すごく不思議だと思う。
ずっと一緒にいるのに。同じ部屋で過ごしているのに。
なのに、つきあっていた頃の方が──同居してなかった時の方が、より彼の存在を近くに感じられた気がしちゃうんだ。
一生懸命時間をつくって逢って、そこでぎゅっと凝縮した濃厚な時間を過ごして。
だからかな、とっても近くに彼を感じていた。
でも、今は一緒に住んでるのに、毎朝毎晩顔をあわせるのに(特捜がたっちゃうと駄目だけど)、何だか彼を遠く感じてしまう。
それが今のぼくにはとっても不思議で……
「つまり、倦怠期?」
そう訊ねた藤堂に、総司はふるふるっと首をふった。
紅茶と焼きたてレモンクッキーを置きながら、磯子が小首をかしげる。
「じゃあ、マリッジブルー?」
「って……ぼくたち、結婚する訳じゃないんだけど」
「同じようなものじゃありませんか。現に、もう一緒に新婚家庭つくっちゃってるし」
そう云いながら、磯子は両手をほーらと広げてみせた。
ここは、土方と総司の部屋である。
通称、らぶらぶバカップルの愛の巣。
今日は、高校時代からの友人である藤堂と、その彼女である磯子が、訪ねてきてくれたのだ。
「なんかいいわぁ。こういう新婚家庭ご訪問って♪」
うきうきしながら部屋の中を見回し云う磯子に、総司は頬を赤らめた。
「新婚じゃないんだけど……」
「え、だって、お兄ちゃん云ってましたよ。土方さんもお兄ちゃんに新婚新婚って云われても、ぜーんぜん否定しないって」
「……」
「で、マリッジブルーというか、新婚家庭のお悩み相談ですね」
総司は小さく小首をかしげると、紅茶のカップを手にとった。
「悩みって程じゃないんだけど……」
お気にいりのバニラティーがなみなみと注がれたカップの中に、視線を落とした。
「何だか、遠く感じるんだ。同居してから、あの人を」
「どうして?」
「わからない。でも……もしかしたら、あまり逢えてないからかもしれない」
「逢えてないって、一緒に住んでるのに?」
「だって、眠ることは逢ってるとは云わないでしょう?」
総司はため息をついた。
「この頃、あんまり外へお出掛けする事もないし、土方さんお仕事あいかわらず忙しくて、夜遅く帰ってきて朝早く出かけていくのが当たり前の毎日だし……なんか、すごく淋しくて……」
「まるで、新妻の台詞」
思わず呟いてしまった藤堂に、総司はかあぁっと頬を赤らめた。
自分でもわかってるのだ。
すっごく恥ずかしいことを云ってると。でも……!
「つまり、土方さんがデートに誘ってくれないのが、悲しいと」
「え、そんな事は……」
「釣った魚には餌をやらないって云うからねぇ」
しみじみ呟いた磯子に、藤堂が慌ててその手をがしっと握りしめた。
「オレは大丈夫だからね! 絶対そんな思いはさせないからっ」
「はいはい、期待してます」
あっさりあしらってから、磯子はきょとんとしている総司に小首をかしげた。
「総司さん? どうかしましたか」
「え、あの……よくわからないんだけど。釣った魚には餌をやらないってどういう意味? すごく当然の事だと……」
「知らないんですか? つまり、結婚した男は豹変しちゃって、さんざん好き好き云ってきた奥さんになーんにもしなくなっちゃうって事ですよ。男は薄情ですから」
「いっちゃん、オレは!」
「へーちゃんの主張は聞いてません」
「じゃ、じゃあ……っ」
総司は思わず自分を指さした。
「ぼくは釣られたお魚? もう餌をもらえないお魚さんってこと?」
「ま、まぁ……そう決まった訳じゃ……」
「でも、そういう事でしょ? だから、土方さん、全然デートに誘ってくれなくなって……!」
うるうるっと、大きな瞳が潤んだ。きゅっと唇を噛みしめ、俯いてしまう。
それに慌てて磯子が寄りそい、慰め始めた。藤堂が隣でため息をつく。
涙は女の武器とかいうが、それはこの総司の場合しっかりあてはまってるだろう(ちょっと意味が違うが)。総司の可愛い泣き顔に、誰でもほだされてしまうのだ。
