始まりは、一本の電話だった

 まるでミステリー小説のごとく








「……え?」
 総司は受話器を握りしめたまま、ちょっと目を見開いた。
 思わず口ごもってしまう。
 8月の昼下がりだった。当然ながら、東京の戸外はもうひっくり返りそうな猛暑だが、ここ官舎のリビングにはクーラーが効いて、空気もさらさらひんやりしている。
 そんな中で、総司はせっせと洗濯物を畳んでいた。
 今も、リビングの床には沢山の洗濯物が広げられてある。土方のジーンズや、総司のシャツ、二人の靴下などなど。
 主婦そのものの馴れた手つきで、それを畳んでいる最中に、電話が鳴ったのだ。
 そして、今に至っている。
「うーん……」
 ちょっと唸ってから、総司は小首をかしげた。
「でも、それって本当にいいのですか?」
『もっちろんよ!』
 明るい声できっぱり答えたのは、信子だった。
 土方の姉であり、この世で唯一土方が頭が上がらない相手だ。
『ちゃんと総ちゃんサイズに仕立て直させておくから。歳のだけど、あまり着てない浴衣いっぱいあるから、とっても物いいわよ〜。総ちゃんだって、歳の着てた浴衣を着る方が嬉しいでしょう?』
「あ……はい」
 ぽっと頬が可愛らしく火照った。
「嬉しい……です」
 そっと手をのばし、土方のシャツを指さきで撫でた。
『なら、決まりね。お祭りは来週の金曜日でしょう?』
「はい」
『じゃあ、金曜日の2時頃にいらっしゃいよ。お茶してから、支度しましょう。けっこう数あるから、時間かかると思うし』
「はい、よろしくお願いします」
『あ、それから……歳には内緒ね♪』
「え? ど、どうしてですか?」
『内緒にして、びっくりさせるのよ。待ち合わせ場所で、きっとびっくりするわよ〜。それって楽しいじゃない』
「は、はぁ……」
『じゃね、金曜日の2時にね。楽しみにしてるわ♪』
 そう云うと、信子は電話を切った。
 総司は切れた電話の子機を手の中で弄びながら、呟いた。
「……ほんとに黙ってていいのかなぁ」
 何だか、とんでもなくやばい予感がするのだが。
 でも、彼が怒る事ではないだろう。
 ちょっとびっくりするだろうけど、でもでも、きっと喜んでくれるはずなのだから♪
「うん、黙っててもいいよね! だって、いっちゃんじゃないんだもの。土方さんの浴衣なんだし、絶対、大丈夫大丈夫〜♪」
 そう呟くと、総司は一人こくこく頷いた。
 そして、また洗濯物をせっせと畳みはじめたのだった。



   ……総司は知らない。
   “着せ替えごっこ”が嫌いな女性はあまりいないという。
   恐るべき事実を。








 土方と総司は、お祭りに行く約束をしていた。
 その当日、土方が仕事のため、神社の前で待ち合わせする事になっている。
 それを、総司はとーっても楽しみにしていたのだ。
 何しろ久しぶりのデート。
 それも、夏の定番、お祭りデート!

(わーい、嬉しいな♪)

 総司はうきうきしていた。
 もちろん、理由はお祭りだとか久しぶりだとか、だけじゃない。いや、それも重要なポイントなのだが。
 最近、土方は仕事が忙しい事もあって、色々とあちこち多方面に渡ってご無沙汰なのだ。
 中でも、とくに夜の営みの方が。
 藤堂などに相談したらまた「枯れちゃったんじゃないの〜?」などと云われそうなので黙っていたが、それでも総司は一人でちょっぴり悩んでいた。
 自分が最近1s太ったから魅力ないのかな、と、せっせとダイエットに励んでみたり。
 はたまた、仕事疲れなのかと、精力がつきまくるレバニラ料理を作ったり、さり気なくマムシドリングを朝飲ませたり(さし出すと、無言で凝視していたが)。
 しかし、総司の涙ぐましい努力をよそに、事態は全く好転しなかったのだ。
 そこへ、このデートのお誘いだった。
 しかも、土方の話によると、翌日は非番だという。


   これが燃え上がらずにいられようか!


