清水寺は、美しい緑におおわれていた。
いつも観光客で賑わっている場所だが、今日は土曜日のためか尚更人の数が多い。
だが、そんな中でも、彼の姿は水際立っていた。
清水の舞台の欄干にかるく凭れかかり、眼下に広がる光景を眺めている。
すらりとした長身に、シャンパン色の開襟シャツと、濃紺のジーンズ。さらりと流された黒髪の艶やかさが、男らしい顔だちの端正さをより際だたせていた。
男にしては長い睫毛に、その翳りに伏せられた切れ長の目。精悍な頬から顎にかけての鋭い線。シャツの襟元から僅かにのぞく鎖骨が、匂いたつような男の色香を感じさせる。
シンプルな装いながらも、魔力のように惹きつける華が、彼にはあった。
そんな土方の姿を、総司はうっとりと見つめた。
間近で見ているので少しは慣れるかと思うが、こうしていつもと違った場所で見る彼は何だか新鮮で、とても格好よくて、総司はどきどきしてしまった。
それに、京都という場所が彼にとてもよく似合う気がするのだ。
(やっぱり、ここへ来て良かった。そりゃ、まさか二人で旅行する事になるとは思ってなかったけど、でも……土方さんと京都をまわれるなんて。まるで、夢みたい。こういう突然の旅行っていうのも、いいよね)
二人で京都を観光する事になり、手始めに清水寺へやってきた二人だった。
三年坂をのぼりながら、あちこちの店をのぞいて。恋人同士らしく笑いあって、楽しくて幸せな時間を過ごしていたのだ。
そして、清水の舞台で、お守りを買うため、総司は彼から少し離れた。戻ってきてからも、声をかける前につい見惚れてしまったのだ。
しばらくうっとり見惚れていた総司は、不意に、細い眉を顰めた。
(あれ……誰!?)
土方の傍に、一人の女が歩み寄り声をかけたのだ。
華やかな色合いの服に金髪を波うたせた、ゴージャスな若い美女だった。プロポーションも抜群で、圧倒的な存在感だ。
「……」
声をかけられた土方は僅かに眉を顰め、ふり返った。黒い瞳で彼女をまっすぐ見つめ、淡々と言葉をかえす。
英語ではない処を見ると、フランス語か。
何か軽口でも云われたらしく、土方が小さく笑った。女も華やかな笑顔をうかべている。
まるで映画のワンシーンのようだった。誰もがふり返ってしまう似合いのカップルだ。
「……」
何だか自分が場違いな気がして、総司は土方に歩みよる事ができなくなってしまった。しゅんとしたまま、彼を大きな瞳で見つめる。
その視線に気づいたのか、不意に、土方がこちらの方にふり向いた。とたん、ぱっと輝くような笑顔になる。
「総司!」
女の傍を離れ、土方が歩みよってきた。人の間をすり抜け、ぽつんと立ちつくしている総司の傍までやって来てくれる。
優しい笑顔の彼を、総司は潤んだ瞳で見つめた。
いつもなら拗ねて知らん顔をする処なのだが、今日は全く違っていた。何しろ、京都くんだりまでやってきて、昨夜ようやく仲直りしたのだ。できるだけ、自分の気持ちを素直にあらわしたかった。
それがべた惚れの男を煽りまくる行為だと、全く気づいてない総司は、歩みよってくる土方に飛びつくように駆け寄った。そのまま、彼の腕を抱えこむように両手でぎゅっとしがみつく。
土方が驚いたように目を見開いた。
「……総司?」
それに、総司は小さな声で訊ねた。
「ごめんね……待った?」
「いや」
「お守り色々なのあって、迷っちゃったから……」
そう云ってから、総司は大きな瞳で土方を見つめた。ちょっと躊躇ってから、訊ねてみる。
「……ね、あの人は?」
「あの人って?」
「ほら、あの外国人の……」
「あぁ」
土方はちらりとふり返り、端正な顔に苦笑をうかべた。
「一緒に回らないかと云われたんだ。一人ならって」
「ふうん」
「もちろん、断ったさ。俺にはおまえがいるからな」
「綺麗な人です、よね」
総司はさっきの美女の方を眺めながら、口ごもった。
「あの人と……一緒にいたかった?」
「莫迦」
土方は思わず、総司の額を指で弾いた。いたっと怒った顔をする可愛い恋人を、ぎゅっと胸もとに抱きしめてやる。
その細い躯を感じながら、甘い声で囁きかけた。
「俺には、おまえだけだよ。おまえが世界中で一番きれいだ」
「土方さん……」
「おまえみたいな可愛い恋人がいるのに、他に目移りするはずねぇだろうが」
「うん……ぼくも。ぼくも、あなたが一番です」
そう素直に云ってくれた総司に、土方は微笑んだ。ちゅっと音をたてて頬にキスしてやる。
それを心地よげに受けていた総司は、はっと我に返った。
すっかり忘れていたけど、ここは、公共の場所じゃない!