それをよーくわかってるあの男などは、「絶対、人前で泣くな」と厳命しているらしいが、どう見てもそれは無理な話だった。
(だいたい、自分が一番泣かしてるくせにさ)
それも、おそらくベッドの中で。
いや、そこまで進んでる二人は、まだキスどまりの藤堂からすれば羨ましい話だった。自分も磯子と、もうちょっとだけ先の段階に進みたいと思ってるのだから───
「……そうだ! いいこと思いついた」
突然、藤堂が叫んだ。
それに、え?と二人が顔をあげる。
「これって名案かも。一石二鳥って奴? オレって天才〜」
「……へーちゃん、もしかしてまたオヤジ発想に入ってる?」
「えっ、違う違う」
疑わしげな磯子を前に、藤堂は慌てて首をふった。そして、総司の手をがしっと掴むと、にんまり笑いかけた。
「あのさ、オレと出かけよっか?」
「え?」
「最近、お出かけしてないんだろ? だったら、気分転換しよ」
「でも……いっちゃんとは?」
「明日から、いっちゃんはテニス部の合宿だし。な、たまには男同士のつきあいってのも大事だぜ」
「男同士のつきあい……」
別の意味でのつきあいなら、いやってほどしてる総司だが、確かにあまり友達とも出かけた事が少なかった。
ちょっとした買い物ぐらいならともかく、どこかへ友達と遊びに行ったりするのを、土方があまりいい顔をしなかったからだ。
以前大学の友達とグループで遊園地へ行った時も、ものすっごく不機嫌な土方に迎えられ、そのままベッドへ放り投げられてしまった。挙句、超ハードな夜を過ごさせられるはめになり、そのまま三日も口をきかない喧嘩状態になってしまったので、尚更のこと、総司は慎重になっていた。
「うーん、でも……」
「明日、土方さん仕事なんだろ? いつもどおり夜遅くまで」
「そうだと思うけど」
「じゃあ、決まり♪ 明日、10時頃にどこかで待ち合わせしてさ」
そう云った藤堂を、磯子が胡乱な目つきで眺めた。
「……へーちゃん、何か企んでない?」
「う、え、別にっ」
「ふうぅぅん。でも、総司さんに何かしたら、ただじゃ済まないんだからね」
「わかってる、わかってるよ」
へらへらっと笑っている藤堂だが、それでも総司を元気づけてくれるつもりなのだろう。その優しさが嬉しかった。
「うん、平助。ぼく、出かけるよ」
こくりと頷き、総司は答えた。
明日の朝10時に駅で待ち合わせする事にした総司は、ちょっとだけ胸が弾むのを感じた。
だが、一方で土方には、絶対絶対内緒にしておこうと固く誓ったのだった……。
「え、今日?」
土方は珈琲を飲みながら、聞き返した。
それに、総司はこっくり頷いた。
爽やかな朝だった。
土方はもう出勤するための格好をきっちり整えていた。
上は糊のきいた白いワイシャツにネクタイをタイトに締め、下は濃紺のスーツのボトムをきっちり身につけている。普段は柔らかく後ろへかき上げられている艶やかな黒髪もきれいに整えられ、どこから見てもエリートビジネスマンだった。
(スーツが似合うよね。もちろん、ラフなシャツにジーンズ姿の土方さんもすっごく格好いいけど……)
旦那さまにべた惚れの奥様気分で、うっとり見つめてくる総司に、土方は僅かに苦笑した。
手をのばし、ぴんっと軽く少年の額を指で弾いた。
「……えっ、な、何っ?」
「朝から、そんな目で俺を見るなよ」
「そんな目って……え?」
「すげぇ色っぽく潤んだ瞳だ。もしかして誘ってるのか?」
「そ、そんなつもりなかったんだけど……っ」
総司はかあっと頬を紅潮させた。トーストに苺ジャムをぺたぺた塗りながら、口ごもった。
「だって、土方さんが……」
「俺が何だ」
「その、すごく…格好よくて……」
恋人の言葉に、土方は一瞬目を見開いた。が、すぐに切れ長の目を細めて笑うと、総司の手をとりその指さきにキスの雨を降らせながら、囁いた。
「……ありがとう」
「や…だ、だめ……っ」
指さきや手首に、男の唇がふれる。とたん走った甘い疼きに、慌てて手をひいた。
総司の躯のすべてはこの男に知られ、開発されつくしていた。どこをどんな風にふれれば感じるか、みんな知られてしまっているのだ。
