「わぁーん、金魚逃げちゃった!」
 総司は破れてしまった掬いを手に、半泣きの顔になった。
 先程から、もう三度目の挑戦なのだが、まったく上手くいかないのだ。
 それを土方は傍らで腕組みし、苦笑しながら眺めていた。
 時々、ある方面では驚くほどの器用さを見せるかと思うと、こういう処では不器用になったりする。
 そのびっくり箱のような意外性が、土方からすれば可愛くてたまらなかった。
「……土方さん、笑ってるー」
 ぷうっと頬をふくらまし、総司は彼の元へ戻ってきた。むろん、その手は何も持っていない。結局、一匹も掬えなかったのだ。
「ま、人それぞれ得意不得意ってのがある訳だな」
「だって……欲しかったんだもの」
「じゃあ、俺が何かおまえの欲しい物とってやるよ。金魚がいいのか?」
「え? あ……じゃあね」
 土方の言葉に、とたん、総司はぱっと顔を輝かせた。
 ささっと周囲を見回してから、「あ、あれが欲しい!」と指さした。
 それは、クマの小さなぬいぐるみだった。手の平に乗るぐらいだが、テディベアらしくとても高価そうだ。
 いかにも総司らしい選択に、土方は苦笑した。
「あれでいいのか」
「うん……でも、難しいでしょう?」
「おまえ、誰にむかって云ってるんだ」
 肩をすくめ、さっさとその店へ向かった。何しろ、そこは射的の店だったのだ。
 警視庁でも一、二を争う射撃の腕を持つ土方が外したら、誰もゲットできるはずがないだろう。
「いらっしゃい〜!」
 にこにこ笑顔の茶髪兄ちゃんが愛想よく云った。総司の可愛い浴衣姿に、一瞬、ぽけっと見惚れている。
 それに気づいた土方は不愉快そうに眉を顰めたが、無言のまま置いてある玩具の銃を手にとった。軽いものだ。
 三つコルクの弾を渡されたが、そんなもの三つも使うつもりはなかった。
 一度きりで十分なのだ。
「土方さん、頑張ってね♪」
 総司はわくわくといった表情で、見つめている。
 それに「あぁ」と頷いてから、土方は無造作に銃を構えた。例の小さなテディベアに狙いを定め、撃ち放つ。
 パスッと軽い音がしたかと思うと、見事クマが後ろへひっくり返った。
「やったぁ!」
 総司は飛び上がって大喜びだ。
 店の兄ちゃんは唖然とした顔で、云った。
「すんげぇ〜。あれ、倒されたの初めてなんですけど。すんげー小さいのに、重いから」
「そうか」
「お、お兄さん……もしかして、射撃とかやってる人?」
「……」
 それに、土方は黙ったまま笑ってみせた。何だか、狡い事をしたようで、ちょっと気が引けたのだ。
 だが、可愛い恋人が喜ぶ顔を見るためなら、手段を選んでいられない。
 早く寄越せとばかりに手をさし出した土方に、店の兄ちゃんはため息をつきながらテディベアを渡した。これは、永久に棚に鎮座されるはずの客寄せパンダだったのだろう。
「わぁーい!」
 総司は土方からテディベアを受け取ると、花のような笑顔になった。
 ぎゅっと抱きしめ、すりすり頬をすり寄せている。
「嬉しい! これ、ものすっごく可愛いし……土方さん、ありがとう!」
「あぁ」
「ずっと、大事にしますね♪」
 それに土方は微笑んだ。総司の手をひいて、再び歩き始める。 
 途中、綿飴を買ってやると、また総司は子供のように喜んだ。ふわふわした綿菓子をぱくりと食べ、嬉しそうににこにこ笑っている。
 だが、そんな子供っぽい仕草や行動とは裏腹に、今夜の総司はとても艶めかしくて───

(……すげぇ綺麗だ)

 土方は、思わず熱い視線をあててしまった。
 長い睫毛が煙るようで、時折、こちらを見あげる瞳は微かに潤んでいる。
 ぷるんとした艶めいた桜色の唇。
 浴衣の襟元から覗く白い肌は、人の熱気に酔ったのか、ほんのり桜色で。
 今、握りしめている細い指さき一つまで、ぞくぞくしてしまうほど男の欲情を煽っていた。
「……っ」
 微かに、喉を鳴らしてしまった。


 いったい、どれだけご無沙汰なのか。
 この肌に唇を押しあて、薔薇色の花びらを散らした夜は?
 深く繋がった時の、あのしっとり濡れた甘い声を聞いたのは?


