よくわからないのだ。
土方の考えていることが、さっぱりわからなかった。
落ち込んでいる自分を慰めるためだという事は、よくわかっていた。だが、それにしても、ここまでつきあってくれるとは思ってもみなかったのだ。幾度こうして待ち合わせたか、わからない程だった。
島原で豪遊するよりは相当少なくすむと思うが、それでも、驚くほど、土方は総司に対して物惜しみするという事がなかった。
最近では、着物まで買ってくれるようになっている。いらないと断れば、傷ついた表情をするので仕方なく受け取っているが、本当はこんな事してもらう謂れがないのだ。
自分などに金と時をかけるより、美しい女達にかけた方がいいだろうに。
しかも、噂によれば、土方はここ最近女遊びをぱったりやめてしまっているそうだった。あちこちから女達に嘆かれているらしいが、それでも冷たくあしらい、知らぬ顔らしい。
あれだけさんざん遊んでいたのに、いったい何故なのか。
理解できず問いかけた総司を、斉藤などは奇妙な表情で見つめた。
「……それを、おまえが聞くとはね」
「え……?」
小首をかしげる総司の前で、斉藤はやれやれと肩をすくめた。
「土方さんも報われないなぁ」
「報われないって、どういう事ですか?」
「さぁ。けど、オレも応援する気は毛頭ないから、何も云わないよ。むしろ、足ひっぱってやりたいぐらいだし」
「……ますますわからないんですけど」
「わからないなら、わからなくていいさ。オレはそのままでいてくれた方が嬉しいんだし」
意味不明の言葉を残し、斉藤はすたすたと歩み去ってしまった。
「そのままでいてくれって……」
総司は窓枠により深く凭れかかった。
辺りは夕闇にみちてきている。少しずつ、明かりが灯され始めたようだ。それが幻想的で、とても綺麗だった。
ぼんやり眺めていると、廊下が僅かに鳴った。
彼がやって来たのだ。
「……待たせて悪かった」
すっと襖が開き入って来たのは、思ったとおり土方だった。
黒谷からの帰りのため、羽二重の黒羽織に、小袖、仙台袴という正装だ。それがまた、精悍で整った顔だちの土方によく似合い、総司は思わず見惚れてしまった。
かなり急いできたのか息が僅かにあがり、声も掠れている。ぞくぞくするほど男の色気を感じさせた。
「ぁ……」
総司は頬をそめ、慌てて座り直した。
何だか、妙に緊張してしまったのだ。何度もこうして料理屋などに連れてきて貰っているが、そこで正装姿の土方と落ち合うなど初めてのことだった。
「……」
総司は思わず襟元をかきあわせ、ひっそりと俯いた。
それに、土方は秘かに息を呑んだ。
なんて仕草をするのか。
花のような可憐さを甘く匂いたたせ、一方で、たまらなく扇情的に感じてしまう仕草。
長い睫毛が伏せられ、白い項がうっすらと桜色にそまる様に、思わず抱きしめたくなる。
だが、出来るはずがなかった。
やっと最近、彼に馴れてきてくれた可愛らしい仔猫だ。そんな事をすれば、たちまち逃げ出してしまうだろう。
それだけは堪えられない。
土方は視線をそらせた。席に着きながら、出来るだけ落ち着いた声で云う。
「本当にすまなかった。まだ何も食ってねぇんだろ?」
「えぇ」
総司はこくりと頷き、席に着いた。
料理が運ばれてくると、土方は後は勝手にやるからと、いつものように仲居の給仕を断った。それを総司もごく当然のように眺めている。
「あ、注ぎます」
総司は手をのばし、銚子を取り上げた。土方が手にした杯にそそぐため、身をのりだす。
そのとたん、だった。
「……あっ」
酒がこぼれ、総司の手元を濡らした。すぐさま銚子を卓上に置いたが、上腕を伝い、袂の中まで濡れてしまう。
