「土方さんを……受け入れるため?」
 小さな声で訊ねた総司は、しばらくの間、黙り込んでいた。
 恥ずかしさと怖さと不安と、様々な感情が総司の中で渦巻いていたのだ。
 だが、それらを凌駕する強さで、彼への想いがあった。
 恋しい彼に抱いてもらえるのだ。躰だけでも愛してもらえるのだ。


 それ以上に幸せなことなんて、あると思う……?


 総司は、ゆっくりと頷いた。
 躰の力を抜き、男を受け入れようとする。それに、土方が驚くのがわかった。
「総司……!」
 背中に腕がさしいれられ、ぎゅっと抱きすくめられる。頬ずりされ、首筋や肩に口づけを落とされた。それがたまらなく心地いい。
 土方は慎重だった。
 決して手荒い事はせず、総司を怖がらせないように気遣ってくれているのがわかった。蕾に指をさしいれてほぐしながら、総司のものも柔らかく愛撫してくれる。
 唇でしゃぶられた時には、驚き、泣いてしまったが、それでも、総司の躰から余計な力が抜けたのは確かだった。
「っ…は、ぁ…っ、ぁ……」
 土方が頃よしと身をおこした時、総司は肩ではぁはぁと息をしていた。頬が真っ赤に上気し、目も潤んでいる。
「……総司」
 頬に口づけた土方に、総司は長い睫毛を瞬かせた。甘えるような表情で見上げると、男の瞳が熱っぽくなったのを感じる。
 いつも理知的な土方がそんな表情をするところは、見た事がなかった。ひどく色っぽくて、どきどきする。
 土方は総司の細い両足を抱え込むと、押し広げた。あっと羞恥に身をすくめる暇もなく、濡れそぼった蕾に男の猛りがあてがわれる。
 そのまま、一気に奥まで貫かれた。
「……ッ!」
 総司の目が見開かれた。一瞬にして、涙が視界をおおっていく。
 思わず上へ逃れようとしたが、がっしり下肢を抱えられた状態では、逃げられるはずもない。男を受け入れるばかりだ。
「ひっ、ぃ…やあッ! ぃ…たい……っ」
「総司、すまない……」
「やめ…てっ、痛いの……っ、土方…さん……ッ」
 泣きながら総司は土方の肩に縋りついた。苦痛のあまり、爪をたててしまう。
 男はそれに呻いたが、ふり払おうとはしなかった。それどころか、よりきつく抱きしめてくれる。
「すまん……総司、少しだけ我慢してくれ」
「やっ、や……ッ」
「総司……俺の可愛い総司……っ」
 男の声音は、まるで熱に冒されたようだった。荒い息を吐きながら、総司の躰のあちこちに口づけてくる。
 総司のものも男の大きな手のひらに包みこまれ、柔らかく揉まれた。
 快感と苦痛を同時に味わい、総司は次第に訳がわからなくなってくる。頭の芯がぼうっと霞んだ。
「総司……」
 蕾の奥が熱をおびはじめたのを見てとり、土方はゆっくりと身を起こした。とたん、総司が息を呑む。
「う、動かないで……っ」
「このままの方が辛い、よくしてやるから」
「いやっ、いやあっ」
 泣きじゃくる総司を抑え込み、土方はゆっくりと躰を動かし始めた。傷つけぬよう慎重に、抽挿をくり返してゆく。
 それに、総司は怖がり啜り泣いた。いやいやと首をふっている。
 その幼い仕草に、痺れるような情欲を感じた。
「総司……っ」
 男の太い猛りを受け入れさせ、奥深い処をぐぬりと捏ねまわした。柔らかな熱が吸い付いてくる。
「ぁあっ」
 総司が小さな悲鳴をあげた。
 また痛みを与えたかと慌てて見下ろしたが、総司の頬は上気していた。未知の感覚に驚いたのか、目を見開いている。
「ここか……」
 土方は薄く笑い、その部分だけを執拗に擦りあげてやった。たちまち、総司が甘い声で泣きはじめる。
「や…ぁっ! ぁあっ…んっ、ぁ…ッ」
「少しは感じるか?」
「ぁっ、ぁあ…ん、土方…さん……っ」
 細い腕が縋るようにしがみついてくる。堪らないと云いたげに、腰が揺れた。たまらなく淫らな動きだ。
 それに目を細め、土方は総司の両膝をきつく抱え込んだ。躰を密着させ、短い間隔で打ち込んでゆく。
「ああっ、ああっ」
 総司の唇から悲鳴がもれた。穿たれるたび、熱い快感が走るのだろう。男の腹に擦れるものも蜜をぽたぽた零していた。
「は…ぁあっ、ぁんっ、ぁあっ」
「おまえの奥…すげぇ熱いな」
「…云っちゃ嫌ぁっ、ぁあっ、んっ」
 恥ずかしそうに頬を染めて泣く総司が可愛い。
 その艶めかしい表情に、土方は己の熱が高まるのを感じた。とたん、総司が泣きじゃくる。
「やあっ、こ、これ以上大きく…しないでぇ……っ」
「……仕方ねぇだろ」
 土方は思わず苦笑した。
「おまえが色っぽすぎるんだ……」
「そんな……あっ、ひぃっ、ああッ」
「俺を煽りすぎるな」
 低い声で云いきかせ、土方は本格的に腰を打ちつけ始めた。逃れられないよう総司の小柄な躰をしっかり押さえつけ、激しい抽挿をくり返していく。
 男の太い猛りが蕾に突き入れられ、何度も奥を穿った。そのたびに、総司が泣き声をあげてのけ反る。
 もう男に貪られるばかりだった。背筋を熱い快感美が貫き、躰中がとろけてゆく。あまりの気持ち良さに、総司は身悶え、男に縋りついた。
 耳もとにふれる男の息が荒くなってくる。それに、頂が近いのを感じた。総司のものも、今にも弾けそうだ。
「ひぃっ、ぁあっ、い…くっ、いっちゃう……ッ」
「俺も…だ、総司……っ」
「ぁあッ、ひぃ…ぁあっ、ぁああーッ!」
 甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司は達していた。蜜が男の胸や腹に飛び散ってゆく。
 それと同時に、土方は蕾の奥深くで堪えていた熱を思いきり放った。どくどくと注がれる熱に、総司が「ひぃっ」と腰を跳ね上げる。
「ぁ、ぁ…ついっ、やぁ…ぁっ、ぁ……ッ」
 怖さのためか泣きじゃくる総司を、土方は抱きすくめた。腰を打ちつけ、すべてを吐きだし続ける。
 その間、総司は泣き声をあげ、びくびくと躰を震わせていた。それが酷く可愛く、いとけない。
 やがて、はぁっと息を吐いた土方を、総司が潤んだ瞳で見上げた。艶めかしい、恋人を見るようなまなざしだ。
「総司……」
 土方は身をかがめ、そっと唇を重ねた。総司が素直に応えてくれるのを感じ、その躰をきつく抱きすくめた。
 長い年月の果て、ようやく手にいれる事ができた恋人を、土方は二度と手放さぬと誓った。