 一瞬にして躯の奥が熱く痺れるような衝動に、土方は息をつめた。
 すると、総司がそっと身を寄せてきた。柔らかく指を絡められ、彼の二の腕にその熱い躯が押しつけられる。
 驚いて見下ろしたとたん、視線が絡みあった。
 夕闇と淡い明かりの中、熱情に濡れた瞳が互いを見つめあう。
「……ぁ」
 お互い、同じことを考えていたのだ。
 それに気づいた瞬間、どきりとした。慌てて視線をそらしたが、胸の高鳴りはやまない。
 まるでつきあい出したばかりの恋人たちのようだと、総司は思った。
 だが、これも計画の内。
 何しろ、彼が自分に誘惑されてくれなくちゃ、事は始まらないのだから。


(ここで浴衣姿で土方さんをその気にさせたら、えーと、家に戻ってからリビングとかでしちゃおうかな)
(それか、も、もしかして……初めての玄関プレイ? やだぁ♪ あ、でも、それもスリルあっていいかも……)


 などなど一人どきどき考えていた総司の手が、不意にぐいっと引っぱられた。
 え?と見あげると、土方は足早に歩き出していた。人波をぬうように、さっさと歩いてゆく。
 それに(家へ帰るのかな?)と思った総司だったが、方向が鳥居の方へ向かっていない事にすぐ気づいた。慌てて、土方の手を引っぱる。
「土方さん、方向違いますよ」
「これでいいんだ」
「え? いいって……だって、鳥居は向こうだし」
「だから、こっちであってる」
 ふり返りもせず断言し、土方は歩きつづけた。
 そのうち、前方に雑木林が見え始め、境内の中でも薄暗い一角へとどんどん連れこまれてしまう。
「ちょっ……土方さん!」
 慌てて、総司は手を突っぱった。
「どこ行くのっ? こんな処に入って何するの?」
「今更、そんなこと聞くなよ」
「聞くなって……や! こんな暗いとこ、やだ!」
 じたばた暴れる総司に、土方はちょっとわざとらしくため息をついてみせた。
 それから、不意に両手をのばすと総司の細い腰をすくうように掴み、ひょいっと抱きあげてしまう。
「きゃっ」
 慌ててしがみついた総司を抱いたまま、土方はまたさっさと歩き出してしまった。雑木林を抜けると、そこには小さな池が広がっていた。
 あちこちにぽうっと灯された灯籠が艶めかしく、月明かりと共に幻想的な雰囲気をかもし出している。
 土方はその池のすぐ近くにあるベンチの上に総司を下ろすと、すぐさま逃げださないように膝上へ抱きあげた。背中からぎゅっと抱きすくめる。
「……総司」
「ぁっ、や」
 耳朶にかるく皓い歯をたてながら甘やかな声で囁かれ、総司はぴくんっと躯を震わせた。
 総司の躯はこの男にさんざん開発されてしまい、あちこち感じやすくなっているが、耳付近も敏感なポイントなのだ。
「な? 抱いていいだろ……?」
 息を吹きかけながら囁きかける男に、総司は慌てて首をふった。が、もう遅かったのかもしれない。
 土方の大きな手は浴衣の上から、総司の細い華奢な躯を撫でまわし、あまつさえ首筋を熱い唇が這いはじめている。
「んっ…や、ぁ…っ」
「嫌、じゃねぇだろ? すげぇよくしてやるから」
「こ…こんな外……いや……っ」
「悪い。もうとまらねぇんだ」
 とんでもなく身勝手な事を告げた男は、浴衣の袷から手をすべりこませた。胸の尖りが指さきでくすぐられる。
 それを慌てて抜こうとしたが、一方で裾から男の手が忍び込んでしまい、総司は真っ赤な顔でいやいやと子供のように首をふるしかなくなってしまった。
 確かに、ここは池に面しているとはいえ、人影もないし、第一、木陰にすっぽりと覆われている。だが、それでも、いつ誰が現れるかわからないこんな処で抱かれるなんて、総司は思っただけで恥ずかしさで失神してしまいそうだった。
 なのに。
「ふ…ぁっ、ぁあ…んっ、ぁんっ」
 馴れきった男の手で宥めるように愛撫され、たちまち甘い鳴き声をあげてしまう始末だ。
 さんざん焦らされ、甘い快楽を我慢させられていた躯は、男の手も指さきも唇も、その何もかもを欲しがって疼きまくっていた。心とは裏腹に、どんどん躯は歓喜して熱く燃え、しっとりと瞳を濡らしてしまう。
「ん…っ…ぁあっ、や、ぁあっ」
「すげぇ可愛い……総司、ほら……気持ちいいだろ?」
「ぁ、ぁ、ぁんっ…はあ……っ」
 今やもう、総司の浴衣の裾はほとんどからげられてしまい、男の悪戯な指が蕾に深く挿し込まれていた。奥でくちゅっくちゅっと淫らな音をたてるたび、総司がたまらないと云いたげに腰をふって、泣きじゃくる。
「ぁっ、やっ…や、土方…さん……っ」
「おまえのココ、俺の指に吸いつくようだぜ? すげぇ熱い……」
「んっ、んんっ…い、やぁっ」
「ああ……ココがおまえのイイ処なんだものな。ほら、もっと可愛がってやるよ」
