「……え?」
 土方は視線を落としていた書類から、顔をあげた。
 手元の書類は捜査資料であり、しかも先程まで会議でさんざん論じられていたものだった。今日は、朝──というより昨日の夜の未明から近藤とともに会議室へこもりきりだったのだ。
 外を見れば、夏の青空が広がっている。
 暑さがこみあげるような真っ青な空だが、窓もない暗い会議室で鬱陶しい議論を重ねていた土方の目には、妙に清々しく見えた。
 そんな彼に、斉藤が云った。
「だから、お疲れさまでしたと云ったんですよ」
「あ、あぁ」
 土方は斉藤がさし出してくれたマグカップを受け取り、珈琲を一口すすった。


 疲労のためか頭が少しぼんやりしている。
 キャリアでありながらもともと現場で動くのが好きな土方は、あぁいった会議が苦手なのだ。
 ちらりと腕時計に目を走らせると、もう10時過ぎだった。ここの処ずっと夜勤続きだったので、今日は朝から帰るつもりだったが、もうこんな時間になってしまっている。


「さすがに疲れたな」
 ため息をつき、椅子の背に凭れかかった。
 朝食も逃してしまったが、こういう疲れがたまっている時は、久しぶりに一服したくなる。だが、土方は総司と同居するようになってから、煙草をやめていた。総司の気管が弱いという事を知ったからだ。
「さっさと帰るか」
 そう呟いた土方に、斉藤が頷いた。
「そうですよ。いい加減休んだ方がいいと思いますね」
「おまえもな」
「オレも今日午後から休み貰いますよ」
「そうか。なら、先に帰らせてもらうよ」
「明日は非番なのでしょう?」
「あぁ」
「じゃあ、ゆっくり休日楽しんできて下さい……総司と」
「云われなくてもそうするさ」
 余裕の笑みで答えた土方に、斉藤がちょっとむっとしたような顔になった。それに知らん顔で、土方はさっさと帰り支度を始めた。
 そこへ、所轄から戻ってきた永倉と島田が入ってくる。
「お? 土方さん、おはよう」
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
 答えながらも、帰り支度する土方の手は全くとまらない。帰ると決めたからには、一刻も早く帰って、可愛い可愛い総司の顔を見たいのだ。
「とは云っても、総司が家にいなきゃ仕方ないでしょう」
 思わず突っ込んでしまった斉藤に、土方はふり返り、不敵な笑みをうかべた。
「そのあたり外すと思うか、この俺が」
「……いえ」
「今日から明日にかけて、絶対に予定を入れるなと先に云ってあるさ」
「絶対にですか。なんか……横暴ですね」
「恋人の当然の権利って奴だろ」
 そう云うと、土方は記入の終わった書類を、ぽんぽんと近藤の決済箱に放り込んだ。それに、永倉が「あ」と声をあげる。
 スーツの上着に腕をとおしていた土方が、何だと眉を顰めた。
「いや、悪いんだけど……六本木の方の、ちょっと延長になりそうなんだ」
「は? あれは今日、おまえたちが行って済ませてきたんだろ」
「そうなんだけど、昨日の夜、すげぇ落雷があったじゃねーか。あれで停電になって、処理してたデータぶっ飛んじまった訳だよ」
「バックアップは」
「とる前だったらしい」
 土方は思わず深く嘆息してしまった。
「いい加減なやり方をしているから、そうなるんだ。どやしつけてでも、すぐ提出させろよ」
「どやしたさ。けど、パソコン自体が落雷でいかれちまって……」
 うんざりしたように答える永倉に、土方は肩をすくめた。それから、ふと──先程の言葉を反芻する。
「……落雷?」
「あぁ、そうだよ」
 永倉は椅子に腰かけ、キコキコ鳴らしながら云った。
「昨夜、すげぇ落雷だったじゃねぇか。雨も降って、まさに夏の夜の嵐って感じでさ」
「それ……何時頃だ」
「んー、明け方の4時頃かねぇ。どのみち、土方さんが会議室にこもっていた頃だよ。今はこーんなに晴れてるけど、そりゃもう凄かったの何のって……」
「──」
 土方の顔色が変わった。慌てて携帯電話を取り出すと、家へかけてみる。
 だが、何度コールしても総司は出なかった。外出していないのか、それとも、出られない状況にあるのか───
「先に帰るぞ」
 そう云うと、土方はスーツの上着と鞄を引っ掴み、セクションのある部屋を飛び出した。もの凄い勢いで走り去ってゆく。
 それを訳がわからないまま見送った永倉は、「……お疲れさま」と小さく呟いた。