真っ赤な顔になった総司に、土方はすぐ行為をやめてくれた。
それが逆に、ちょっとだけ惜しい気持ちもあるけど……。
「それで?」
また珈琲カップに手をのばしながら、訊ねた。
「今日が何だって」
「え、だから」
総司は慌てて気持ちを切り替える努力をしながら、答えた。
「今日も、土方さん、遅いのかなぁって」
「何かあるのか?」
「そうじゃないけど、でも……」
「まぁ、いつもどおりだろうな。もし事件が起こったら、泊まり込みになる可能性もあるし」
「そうなんだ……」
総司は瞳を揺らした。
もちろん、泊まり込みなんて嫌だが、かといって、あまり早く帰ってこられるのも困るのだ。
彼が帰ってくる頃には、どこにも外出なんかしませんでしたって顔で、迎えたいから。そうでなきゃ、ばれた時が何となく恐ろしい気がした。
「ごちそうさま」
気がつくと、土方が椅子をひいて立ち上がっていた。
いつものように自分の皿とカップをまとめてキッチンに運ぶと、リビングへとって返し、置いてあったスーツの上着と鞄を取り上げた。そのまま、玄関へとさっさと歩いてゆく。
それを総司は慌てて追った。
「お仕事頑張ってね」
靴をはいている土方に、総司は云った。
「でも……あまり無理はしないでね」
「あぁ」
頷き、土方はふり返った。
そして、いってらっしゃいのキス。
甘い甘いバードキス。
「……いってくる」
そっと唇を離し、土方は云った。それに、総司は答えた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
小さく笑ってみせると、土方は扉を開け出ていった。ぱたんと閉じられた扉を、ちょっと淋しさに揺れながら見ていたが、すぐ我に返り身をひるがえした。
リビングの窓から見ていると、土方がたまたま一緒になったのだろう斉藤と出てくるのが見えた。
「……」
官舎の門あたりでふり返り、こちらに向けて笑顔で手をふってくる。総司もにこにこしながら手をふり返した。
斉藤が呆れ顔で見てるのがちょっと恥ずかしいが、それでも嬉しかった。少しでも長く、彼を見てたい、彼を感じていたいのだから。
だい好きな恋人の姿が視界から消えてしまうと、総司は時計を見上げた。
藤堂との待ち合わせまでに、掃除や洗濯を済ませ、ある程度夕食の下ごしらえも済ませておきたかった。大忙しだった。
「急がなくちゃ」
朝の官舎の一室、総司はくるくると忙しく動き始めた。
「えっ、えぇっ!?」
総司は思わず大声で叫んでしまった。
それに、藤堂が慌てて「しーっ」と唇に指をあてた。
東京の一角。夏休み中なので尚更、大勢の人々でごった返した一角で、二人はひそひそ話していた。
「そんな処へ行くの、ぼく、いやだよ」
「絶対、面白いって」
藤堂はジーンズのポケットに両手を突っ込み、にんまり笑った。
とんでもない事に、藤堂が行こうと誘ってきたのは、ラブホテルだったのだ。もちろん、藤堂にその気は全くない。
「今まであの人と行ったことないの?」
「ないない。だって、怖いし」
「怖いかなぁ。オレ、すっごく興味があるんだけど。それに…その……」
ちょっと藤堂は顔を赤らめた。
「そのうち、いっちゃんと行ってみたいなぁ……なんて」
「ええっ、いっちゃんとそういう事しちゃうの? ばれたら永倉さんに殺されるよ」
「かも。けど、オレ、いずれはいっちゃんと結婚する気なんだから。いや、もちろん、いっちゃんが卒業するまでは待つよ。けど、今日は……」
「下見って訳? それで、ぼくをダシに?」
「頼む! 総司っ」
藤堂は顔の前で両手をあわせ、総司を拝んだ。
「オレもさすがに一人で入る気にはなれなくてさ。な? 頼むから」
「うーん」
総司は小首をかしげ、考え込んだ。
いくら土方とつきあってるとはいえ、総司もやはりお年頃の男の子だ。そういう所に興味がないと云ったら、嘘になる。
どんな所か、怖いと思いつつ覗いてみたいなぁと思っていたのだ。