 柔らかな朝の光が障子越しに射し込んできている。
 それを、総司はぼんやりと見つめていた。隣室で土方が着替えをしている物音がする。
 やがて部屋に入ってきた土方は、もう一分の隙もない武家姿だった。襟も癇性に合わせられ、昨日の名残など何処にもない。
 総司は身を起こし、それを見上げた。その気だるげな様子に、土方が眉を顰める。
「躰が辛いか」
「いえ……大丈夫です」
 首をふったが、嘘であることは明らかだった。何しろ、初めてだというのに、昨日、あれから夕食をはさんでもう一度抱き合ってしまったのだから。
 むろん、屯所には外泊の使いを出してあった。総司が食事をしている間に、土方が手配を済ませたのだ。
「一日、ここで休んでいろ」
 土方は傍に跪き、静かな声で云った。
「夕方、また迎えにくるから、それまで大人しくしているんだ」
「でも……」
「初めてなのに、随分と無理をさせた。これぐらいさせてくれ」
 男の言葉に、総司は頬を赤らめてしまった。
 昨日、この人に抱かれたのだ。肌をあわせ、交わった。今でも信じられないぐらいだった。
 ずっと憧れてきたこの人と。
 昨日の余韻にひたっている総司を、土方はそっと抱きよせた。何気ない口調で呟く。
「だが、驚いたな」
「何が…ですか」
「初めてだったことだ。斉藤と契りを交わしていると思っていた」
「えっ」
 総司は思わず身を起こしてしまった。慌てて彼を見上げる。
「違います。そんな事、していません」
「だが、念兄弟だろう。当然、斉藤もそれを望んでいるはずだ。それとも、何か? おまえが拒んできたのか」
「だから、違います! 斉藤さんとはそんな関係じゃないのです。契りなんて交わす必要が……」
 言葉が途切れた。
 さっと顔色をかえた土方の表情に、云い方を間違えた事に気づいたのだ。
 思わず口をおさえたが、もう遅い。
 俯いてしまった総司に、男の低い声が降ってきた。
「……成程、そうか。斉藤とは、俺みたいな関係を結ばずとも、心で繋がっているという訳だな」
「違うのです! そういう事じゃなくて……」
「云い訳はしなくていい。まぁ、確かに、おまえの言葉どおりさ」
 土方はくっと喉を鳴らし、嗤った。おそるおそる見上げると、酷く冷たい瞳がこちらを見下ろしていた。
「おまえの言葉どおり、俺とおまえは淫らな関係だ。そこに気持ちの繋がりなんか、何もねぇ。あるはずもねぇよ」
「そん、な……」
「これは取引だろう?」
 土方は立ち上がりながら、唇の端をつりあげてみせた。酷薄な笑み。
「江戸へ帰りたくない、恋しい男の傍にいたいが為に、おまえは嫌っている男に抱かれたんだ。そして、俺も楽しませてもらった」
「土方…さん」
「まぁ、気晴らしにはなったさ」
 そう云い捨てると、土方は踵を返した。大股に部屋を横切ると、後はふり返りもせず部屋を出ていってしまう。
「……」
 総司は、それを呆然と見送る他なかった。
 追いかけたいと思ったが、体が動かない。
 それは躰の痛み故だけではなかった。心が痛いのだ。
 追いかけ、縋っても、冷たく見下されるのが怖くてたまらないのだ。
「っ……ぅ…っ」
 ぽろぽろと涙がこぼれた。
 切なくて悲しくて、どうしようもなく泣いてしまう。


