「……愛して……いる……?」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 総司は、子供のように目を見開き、彼が言った言葉をくり返す他なかったのだ。
 そんな総司を、土方は痛ましげに見つめた。なめらかな頬にふれながら、静かな声でつづける。
「突然、俺みたいな男からこんな事を言われて、おまえが嫌な気持ちになるのはわかっていた。信じられないことも当然だ。だが、俺はそれでも……」
「ちが……違うのです」
 慌てて、総司は身を乗り出した。大きな瞳でまっすぐ男を見上げる。
「私は嫌な気持ちになんて、なっていません。ただ、信じられなくて。だって、あなたは私を殺そうとしたのに」
「──」
 土方が鋭く息を呑んだ。愕然とした表情で、総司を見ている。
 それに、しまったと思ったが、それでも口に出してしまった言葉はもう取り戻せなかった。
 黙って俯くと、不意に大きな手で乱暴に肩を掴まれた。おそるおそる見上げた総司の目に、黒い瞳に苦痛の色を湛えた男の表情が飛び込んでくる。
 掠れた声が訊ねた。
「総司、おまえ……っ」
「……」
「思い出したのか。あの時の事、思い出しちまったのか」
「……はい」
 小さく頷いた総司を、土方はしばらくの間、見つめていた。だが、やがてのろのろと手を離すと、顔を背けてしまう。
 片手で顔を覆い、吐息をもらした。
「嫌われて当然だな」
 目を伏せ、自嘲まじりに呟いた。
「いや、憎まれているのか。俺はおまえを殺そうとしたんだ、あたり前の事だな」
「……憎んでいるとか、嫌っているとか……」
 小さな声で言った。
「それは、土方さんの方でしょう?」
 総司の言葉に、土方は眉を顰めた。振り返り、訝しげに総司を見つめる。
「どういう意味だ」
「だから、あなたは私を嫌っていたから、殺そうとしたのでしょう? あの時のことはよくわからないけど、でも、あなたは私の首をしめて殺しかけた。それは私が邪魔で嫌いだったから……」
「そんな事あるはずねぇだろう!」
 思わず荒々しい口調で遮っていた。
 土方は総司の腕を掴むと、その小柄な身体がすくみ上がるのも構わず引き寄せた。背に手をまわし、息もとまるほど抱きしめる。
「俺がおまえを嫌ったりするなど、それこそありねぇよ。俺はおまえを愛している。誰よりも……俺の命よりも愛しているんだ」
「そんな事……っ」
「信じられるはずがないか。あぁ、確かに俺はおまえを殺そうとした。だが、それはおまえを愛していたからだ。おまえが……誰かのものになったなど、それも男と契りを結んだなど許せるはずもなかった。あの時のことは今思い出しても、怒りと嫉妬で気が狂いそうになる……ッ」
「あ……」
 総司は目を見開いた。慌てて男の胸に両手を突っぱね、その端正な顔を見上げた。
「あれは違うのです。子供扱いするあなたが悔しくて、あんな事を言ってしまったけど、私にはそんな人はいません。誰とも……その、ち、契りなんて結んでいません」
「……だが、今は好いた者がいるだろう」
「え?」
 総司は不思議そうに目を瞬いた。
 その無邪気で愛らしい顔から視線をそらしつつ、土方は苦々しい口調で言った。
「おまえは言ったはずだ。好いた者がいる、それは春を好んでいる者で、一度拒まれたが今も忘れられないと……」
「はい」
 こくりと頷く総司の残酷さに、土方は唇を噛みしめた。
 だが、そんな男の逞しい胸もとに小柄な身体が従順に凭れかかってきた。驚いて見下ろすと、総司は長い睫毛を伏せている。
 小さな声が告げた。
「土方さん……あなたの事なのです」
「え?」
 一瞬、土方は理解が出来なかった。いくら明敏な彼でも自分の恋の事になると物分かりが悪くなるのか。
 意味がわからないという表情で、総司を見下ろしている。
 そんな男を見上げ、総司は言った。
「土方さん、あなたを愛しています。ずっと……好きでした」
「……」
 土方の目が大きく見開かれた。呆然と総司を見下ろしている。
 そんな彼の頬に細い指先でふれた。
「だい好き……ずっと好きだったの。なのに、あなたは私に背を向けて……どんなに辛くて切なかったかわかる? 春が好きなあなたを私はずっと愛していたのに……」
「……いつから」
 掠れた声で訊ねる土方に、総司は小首をかしげた。
「いつからなんて、わからないけど。子供の頃から、ずっと好きでした。冷たくされても、京にのぼってからも、好きで好きでたまらなくて……でも、あなたはふり返ってくれなくて声もかけてくれなくて、私はいつも泣いていたの……」