「ちょと見るだけなら……」
やがて、ため息をつきつつ云った総司に、藤堂はパッと顔を輝かせた。
「やったぁ! ありがとうっ」
「でも、ぼくは何もわからないからね。平助がちゃんとしてよ」
「もっちろん。実はさ、もう決めてあるんだ。こっちこっち」
嬉しそうに藤堂は歩き出してゆく。相変わらずちゃっかりしてる友人の姿に苦笑したが、総司はそれに従って歩き出していった。
そして、数分後。
二人はあんぐり口をあけ、突っ立っていた。
「………」
目の前には、超けばけばしい部屋が広がっている。天井も壁も絨毯も、どこもかしこもまっピンクだった。
部屋の真ん中にどーんと置かれた、キングサイズのベッドはハート形で、もちろんベッドカバーもピンクでつるつるサテン生地だ。
窓際近くには、ガラス越しに水中照明つきの大きな丸い浴槽が見えた。どこまでもいかがわしく、妖美な雰囲気だった。
「さすが……ラブホテル」
ぼそりと藤堂が呟いた。
「普通のシティホテルとかとは、全然違うよなぁ。このホテル、けっこう古いから安かったんだけど。このいかがわしさが、また……」
「だよね。こういう部屋の方が、その気になるのかなぁ。土方さんとか、こういう部屋を見たらどうするだろ」
総司はきょろきょろしながら、答えた。
それに、藤堂は肩をすくめた。
「いや、あの人なら部屋のインテリアなんか関係ないんじゃないの。総司さえいればさ」
「そ、そんなことは……っ」
頬を紅潮させながら答え、総司はベッドに歩み寄った。ぽんっと乗ってから、ベッドサイドのあちこちを弄る。とたん、悲鳴をあげた。
「な、なに!?」
突然、ゆっくりとベッドが回り始めたのだ。ハート形と云っても結構丸みを帯びた形なので、スムーズに回転してゆく。
それに、藤堂が腕組みして唸った。
「うーん、これが噂の回転ベッドか。聞いたことあるけど、初めて見た。これって今時じゃ珍しいんだぜ。法律で禁止されたから、古いホテルにしか置いてないらしくて」
「そ、そうなんだ」
「でもさぁ、こうやってぐーるぐる回して、なんか盛りあがるのかなぁ。体位とかに関係するとか? 具体的な使用方法が今一つわからないんだけど、総司は知ってる?」
「そんなのぼくにわかると思う? ね、それより、止めてよ」
「それまた、オレにわかると思う?」
「えーっ、ちょっと困るよ。どうしよう」
総司は慌ててあちこちのボタンをさわったが、止まらない。しばらく悪戦苦闘していたが、いつまでもグルグルグルグル回り続けるベッドに、とうとう諦めた。
ベッドから何とか降りると、疲れたようにため息をついた。
「……メリーゴーランドみたい」
「遊園地って奴? それはあたってるかも」
「あ、ほら、これは何? 何?」
先ほどのベッドに全く懲りてない総司は、好奇心いっぱいでバスルーム前のガラスに駆け酔った。ぽちっとボタンを押す。すると、すうっとガラスが曇りガラスになった。それに、がっかりした表情で小首をかしげた。
「……これだけ?」
「いや、ガラス越しに彼女が入ってるの見て、楽しむって趣向なんじゃないの」
「一緒に入ればいいじゃない」
「そこはまた違うんだと思うんだけど」
「男の人って、そういうのが嬉しいの?」
「おまえも一応、男でしょうが」
「そうじゃなくて、平助とか、土方さんの場合の話」
「オレが土方さんの趣味わかると思う?」
「うーん……」
その後も、藤堂と総司は部屋の中を忙しく走りまわり、あちこちのボタンを押してまわった。そのたびに、面白がったり、がっかりしたり。
しばらくさんざん探検して疲れた二人は、これまたハート型のソファに腰を下ろした。冷蔵庫からジュースを取り出し、ストローでちゅーと飲んだ。
「やっぱりよくわからないね」
「だな。いっちゃんを連れてくるには、もう少し研究の余地がありか」
「そうそう」
やがて、藤堂はカラオケセットを見つけ、それをONにした。マイクを取り出し、大声で歌い始める。
総司もそれには喜び、手を叩いた。一緒に歌ったり、踊ったりする。
