ふり返った総司は、大きく目を見開いた。
 京都にいるはずもない相手に、びっくり仰天してしまう。
「い、いっちゃん」
「やっぱり! 総司さん、総司さんですよね!?」
 磯子は走り寄ってくると、総司の手をがしっと握りしめた。
 とんでもなく興奮しまくっているらしく、目がきらきらと輝いている。
 何しろ、総司にコスプレさせては喜んでいる彼女だ。
 その磯子にしてみれば、舞妓姿の総司を見られるなど、超ラッキー以外の何ものでもないのだろう。
「何か聞いた事のある声だと思ったら……うっわー! すごく綺麗です! もう最高♪」
 そう云ってから、磯子は総司の周囲をぐるぐる回り始めた。嬉しそうに、にこにこ笑っている。
「こんな可愛い舞妓、見た事ないわ。さすが、総司さん。土方さんも嬉しいでしょう?」
 訊ねられ、土方も総司を褒められたからか上機嫌で答えた。
「あぁ、俺が頼んだんだ」
「やっぱり。こんな可愛い総司さんだもの、舞妓姿させたくなっちゃいますよね。そうそう、写真撮りました?」
「撮った」
「土方さん自身のデジカメで?」
「あぁ」
「見せて貰ってもいいですか」
 磯子は女友達だからいいと判断したのだろう、土方はあっさりデジカメを渡した。プレビューしながら、磯子がきゃあきゃあ歓声をあげる。
「これ、雑誌の表紙みたい! 可愛いー、綺麗♪ このちょっと目を伏せた横顔も色っぽくていいですね」
「だろ。こっちもうまく撮れたと思うんだ」
「ほんと、このアングル最高。さすが、土方さん、総司さんの萌えポイント知りつくしてますね」
「そりゃ、当然だろうが。彼氏なんだぜ」
「あははは、これは失礼しました〜♪」
 何だか奇妙なぐらい意気投合し、盛り上がっている二人を、総司はぼんやりと眺めた。


 ……ぼくの萌えポイントって、何?


 だが、二人に聞いても答えは返るはずもない。今や、やたら盛り上がっている二人の間に入る隙もない。
 結局の処、総司にむける感情は違うが、この二人はある意味総司フリークと云ってもいいのだろう。まるでアイドルの追っかけファンのごとく、写真と実物の総司を眺め、あぁだこうだと云いあってる
 そのうち、総司はある事に気づいた。
「ねぇ、いっちゃん。どうして京都にいるの?」
 ごく当然の質問に、磯子はごく当然のように答えた。
「あ、平ちゃんと一緒に来たんです。平ちゃんのお祖母さん、こっちで料亭やってて」
「そうなんだ」
「で、今日は平ちゃんとあたしは別行動で、このお店で舞妓体験やってるって聞いたから、パンフもらいに来たんだけど……うーん、間違えましたね」
「? 何が?」
「時間。もっと早い時間にくれば、総司さんの舞妓姿への変身、全部見られたのになぁ。あぁ〜、一生の不覚!」
「……どこかで聞いたような」
「何ですか?」
「ううん、何でもない」
 総司がふるりと首をふった、その時だった。
 不意に、小さな電子音が部屋の中に響いた。
 自分の?とふり返れば、土方がシャツの胸ポケットから携帯電話を取り出す処だった。ちらりと画面を見てから、総司たちに、「ちょっと……すまない」と断り、廊下へ出てゆく。
 総司は嫌な予感を覚えつつ、それを見送った。すると、思ったとおり、通話をつないだ土方が形のよい眉を顰めた。
 低めた声が廊下に響いた。
「は? 何云ってるんだ、それぐらいお前らでやれるだろう。いちいち俺に頼るんじゃねぇよ。こっちは打ち合わせに来たんだぜ? それも昨日で全部終了済だ。なのに、現場なんて……いい加減にしろよ」
 どうも、電話の相手は仕事関係のようだった。それも、ひたすら懇願されているようだ。
