「土方さんの莫迦っ」
 思わず、そう叫んだ。
 それに土方が無言のまま、形のよい眉を顰める。
 完全に怒ったらしい様子に一瞬怯んだが、今回ばかりはどう考えても自分は悪くないのだからと、総司は勇気を奮い立たせた。
 デートの最中だった。というより、デートの後、家の前まで送ってきてもらったのだ。
 総司が住んでいるマンション近くで停車しながら、いちゃいちゃ別れを惜しんでいたのだが、いつのまにか───
「わからずやっ! 何でもかんでも、ダメダメばっかりなんて」
「……」
「そんなの、もう聞かないからね。ぼくだって好きにする権利があるんだから!」
「つまりは、勝手にするって事か」
 ようやく口を開いた土方は、低い声で問いかけてきた。
 その不機嫌そうな様子に、うっとなるが、それでも総司は負けずと大きな瞳で睨みかえした。
「勝手にします! 土方さんにとめる権利ないもの!」
「あるだろうが」
「どうして」
「恋人だろ」
「恋人なら、何でも禁止できる訳? そんなのおかしいじゃない」
「おかしくねぇよ。俺は、当然のことを云っているだけだろ」
「これのどこが当然なの!?」
「当然だよ」
「絶対、違います」
「いや、違わねぇ」
「違いますったら、違います! 土方さんの常識は、世の中の非常識なんだから!」
 云ってから、(あ、やばい)と思ったが、もう遅い。
 土方は完全に怒ってしまったようで、ぷいと顔をそむけた。運転シートに背を凭せかけ、切れの長い目で車の外を眺めている。
 仕事帰りのデートではなかったので、紺色のヘンリーシャツに、ジーンズという恰好だった。
 襟元が開いているため、そこからのぞく褐色の肌が男の色気を感じさせて、総司もどきどきして、先程まで彼の胸もとに顔をうずめ甘えていたのだ。
 なのに。
 今は、抱きつくどころか、かぷっと噛みついてやりたい気分だ。
「もう……知らない!」
 総司は、顔を背けたままの男にむかって叫んだ。
 後部座席に置いていた荷物を取り、ドアロックを外す。それに気づいていながら、土方は全く知らぬ顔だった。それが腹ただしい。
 総司はわざと乱暴にドアを開いた。
 それでも、声一つかけようとしない彼氏に向い、思いっきり叫んだ。