 気をつけていたつもりだった。
 あの夏の夜から、出来るだけ気をつけてやろうと思っていたのだ。だが、事は彼の予想の範疇を完全に超えていて、まさか、永倉曰くの「夏の夜の嵐」が彼の知らぬところであったとは、思ってもみない事だった。
 総司は落雷と停電に、トラウマがある。
 土方が何となく察するに、恐らくあの幼少時の痛ましい事件ゆえではないかと思うが、本人からはまだ聞いた事はない。
 だから、尚更、真綿にくるむようにして気をつけ、自分なりに総司を守ってきたのだ。自分さえ傍にいてやれば、大丈夫だとわかっていたから。この腕の中に抱きしめてやれば、総司は必ず落ち着いてくれる。
 それは思い上がりでも何でもなく、明かな事実だった。
 愛しい総司に必要とされる事は少し嬉しい半面、泣きじゃくるその姿が可哀想でたまらなくて胸がつぶれそうになる。


(……総司……)


 土方は下車駅で降りると、足早に官舎へむかった。
 夏の日射しが眩しい。
 青空が綺麗に晴れ渡っているのはいいが、昨夜の雨のせいか空気が湿っぽく、土方は夏バテになりそうだと思った。もちろん、スーツの上着は脱いでいるし、ネクタイも緩め、ワイシャツも腕捲りしてしまっている。
 それでもいい男というのは得なもので、すれ違う女のほとんどが夏の日射しに負けない熱っぽい視線を向けていたが、土方にとって完全に意識外だった。
 足早に官舎へ入ると、エレベーターのボタンを押した。もう復旧したのか、それとも停電にならなかったのか、エレベーターはいつもどおりやってきた。だが、たまたま一緒に乗った管理人の話では、やはり停電になったらしい。
「大変だったのですよ」
 という言葉に頷きつつ、土方は8階の自分の部屋へ足早に向った。
 慌ただしく鍵を開け、「総司……!」と大声で呼んでみる。だが、思ったとおり返事はなかった。
 土方は玄関から廊下、リビングへと入り、中をぐるりと見回した。どこにも総司の姿はない。しかも、この昼間からカーテンが締めきられ、異様な雰囲気を感じさせた。
「総司! 返事をしてくれ、総司!」
 キッチンや洗面所を覗いた後、夜中だったのなら寝室に決まってるだろう! とようやく気づき、慌ててそこに向った。
 やはり、総司を心配するあまり頭がよく回ってなかったらしい。
 その事に苦笑しながら、土方は寝室の扉のドアをノックした。
「……総司? いるんだろう?」
 中からは確かに人の気配がする。
 その事に安堵を覚えながら、土方は出来るだけ優しい声で云った。
「ドアを開けるぞ……総司」
 自分の部屋に入るのに律儀にも断りを入れ、土方は寝室の扉を開いた。
 中はやはりカーテンが締めきられ、薄暗かった。視線を走らせてみると、ベッドの上には誰もいない。
 だが、その傍らに小さな姿があった。膝を抱えて身を丸め、じっと顔を伏せている。
「……総司」
 土方は部屋を横切ると、総司の前に跪いた。そっと細い肩に手をかけると、びくりとその躯が竦みあがる。
「怖かったんだな……」
 優しい声で、土方はゆっくりと囁いた。
「俺がいなくて怖かったんだな……ごめん。怖い思いをさせて、悪かった」
「……」
「大丈夫だ。外はもう晴れているし、何も心配する事はない。俺も明日まで休みがとれたし、ゆっくり二人で過ごそう。な?」
 そう云った土方に、総司がのろのろと顔をあげた。
 大きな瞳が、じっと彼を見上げてくる。
「……?」
 その表情に、土方は僅かな違和感を覚えた。何かが違うような──妙な、胸のざわつきを感じたのだ。
 低い声で呼びかけてみる。
「総司……?」
 それに、総司はこくりと小さく頷いた。それから、膝をより強く抱え込むと、桜色の唇を開いた。
 そして、こう問いかけた。