「大丈夫か」
土方は慌てて総司の傍により、その腕を掴んだ。火傷したのではないかと、心配したのだ。大急ぎで袂をまくりあげ、手拭いでぬぐってゆく。
「だ、大丈夫です」
総司はふるりと首をふった。だが、土方は眉を顰めた。
「赤くなっている。冷やした方が」
「いえ、もう大丈夫ですから。たいして熱くありませんでしたし……」
そう云いかけた総司の言葉が途切れた。
不意に、土方が顔を伏せたかと思うと、総司の上腕に口づけたのだ。柔らかな舌が、酒で赤みをおびた肌を舐めあげる。
「!」
総司の目が大きく瞠られた。
腕の内側の柔らかな部分。
陽にあたる事がないため、色白の総司でもより白い肌が際だつそこを、土方は優しく舐めた。とたん、まるで熱い痺れのようなものが躯の奥に灯され、総司を動揺させる。
「や……」
掠れた声で云い、身を捩った。それに、土方が顔をあげる。
総司はその彼の目を見たとたん、息を呑んだ。
熱っぽく濡れた黒い瞳が、総司を見つめていた。総司だけをその瞳に映し、何かを訴えかけていた。
欲しい──と云われている気がした。
おまえが欲しい、と。
だが、それは一瞬の事だった。
「!?」
土方はまるでその気持ちも瞳も隠すように、総司の躯を強く抱きしめたのだ。彼の胸もとに抱きこまれ、何も見えなくなってしまう。
「……あ」
後から考えれば、抱擁自体の方が驚くべき事だったのに、総司は逆に安堵した。
とても奇妙な息づまる状態から逃れられた気がして、ほっとしたのだ。
総司の華奢な躯は、男の腕の中にすっぽりとおさまった。
土方に抱きしめられるなど初めての事だったが、あまりの居心地の良さに、総司は吐息をもらしてしまった。おずおずと、男の背に手をまわしかける。
だが、不意に肩を掴まれ引き離された。
驚いて見上げると、土方はきつく眉根を寄せていた。何かを堪えるように、奥歯を噛みしめているみたいだ。
「……すまない」
絞り出すような低い声に、総司は「え?」と小首をかしげた。
それに、土方はもう一度「すまない」とくり返すと、総司の着物をかるく直し、席へ戻した。自分も坐り直し、黙々と食事を始める。
総司はしばらくの間、何が何だかわからなくて、ぼんやり坐り込んでいた。だが、土方に「料理、冷めちまうぞ」と促され、慌てて箸をとる。
その夜の食事は、妙な緊張感と沈黙のうちに終わった……。
秋の紅葉も散ってしまい、ちらほら雪も降りはじめた京の町だった。
そこを、総司は斉藤と相合い傘で歩いていた。
お菓子を買いに行った帰り、雪が降ってきて困っていると、たまたまなのかわざとなのか、斉藤が通りかかったのだ。
もちろん、傘は一本しかない。さしかけられた傘の下に、入らない手はなかった。
「すみません、斉藤さん」
そう謝った総司に、斉藤は妙に機嫌のいい顔で首をふった。
「謝る事はないさ」
「でも、迷惑でしょうし」
「迷惑なはずないだろう? こっちは遠回りして……」
「え?」
「いや、何でもないよ。それより、もっとこっちに寄った方がいいと思うけど? 肩が濡れる」
斉藤は優しい声で云うと、柔らかく総司の肩を抱いて引き寄せてくれた。それに、総司も「はい」と素直に頷いて身を寄せる。
二人は仲良く相合い傘で歩きながら、楽しくお喋りした。
総司は、珍しくにこにこ笑っている斉藤を眺めながら、(斉藤さん、何かいい事あったのかな?)と思った。
だが、この場合、総司が鈍いとしか云いようがない。
斉藤が傘一本しか持たず、わざわざ遠回りして菓子屋の前を通りかかったのも、総司と相合い傘できるからこそ機嫌がいいことも、何も気がついてないのだ。
「最近、土方さんと食事に行っているのか」