 しばらくの間、土方は「駄目だ」とか、「そっちは処理できるだろ」とか云っていたが、結局押しきられてしまったようだった。何だかんだいっても、仕事熱心であり人一倍責任感の強い土方なのだ。仕事仲間からの頼みを断れるはずもなかった。
 戻ってきた彼に、総司はおずおずと呼びかけた。
「あの……土方さん?」
「総司、悪い」
 いきなり土方は謝り、いっそ潔いぐらいの勢いで頭を下げた。それに、びっくりして目を瞠る。
「え、何……」
「悪い。この後の予定、全部キャンセルさせてくれ。仕事が入った」
「やっぱり、お仕事終ってなかったの?」
「いや、そうじゃねぇ。出張目的の打ち合わせは全部終ったんだが、何か現場の方で色々あったらしいんだ。どうしても、俺の手伝いが欲しいと云ってきて……」
「それじゃ……仕方ないよね」
 かなり落胆したが、総司はすぐさま物わかりのいい恋人を演じてみせた。
 ここで駄々をこねて、彼を困らせたくはない。
 にこっと小さく笑ってみせた。
「お仕事、行ってきて下さい。ここからすぐ向うのでしょう?」
「あぁ、この先の大通りでピックアップしてくれるらしいから、おまえは……」
「着替えが終ったら、一人でぶらぶらしてますよ」
 当然のようにそう云った総司に、とたん、土方は眉を顰めた。きっぱりと首をふる。
「駄目だ」
「え」
「一人で京都をぶらつくなんざ、絶対駄目だからな。危ないに決まってるだろうが」
「危ないって……」
 総司は思わずころころ笑ってしまった。
「ぼく、男ですよ。危ない訳ないでしょう?」
「……おまえ、自覚ってのがねぇな」
 はぁっとため息をついた土方は、総司の細い肩を掴んだ。気むずかしい顔で、こんこんと云い聞かせる。
「いいか? おまえはすげぇ可愛いんだよ、綺麗なんだ。そんなおまえが一人でふらふらしてみろ、あっという間に変な男につき纏われちまうぞ」
「そんなの……」
「とにかく、おまえは旅館に帰ってろ。夜には俺も戻るから」
「えーっ、そんなのやだ!」
 思わず叫んだ総司は、土方の手をふり払ってしまった。ぷんぷん怒りながら、言葉をつづける。
 さっき彼を困らせたくないと思った事など、忘却の彼方へすっ飛んでしまっていた。
「絶対絶対、いやですからね! 土方さんの云う事なんか絶対聞けません」
「こっちも絶対に駄目だ。おまえを一人で歩かせたりなんざ、できるかよ」
「せっかく京都に来てるのに、旅館に監禁なんて」
「監禁って……人聞きの悪い」
「だって、そうでしょう? ぼくは京都を回りたいんだから」
「……あのう」
 白熱した云い争い──というか、痴話喧嘩の最中に、おずおずとした声が横合いからかけられた。
 二人が見れば、磯子が小さく笑っている。
「い、いっちゃん……ごめん」
 慌てて、総司は謝った。
「みっともないとこ見せちゃって」
「それはいいんですけど……あのね、あたしと一緒にまわりませんか?」
「え」
「あたしも一人だし、総司さんと一緒にまわれるなら嬉しいなぁと思って」
 そう云った磯子に、土方もほっとしたようだった。くしゃりと前髪をかきあげながら、答える。
「それなら……構わねぇか」
「何で、土方さんが答えるの!」
「総司さんってば」
「けど、夕方の6時には旅館へ戻っていろよ。それ以上は駄目だ」
 きっぱり云いきった土方に、総司は紅をさした唇を尖らせた。ぶんぶん首をふるたび、簪が揺れる。
「何が駄目なのです。6時なんて、子どもじゃあるまいし」
「十分、子どもだよ」
「また子ども扱いして! ぼくはもう……」
「大人だって云いたいのか? なら、云い方を変えるよ」
 ため息をついた土方は、舞妓姿の総司を黒い瞳で見下ろした。ちょっと、どこか痛むような表情になる。