「土方さんの莫迦っ」


 大きな音をたてて、ドアが閉じられた。












「へーえ、喧嘩? それは仲がいいわねぇ」
 どこか嫌味をふくんだ声に、土方は眉を顰めた。
 場所は、彼の職場。
 ご存じ、警視庁のテロ対策に関わるセクションの一角だ。
「あのさ、姉さん。喧嘩のどこが仲いいんだよ」
「あら、昔から云うじゃない。喧嘩するほど仲がいいって。夫婦喧嘩は犬も食わないってね」
 楽しそうに笑う信子に、土方はうんざりした表情で前髪をかきあげた。
 ちらりと見れば、斉藤がデスクに頬杖をつき、興味深そうに傍で彼らの話を聞いている。それを、しっしっと手で追い払い、土方は極力背をむけた。
「とにかく、俺が聞きたいのは、総司が何でそっちに行ったかって事だよ」
「行ったじゃなくて、あたしが呼んだのよ。いいじゃない、別に」
「なら、電話かわってくれねぇか。この間から電話してもメールしても、梨の礫なんだ」
「だから、それはあんたが総ちゃんに意地悪するからでしょ」
「意地悪なんざ、してねぇよ」
「ふうん? だって、あたし聞いたわよ〜」
 信子は、今にも笑いだしそうな声で云った。
「総ちゃんに、今年の夏も、プールや海で泳ぐの全面禁止してるって話」
「……」
「心の狭い男ねぇ。そーんなに、総ちゃんのすべすべお肌、他の男に見せるのがいや?」
「イヤだ。そんなもの決まってんだろうが」 
 きっぱり断言した土方に、信子は電話の向こうで呆れかえっているようだった。
 だが、これだけは譲れない。
 いったいどこの誰が、あんなに可愛くて綺麗な総司の白い肌を、他の男に見せたいと思うのか!
 考えただけで、頭に血がのぼりそうだ。
「とにかく、電話かわってくれ」
「駄目よ〜、総ちゃん、海に行かせてくれるまで絶対に口きかないって云っているし」
「……何で、そんなに海行きたいんだか」
 思わずそう呟いてしまった土方に、信子はあっさり云った。
「決まっているじゃない。夏と云ったら、海よ。プールよ。あたり前の事でしょ」
「どこがあたり前なのか、全然わからねぇよ」
 土方の言葉に、信子はふ〜っとため息をついた。
「総ちゃんの云ってたとおりねぇ」
「何が」
「歳の常識は、世の中の非常識って」
「……」
「とりあえず、総ちゃんは海に行きたい、でも、あんたは総ちゃんの水着姿を他の誰かに見せたくない。となれば、もう手段は一つしかないんじゃないの?」
 信子はにこやかな口調で、云いきった。それに、土方は思わず眉を顰める。
 しばらく沈黙してから、低い声で答えた。
「……断る」
「何よー! まだ何も云ってないじゃない」
「聞かなくても全部わかるから。遠慮させて貰う」
「そんな遠慮しないでよ」
「いいから」
「水くさいわねぇ。何で、そんなに嫌がるの」
「当然だろ! 姉さんの魂胆はわかってるんだからなっ」
 思わず叫んでしまった土方の耳に、信子の笑い声が響いた。
「あ、そ〜。一生、総ちゃんと口きけなくていい訳ね?」
「……」
 思わず黙り込んでしまったとたん、うきうきした口調で追いうちをかけられる。
「じゃあ、用意しておいてあげるから。管理人さんがいつもきちんとしているけど、でも、一応は連絡しておかないとね」
「いや、ちょっと待っ……」
「何、あそこじゃ不満って訳? プライベートビーチのついた、別荘よ。広くて綺麗だし。あそこ以上の好条件ないじゃない」
「そうじゃなくて。とにかくいいから、いらねぇから」
「だーめ!」
 信子の声が、にんまりした笑いを帯びた。
「昨日、総ちゃんから話を聞いて、速攻で話まとめたんだから。もともとお誘い多かったし、えーと5つ? 5つのパーティつきあってくれたら、それでちゃらって事にしてあげるわよ」
「そういう事になるから、嫌だって云ったんだよ!」
「なぁに? 総ちゃんの為に、頑張ろうって気がないの? あんた、それでも男?」
「そりゃ、頑張ろうって気はあるさ。けど、5つってのは……」
「パーティでるぐらい何だっていうの。いいじゃない、たまにはつきあいなさいよ」
「いや、その」
「あんたにエスコートさせると、気分いいしね。だいたい、歳は顔だけが取り柄なんだから」


(それが、実の弟に対して云う言葉かよ!)


 思わず心の中で突っ込んでしまった土方に構わず、信子はさっさと話を纏めた。あれこれ日程などを決めてから、「じゃあね〜」と電話をきってしまう。
 結局、総司とは一言も話させてもらえなかった……。
「……」
 デスクの上で思わず頭を抱え込んでしまった土方に、斉藤がにやにや笑いながら訊ねてきた。
「五つって何ですか」
「……取引の条件だよ」
「取引?」
「姉さん達がもってる海辺の別荘、貸してやる代わりに、パーティ5つエスコートしろってさ」
「それはそれは」
 斉藤は笑いを堪えつつ、頷いた。だが、実際、同情もしている。パーティを5つもエスコートしなければならないとなれば、相当の労力なのだ。
「でも、その後は総司と楽しいハネムーンじゃないですか」
「……だな」
「海辺の別荘でしょう? ……総司の水着姿。可愛いでしょうね」
 微妙に遠い目になった斉藤に、土方は思わず顔をあげた。鋭い目で睨みつける。
「おい、想像するなよ」
「想像するぐらい、構わないじゃないですか」
「構うんだよ」
 そう云うと、土方は立ち上がった。それに、斉藤が訊ねる。
「? どこへ」
「とりあえず、近藤さんに休暇願を出してくる。ここの処、振替たまっているから大丈夫だろ」
「あぁ、そうですね。労働省からのチェック厳しいって云っていましたし」
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
 ひらひら手をふる斉藤に頷き、土方はさっさとセクションの中を横切った。近藤が一人こもって書類書きにいそしんでいる小会議室へ向ってゆく。
 それを見送り、斉藤はまた微妙に遠い目になった。
「総司の水着姿か……」
 実物はともかく、せめて写真ぐらいは入手したいものだと思う斉藤だった。