 土方は喉奥で笑いながら、総司の蕾の奥をしなやかな指で突いた。感じやすい部分の上で、挿しこんだ三本の指を軽く叩くように動かしてやる。
「ぁあーっ…!」
 性感に直接与えられる刺激に、総司が悲鳴をあげた。もう限界なのか、片方の男の手の中で、総司のものがぴくんぴくんっと震えている。
 その鈴口を親指でぬるりと一撫でしてやってから、土方は総司を不意に立ち上がらせた。むろん、腰が立つはずもないので支え、傍らの樹木に抱きつくように凭れかからせる。
 腰を掴んで突き出すような恰好にさせ、後ろからのしかかった。
「ぁ…いやあ!」
 何をされるか気づいた総司が慌てて前へ逃げようとしたが、もう遅い。
 土方は総司の細い腰をしっかり左腕で抱きかかえると、蕾に己の猛りをあてがい、一気に貫いた。
「ッ、ぁああッあぁ──…ッ!」
 細い悲鳴をあげ、総司が仰け反った。突然、突き立てられた男の楔に、たちまち腰が砕けそうになってしまう。
「……すげ…キ、ツっ……っ」
 土方は掠れた声で呻き、総司の腰を抱きかかえたまま、より深く交わるように何度も腰を揺すりあげた。そのたびに、総司が泣き声をあげて身悶える。
「…ぃ…ひっ、ひぃっ……ぃっ」
 その手が縋るように前の樹木に抱きついた。
「ぅ…や、ぁッ…ぁっ」
「あぁ…熱くてとけちまいそうだ……っ」
 土方が総司の細い躯を後ろから抱きすくめたまま、熱い吐息まじりに呟いた。
「おまえん中……すげぇ気持ちいいよ……」
「……ぅ、ぅうっ…や、だ…やだ……っ」
「痛いのか……?」
 あくまで嫌がる総司に、土方は思わず眉を顰めた。苦痛を与えてしまったのかと、内心焦ってしまう。
「痛いのなら……いったん、抜こうか?」
「……いた、くないけど……で…も……っ」
「でも?」
「こんな…処で……っ」
 耳朶まで真っ赤にしながら羞じらう総司に、土方はくすっと笑った。ゆっくりと片手で、艶めかしくもろ肌ぬぎになった白い肩を撫でてやりながら、囁きかけた。
「大丈夫さ……滅多に人も来ねぇって」
「で、でも……っ」
「来ても、俺たちと同じようなカップルだけだ。心配するな」
 そう云ってから、土方は総司の細い腰を両手で鷲掴みにした。
「それよりも……」
「え?」
「続きやらせて貰うぜ?」
「ぁ…ゃ、ああぁッ!」
 甲高い悲鳴が響いた。
 土方が総司の躯にのしかかるようにして、激しい抽挿を始めたのだ。男の太い猛りが蕾のぎりぎりまで引き抜かれたかと思うと、また息もつまるような激しさで一気に奥まで貫かれる。
 あまりの激しさに、突き上げられるたび、総司の爪先が浮いてしまう程だった。からんと音をたて、下駄が脱げ落ちてしまう。
 何度も男の楔を打ち込まれ、総司は泣き叫んだ。
「ぁあっ! ん…ぁあっ、ああっ」
「……総司……は、ぁ……っ」
「ぅ、ぁあっ! ぁあ…やぁあっ、んッ!」
 まるで、飢えきった獣のような交わりだった。
 彼も相当我慢していたのだと、本当は総司が欲しくて欲しくて堪らなかったのだと、ふれあう肌を通して総司は思い知らされた。
 感じやすい奥の部分ばかりを、めちゃくちゃに突きまくられ、総司は目の前がどんどん霞んでゆくのを感じた。もう何が何だかわからず、ただひたすら男に躯を揺さぶりつづけられる。
 気がつけば、いつのまにか地面へ這わされ、腰だけを掴みあげられていたが、総司は狂ったようによがり泣いていた。耳もとにふれる男の息づかいが荒くなり、抽挿も激しさをましてゆく。
「ひっ、ぃぁあッ…ぁああっ」
 総司は泣きじゃくり、髪をふり乱した。可愛らしい花の飾りは落ちてしまい、浴衣もめちゃめちゃに乱れてしまっている。
 その躯に土方は後ろからのしかかり、激しいリズムで腰を打ちつけた。
 蕾の奥を男の猛りで力強く穿たれ、総司の背筋を強烈な快感美が一気に突き抜けた。
「ぁあっ、も…ぃ、くぅぅ…っ…ッ!」
「……俺も…だ、総…司……っ」
「ぃぁっ、ゃ…ぁあっ、ああああーッ…!」
 甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司は大きく仰け反っていた。その細い躯を息もとまるほど抱きしめ、土方はその奥深くに己の熱を叩きつける。
 二人して達した恋人たちは、そのまま地にくずれ折れた。躯を重ねたまま、荒い呼吸をくり返している。
「……総司……」
 やがて、土方は僅かに身をおこすと、総司の首筋から頬に指さきをすべらせた。汗ばんで首筋にはりついた髪を、そっとかきあげてやる。
「愛してる……」
 低い声で囁きながら甘いキスを落としてくれた土方に、総司はうっとりと微笑んだ……。