それも人のあふれる行楽地!
天下の、清水舞台上!
突き飛ばすようにして、総司は慌てて土方から離れた。
不意に空っぽになってしまった腕の中に、土方は訝しげな表情になる。
「? 総司?」
「そ、総司じゃありませんっ。ここ、どこだと」
「清水の舞台だな」
「わかって……っ」
「わかってて当然だろうが。おまえがここに来たいって云ったんだろ?」
土方はにこやかな笑顔で云うと、さり気なくというより強引に、総司の手を掴んだ。そうして手を繋いだまま、さっさと歩き出してしまう。
先程から、とんでもなく見栄えのいい二人の様子は注目の的だったが、仲良く手をつなぐ姿に、近くの女子高校生達が大喜びしていた。
それに総司は頬を赤らめつつも、結局は彼に従った。やはり、繋いだ手が心地よく、とても安心できたのだ。
一緒にいるのなら、ほんの少しでも彼とふれあっていたい。
そう思うのは、恋人だから、だい好きだから。
「あのね、土方さん」
総司は小首をかしげ、彼を見上げた。
清水の滝で二人仲良く水を口に含んでからだった。もちろん、土方が先に使った柄杓を総司に渡し、二人で同じ水を飲んだのだ。
「あのお水って、三つとも呑んだら駄目なのでしょう?」
「らしいな」
土方は肩をすくめ、笑った。
「京で云われている話じゃ、右から健康、美、出世らしいが」
「だから、一番右のを飲んだの?」
「それが一番大切だろ。おまえは十分可愛いし、第一、これ以上きれいになられたら心配で夜もおちおち眠れねぇよ」
「……な、何云ってるんですか」
総司は耳朶まで真っ赤になり、俯いてしまった。それに、くすくす笑いながら、土方はその細い肩を抱きよせた。
二人して寄りそい、ゆっくりと清水の舞台下の小道を歩いてゆく。途中、茶店があって総司がそこで売ってるお菓子へ視線をむけたが、土方は腕時計をちらりと見やり、駄目だと首をふった。
「この後、予約があるからな」
「予約? でも、お昼ご飯はもう済ませて」
「飯じゃねぇよ。もっといいものだ」
土方は楽しそうに笑い、総司を連れて清水寺を出た。そのまま坂を下って大通りに出ると、手をあげてタクシーを停める。
彼が云った住所は、総司には全くわからない場所で、いったいどこへ連れていかれるのだろうとつい不安に思ってしまった。隣に坐っている土方を物といたげに見上げるが、知らん顔で窓外を見ている。
やがて、タクシーは奥まった町の一角に滑り込んだ。
町家が幾つも並んだ一角はしんと静まり返り、格子越しに低く詠う長唄だけが聞こえている。
まるで、昔にタイムスリップしたような光景だった。
「あの……土方さん」
総司は今まで来た事もないような町並みに、戸惑ってしまった。
しかも、土方は、その界隈でも際だって美しく整えられた町家へ入っていこうとしている。
立ちつくしていると、土方がふり返った。ちょっと苦笑いをうかべ、手をさしのべる。
「おいで」
「でも……」
「いいから……おいで」
土方は総司の手を強引に掴むと、さっさと一軒の町家へ入っていった。戸口は開かれ、上に「夢花」と書いた小さな看板が掲げられてある。
玄関へ入った二人の前に、すぐ着物姿の女性が現われた。にこやかに手をつき、挨拶してくる。
「おこしやす」
「予約していた土方ですが」
「お待ちしてました。どうぞ、こちらへ」
やはり京の町家、とても奥へ細長い造りだった。坪庭に面した部屋に通され、ふかふかした座布団をすすめられる。
緊張してこちこちの総司の隣で、土方はくつろいだ様子だ。そんな彼に、店員が訊ねた。
「では、ご予約どおりで宜しいどすか」
「宜しくお願いします」
二人のやり取りに総司は目をぱちくりさせていたが、やがて、さし出されたカタログに視線を落としたとたん、合点がいった。
もちろん、後ろへひっくり返りそうな驚きとともに。
「ひ、土方さんっ!」
総司がわなわな指さした先には、「舞妓体験」の文字が!