 そして。
 総司はあまりの嬉しさに、久しぶりにお茶でもしない〜?と電話をかけてくれた信子に、ついつい喋ってしまったのだ。
「来週の金曜日、お祭りに行くんです!」
 と。
 それに、信子が浴衣を着ていくの?と訊ねたことで、あれよあれよと話は纏まってしまったのだが。



「……うーん、何か図々しかったかも」
 さらっと聞き流してしまったが、信子は全部仕立て直すと云っていたのだ。とんでもなく贅沢な事だった。
 本当に、そんな事させてしまって良かったのだろうか。
 だが、もう今更悩んでも遅かった。
 何しろ、時はその金曜日、総司が現在いるのは、佐藤家のだだっ広―い和室なのだ。
 両側に広縁があり、その向こうには美しい日本庭園が広がっている。
「広いなぁ……」
 視線を戻せば、ご立派な床の間に、いったい何畳なのか数えるのも面倒なほど広い和室だ。というより、広間か。
 そのど真ん中に、まるで借りてきた猫のような様子で、総司はちょこんと坐っていた。
入り口辺りでは信子が立ち、ものすごい真剣な形相でメイドたちにあれこれ指図している。

「あの細帯も持ってきて! あっちの箱もね」
「浴衣はもちろん、全部よ。こっちに運び込んで!」
「下駄? あぁ、それは昨日○○百貨店に持ってこさせたでしょ?」

(……え、えぇっ!?)

 信子の言葉に、総司は思わず腰を浮かせてしまった。
 下駄の事など考えていなかったのが迂闊だった。だが、時既に遅しだ。
 信子が購入したらしい総司の下駄は、十箱ぐらいあった。こんな沢山、どうやって履けと云うのか。
「選べばいいのよ、もし気にいったのなかったら持ってこさせるから」
 あっさり断言した信子は、総司を立たせた。
 うきうきした様子で、少年の躯に次々と浴衣をあててゆく。
 どれもこれも品の良いもので、土方の為なのだろうが、よくもまぁこれだけ仕立てたものだというぐらい、沢山あった。
「まったく勿体ないったらないのよ」
 白地に紺色の浴衣をあてながら、信子はぶつぶつ文句を云った。
「あの子ったら、こんなに沢山あるのにどれもこれもほとんど着なかったんだから。まぁ……仕方ないけど。お祭りって云ったら、あの子の場合、喧嘩の場以外のなにものでもなかったし」
「そ、そうだったんですか」
「荒みきってたからね。昔の不良少年ってとこかしら。それが今じゃ、警視庁のキャリアなんだから人生わからないものよねぇ」
 そう苦笑してから、信子はハァッとため息をついた。
 なかなか総司にぴったりな浴衣がなく、ちょっと不機嫌になってきたようだ。
 そこへ、平日の午後なのに何故か信子の夫佐藤彦五郎が入ってきた。信子と総司の様子を見ると、楽しそうに笑う。
「おお、やってるな」
「あなた」
 信子はちょっと唇を尖らせ、ふり返った。
「困ったのよ、総ちゃんに似合う浴衣がないの」
「どれも歳のものだろう? 総司くんには少し地味すぎないか」
「地味って……」
「いっそのこと、おまえの娘時代のものを出してみたらどうだ?」
「は?」
 一瞬、総司の目が点になった。
 呆気にとられ、彦五郎を見る。
「信子さんのものって……え、え、ええっ!?」
 常識人とも思えぬ彦五郎の提案に、総司は大きく仰け反ってしまった。


   それは、つまり娘用って事ではないか!
   男の自分がそんなもの着たら、女装以外の何ものでもなくて……


「あ、あのですね……っ」
 慌てて、総司は抗弁しようとした。
 だが、その傍で、信子はきらりーん!と目を光らせた。
 唇の端がつり上がり、ふっふっふっと笑い声をたてる。
「あたしの浴衣! それはいいわねぇ」
「おまえの娘時代、美少女だったからなぁ。浴衣姿は絶品だったぞ。いやいや、今も綺麗だが」
「やだ♪ もう、あなたったら」
「まぁ、どれも綺麗ないい柄ばかりだし、きっと歳も気にいると思うな」

(……っていうか! ぼくが男だってこと、おふたりとも忘れてません?)