 それに息をつめた総司の頬に、そっと彼の掌がふれた。
「俺は……心配なんだ。こんなにも綺麗で可愛いおまえが夜遅くまで外にいるなんて、心配でたまらねぇ。ただでさえ、おまえを一人残して行く事に躊躇いを覚えるんだ」
「土方さん……」
「頼むから、これ以上、俺の不安を煽らないでくれねぇか」
 真摯な彼の言葉に、総司は目を瞠った。しばらく驚いたように彼を見上げていたが、ここまで云われて首を横にふれるはずもない。やがて、顔を俯けると、おずおずと小さく頷いた。
「……はい」
 素直な返事をかえした総司に、土方は安堵しように微笑んだ。身をかがめ、頬にキスをそっと落としてやる。
「いい子だ」
 低められた甘い声に、総司の細い肩がびくりと震えた。ずくんっと躯の奥が熱く痺れたのだ。昨夜の余韻かもしれなかった。
 潤んだ瞳で見上げれば、困ったように苦笑された。
「そんな顔をするな……離したくなくなる」
「だって……」
「なるべく早めに切り上げるから」
「うん……待ってるから、早く帰ってきてね」
「総司……」
 そっと指さきをからめあい、思わず見つめあった。
 すると、傍でコホンコホンッと咳払い。
 びっくりしてふり返ると、磯子が顔を真っ赤にしていた。
「えーと、すっごく目の保養なんだけど……お邪魔?」
「あ、あああ、ごめんなさいっ」
 慌てて、総司は土方から離れた。こちらも磯子に負けず劣らず、真っ赤になってしまっている。
 一方、土方は全く平然とした様子で、余裕の笑みだ。
「じゃあ、行ってくるな」
「うん」
「6時には戻れよ」
 そう云ってから、土方は踵を返した。すっとのばされた広い背が暖簾の向うに消えてゆく。
 それを名残惜しげに見送っていると、磯子が傍から云った。
「相変わらず、らぶらぶなんですね〜♪」
「ら、らぶらぶって……」
 耳朶まで赤くなった総司に、磯子は楽しそうに笑ったのだった。












 磯子との京都観光はとても楽しかった。
 舞妓姿から着替えた総司は、磯子と一緒にあちこち元気よくまわった。
 やはりこの二人となると、寺社よりも京都特有の和紙や匂い袋、可愛い雑貨小物の店めぐりだった。それから、二人で、抹茶パフェや京都の和菓子を食べて喜んだ。
 十分京都を満喫してから、一応男の子なのでと、総司が6時前に磯子を送っていった。場所は、もちろん、藤堂の祖母が経営する料亭だ。
 ところが。
「いっちゃん!」
 料亭の裏口から入ったとたん、藤堂が磯子に飛びついてきた。こっちもらぶらぶじゃない〜と、総司は呑気に思ったが、どうも様子がおかしい。
 藤堂は慌てまくっているようだった。それに、磯子が冷静に訊ねる。
「どうしたの、平ちゃん」
「やばい、まずいんだ。今日、ばあちゃんの店、満席なんだけど、実は接客する係の人が5人も寝込んじゃって」
「5人も!?」
 磯子は驚き、目を見開いた。
「なんかはやってる訳?」
「いやぁ、そうじゃなくて……今日の昼、どこかのレストランへ食事に行ったら、食中毒になったらしくて」
「何それ」
「だから、ばあちゃんもめちゃくちゃ困ってるんだよ。人手、全然足りなくてさ」
「って事は、つまり又……」
「そ! お願いだから、いっちゃん、手伝って!」
 両手をあわせる藤堂に、磯子は深いため息をついた。磯子は京都へ来るたび、藤堂の祖母の店に遊びに来ていたため、今までにも、こういう事がちょくちょくあったのだ。
「まぁ、毎回泊まらせてもらっているんだもの。それぐらい当然だと思うけど……」
「本当に、ごめん!」
「いいのよ。でも、今回は5人分の穴埋めでしょ? あたし一人じゃ絶対に無理よ」
「あと二人、知り合いの処からかき集めたからさ」