「ま、舞子体験って……!?」
「大丈夫だ。一番高い奴を頼んでやったからな」
「っていうか、そういう問題じゃないのです!」
「なら、何が問題なんだ?」
「全部! 何だって、ぼくが舞妓の格好にならなきゃいけないのっ!」
ばんばん畳を叩いて怒る総司に、土方はゆっくりと膝を組み直した。片肘をつきながら口角をあげ、人の悪そうな笑みをうかべる。
「ふうん……おまえ、今朝の言葉もう忘れたのか?」
「今朝の言葉?」
「そう。おまえ、俺の我侭聞いてくれるって云っただろ? 何でも聞くって約束したじゃねぇか」
「あ、あれは!」
「おまえの我侭にくらべりゃ、小さなものだと思うけどな。だいたい、彼氏が、可愛い恋人のより可愛くなる姿、見たいと思って当然の事だろうが」
「当然って……土方さん、わかってる? ぼく……っ」
「あぁ、それも大丈夫。解決済」
土方はあっさり答え、店員の方へ視線をむけた。それに、女性店員は何もかも了解した笑顔で応えてくる。
「ご安心を。こんだけ可愛らしい方やったら、うちらも腕のふるいようがあります」
「この店は本物の舞妓や芸妓の着付けもやっているんだ。だから、心配はねぇよ」
「あのね、心配は心配でも、そういう事じゃなくてっ」
必死になって抗弁する間にも、女性店員は着付けるらしい着物や帯の一式をせっせと運ばせた。部屋の中に、ぱぁっと明るく華やかな色彩が広がる。
「……」
とたん、総司は黙り込んでしまった。
土方がちらりと見やれば、あまりの美しさ、可憐さに、ぼうっと見惚れてしまっている。おずおずと手をのばし、そっとふれてみる細い指さきがとてもいじらしく思えた。
「……綺麗だろ?」
肩を抱きよせ、耳もとで囁きかけた。
「今朝、ファックスで送ってもらって見立てておいたんだ。おまえにならよく似合うだろうと思ってさ。な、すげぇ綺麗な着物だろ?」
「うん……」
思わず頷いた総司に、土方は心の中でほくそ笑んだ。ここまで来れば、あと一歩だ。
一方、総司はうっとりと着物に見惚れていた。
もともと、可愛いものや綺麗なものがだい好きなのだ。自分は男の子だという自覚はもちろんあるが、こういう華やかな着物を身につけたいと思った事がないと云えば、嘘になる。
今日も、三年坂で舞妓体験している娘たちを見て、ちょっとだけいいなぁと思ってしまっていたのだから。
(……なんか見透かされてるみたいで、ちょっと恥ずかしいけれど)
女性店員が席を外した間に、総司は土方の方を伺うように見やった。どうすればいいのか、まだ答えが出なかったのだ。
それに気づいた土方は微笑いかけてくれた。濡れたような黒い瞳で見つめられ、どきりとすると、すっと彼の手がのばされる。
あっと思った時には、大きな掌で頬をそっと包み込まれていた。しなやかな指さきが情事の時のように、頬を柔らかく撫でてゆく。
「……総司」
そっと耳もとに唇を寄せ、土方は甘く囁いた。
「俺の我侭……叶えてくれるだろう?」
彼自身もそうなのだが、総司も、土方の声にもお願いにもとにかく弱くて、一発陥落で。
気がつけば、総司は土方の腕の中、「はい」と素直に返事をしていたのだった。
───とは云うものの。
それからが、大変だった。
「楽しみにしてるからな」とにこやかに手をふる土方をふり返りつつ、別室に連れていかれて。
さぁ、化粧だ、着付けだと大騒ぎ。
幾人もの女性スタッフの手で、総司は見るみるうちに舞妓姿へと変身させられていった。
最後の仕上げに、そぉっと小さな唇に紅をのせてもらえば、出来上がりだ。
「思ったとおり、最高どす」
一番初めに応対してくれた女性店員は、満足げに頷いた。それに、他の女性スタッフ達もうんうんと頷く。
そんな中、総司は恥ずかしくて鏡を見る事もできなかった。綺麗だと褒められているようだが、それがどうも信じられない。