「総司……!」
 不意に、きつく抱きしめられた。
 背が撓るほど抱きしめられ、総司は微かに息を呑んだ。髪に、頬に、首筋に、口づけの雨が降らされる。
「すまない……総司、俺が全部悪かったんだ。あんな事をしちまった俺だ、離れた方が良いと思っていた。おまえは綺麗で純粋で、俺みたいな男がふれていい存在じゃないと己に言い聞かせていた。だが、おまえが倒れて目を覚まさなくなって……恐ろしくなったんだ。おまえを失う事が怖かった」
「土方さん……」
「おまえの手を握ると、夢の中へ入ることが出来た。会津藩士となっている自分に戸惑ったが、そんな事はどうでもよかった。おまえに逢う事が出来たらと……だから、行列の中からおまえを見つけた時は本当に嬉しかった。桜の花びらがふり舞う中、おまえはまるで桜の精のようだった……」
 なめらかな頬に口づけながら囁く土方に、総司は耳朶まで真っ赤になってしまった。
 もともと土方の声は低くてなめらかな艶のある声だ。新選組副長として振舞っている時は冷徹な響きだが、こうして恋人である総司に囁きかける時、うっとりするほど甘くて優しい声になった。
 土方は総司の頬を両手のひらで包みこむと、優しく仰向かせた。そっと唇を重ねる。
「……ん……っ」
 何度もくちづけを繰り返す男に、総司はうっとりと目を閉じた。抱きしめられ、そのまま静かに褥へ横たえられた。
 この先、何をされるのかはわかっていた。
 だが、それでも抗おうなどと思わない。愛しい彼なのだ。好きで好きでたまらなくて、夢の中に逃げこんでしまうほど苦しくて切ない恋心を抱き、見つめてきた男だった。
 その彼が抱いてくれるのなら、これ程の至福があるだろうか。
 二人は褥に身を横たえたまま、何度も口づけをかわした。まるで長い間、引き離されていた恋人たちのように互いを夢中で求めあってゆく。
 もっともっと彼を身近に感じたくて、両手で男の首をかき抱いた。はしたないと眉を顰められるかと思ったが、土方は喉を鳴らして笑っただけだった。
「すげぇ……可愛いな」
 甘い声で囁き、耳朶を甘咬みされる。そのまま首筋や胸もとに口づけられた。着物が柔らかく脱がされてゆく。
 夢の中なのに情事で感じることが出来るのだろうかと思ったが、杞憂のようだった。土方のしなやかな指さきが肌をなぞるたび、少しずつ腰奥が甘く痺れてゆく。
「ぁ…っ、ぁ…は、ぁ……」
 総司は小さく喘ぎながら、褥を握りしめた。その細い指さきにも口づけられる。
 やがて、男の手が下肢に伸ばされるのを感じ、思わず身をすくめた。
 だが、その怯えは土方にも伝わったらしく、子供をあやすように口づけられる。
「大丈夫だ、酷くしねぇよ」
「土方さん……」
「いい子だ、俺にまかせていろ」
 もう一度だけ口づけてから、土方は総司の下肢を押し広げた。そっと総司のものに男の手がふれてくる。
「や」
 思わず身を捩ったが、男はそれを許さなかった。手のひらで包み込み、愛撫を始める。しなやかな指さきが丁寧に優しく撫で、しごきあげた。
 夢だからこそ感じてしまうのか。それとも、そういうものなのか。初な総司には何もわからなかった。
「ぁ、や…ぁっ、ぁ…っ」
 可愛い声をあげる総司に、土方はたまらなくなった。総司のものは果実のように蜜に濡れている。その蜜を指にからめ、下肢の奥にすべらせた。
 蕾を柔らかく撫でてから、ゆっくりと指をさし入れてゆく。
「な、何……っ?」
 総司が目を見開き、反射的に腰を浮かせた。それを宥めるように、口づけを落とす。
「力を抜いていろ」
「だ、だって……」
「少しは馴らさねぇと、つらすぎるからな」
 そう囁き、土方は丁寧に総司の蕾をほぐしていった。指を奥まで入れてかき回し、見つけた感じやすい部分を柔らかく揉みこんでやる。
 たちまち、総司が泣き声をあげ始めた。
「やッ、ぁ…ぁ、そん…なっ、ぃ…やぁ……っ」
「すげぇ可愛いな、総司」
「も…やぁ、そこ…ぁ…っ」
 甘い吐息が唇からもれる。総司のなめらかな頬は上気し、瞳も潤んでいた。明らかに感じているのだ。
 土方は指を抜くと、総司の両膝を腕に抱え上げた。それに、総司が不安そうに見上げてくる。
「……土方さん」
「出来るだけ力を抜いているんだ、いいな?」
「はい……」
 こくりと頷いた総司に口づけてから、土方は濡れた蕾に己の猛りをあてがった。そのまま、慎重に突き入れていく。
「ッ、ひぃ……ぅ…ッ」
 総司の目が大きく見開かれた。
 ものすごい重量感と圧迫感だった。まるで熱い杭でも打ち込まれていくようだ。