「わぁい、海!」
 余程、嬉しかったのか。
 車が別荘前に停まるなり、そのすぐ前に見える海辺の光景に、総司は歓声をあげて車から飛び降りた。荷物も彼氏も全部忘れて、まっ白な砂浜へと駆け出してゆく。
 なるほど、総司が喜ぶのも無理はない。
 まっ青な青空を映したような、美しい海に、それを引き立たせる白い砂浜。人っ子一人いない、プライベートビーチだ。
 今まで海もプールも行かせて貰えなかった総司が喜ぶのも、当然のことなのだが。
「……労働の報酬って奴だよな」
 土方は疲れきった表情で呟き、やれやれと周囲を見回した。
 彼自身は一度も来た事がない佐藤家の別荘である。それ程大きなものでも豪華なものでもないが、二人で過ごすには十分すぎる程の設備と広さだった。
 鍵を開けて荷物を運びこんでいると、総司が慌てたように駆け戻ってきた。
「ごめんなさい」
 トランクから取りだそうとしていた荷物を受け取り、謝る。
「土方さん、運転で疲れているのに……ごめんね」
「いや、大丈夫だ」
「でも……土方さん、何だか元気ないし」
 総司が大きな瞳で心配そうに、土方をじっと見つめた。それに、苦笑をうかべる。
 手をのばし、そっと髪を撫でてやった。
「元気ねぇのは、好きでもねぇパーティ梯子させられたからだよ。一日で終ったのはいいが、正直、すげぇ疲れた」
「それ……この別荘を借りるためだったのでしょう? 本当にごめんね」
「謝る事ねぇよ。後で、ご褒美はたっぷり貰うから」
「? ご褒美?」
 きょとんとした顔の総司に、くすっと笑った。なめらかな頬にキス一つ落としてから、甘く低めた声で囁きかける。
「……海辺で、可愛がらせてくれるだろ?」
「かわいがって……って、ぇ、ぇえええええーっ!?」
 男の言葉に、総司はたちまち顔を真っ赤にしてしまった。色々想像してしまったのか、両手をばたばたさせている様がたまらなく可愛い。
 それに、土方はくっくっと喉を鳴らした。
「あれ? 俺、ただ可愛がるって云っただけなんだけどな。何を想像したんだ?」
「もう……土方さんの意地悪!」
 総司は叫ぶなり、荷物を抱えたまま、すごい勢いで別荘の中へ駆け込んでいってしまった。それに、ちょっとからかいすぎたかと、苦笑する。
 久々に二人きりで過ごす休日なのだ。
 自分も少し浮かれ気味なのだろう。
 土方はもう一度、頭上に広がる青空を見上げると、別荘の中へ入っていった。












 総司は海水の中にばしゃっともぐりこむと、すぐさま顔をあげた。
 輝くような笑顔で、土方をふり返ってくる。
「土方さん」
「何だ」
「魚! 魚がいますよ。小さなの」
 嬉しそうに声をあげ、総司はまた海水の中へもぐりこんだ。白い手足がきらきらと光を反射し、なめらかな肌の白さが透きとおるようだ。
 二人で荷物を片付けてから、きちんと日焼け止めを塗りあって(色々してしまったので、時間は予想以上にかかったが)、海辺へ出たとたん、勢いよくTシャツを脱いだ総司の姿に、土方は息を呑んだ。
 いつも屋内で見ていた為か、ここまで意識していなかったのだ。
 だが、今、戸外であらためて見た総司の肌は、それこそ抜けるように白かった。しみ一つない、まっ白でなめらかな肌だ。
 それが眩しい陽光をあび、華奢でのびやかな肢体をさらした姿は、他に誰もいない事を、神に感謝!したいぐらいだった。
 淡い水色のジーンズタイプの短パンを履いている。ローライズなので、臍も見えているし、細い腰だけで履いている様は、誘ってる?と聞きたいほど、セクシャルだ。
 思わず見入ってしまった土方に、総司は恥ずかしそうに頬をそめた。ちょっと潤んだ大きな瞳で、上目使いに見上げてくる。
「これ……似合ってない?」
 そう訊ねてから、ぱたぱたと両手をふりまわした。
「あのね、普通の水着、男ものって全然似合わなくて……そうしたら、いっちゃんがこれならいいんじゃない?って」
「女ものなのか?」
「ううん。そうじゃないけど、でも、ユニセックス的な感じかな? 水着って感じしないし、いいかなぁと思ったんだけど……だめ?」
 その水着姿で、愛らしく小首をかしげてみせる総司に、誰がダメなどと云えようか。むろん、そんな事はなから云う気のなかった土方は、優しく微笑んでみせた。
「似合っているよ。すげぇ、似合ってる」
「ほんと?」
 たちまち、総司はぱっと顔を輝かせた。嬉しそうに笑い、土方の腕に抱きついてくる。
 なめらかな肌がふれ、ちょっとどきりとした土方に気づく事なく、総司はにこにこしながら云った。
「土方さんも、似合ってますよ」
「普通の水着だけどな」
 シンプルなラインが入ってるだけの黒い水着だった。だが、そのシンプルさが、かえって、土方の逞しい均整のとれた体格を際だたせている。
 日々の労働で鍛えられた男らしい躯は、降り注ぐ太陽の下、まるでしなやかな美しい獣のようだった。