「…………」
 先程から、ずっとずっと沈黙が続いていた。
 ガタコト揺れる電車の中だ。
 幸いにしてこの車両には他に誰も乗っておらず、土方と総司と二人きりだったのだが、とても甘い雰囲気が漂っているとは云い難い。
 先ほどから総司はずっと顔をそむけ、唇を尖らせて黙り込んだままなのだ。
「……ごめん」
 もう何度目かわからない謝意の言葉をくり返し、土方はそっと総司の手をとってみた。ふり払われないのをいいことに、ぎゅっと握りしめてみる。
「ごめん、悪かった」
「……」
「愛してるよ」
 それに、総司の桜色の唇がますます尖らされた。ぷんっと頬もふくらむ。
「……ぼくは、愛してません」
「それでも愛してる」
「土方さんなんか、嫌い」
「けど、愛してるよ」
 辛抱強くくり返す土方を、総司がとうとうふり返った。大きな瞳で彼を見つめて、ちょっと黙ってから、やがて。
 小さな小さな声で訊ねる。
「……ほんと?」
「あぁ」
「だったら、どうしてぼくの嫌がる事をするの」
「え、あれって……嫌がってたのか?」
 思わず突っ込んでしまった土方に、総司はきぃぃっと目をつり上げた。
「嫌がってたに決まってるでしょう!? あ、あんな処でしちゃって、浴衣は汚れちゃうし、着崩しちゃうし」
「浴衣なら、俺が幾らでも買ってやるよ。それに、何とか着つけ直してやっただろ」
「そういう問題じゃないんです。ぼく、嫌って云ったのに、土方さんったら、どんどん暴走しちゃうし……っ」
「ごめん」
 土方は素直に謝った。というか、ここは素直に謝ってご機嫌をとっておくべきだと、彼もよーく学習済なのだ。
 そして。
 どういう言葉をかければ、総司が機嫌を直してくれるかも、やっぱり熟知している。
「本当に悪かった」
「……」
「けど、おまえの色っぽい浴衣姿を見たら、ブレーキが効かなかったんだ。今すぐ抱きたくてたまらなくなっちまった」
「……」
「おまえの浴衣姿……すげぇ可愛くて綺麗で、俺、誘惑されまくりだったんだぜ?」
 男の甘い言葉に、総司の表情がちょっとだけ動いた。戸惑いをあらわすように、その白い手が小さく握りしめられる。
 それに意を得た土方は、一生懸命言葉を並べ立てた。
 日頃無口な男も、可愛い恋人のご機嫌をとるためなら、超口上手になれるのだ。それこそ歯が浮くような言葉でも、ぱっぱっと云える。もちろん、本心からそう思っているからこそ、吐ける台詞なのだが。
「その浴衣、めちゃくちゃ似合ってる。逢った時から、どきどきしてた。すげぇ可愛くて……誰にも見せたくないぐらいだった」
「……」
「けど、だからって暴走しちまったのは悪かった。俺、可愛いおまえが恋人だって事が嬉しくて嬉しくて、ちょっと舞い上がってしまってたみたいだ」
「……それ、ほんと?」
 総司が不意に訊ねた。
 それに「え?」と小首をかしげてみせると、耳朶まで真っ赤にしながら大きな瞳で見あげてくる。
「だから……その、可愛いってほんと? ぼくが恋人だって事が嬉しいって……ほんとに?」
「あたり前だろう。俺はいつもそう思ってるよ」
「……嬉しい……」
 総司は本当に嬉しそうに呟くと、とんっと土方の肩に小さな頭を凭せかけた。それを優しく抱き寄せてやりながら、訊ねかける。
「じゃあ……許してくれるか」
「さっきの事?」
「あぁ。本当に悪かったと思っているんだ」
「うん……」
 こくりと頷いた総司は土方のぬくもりを感じながら、思った。