「お兄さん……だぁれ?」


「……は?」
 土方は思わず聞き返してしまった。
 ほったらかしにしたから、拗ねてるのかと思ったのだ。
「あのなぁ」
 くしゃりと髪をかきあげ、苦笑した。
「ほんと悪かったよ。けど、そこまで拗ねる事ないだろ、総司」
「うん」
 こくりと、総司は頷いた。
「ぼくの名前は、総司です。でも……お兄さんのこと、ぼく知らないよ」
 総司は怯えたような顔で、土方をまた見つめた。少しだけ後ろへさがり、小首をかしげる。
 さらさらした髪が肩口にふれた。
「お兄さんは、だぁれ?」
 どう見てもふりをしているようではなかった。
 真剣なまなざしが、こちらへ向けられている。
「──」
 土方は呆然と目を瞠り、己の恋人であるはずの若者をただ見つめた……。










「……いったい、何なんです。こんな処で」
 うんざりしたような表情で、斉藤は訊ねた。
 何しろ、結局のところ仕事が押して時刻はもう5時。午後一で帰るはずが夕方になってしまったため、斉藤はくたくたに疲れきっていた。
 家に帰ったら、速攻で風呂入ってデッキでジャズをがんがん流してビールだ!と、固く決意していたのだ。
 電車の中でも、駅から屯所へ帰る道すがらも、斉藤は「風呂、ジャズ、ビール、風呂、ジャズ、ビール」と念仏のように唱えながら、帰ってきた。
 ところが、エレベーターを降りたとたん、目に入った人影。どう見ても自分の部屋の前に突っ立っている男。
 それに、どうしてだか、とんでもなく疲労を感じてしまったのは、常日頃の総司を挟んでのやりとりをあれこれ思い出してしまったからに他ならない。
「総司と楽しくやってるはずじゃなかったのですか」
 まさか又喧嘩でも?という目つきで眺めやった斉藤に、土方は妙に沈んだ表情で首をふった。
 それから、ぼそりと云う。
「すまないが……俺の部屋へ来てくれないか」
「喧嘩の仲裁じゃないでしょうね」
「……正直、喧嘩よりやばい」
「喧嘩よりやばいって、まさか、家出でもされたのですか?」
「そっちの方がマシだったかもしれねぇよ」
 はあぁっとため息をついてから、土方は踵を返した。まだ斉藤が行くとも何とも云ってないうちにである。
 むっとして立っていると、ふり返りざま、土方が云った。
「おまえが欲しがってたCD、買ってやる」
「CDですか。例の?」
「あぁ。で、もしこれを解決出来たら、もれなくCDBOXにレベルアップ」
「了解」
 ころっと態度を変えた斉藤に呆れつつ、土方は自分の部屋へとすたすた歩いていったのだった。










 斉藤は固まっていた。
 正直な話、いったい何をどうしたらいいのかわからず、固まりきっていた。
 何しろ、目の前にある光景は……


「お兄さん、これ食べたい」
「駄目だ。もうすぐ晩御飯だと云っただろ」
「だってぇ、お腹すいた、チョコちょうだい」
「駄目と云ったら駄目」
「やだやだやだ! チョコ食べたいんだってばー!」