「そうよねぇ♪ 歳の地味な浴衣なんかより、総ちゃんには可愛い浴衣の方がきっと似合うわ。さっそく行って取ってくるわね」
 止める隙もあらばこそ。
 慌てて総司が「信子さん」と呼び止めようとした時にはもう、信子はびっくりする程の素早さで和室を出ていってしまった。その上、あっという間に、メイドたちに沢山の浴衣や、またまた色んな箱や袋を持たせて、だだだーっと駆け戻ってくる。
「ほらほら、総ちゃん! 可愛いでしょ〜♪」
 信子は畳の上に座ると、満面の笑顔で、総司の前にたっくさんの浴衣を広げてみせた。
「……」
 もちろん、それは全部、女物だ。
 土方のものを上回る数の多さ、その色彩の華やかさに、総司はくらくら眩暈を覚えてしまった。

(これって……どこからどう見ても、女の子用の浴衣なんですけど!)

 そう叫びたかったが、彦五郎と信子のにこやかな笑顔に、言葉が喉奥でひっかかる。
 ここが素直というか優しいというか、弱気というか。 
 ともかくも絶句している総司に、次から次へと、信子は浴衣をあて始めた。今度は別の意味であれこれ悩み始める。
「うーん、これもいいわぁ。これも似合うし……あぁ、これも色がいいわよね。でも、こっちは柄が可愛くて、総ちゃんタイプだし……」
「あのう……」
「なぁに? あっ、こっちのピンク色の方がいい? 今はやりのレトロ柄もいいんだけど、総ちゃんならやっぱり可愛くキュートにの方が似合うと思うのよ。ね? あなたもそう思うでしょ?」
「うむ、そうだな」
 二人はまるで一人娘を相手にしてるかのように、あれこれ浴衣や帯をあわせ、あぁでもないこうでもないと楽しんでいる。
 そう、きっぱり楽しんでいるのだ。
 総司は深くため息をついてしまったが、ふと見た鏡の中に映る自分の姿に、ちょっと息を呑んだ。

(……似合ってるかも)  

 実際、先程まであわせられていた土方の浴衣より、数段よく似合っていた。
 総司の透き通るような白い肌に、桜色や薔薇色の華やかな色彩が映え、まるで花が咲いたようだった。
 きっと、男なら誰でも見惚れてしまうだろう。
 誘惑されるに違いない。
 それが恋人の男であるのなら、尚のこと。

(土方さんも……誘惑されちゃう?)

 そんな事を考えたとたん、総司の中の意識モードがシャキーンッ!と切り替わった。
 俄然、やる気になってしまったのだ。
 攻略目標は、かーなーりご無沙汰の夜の営み!
 それを獲得するためには、様々な忍耐や努力は絶対不可欠なのだ。
 恋しい恋しい男のためなら、たとえ火の中水の中。
 愛は無敵なのだ!

(よーし、頑張るぞ!)
(これで土方さんを誘惑できるんだったら、女の子浴衣ぐらい幾らでも着てやるんだから!)

 突如、総司はめらめら燃え上がった。
「信子さん!」
 いきなり元気よく叫んだ総司に、信子は驚いたように目を見開いた。
 それに、総司は一番艶めかしくて綺麗な浴衣を掴むと、ばっとさし出した。
「これ! これがいいです。ぼく、これが着たいです」
「あ、それ? それは新品なのよ。気にいったらあげるけど……でも、ちょっと大人っぽくない?」
「桜色が入っているし、とっても素敵だと思うのです」
「そうねぇ。うん、総ちゃんが気にいったなら、それにしましょ。帯も皆あげるから、着て帰ってね」
「えっ、ほんとですか? 嬉しい」
 にこにこ笑った総司に、信子もにっこり笑った。
 傍らで、彦五郎も微笑んでいる。
 そして。
 三人寄れば文殊の知恵。
 その浴衣にあう帯はこれだ、帯留めだ、髪飾りだと。
 さんざんあれこれ迷いつつも。
 あっという間に、総司は“可愛く艶めかしい浴衣美少女”へと仕立て上げられていったのだった……。








