包み込んだ。そっと顔を傾け、唇を重ねてくる。
 甘い口づけ。
 それを、ひどく冷たいものと感じながら、総司はうっすらと嗤った。


 ひきかえは、あなた自身。
 土方さん、あなたから、何もかも奪いとってあげる。
 今の地位も、男としての矜持も、自尊心も何もかも、全部奪いつくしてから、そして……捨ててあげる。
 その時のあなたの表情を想像すると、今から笑いがこみあげるね?


 深くなる口づけに、総司は目を閉じた。
 そして、もっと己に溺れこませるように、或いは、鋭い刃で一気に掻き斬るように。
 白い両腕で、男の首をそっとかき抱いたのだった。