(すっごく恰好いい……)


 しばらくの間、二人はバカップルらしく、互いの水着姿に見惚れあっていたが、いつまでもそんな事をしていても仕方がない。
 先に我に返ったのは土方の方で、こほんと咳払いしてから、云った。
「とりあえず、海に入ろうか」
「あ、うん」
 すぐさま水へ入ってゆこうとする総司を、土方は引き留めた。ちょっと怖い顔で云う。
「駄目だ。ちゃんと体ほぐしてからにしろよ」
「体ほぐすって?」
 何を思ったのか頬を赤らめた総司に、土方は苦笑した。
「そっちでもいいけどな、とりあえず準備体操だ。足つっても知らねぇぞ」
「あ、はい」
 二人仲良く、いっちにと準備運動をした。じゃれあったりしていたので、またまた時間がかかってしまう。
 ようやく海に入ると、総司は思わず歓声をあげた。
「綺麗な水! ほら、透き通ってますよ」
「あぁ」
「まっ白な砂が見えるし、あ、貝殻」
 総司は楽しそうに手をのばし、その貝殻を拾いあげた。時折、体を浮かせてばしゃばしゃ泳ぐ。
 遠浅だったので、とても泳ぎやすかった。足裏に感じる砂の感触が柔らかく心地よい。
 それをしばらく眺めていた土方は、やはり手足を動かしたくなったのか、泳ぎはじめた。見事な抜き手をきって、泳いでゆく。
「……」
 総司が思わず目で追っていると、やがて、ひとしきり泳いで満足したのか、土方が躯を起した。濡れた黒髪を、煩わしそうに片手でかきあげる。
 なめらかな褐色の肌に水滴が散り、それが筋肉の張った腕や胸もとを滑りおちてゆく様が、たまらなくセクシャルだ。
 じっと見ている総司に気づき、優しい笑顔をうかべてみせた。


(やっぱり、恰好いいー)