 土方は改札を抜けると、地下鉄の駅の階段をのぼった。
 外に出たとたん、むっとした空気が押し寄せてくる。
 それに思わず顔を顰めてしまった。
(……暑いなぁ)
 夕暮れ時になっても、まだまだ暑い東京だった。
 何しろ、8月なのだ。致し方ない事だろう。
 これでも祭りにスーツはおかしいと、カジュアルな開襟シャツとジーンズに着替えてきたのだ。
 本庁のロッカーで着替えた彼に、斉藤がにやにや笑いながら「デートですか」とからかってきたが、それに小さく笑うだけで誤魔化した。
 実際、ようやくとれた休みだった。
 こんなに早く帰れるのも久しぶりのことだ。
 厚生労働省に訴えてやろうかと思う程の、ハードな日々が続いていた。毎日、毎日、仕事に走り回り、泊まりもざらで、総司と顔をあわせるのも稀な程だった。
 実際、総司恋しさでぶち切れそうだったのだ。
 たまに顔をあわせても、こっちは疲れ切って幾ら何でも相手をしてやる余裕もない。その上、書類が山積みの為とうとう家にまで持ち帰っていた。
 そんなこんなで、総司と「あれこれ」など出来るはずもなく、本当に申し訳なく思っていたのだ。
 総司の不満はヒシヒシと伝わってきていただけに。
 最近、やけに精力つきそうな食事──レバニラ料理だの、鰻だの、おくら料理だのを出されていたし、先日の朝などは出かけようとしたとたん、無言でマムシゴー○ドドリンクを突きつけられたのだ。
 黙って見つめていると、「飲んで下さい!」ときっぱり断言されて。

(訴えるような……というか、脅すような瞳に怯んで飲んじまったが)

 土方は深々とため息をついた。

(正直、あれは……まずかった)

 別にあのドリンクを二度と飲まされないためではないが、とにかく、ここらで休みをとらなければ、彼自身も総司も干涸らびてしまうと思ったのだ。
 愛ってのは、ただ一緒にいるだけじゃなく、色々と気持ちいい事をすることでより高まるはずなのだから。
 実際、今の状況ではろくに一緒にいる事もできない。
 なので、ようやく事件も沈静化してきた事をチャンスと、土方は久しぶりの非番をとりさっさと本庁を後にしたのだ。

(……総司は先についてるかな)

 土方は待ち合わせ場所の神社の鳥居前で、ぐるりと周囲を見回した。
 今日は祭りなので、ほどほどに混み合っている。あちこちに可愛らしい浴衣を着た娘や、人待ち顔の男などがいたが、生憎、愛しい少年の姿はその中になかった。
「……」
 仕方なく、土方は神社近くの店を覗いてみる事にした。
 そこに総司がいるかもしれないと思ったのだ。
 神社の前には、古くからある店が沢山並んでいる。そのどれもが趣向をこらしたおしゃれな店ばかりで、総司の好みそうな可愛い綺麗な物がいっぱいだった。
 一軒一軒を、土方は覗いて歩いた。
 そして。
 そのうちの、一軒だった。
 美しいガラス細工を売っている小さな店だ。あまり客の数はなく、一人の少女がいるだけだった。
 向こうに背を向けていたのが、僅かにこちらをふり返る。
 ガラス越しに見えた少女の儚げな横顔に、土方はどきりと心臓が跳ね上がるのを感じた。
「!」
 思わず息をつめてしまった。

 とても、可愛らしく綺麗な少女だった。
 薄紫色にぼかし桜の浴衣がとても艶めかしく、華奢な躯によく似合っている。
 髪はショートカットにされ、だが、その柔らかな髪には淡い花飾りが揺れていた。
 雪のように白い項が眩しく、伏せられた長い睫毛が儚げだ。
 うっすら化粧しているのか、艶のある桜色のルージュをひいた唇が、ぷるんとした桜んぼのようで、男の目をたまらなく惹きつけた。