 いつまでも、本気で怒っていた訳じゃない。
 あんな処でしたのはそりゃびっくりだったし、恥ずかしかったけど、でも。
 本当は、ぼくもどきどきしていたのだから。

 土方さんと待ち合わせして、後ろから声をかけて。
 ふり返った彼が、まるで眩しいものでも見るような表情でぼくを見てくれた時。
 その表情に、どきりとした。
 男らしい精悍な顔だちに、笑顔に。
 繋いだ大きな手に、濡れたような黒い瞳に。
 ずっとずっと、どきどきしっぱなしだった。
 だい好きなあなたに、誘惑されっぱなしだった。

 だから……うん、おあいこだよね。
 ぼくもあなたを、ちゃんと誘惑できたんだから♪


「土方さん……だい好き」
 そう云った総司に、土方は微笑んだ。
 優しく髪に口づけてやると、甘い声で答えてくれる。
「あぁ、俺もだい好きだ」
「うん」
「すげぇ可愛いよ。可愛くてたまらねぇ」
「うん」
「だから、家に帰ってからもう一回させてくれよ、な?」
「うん……え、えぇっ!?」
 危うく頷きかけてから、総司は慌てて男の胸に両手をつっぱねた。ささっと距離をとりながら、目を見開く。
「も、もう一回って……全然反省してないじゃないですか!」
「え? だから、さっきのは場所が悪かったんだろ。だから、仕切り直し。今度はベットの上でうんと気持ちよくしてやるからさ」
「け、結構です。遠慮させて頂きます」
「遠慮するなって。あ、そうだ。浴衣だしさ、あれもやらせてくれるか?」
「な、何をっ?」
「帯くるくるくるーって。ほら、時代劇で悪代官とかが町娘相手にやってる奴だよ」
「あ、悪代官……」
「あれさ、一度、やってみたかったんだよなぁ」
「…………」
 マニアックだか男の定番なんだか意味不明の発言に、総司は唖然となった。

 いったい、この人は何を考えているんだか。
 誘惑されるにしても、されすぎ?
 それとも、今更そんなの必要なかった?(ないない)

「絶対お断りです!」
 首筋から耳朶まで真っ赤っかにさせ、総司は思いっきり叫んだ。
 それに、土方が心底不思議そうに首をかしげた。
「え? 何で?」
「変態っ、土方さん、エロすぎっ」
「はぁ? 男の夢って奴だろ」
「どこが夢なんですか!」
「楽しいし色っぽいし最高じゃねぇか」
「もう信じられな……ちょっ、どこ触ってるんですかっ」
「いや、うまく出来るかなぁと。くるくるーって」
「出来なくていいんですっ!」
「ふーん、けっこう難しそうだぞ。頑張ってトライしような?」
「そ…そんなのっトライしません──ッ!!」





 ──その夜。
 帯くるくるくるーっが行われたのかどうかは、ふたりだけの秘密なのである……。













 

[あとがき]
 相変わらずのバカップルです。くるくるーっのシーンは、いつか機会があれば?
 尚、このお話は、はるひさまからネタを頂いたことで書けたものです。はるひさま、本当にありがとうございました!
 皆様も、「かくれんぼの恋」の二人にこんな事して欲しいなぁ♪なんてのがありましたら、こっそり教えてやって下さいね♪ もちろん、必ず書けるだけの文才はございませんが、好き好き土沖妄想、大歓迎〜♪ですので。
 夏休みプレゼント、皆様が少しでも楽しんで下されば、嬉しいです。
 ラストまでお読みいただき、ありがとうございました♪

追記:朔さまより、とっても楽しいSSを頂きました。
   宝物のページからでも、コチラからでもご覧頂けます♪