 無意識のうちに上へ逃れようとしたが、男の力強い手がすぐさま引き戻した。そのとたん、深く奥まで貫かれてしまう。
「ああっ!」
 悲鳴をあげ、総司は仰け反った。瞳から涙があふれ、唇がわなないている。
 細い手が縋るように男の腕を掴んだ。
「や、ぁ…ぃ、痛…いっ……苦し…ッ」
「総司、息を吐くんだ」
「できな…ぁッ…ぁあっ、ぁ……ぁ……」
 泣きじゃくる総司はかわいそうだったが、土方も若い男だ、今更やめられるはずがなかった。
 しかも、相手は総司なのだ。ずっと愛してきた相手なのだ。
 その愛しい存在を自分のものに出来る喜びに、ともすれば我を忘れそうになる。
「……っ」
 獣のように貪りつくしてやりたいと欲望がこみ上げたが、それを懸命に押し殺した。
 涙に濡れる頬に口づけてやりながら、総司のものを手のひらで包み込んだ。柔らかく揉み込んで、愛撫していく。
 やがて、総司の頬が上気し、身体も柔らかくなった。それを確かめ、ゆっくりと動き始める。
「や、ぃやッ」
 痛みはまだあるのだろう。たちまち、総司が悲鳴をあげた。
 それに口づけの雨を降らせ、両腕で包みこむように抱きすくめた。深く交わっていく。
「総司……総司、愛している……」
「ぁ、ぁ……土方…さ……」
「おまえだけが好きだ……総司」
 優しい口づけと甘い睦言に、総司は吐息をもらした。そろそろと土方の肩に手をまわし、しがみつく。
 土方は小さく微笑むと、ゆっくりと律動を始めた。総司の感じる部分だけを丁寧に突き上げてやる。すると、総司の桜色の唇から、甘い声がもれるようになった。
「んっ、ぁ…っ、ぁあ……ん……っ」
「総司……ここがいいだろう?」
「わからな…ぁッ、ぁあッ、ひぃ…ぁあッ」
「身体の方が正直だな」
 くすっと笑い、土方は総司の膝をしっかりと抱え込んだ。激しい挿送を始める。男の太い楔が蕾の奥にずんと打ち込まれるたび、総司は仰け反り、泣き声をあげた。
 訳のわからない強烈な快感美が腰から背中へ突き抜けていく。
「ぁ、ぁあ…は、ぁ…っ、ぁあんっ……っ」
「すげぇ…きつい……」
「やぁッ、ぁあっ。ぁ──」
 総司はもう無我夢中で男にしがみつき、泣きじゃくっていた。身体が勝手に揺れてしまい、快感をどこまでも追い求めてゆく。
 土方は白い肌のあちこちに唇を押しあてながら、激しく腰を打ちつけた。そのたびに、痺れるような甘い疼きが腰奥を満たす。
「ぁっ、いっちゃ…ァッ」
 見れば、総司のものは果実のように濡れ、ふるふると震えていた。それに微笑み、ぎゅっと手のひらで握りしめてやる。
「ひぅッ」
 喉を鳴らして目を見開いた総司に、土方は唇を重ねた。くぐもった悲鳴を聞きながら、激しい律動をくり返す。
 少女のように小柄で華奢な若者の身体を、大人の完成された体格をもつ男が抱いている様は、体格差があるだけにまるで陵辱のようだった。男の身体の下で、愛らしい若者は組み敷かれ、貪られ続けている。
「や…ぁッ、ぁあ…ひぃ、ぁッ」
 ようやく唇を離した土方は、総司の膝裏を掴んで押し広げ、激しく腰を打ち付けた。もう頂きが近いのだろう。男も無言のまま息づかいも荒く、若者の身体を犯してゆく。
「ぁッ、ぁああッ、も…許し…っ、ぁあっ」
「……っ、く……」
「や…ぁああっ、あああッ!」
 甲高い悲鳴があがった瞬間、総司の腰奥に男の熱が叩きつけられていた。それと同時に、総司のものからも蜜が迸る。
 土方は反射的に逃れようとした総司の身体を引き戻し、その蕾の奥に己の熱を注ぎ込んだ。深く繋がったままの行為なので、感じやすい部分に注がれ、総司が泣き声をあげる。
「やぁッ、ぁ、あ…ついっ、ぁ……ぁあ」
 身体を震わせながら男の熱を深く受け入れさせられている総司は、愛らしく艶めかしかった。上気した頬も、潤んだ瞳も、ふるえる唇も、皆、男の欲望を煽ってしまう。
「総司……っ」
 たまらず土方は総司の細い身体を引き起こし、膝上に抱き上げた。自分の身体の中で再び太く硬くなっていく男の猛りに、総司が「ひっ」と悲鳴をあげる。
 慌てて逃れようとしたが、もう既に遅かった。土方は総司の腰を掴んで持ち上げ、己の切っ先の上へ腰を降ろさせた。ずぶずぶと真下から貫かれ、総司は悲鳴をあげた。
「ぁああーッ!」
 信じられないぐらい奥まで貫かれ、強烈な快感に失神しそうになる。
 だが、それを土方が許すはずもなかった。むしゃぶりつくように口付けながら、総司を抱いてゆく。
 それに、総司も次第に甘くすすり泣き始めた。細い指先での男の体にすがりつく。
 いつまでも互いを求めあう恋人たちを、夢は優しく甘く包みこんでいった……。