不意に問われた言葉に、総司は小首をかしげた。
「んー、そう云えば、間があいてるかもしれませんね」
「どれぐらい」
「五日です」
「……五日って、いつもは何日毎に誘われてたんだ」
「えーと、三日おきぐらい? 食事だったり、お出かけだったりするんですけど」
「……」
「そう云えば、間があいてますね。土方さん……島原とかでまた遊び始めたのかな」
くすっと笑ってみせた総司を、斉藤はじっと眺めた。ちょっと黙ってから、問いかける。
「おまえはそれでいいのか?」
「え?」
「だから、土方さんが島原で女遊びしていたりして、いいのか?」
「……いいも何も」
総司は一瞬黙ってから、目を伏せた。
「私には何の関係もない事ですし? だいたい、土方さん、前から女遊び激しかったじゃないですか」
「そりゃそうだけど」
妙に意味深に口ごもる斉藤に黙ったまま、総司は屯所に向って歩いた。
雪は柔らかく降ってくる。
純白に覆われた町はとても静かで、綺麗だった。
こんな光景の中を、恋人と二人で歩けたらどんなに幸せかと、つい考えてしまった。
とたん、土方の顔が思い浮かび、息を呑む。
土方さんを好きだったのは、もう昔のこと。
諦めたんだから。
土方さんは女の人が好きで、男の私になんか見向きもしない。
最近はよく誘ってはくれるけれど、あれも慰めのためだし。あの人特有の気まぐれみたいなもので。
きっと今頃、やれやれ面倒だったなんて思いながら、また女の人と遊んでいるのだろう。
だから五日もご無沙汰で……
不意に、息が苦しくなった。
思わず背を丸め、ぎゅうっと胸あたりを掴んでしまう。
そんな総司に、斉藤は驚いた。慌てて立ち止まり、覗き込む。
「どうした、体調でも悪いのか」
「大丈夫です」
「けど、何だか青ざめているみたいだし……大丈夫か」
斉藤は総司の肩をより強く抱き寄せてくれた。そっと背を撫でてくれる。
その腕の中、総司が小さく呟いた。
「何だか、ちょっと疲れちゃって……」
「総司……」
斉藤が優しい声で云った。
「辛いことあるならオレに話せよ。力になるからさ」
「えぇ……ありがとう。でも、自分でもよくわからなくて」
「わからない?」
「自分の気持ちが、一番わからな……」
そう総司が云いかけた、まさにその時だった。
ざっくざっくと背後から雪を踏みしめる音がどんどん近づいてきたかと思う間もなく、突然、総司の腕が乱暴に掴まれ引っぱられたのだ。
「!? な、何……っ」
びっくりしてふり返った総司は、大きく目を見開いた。
そこに立っていたのは、土方だった。傘を差し、黒い隊服姿で立っている。
しかも、何故か、かなり怒っているようだった。形のよい眉を顰め、切れの長い眦がつりあがっている。
黒い瞳は底光りし、ぎりぎり奥歯を噛みしめる音まで聞こえてきそうだ。
「ひ、土方さん、どうしてここに」
思わず問いかけつつ、総司は斉藤の方に身を寄せた。ますます土方の眉が顰められる。
「理由なんざ、どうでもいい」
吐き捨てるような口調で云った土方は、もう一度、ぐいっと総司の躯を己の方に引き寄せた。そのまま細い肩を抱くと、まるで斉藤から隠すように腕の中へおさめてしまう。
珍しく強引な男の行為に、総司は目を瞠った。
しかも、ここは戸外だ。
道ゆく人々が、侍同士の争いに何事かとふり返っている。
そんな中で、土方は総司の小柄な躯をしっかりと抱きしめ、斉藤を睨み据えているのだ。
「あ、あの、土方さん」
総司は慌てて身を捩り、土方の腕から逃れようとした。それを見下ろした土方は忌々しげに舌打ちし、その細い腰に腕をまわして引き寄せる。
「行くぞ」