(……何で、俺……)

 土方は柄にもなく狼狽えてしまった。
 総司以外の誰かに見惚れてしまうなど、初めての事だったのだ。
 それも、今、恋人を捜している身でありながら。
 だが、それでも、少女はあまりに可憐で──まるで夢のように美しかった。
「……っ」
 慌てて土方は踵を返した。こんな少女に見惚れている処など、総司に見られたら大変だと思ったのだ。
 自分でも訳がわからない衝動と感情を持て余しながら、足早に待ちあわせ場所に戻る。
 鳥居前には、まだ総司の姿はなかった。だが、その事に何故か安堵の息をついてしまう自分に、また狼狽える。

(……いったい何をやっているんだ)

 土方は煩わしげに前髪をかきあげなら、深くため息をついた。
 とにかく、自分を落ち着かせようと思ったのだ。
 だが、その時だった。
「土方さん!」
 縒りによって、後ろから恋人の声がしたのだ。

(! そ、総司……っ)

 固まっていると、そっと腕に手をかけられた。
「土方さん? ねぇ……待った?」
「……」
「? どうしたの?」
 いつまでたってもふり返らない男を、総司は訝しく思ったようだった。
 不意に、土方の腕を掴んだまま、自分の方が前へ回り込む。
 とたん───

「……え?」

 土方の目が大きく見開かれた。
 呆気にとられ、半ば唖然としたまま総司を見下ろした。
 なぜなら、そこにいたのは、他でもない。
 あの浴衣美少女!だったのだ。

「……な、何で……っ」
「え?」
「何で……そんな恰好してるんだ」
 ようやく喉奥から声を絞り出した土方に対し、当の浴衣美少女総司はあっけんからんとしたものだった。
「あ、これですか?」
 総司は袂をぱっと広げると、にっこり微笑ってみせた。
「これね、信子さんの浴衣なんですよ。でも、新品であげるって云ってくれて♪ ふふっ、似合ってます?」
「……あぁ……すげぇ似合ってる」
「よかったぁ♪ 土方さん、もしかしたらひいちゃわないかな?って思ってたんですよ。だって、女装ですものね」
 くすくす笑う総司を、まだ半ば呆然としたまま眺めながら、土方は思った。

  別の意味でひいちまっただろうが!
 っていうか、一瞬でも俺は浮気性なのかと悩んでしまったんだぞ!

 思わず眉間に皺を刻んでしまった土方を、総司は不安そうに見あげた。
 マスカラなど必要なしの長い睫毛を瞬かせる。
「……やっぱり、怒ってる?」
「いや、怒ってねぇよ」
「じゃあ、どうして……眉顰めてるの?」
「い、色々あるんだよ」
 そう誤魔化してから、土方は総司の白くて細い手を掴んだ。そっと引いてやりながら、気をとり直し優しく微笑みかけてやる。
 総司はぽっと桜色の頬を染め、笑い返した。
 その笑顔もまた、零れる花のような美しさ儚さで……。

(このまま、どこかへ浚っちまいてぇよ)

 そんな事を考えながら、かるく胸もとに引き寄せた。思わずなめらかな頬を掌で包みこむ。だが、総司は子供がするように、いやいやと首をふった。
「だめ……お祭り、一緒にまわる予定でしょ?」
「あぁ、そうだな」
「ぼくね、金魚すくいがしたんです。あれ、けっこう難しいでしょ」
 子供っぽい言葉に、土方は思わずくすっと笑った。

 艶めかしい浴衣を着て、美しく儚げで。
 だが、やっぱり中身は総司だ。
 素直で元気で優しくて明るい、俺の可愛い総司だった。

「よし、行こうか」
 土方は総司と手を繋いだまま、歩き出した。鳥居の下をくぐってゆく。
 もちろん、馴れない浴衣に下駄姿の総司を気づかい、いつもよりその歩みはゆっくりだ。
 それに気づいた総司は、土方の優しさにちょっとだけ頬を染めた……。












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