「それでも……」
 そう呟いた磯子は、不意に「そうだ!」と叫んだ。それから、くるりとふり返ったと思うと、二人のやり取りをぼんやり眺めていた総司の手をがしっと掴む。
「総司さん!」
 もの凄い勢いで呼ばれ、総司は思わず元気よく返事した。
「はい!」
「お願い、女の子になって!」
「へ?」
「さっきみたいに、可愛い着物姿の女の子になって、お給仕手伝って欲しいの」
「え、え……えぇーっ!?」
 総司は思わず仰け反ってしまった。慌てて手を離して後ずさろうとするが、そこはテニスプレーヤーいっちゃん、狙った獲物は逃がさない凄い握力だ。
「ね、いいでしょ? 総司さん。お願いだから、平ちゃんを助けると思って!」
「でも、あのっ、ぼくは男だし」
「さっきの舞妓姿、絶品だったもの! それに、お給仕と、ほんのちょっとお酌するだけだから」
「やばい、まずいよ〜っ」
 頼み込む磯子を、藤堂が慌てて制した。
「そんなのバレたら、オレ、土方さんの射撃の的にされる!」
「的にされるぐらいなら、いいじゃない」
「いっちゃん! ひどいっ」
「大丈夫大丈夫、バレるはずないから。それに、他に打開策あるの? 総司さんに協力して貰ったら百人力だって、平ちゃんも思うでしょ?」
「う、うーん……それは……」
 とうとう藤堂は頭を抱えこんでしまった、土間に蹲り、うんうん唸っている。
 総司自身は、どうしよう……?と困惑状態だ。
 正直な話、困っている藤堂の役にたちたいとは思った。先日、気づいていなかった我侭を自覚させてくれたのは、他ならぬ藤堂なのだ。そのおかげで、総司はこうして京都までやって来て、彼とも仲直りする事ができた。それだけではなく、今までにもさんざん世話になっている。

(着物きるのや、お酌ぐらいして当然だよね!)

 総司はそう決意すると、きっとした表情で磯子の方へ向きなおった。
「いっちゃん!」
「え、は、はい?」
「一緒にお給仕頑張ろう! ぼくも一生懸命、頑張るから」
「えっ、いいの? 本当にっ?」
 あぁは云っていても心底心配していたらしく、磯子は嬉しそうに目を輝かせた。
「ありがとう! 平ちゃんも喜ぶわ」
「二人とも大切な友達だもの。友達のために頑張るの、当然だよ」
「総司さん!」
「いっちゃん!」
 ふたり手に手をとりあい、がっしりと握手した。
 その傍で、藤堂がこの世の終わりのような顔で、ガックリと項垂れていた。













 お給仕は大変で忙しかったが、なかなか楽しかった。
 総司は桜色の着物に着替えると、髪に小さな花の飾りをつけた。薄化粧をして、淡いルージュをひけば、誰もが目を瞠るほどの着物美少女のできあがりだ。
「やっぱり、可愛いわ♪ もう絶品」
 自らの手で総司に化粧を施した磯子は、うっとりした表情で云った。それに、総司は何とも云えず、曖昧に笑ってみせる。
 藤堂の祖母が「ほんまにおおきに」と頭を下げてきた事に、かえって恐縮しつつ、総司は磯子と共にくるくると働いた。あちこちの部屋に膳を運び、お酌をしたり、また別の部屋に行って膳をひいたり。
 やはり京都の老舗料亭のため、みっともなく走る事はできないので、総司も出来るだけしとやかに振る舞った。着物の裾さばきが難しいなぁと思ったし、変な客がいてたら嫌だなぁと不安に思っていたが、こういう一流の場所に来る客は洗練されているのか、皆、見惚れるような視線はむけるが、優しく接してくれる。
 その事を総司が云うと、磯子は「そりゃ、総司さんは可愛いから当然よ〜」と楽しそうに云っていた。
 そして、このまま何事もなく、臨時のお給仕さん勤めは終るのかと、思われた。
 だが、しかし!