「行くって、あのっ、私は斉藤さんと」
そう云ったとたん、土方はぎりっと奥歯を噛みしめた。それ以上言葉をつぐ事を許さないとばかりに、さっさと歩き出してしまう。
総司は慌ててふり返り、斉藤にむかって手をふった。
「ごめんね、斉藤さん。また今度」
「総司、いいよ。今度な」
「うん。ちょっ……土方さん、ひっぱらないで下さいってば!」
あれこれ云いあいながらもどんどん遠ざかってゆく二人を眺め、斉藤は深くため息をついた。肩をすくめ、ちぇっと舌打ちする。
「……後少しってとこだったのになぁ。惜しい惜しい」
友人はもちろんの事、もう一つ上の段階を狙ったのだが、敵もさるもの。
あの男相手ではなかなか難しいと思っていたが、これは予測以上の結果だ。
「ま、仕方ないか」
斉藤は、可愛い総司を攫っていってしまった男の、珍しく余裕のなかった様子を思い出し、小さく笑った。
その事で少しだけ溜飲を下げると、屯所への道を一人歩んでいったのだった。
さて、場所は先程の現場からさほど離れていない料理屋の一室。
総司は固い表情で、部屋の真ん中に端座していた。土方の方もまだ怒っているのか、胡座をかき柱に凭れた格好で、押し黙っている。
しんしんと降る雪の音まで聞こえてきそうな、静けさだった。
やがて、その沈黙に耐えられなくなったのは、総司の方だった。
「いったい、何なんですか」
きつい口調で問いかけた。
「急に現われて、急にひっぱって」
それに、土方は肩をすくめた。
「おまえが斉藤なんかといるからだ」
「いたら、何が悪いのです。雪が急に降ってきたから、傘に入れて貰っただけでしょう」
「それで……喜んで傘に入って?」
土方はふっと唇を歪め、とんでもなく意地悪な口調で云った。
「まるで恋人同士の道行きみたいに肩を抱かれて? 顔を近づけて? 見つめあって? それのどこが、傘に入れて貰っただけ、なんだよ」
「何…その云い方! 意地悪そうな云い方!」
「どうせね、俺は意地が悪いですよ」
拗ねたように呟いた土方は、ぷいっと顔を背けてしまった。それを、総司は呆れたように眺める。
「子どもみたいに拗ねないで下さい」
「子どもみたいなのは、おまえの方だろうが! 誰にでもほいほいついていって……だいたい、おまえは隙がありすぎるんだ」
「隙って何!? 土方さんがそんな事云えるの!?」
総司は叫びざま、ばんばんと畳を掌で叩いた。
男同士、それも侍同士の痴話喧嘩というとんでもない様相に、難を恐れた隣室の客がそそくさと逃げ出していったが、そんなものかまっちゃいられない。
「斉藤さんと一つの傘に入るより、土方さんと料理屋の離れとかに行く方が、ずーっとやばいんじゃないですか? やばい事してるの、土方さんの方なんじゃないの!」
「やばいやばいって、俺のどこがやばいんだよ」
「やばいが駄目なら、危ない? 何考えてるんだかわからない? とにかく、私への慰めとか同情はもういいから、土方さんも私の行動にまであれこれ口出ししないで下さい!」
「同情? 慰め?」
呆れたように、土方は聞き返した。
「何だってそうなるんだ」
「だって!」
総司はあたり前のように答えた。
「土方さんだって、知っているでしょう? 私が鹿野にふられた事、それで落ち込んでいた事。だから、こうして誘い出してくれていた、そうじゃないのですか?」
「……」
「たぶん、近藤先生あたりに頼まれたんですよね。だったら、もう大丈夫です。私はちゃんと立ち直りましたから、もうご面倒かけません」
総司は膝上に置いた両手を、ぎゅっと握りしめた。
そして、きっぱりとした口調で云った。
「こういう事、全部終わりにしましょう。これからは、一切誘わないで下さい」