 自分の我侭が叶えられないとなると、ばたばたラグマットの上で駄々こねる子ども。
 とっても可愛い姿形だから許されるが、それでも、これはどう見ても二十歳過ぎの若者である。なのに、その言動は完全に小さな子どものものであって……
「……土方さん」
 チョコが欲しいー!と泣きじゃくる総司に知らん顔のまま、キッチンでせっせと夕飯の用意をする土方に、斉藤は問いかけた。
「ん?」
「いったい、何なんですか、あれ」
「6才児」
 土方はべろんとプリントアウトした紙をさし出してみせた。
 それには、「6才児はこんな世界で生きている!」とあり、様々な行動パターンや性格が書かれてある。
「6才児って、あれは総司でしょう」
「だな」
「何で、いったい何であぁなっちゃってるのです。それとも、あれですか、どっきりカメラばりのお芝居ですか」
「そんな暇な事するか」
 土方は肩をすくめ、説明した。
「たぶん、落雷と停電のショックでだろう。子どもの頃のトラウマがあるみたいで、前にも少し発作みたいなのを起していたんだ。で、その時は俺がいたから良かったんだが、昨夜はいなかったからな。それで、たぶん……」
「そ、それって……治るのですかっ」
「さぁ、どうだろう」
 土方は答えながら、手早く夏野菜サラダをボールでかき混ぜた。大ざっぱな男らしい料理だが、それでも一人暮らしの長かった土方はそれなりに出来るのだ。
 子ども好みだろうと判断したハンバーグを焼いて火加減をみる土方に、斉藤は詰め寄った。
「そんな呑気に構えていていいんですか! このままだったらどうするのです」
「どうするかなぁ」
「だいたい、何でそう落ち着いてられるのか。オレにはさっぱりわかりませんよ」
「何云ってるんだ。落ち着いてねぇから、おまえのとこ行ったんだろうが」
 端正な顔だちに憂いの色をおとし、深々とため息をついた。
「俺も、正直どうしたらいいかわからなくてさ。何しろ、お兄さんだろ? なんかすっげぇ罪悪感というか、そういうのがあって」
「ですよね」
 しみじみと斉藤は頷いた。
 確かに、総司は今、二十歳過ぎの若者だ。だが、あんなふうに子ども返り(?)みたいなのをされると、恋愛してること自体にも罪悪感を覚えて当然だろう。
 斉藤はちょっぴり土方に同情を覚えた。
 それに、土方が言葉をつづけた。
「この間、総司と初挑戦した体位とか思い出したりしてさ。今6才児の総司と、あーんな色々やらしい事しちまったんだなぁと、つい罪悪感が」
「そっちですか!」


 この人にちょっびりでも同情した自分が、情けない。
 だいたい、こういう状況下で、どうしてそこにいきつくんだ、いったい。
 もっとピュアな感想とか、罪悪感ってのがないのか。