「お待ちでっしゃろし、ほんなら行きまひょか」
促され、総司はびくりと震えた。
何だか、怖い。
流されるように舞妓姿になりはしたが、いざ土方の前に出るとなると不安で堪らなかった。
やっぱり男の子の自分が舞妓姿になるなど、おかしいに決まっているのだ。似合うはずがないのだ。
それなのに……。
(……笑われたらどうしよう)
そんな事を思うと、総司の目にじわりと涙が滲んだ。
女性スタッフに手をとられ、おずおずと歩いていった総司は、一番初めに通された部屋に入った。
そこで、置いてあった雑誌を手持ち無沙汰に読んでいた土方が気づき、顔をあげる。
とたん、鋭く息を呑んだ。
目を見開き、呆然とした表情でこちらを見つめている。
「……っ」
黙り込んでしまった土方に、総司は息をつまらせた。
やっぱり駄目なのだと、呆れられたのだ。
そう思ったとたん、恥ずかしくて恥ずかしくて、今すぐ彼の前から消えてしまいたくなった。この場から早く逃げ出したい。
だが、それは誤解だった。
土方は何も云わなかったが、それは何も云わないのではなく云えなかったのだ。あまりの驚きに、しばらくは声も出なかった。
(……総司……)
仄明るい町家屋の中、美しく可憐な舞妓がこちらを見つめていた。
鬘にさした簪も華やかに、透きとおるような白い肌も、蕾のような唇も清楚そのものだ。
華やかな着物の衣紋からのぞく、細い首筋。
ふっくらしたなめらかな頬。
煙るような長い睫毛に、潤んだ瞳。
まるで夢のように美しく玲瓏とした舞妓が、そこに佇んでいた。
はっと我に返ったのは、総司の瞳からぽろりと零れた涙のためだった。
それが真珠のように美しく、思わず息を呑んでしまう。
「総司……?」
「……土方…さん……」
総司は潤んだ瞳で彼を見つめた。そっと長い睫毛を瞬かせ、俯くと、小さな声で訊ねてくる。
「そんなに……似合わない……?」
「え」
「やっぱり、おかしいですよね、ぼくがこんな格好するなんて。すぐ着替えてきま……」
「おい……待てよ!」
土方は慌てて総司に駆け寄り、その手を掴んだ。顔をそむける舞妓姿の恋人を、必死になって引きとめた。
「おまえ、誤解している」
「誤解って」
「俺は、おまえに見惚れちまったんだ。あんまり綺麗で可愛くて……声もでなかった」
「嘘です、そんな……」
ふるりと首をふる総司の躯を、土方は両腕で抱きすくめた。
「嘘じゃねぇよ。すげぇ綺麗だ……まるで夢みたいだ」
「土方…さん」
総司は男の腕の中、俯いた。羞じらっているのか、耳朶まで赤くなっているのがまた可愛い。
土方はそれを見下ろし、小首をかしげた。
「おまえ、まさか……鏡見てねぇのか」
「だって……どうせ、おかしいと思うから」
「莫迦だな、誰よりも綺麗だし、可愛いよ。見たら驚くぞ」
とろけそうな優しい瞳でそう云った土方は、総司の手をひいて鏡の前まで連れていってくれた。
大きな姿見に、すらりと長身の男とならぶ、一人の舞妓が映し出される。
「……え」
総司は目を見開いた。
まるで、想像と違っていたのだ。自分でも驚くほど、可愛らしい舞妓がそこに映っていた。
土方とよりそう様は、まるで絵のようだ。
「これが……ぼく?」
信じられず、思わず鏡にふれた。が、鏡の中の舞妓も同じ仕草をする。
土方が堪えきれぬように、声をあげて笑いだした。
「総司、おまえ、子どもみたいだ」
「だって……」
「もともと可愛くてきれいなおまえなんだ。舞妓姿、似合わねぇはずがないだろうが」
臆面もなく可愛いとか綺麗だとか云ってくれる土方に、総司はまた頬を赤らめた。
周囲にはもちろん、女性スタッフがいる。
だが、土方は全く平然と振る舞い、総司の細い肩を抱きよせた。
「すげぇ可愛い……俺の宝物だ」
「土方さん……」