「……」
土方は眉間に皺を刻み、難しい顔で押し黙ってしまった。腕を組んだまま、総司の膝元あたりに切れ長の目を据えている。
それに少し胸奥に痛みを覚えたが、総司は大急ぎで立ち上がった。これ以上ここにいたら、何を口走ってしまうかわからない。
総司は気持ちをふり切るようにして、部屋を出た。土方はそれにちらりと視線をあげたようだったが、何も云わなかった。
とんとんと階段を下りて、料理屋の外へ出ながら、ため息をつく。
「……」
淋しかった。
自分で云った言葉だけれど、もう彼から誘ってもらえないと思うと、たまらぬほどの淋しさが込みあげた。
それでも、これで良かったのだと思った。もっと早くこうすべきだったのだ。
今でも彼のことが好きなのかなんて、わからない。
だが、恋人でもないのに、これ以上、土方をふり回す訳にはいかなかった。好きだったからこそ。
彼が優しいのでつい甘えてしまっていたが、もういい加減、解放してあげるべきだろうだ。土方もやめる切っ掛けが掴めず、困っていたはず。
「……これで、いいんだよね?」
総司は自分に云いきかせるように呟いた。
そして、まだ雪のつもった京の町を、ゆっくりと歩き出していったのだった。
屯所へ戻った総司を待受けていたのは、斉藤だった。
一人で帰ってきた総司を見たとたん、「えっ?」と驚いたように目を見開く。
それに、総司もちょっと驚いた。
「……何を驚いているのですか?」
「いや、だって」
斉藤は総司の周囲を見回しながら、訊ねた。
「何で帰ってきたんだ? それに、一人?」
「えぇ、一人ですよ。一人で帰ってくるの……当然でしょう?」
「うーん、てっきり土方さんと泊まってくるとばかり思っていたんだけどな……」
そのとたん、総司のなめらかな頬がぽっと火照った。慌てたように框を上がりながら、口早に云う。
「どうして、私が土方さんとお泊まりしなくちゃいけないのです」
「それをオレに聞くか?」
「実際、聞いているのです」
頬を赤らめつつ、ふいっと顔をそむけた総司は、たまらなく可愛らしい。
斉藤は思わず笑い、かるく小首をかしげた。
「まだまだ子どもって事かな」
「子どもって、私が? 斉藤さんと変らないでしょう」
「いや、年齢の事じゃなくてさ。しかし、これじゃ、土方さんも大変だよな」
「──」
総司はきゅっと唇を噛んだ。
もう耳朶まで真っ赤になったまま、じっと俯いている。だが、やがて背をむけると、自分の部屋の方へ歩み去っていった。
それを見送ってから自分も引き取ろうとした斉藤の目に、玄関から上がる一人の男の姿が映った。草履を脱ぎ、沈痛な表情で框をあがってくる。
じっと見ていると、ばっちり目があってしまった。とたん、不機嫌そうに眉を顰めた。
「……何だ」
「いえ、まぁ……お帰りなさい」
意味ありげに挨拶した斉藤に、土方はますます眉間に皺を寄せた。きっと唇を固く引き結んでいる処を見ても、酷く機嫌が悪そうだ。
それに、斉藤は揶揄するような口調で話しかけた。
「ご機嫌悪そうですねぇ。総司をオレからかっさらっていった割には」
「さらった訳じゃねぇよ。俺のものを返して貰っただけだ」
「なるほど」
斉藤はにんまり笑ってみせた。
「あなたのものですか。その割には、総司、一人で先に帰ってきましたけど?」
「……」
土方は押し黙ってしまった。しばらく切れの長い目で斉藤を見てから、くるりと背を向け、歩み去ってゆく。
その仕草は、先程の総司と全く同じで。
(よく似ているからこそ、なかなか成就しないのかな)
苦笑いした斉藤は、やれやれと首をふると、今度こそ自分の部屋へ戻っていったのだった。