「この状況下で、よくもそんな言葉吐いてられますね」
「いや、けどさ、罪悪感ってのは突き詰めればそっちだろ? 6才児相手にした事になっちまうんだぜ」
「躯は大人でしょう」
「あの時は、躯も心も大人だったさ。いや、総司も最近、反応が大人っぽく色っぽくなってきてな。俺もすげぇ喜んでたんだが……」
「土方さんッ!」
 思わず叫んだ斉藤に、土方は「え?」と小首をかしげた。とっても綺麗な顔で、不思議そうに見返してくる。
 それに、妙な虚脱感を覚えながら、斉藤は訊ねた。
「一つ聞きますけど、そういう話題しかないのですか」
「いや、違うけど」
「なら、そういうのオレにふらないで下さい」
 半ばキレながら断言した斉藤に、土方はしぶしぶ頷いた。それからは黙々と食事の用意をしている。
 やがて、夕飯の用意が出来上がると、土方と斉藤は、リビングにいる総司を呼びに行った。
 ところが。
「……泣き疲れてしまったという処ですね」
 総司はラグマットの上で身を丸め、ころんと転がっていた。指吸いまではしてないが、その寝顔は子どもそのものだ。なめらかな頬に涙の跡が何だか痛々しい。
「寝て起きたら、元に戻ってたら有り難いんだけどな」
「それはまぁ……あまり期待するのも」
 斉藤は静かな声で訊ねた。
「で、いったい、どうするつもりなのですか。明日、病院にでも連れていきますか」
「あまりしたくねぇな。それに、病院に行ったところで治るものじゃないだろう」
「ですね。しかし、一つ気になってたのですが……総司は、6才の記憶のまま子どもに戻ってるのですか」
「いや、違うみたいだ」
 土方はゆるく首をふった。
「逆に、自分が6才だという事と、総司という名前……それ以外は全部覚えていない。恐らく8才の時のトラウマが原因だからな、そのあたり全部を排除しちまったんだろう。何で6才なのかは……まぁ、幸せだった頃という事じゃねぇのか」
「恐怖とか不安ゆえに、全部忘れた訳ですか」
「あぁ、たぶん」
 痛ましげに眉を顰める土方は、眠る総司の傍に跪いた。そっとブランケットをかけてやる。
 それを眺めながら、斉藤は嘆息した。
「とりあえず、オレ、帰りますね。明日、仕事ですし」
「つきあわせて悪かったな」
「いえ、お役にたてずすみませんでした」
 斉藤はちょっと笑ってみせてから、玄関へ向った。だが、靴をはいた処でふと気づき、土方の方をふり返る。
「一つ聞きますけど、もしこのままずっとだったら……どうするのですか」
「さぁ、どうしようか。大学の方にも連絡しねぇと駄目だしな」
「そうじゃなくて。6才児の総司を、恋人として扱うのですかって事です」
「え」
 土方は驚いたように目を瞠った。それから、じっと斉藤を見てから、きれいな顔で笑ってみせる。
「おまえ、何を云ってるんだよ。あたり前じゃねぇか」
「あたり前、そうですよね。いくら土方さんでも、6才児相手に」
「当然だ。幾つだろうと、総司は総司。俺の可愛い恋人だからな」
「総司は総司、そうですよね」
 頷いてドアノブに手をかけた斉藤は、全くもって会話がかみあってない事に、はたと気がついた。慌ててふり返り、念押しする。
「それって、まさか、手を出すって事じゃないでしょうね!?」
「今更何云ってるんだ、おまえ」
 土方は呆れたような表情で、斉藤を眺めた。
「あいつは俺の恋人だぞ。とっくの昔に手出しちまってるだろうが」
「そうじゃなくて! 今、今のことを聞いているのです。6才児の総司を恋人として扱うつもりなのですか!」
「だから、総司は恋人だって。いや、それにさ、おまえ聞いた事ないのか?」
「いったい、何をです」
「あぁいう事になっちまった場合、大人でしかあり得ない体験をさせたら、その年齢に戻るって話だ」
「……聞いた事ありますけど」
「つまり、総司の場合も、そういう大人の体験させてやったら戻るかもしれないって事だよな?」
「って……えぇっ!?」
 思わず仰け反ってしまった斉藤に、土方はくすっと笑った。
「ま、例えばの話だよ」
「ですよね」
「けど、総司は総司。俺の恋人には変わりねぇしなぁ」
「やっぱり、思いっきりその気じゃないですかー!」
 斉藤が思わず叫んでしまった時、リビングのドアがガチャッと開いた。
「……んー、お兄さん……?」
 眠そうに目をこすりながら、総司がそこに立っていた。先程かけてやったブランケットをひきずった姿が、めちゃくちゃ可愛い。
「あぁ、起きたのか」
 とたん、土方は総司の元へ走り寄ると、身をかがめた。見上げる小さな顔を覗き込み、本当に子ども相手の口調で優しく促す。
「ご飯が出来たぞ、一緒に食べような」
「うん、何のご飯?」
「ハンバーグだ」
「わぁ、嬉しい。ぼく、だい好きなの」
 にこにこと無邪気に笑う総司の髪をくしゃりと撫でてやると、両手がのばされた。小首をかしげて見下ろすと、
「抱っこして」
 と、甘えた顔でおねだりしてくる。
 いつもは恥ずかしい、人前でなんかとんでもない行為も、6才児にはごくごく当然の事のようだった。
 土方は総司の腋下に手をいれると、ひょいっと抱きあげた。そのままたて抱きしながら、呟く。
「……6才児って、案外いいかもな」
「土方さんッ!」
 後ろからかけられた非難の声に、土方はふり返った。だが、斉藤を見ると、「何だ、まだいたのか」と云わんばかりの表情になった。
 しかも。
「帰らないのか」
 などと、めちゃくちゃ邪魔そうに訊ねてくる。
 恋人をめろめろ溺愛中の男には、世のすべてが邪魔に見えるのだろう。それが、たとえ仕事上の相棒であり古い友人である斉藤であっても同じくだ。
 へぇへぇ帰らせて頂きますよ──そんな言葉を心の中で呟きながら、斉藤は玄関を出た。
 ドアが閉まる瞬間に見えたのは、総司の躯を抱き上げ、めちゃくちゃ甘い顔で何か話しかけている土方の姿だった。
「……総司は総司、だものなぁ」
 斉藤はため息まじりにそう呟くと、とぼとぼと家へむかって歩いていった。
















[あとがき]
 後編、お褥シーンが入ります。つまり、体は大人心は6才の総ちゃんに色々致しちゃいます。そりゃ苦手だわ〜と思われた方は、すぱっとスルーしてやって下さいね。当然ですが、読まれた後の苦情はお断りさせて頂きます。
 後、トラウマとか発作の仕組みは全然わかりませんので、あれれ?と思われた時も、こちらもご寛大にスルーしてやって下さいませ。