「写真撮ったら、散策に出ような」
「え……ええっ!?」
土方の言葉に、総司はぎょっとした。思わず叫んでしまう。
「さ、散策って……この格好で!?」
「あたり前だろうが。舞妓体験の定番だぜ」
「いや!」
慌てて、総司は後ずさった。
「この格好で外へ出るなんて、絶対にいや! 恥ずかしいから、やめにして下さい」
「恥ずかしいって……こんなに綺麗なのに」
「土方さんには、ぼくの気持ちわからないのです! 絶対絶対、やだっ!」
断固として拒否する総司に、やがて、土方も渋々納得した。仕方ねぇなとため息をつく。
前髪を片手でかきあげながら、僅かに苦笑した。
「まぁ、俺もおまえのこんな可愛い艶姿、他の男に見せたくねぇしな。お互いの利益一致って事で、いいか」
「何の事です、いったい」
「つまり、目の保養するのは俺だけでいいって事だよ。それより、写真は譲らねぇぞ。これだけは絶対だからな」
「うー……撮らなきゃ駄目?」
「当然だろ。こんなに可愛くて綺麗なおまえ、永久保存しねぇと一生後悔するぞ」
「そんな大げさな」
「大げさじゃねぇよ。俺にとっては一大事だ」
きっぱり断言してから、土方はスタッフの方をふり返った。写真撮影の手配をしてもらう。
それからも、また大変だった。
総司は町家の部屋のあちこちで、ポーズをとらされた。
土方と並んでの写真も撮ってもらったが、さすが元モデル。
うまい具合に総司をあれこれリードし、すっかり総司も彼のペースにはめられてしまったのだった。
本格的な写真を撮った後は、土方が嬉しそうにデジカメを懐から取り出した。そんなもの出張に持ってきたのかと驚いたが、総司が来てから今朝購入したものらしい。
いつのまに……と呆れる総司を前に、土方はシャッターを押しまくった。
「ほら、こっち向いて」
「ん……はい」
「にっこり笑えよ。あ、もう少し躯右斜めに」
「こう?」
「そうだ……うん、すげぇ可愛い。綺麗だな」
本職のカメラマンも顔負けの段取りに、傍で見ていたスタッフ達は驚いたようだった。土方に、そういうお仕事でも?と訊ねる者もいたが、うまく流して誤魔化してしまう。
写真撮影を終えた総司は、ちょっと疲れてため息をついた。髷も重くなってきている。
それに、土方が眉を顰めた。
「疲れたのか?」
「うん……ちょっと」
「そろそろ着替えるか」
「土方さんがいいなら……構わない?」
「あぁ」
土方は優しく微笑み、総司の手を握りしめてくれた。
「俺の我侭につきあわせて悪かったな。けど、すげぇ嬉しかったよ」
「ううん……いいの。ぼくも、その……」
口ごもりつつも、云った。
「土方さんが……綺麗だって云ってくれて嬉しかったから……」
そう云ったとたん、かぁぁっと頬を赤らめてしまう総司がとんでもなく可愛い。
土方は思わず喉を鳴らしてしまった。
恥ずかしそうに長い睫毛を伏せている様が大人びて色っぽく、他に誰もいないなら、今すぐここで押し倒してしまいてぇよ!と、心から思った。
だが、そこは我慢我慢だ。
「じゃあ、そろそろ着替えるか」
気を取り直して云った土方に、総司はこくりと頷いた。
奥へ去りかけて、ふと気づいたように彼の方をふり返った。
「あのね、土方さん」
「何だ」
「写真、誰にも見せないでね」
「え?」
「だから、写真です。だって……恥ずかしいんだもの」
「少なくとも、斉藤には見せねぇよ」
「何で、斉藤さんだけ限定? というか、他の誰にも見せちゃ駄目です」
「はいはい、俺だけの宝物にしておくさ」
楽しそうに笑う土方に、総司は可愛らしい唇を尖らせた。文句を云ってやろうと、息を吸い込みかける。
その時だった。
不意に、二人の後ろから声がかけられたのだ。
「……まさか、総司さん!?」
「え」
驚いてふり返った総司は、とたん、目を見開いた。