 昨日、あんなに幸せだったのに。
 夢のように幸せだったのに。
 どうして、こんなふうになってしまうのだろう。
 取引だなんて、そんな事、一度だって思わなかったのに。
 あの人の腕の中で、とけ消えてしまいたい程、幸せだったのに。


「……土方…さん……」
 愛しい男の名を呼んだ総司の声は、朝の光の中に消えた。















 昼頃、総司は屯所に戻ってきた。
 とてもではないが、夕方、土方が迎えにきてくれるとは思えなかったのだ。彼の言葉を真に受けるなど、恥ずかしい限りだった。
 気怠い躰で駕籠を降りた総司は、ゆっくりと屯所の中へ入っていった。自室へ向かっている途中、斉藤と行きあったのだが、とたん、ぎょっとした顔をされた。
「ど、どうしたんだ、総司」
「え?」
「目が腫れてるぞ」
「……!」
 慌てて顔をそむけた。それに、斉藤が心配そうに話しかけてくる。
「それ、泣いた痕だろう。おまえがそこまで泣くなんて、いったい何があったんだ」
「別に何でもありません」
「何でもないって……おい、総司」
 逃げ出そうとした総司の手首を、斉藤は強引に掴んだ。引き寄せると、総司の躰が酷く熱い。
 思わず目を見開いた。
「おまえ、熱……」
「何……?」
「熱があるじゃないか!」
 斉藤は総司を抱えるようにして、歩き出した。それに、総司は慌ててしまう。
「さ、斉藤さん! 私、大丈夫ですから」
「全然大丈夫じゃない。そんな熱のある躰で何を云っているんだ」
「だって……」
 総司は斉藤に肩を抱かれ、歩きながら、辺りを伺わずにはいられなかった。つい、土方の姿を探してしまったのだ。


(あの人は気にもとめていないだろうけれど……)


 だが、どこにも土方の姿はなかった。あのまま屯所には戻らなかったのか。
 そんな事を考えながら自室へ向かっていた総司は、突然、自分の肩を抱く斉藤の手が強張ったのを感じた。訝しく思いながら顔をあげたとたん、息を呑む。
 廊下の反対側に、土方が佇んでいた。今、角を曲がってきたばかりらしく、驚いた顔でこちらを見ている。
 だが、寄りそう二人を見た瞬間、切れの長い目の眦がつりあがった。ぐっと唇を固く引き結ぶと、足早にこちらへ向かってくる。
「……総司」
 低い声で呼びかけられ、総司は思わず身を竦めてしまった。びくりと震え、斉藤の胸もとに縋りつく。
 だが、それは男の激昂をより煽った。
「!」
 不意に腕を掴まれたかと思うと、乱暴に引き寄せられてしまう。
 斉藤が驚き、声をあげたが、土方は全く構わなかった。その小柄な躰を己の懐へ抱きこみ、剣呑なまなざしを斉藤に向ける。
「こいつは、俺が連れていく」
「何を云っているんですか! 総司は今……っ」
「熱があるのだろう、そんなもの見ればわかる」
 そう云いきると、土方は身をかがめた。総司の腰と膝裏に腕をまわすと、昨日のように軽々と抱きあげてしまう。
 総司は思わず暴れた。
「だ、だめ……! 土方さん」
「……大人しくしていろ」
「だって」
 あくまで抗う総司の耳もとに、土方は唇をよせた。低い声で囁きかける。
「逃げたいなら、俺を殺せと云っただろう……?」
「!」
 総司の目が見開かれた。ぴたりと抗いがやんでしまう。
 それに、土方はくすっと笑った。
「いい子だ」
 一瞬、胸もとにぎゅっと抱きしめてから、歩きだしてゆく。後ろで斉藤が呆れたように見送っているのを知っていたが、総司はもうふり返ることも出来なかった。
 幸いにして、隊士たちとすれ違う事もなく、二人は総司の自室に辿りついた。その小柄な躰を畳の上に降ろすと、土方が手早く布団を敷いてくれる。
「そんな事、私が……」
 慌てて手をだしかけた総司を遮るように、土方が云った。
「何故、待っていなかった」
「え……?」
「俺は、夕方迎えに行くと云っただろう」
「……」
 総司は思わず黙り込んでしまった。
 それを今、ここで云う? と思ったのだ。


 あんな喧嘩をして、あんな捨て台詞をして出ていった男が、夕方迎えに行くつもりだったなどと云われて、どうして信じることが出来るだろう。


「嘘つき」
 小さな声で呟いた。だが、小声でも、男の耳には届いてしまったようだ。
 土方が勢いよくふり返った。鋭い瞳をむけてくる。
「……何だと」
 声音が怒りを帯びた。




















どんどん展開していきます。