 そうは問屋が卸さなかったのである。
「いらっしゃいませ」
 そう云って入っていった部屋は、10人ぐらいの宴会最中だった。主賓はまだ来てないらしく、上席があいている。
 総司は丁寧にお辞儀してから、訊ねた。
「お客様、いつ頃お来しになられますか? お料理の方、どう致しましょう」
「そろそそろ来るはずやから、持って来てもらってえぇよ」
 にこやかに云った若い男に、総司は笑顔で頷いた。膳を運びおえると、引きとめられ、総司は少しだけ酌をして回る事にした。
 男の一人が訊ねた。
「言葉からしたら、東京の子?」
「えぇ、そうです」
 頷いた総司は、間をもたせるために訊ねた。
「お客さま達は……先生ですか?  お医者さまの会合とか」
「違う違う」
 男たちはどっと笑った。
「もっとやばいで」
「やばいって……」
「逆に病院運ばれて、治療受けてる方やな」
「そんな危ないお仕事なのですか?」
「気ぃつけてたら大丈夫や。誰かて、殉職は嫌やろ」
「殉職……」
 その言葉に、総司は目を見開いた。
 何だか、とんでもなく嫌な予感がしたのだ。

(まさか、この宴会……)

 早々にこの場から逃げ出した方がいいような気がして、思わず腰を浮かせた。
 その時、だった。
 障子の外──廊下の方で、誰かが来たらしい気配がした。二人づれらしく、何か話している。
「だから、ほんの少しですから」
「ほんの少しって、5分か」
「5分って……そんな事云いはらへんと、さんざん世話になった我々の気持ちも受けて下さいよ。慰労会って銘打っているんですし」
「だから、それは気持ちだけでいいって。とにかく、俺はこっちの方が心配なんだよ」
「それもわかりますけど」
 何やらもめている。
 だが、そのもめている片方の声音に、総司はイヤってほど聞き覚えがあった。
 この低めの、でも、張りのあるいい声……。
 青ざめた顔でぴきんと固まってしまった総司の前、障子がすっと開けられた。人の良さそうな若い男と、携帯電話を手にした男が中へ入ってくる。
「電話で確かめはったら、いいやないですか」
「だから、かけてるんだろ? けど、部屋にいねぇみたいで……」
 そう云いながら携帯電話を耳にあてようとした男の手が、不意にぴたりと止まった。
 宴が始まったばかりの、部屋の中。
 男たちの中に咲く、一輪の花のような可愛らしい着物姿美少女。
 それに、男の目がまっすぐ向けられた。
 ばっちり視線があう。
「…………」
 訝しげに、男は形のよい眉を顰めた。だが、次の瞬間、その目が大きく見開かれる。
 そして、叫んだ。
「おま…っ、ここで何やってるんだ!」
「!!!」
 総司は思わず手にしていたお盆で、顔を隠してしまった。そのまま、慌ててそこから逃げだそうとするが、あいにく出入り口は一つで、しかもその前には土方が立ちふさがっている。
「す、すみませんっ!」
 反射的に謝った総司に、土方は何か云おうとした。だが、その傍を機敏にもすり抜け、まさに脱兎のごとく部屋の外へ飛び出してゆく。
 一瞬、唖然としていた土方だが、すぐさま我にかえると身をひるがえした。呆気にとられる京都府警の面々も放置し、総司の後を追う。
「おい、待てよ!」
「来ないで追わないで放っておいてー!」
「そんな事できると、本気で思ってるのか!?」
「本気に決まってるでしょっ」
「とまれ! 事情を聞かせろ」
「やだやだやだ──!」
 大声で叫びあうやり取りと、ドタバタした足音が、あっという間に遠ざかってゆく。
 それを見送った京都府警の人々は、結局、主賓抜きのままの慰労会を始めたのだった。