 男の色香を漂わせる彼の姿に、総司はぼーっと見惚れてしまった。
 そして、思う。
 ここに誰もいなくてよかった! と。
 土方がさんざん総司の水着姿を見せるのは嫌だと云いはった時は、何をおかしな事を云ってるの?と思ったが、実際、こうして海に来てみると、彼の考えは正しかったのだと思う。
 逆の立場で。
 こんなセクシャルで魅力的な彼の姿、他の誰にも見せたくない。
 ここがもし普通の海水浴場とかだったら、たちまち、彼は他の女性たちのターゲットにされていただろう。むろん、彼はそんなの全く相手にしないとわかってはいるが、それでも、やきもち焼いたり切なくなったりしてしまうに違いない。
 そんな煩わしさなど全くない今、好きなだけ彼を見つめたり、彼にふれたりできるのだ。
「……すっごく幸せかも」
 こうして土方を独り占めしていられる幸せを、総司はしみじみ噛みしめた。
「どうした」
 歩み寄ってきた土方が、不思議そうに総司を覗き込んだ。それに、総司は両手をのばし、いきなり飛びつく。
「だい好き……!」
「うわ、ちょっ……」
 突然だったためか。受け止めそこねた土方は、総司を抱えたまま海の中へ倒れ込んでしまった。ばしゃーっと派手な水しぶきがあがる。
「大丈夫か!?」
 大急ぎで立ち上がった土方は、総司の腕をひっぱり起き上がらせた。思わず眉を顰め、訊ねる。
 気管に水が入ってしまったのか、総司はこほこほ咳き込んでいた。
「ご、ごめん…なさい」
「いや、俺も受けとめそこなっちまったからな。大丈夫か」
「うん……」
 もう一度だけ、こほっと咳き込んだが、収まったようだった。土方がほっとしたように総司の細い躯を抱きよせる。
「あんまり心配かけるな」
「うん、ごめんね」
 濡れた髪を指さきでかきあげられた。それに見上げると、甘いキスをあたえられる。
 唇を重ねられ、柔らかく擦りあわされる。それだけで息があがった総司に、くすっと笑い、土方は細い腰を片腕で抱き寄せた。濡れた躯同士を密着させ、より深く唇を重ねてゆく。
「っ、ん…ぅ……っ」
 総司の手が彼の腕を縋るように掴んだ。細い指さきが微かに震えている。
 それがまた堪らなくて、土方は思わず総司の腰から背中へのラインを、指さきでそっと撫であげた。とたん、少年の躯がびくびくっと震える。
「ぁ……っ」
 小さな声をあげて身を捩る総司に、土方はより甘い愛撫をあたえようとした。だが、とたん、胸を両手でどんっと突かれてしまう。
「だ、だめ!」
 びっくりして目を見開いた土方から、総司は大慌てで彼から離れた。海の中なので身動きしにくいが、それでも、耳朶まで真っ赤になりながら一生懸命距離をとろうとする。
「総司?」
「だめ! 絶対にだめ」
「どうして」
「どうしてって……っ」
 総司はふるふるっと首をふった。両手を握りしめている。
「だって、ここ、海だもん!」
「あぁ、海だな」
「だから、駄目なの。海で、外で、だから」
「外だから、だめなのか? じゃあ、中なら」
 と手をのばしかけた土方に、総司はもっと首をふった。
「だめ!」
「何で」
「海だもん。せっかく泳ぎに来たんだもの、もう中へ戻っちゃうなんて絶対にいやなの」
「……ふうん」
 土方はちょっと拗ねたような表情になった。腰に手をあて、小首をかしげてみせる。
「じゃあ、総司は、俺と気持ちいい事するより、海で泳ぐ方がいいって訳か」
「そんな事云ってないもん」
「だったら……いいだろ?」
 甘やかに低めた声で、そう囁いた。
 なめらかな頬をぽっと染める総司に、優しく片手をさしのべてやる。
「可愛いおまえを、食わせてくれよ。すげぇ欲しくてたまらねぇんだ」
「だ、だって」
「だって?」
「そういうの……いつでも出来るじゃない」
 総司はかなり強情だった。一瞬、土方の誘いにぐらっと来たが、それでも、海で泳ぎたいったら泳ぎたい! のだ。
「ここは海だもの。健全に、ぼくは海で泳ぎたいのです!」
 きっぱりそう宣言した総司は、くるりと背をむけるなり、言葉どおりばしゃばしゃ泳ぎ始めた。
 あまり上手ではないので、たいして前進はしていない。
「……」
 それでも一生懸命泳いでいる総司を、土方は無言のまま眺めた。
 ここで強引に別荘へ連れこんでもいいが、そんな事をすれば、正直、後が怖い。
 せっかくの休日が全部だめだめの連続になってしまう可能性だってあるのだ。
 土方はあれこれ考えながら、とんでもなく魅力的なセクシーで可愛い恋人の水着姿を、じっと見つめた。


 めちゃくちゃ、可愛い。
 白い肌に、細い腰。胸もとの小さなピンク色の尖り。
 ぺろっと舌で舐めてやりたくなるが、そこは我慢我慢。


(仕方ねぇ、楽しみは後にとっておくか。まぁ、我慢した分、今夜たっぷり味あわせて貰うけどな) 


 唇の端を微かにあげた土方に、何か感じたのか。
 ばしゃばしゃ泳いでいた総司が不意に身をおこすと、怯えた表情で彼の方をふり返った。
 それに、にこやかに手をふってやりながら、土方はこれからの計画を頭の中でシュミレーションしていたのだった。