後はもう、お祭り騒ぎだった。
二人ともけっこうカラオケは好きだし、何度も行っている。そのため、さんざん歌いまくり盛りあがりまくった。
「わーい! もっと歌って、歌って」
「じゃあ、もう一曲!」
「平助、最高!」
グルグル回るベッドの上で、総司はぽんぽんっと可愛い兎のように飛び跳ねた。藤堂と一緒に歌いながら、楽しげに踊る。
柔らかな髪が跳ね、興奮しているため頬は薔薇色、つやつやな唇は桜色で。
土方が見れば即刻ベッドに押し倒しているだろう状態だが、むろん、藤堂は守備外。大声をはりあげ、自分の世界にひたりまくって何故か演歌を熱唱している。
やがて、終了時間が来たので二人はマイクを片付け、部屋を後にした。
むろん、まだベッドはグルグル回っていたが、そんなことも忘れ、楽しくにこにこしながらホテルを後にしたのだった。
後日の騒動を知る由もないままに……。
それは、突然やってきた。
その日非番だった土方は、だが、昨日の夜遅くまで仕事だっため疲れ切って熟睡し、昼前にようやく起きてきた。
総司特製のおいしいブランチを二人仲良く済ませ、その後はテレビの前に坐った。
何もやってなかったので、総司が再放送のドラマをつけた。それを土方は興味なさそうに隣で見ている。
「面白いか?」
「うん。この回、ぼく見忘れちゃってたから。あ、でも見てない土方さんにはわからないし、面白くないよね」
総司は慌ててリモコンを取り上げた。
「変えた方がいいでしょ?」
「別に構やしねぇよ」
土方は胡座をかいた格好で膝上に頬杖をつき、答えた。
「他に何もやってねぇんだし、おまえが好きなものを見ればいいさ」
「ありがとう、土方さん」
総司はにこっと笑い、テレビへ向き直った。
ドラマは恋愛もののようだった。そのうちドラマの中のカップルはいちゃつき、所謂ラブホテルへ入ってゆく。
ちょっとだけ、総司は目を見開いた。が、それに傍らの土方は全く気づいていないようだ。
「へぇ、濡れ場シーンなんてのもあるのかな」
「昼メロじゃないんですから、そんなのありませんよ」
「けど、かなり派手な内装だな。ちょっと大げさすぎねぇか、これって古いタイプのホテルだろ」
土方は僅かに苦笑した。それに、総司は小首をかしげた。
「かも。インテリアがそれっぽいですよね。古いホテルって変わった機能多いし」
「……ふうん」
「ほら、あのベッドとかも」
テレビの画面の中、カップルはいちゃつきながらベッドの上に倒れ込んだ。とたん、何かをさわったのか、ベッドがぐるぐる回り始める。
それに、総司はくすくすと楽しそうに笑った。
「ぐるぐる回っちゃって、あれ止めるの大変なんですよね」
「……へぇ」
「なかなか止まらなくて。あちこち触ったんですけど」
「……それっていつ?」
「先週の火曜日です。あ、やっぱり濡れ場始まっちゃった。ぼく、こういうの苦手だから変えようっと……」
そう云いながら、リモコンへと手をのばした瞬間だった。
不意にもの凄い力で手首を掴まれ、総司はびっくりして目を開いた。そのまま、ぐいっと男の胸もとに引き寄せられてしまう。
カンッと鋭い音が鳴り、リモコンが床に滑り落ちた。その拍子に電源が落ちて、部屋に奇妙な静寂が訪れる。
「えっ? 何?」
顔を上げた総司は、とたん、鋭く息を呑んだ。
土方は酷く冷ややかな表情で、総司を見下ろしていたのだ。僅かに細められた切れ長の目は、剣呑な光をうかべている。
「……土方…さん?」
おずおずと呼びかけた総司に、土方はゆっくりと唇の端をつりあげた。
だが、その目は全く笑っていない。
「なるほど、先週……か」
「え」
「先週、おまえは誰かとあぁいうホテルに行った訳だ。あんなとこ一人で行く訳ねぇものな」
「え……あっ!」
ようやく己の失言に気づいた総司は、思わず手で口をおおった────
[あとがき]
ラブホテルの設備等は全然よくわからないので、すっごくいい加減です。?のとこがあってもスルーしてやって下さいね。
総ちゃん、危機一髪!です(笑)。
